迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景

文字の大きさ
10 / 33

第十一話

しおりを挟む
 二月も中盤に入り、校内が少しざわついていた。それもそうだろう。今日はバレンタインデーなのだから。女子達は友チョコを渡し合ったり意中の相手に渡すためにドキドキしたりしているが、男子達からすればもっとドキドキだ。

 それはクラスメートや他のクラスのダチも同様のようで、バレンタインデーを気にしないふりをしながらもその目はどこか期待していた。もっとも、それは俺も同じだけど。


「真夏さんと茉莉ちゃん、くれるかな……」


 机に伏せながら呟く。そんな心配をする必要はないのかもしれない。けれど、真夏さんは真夏さんで忙しいし、茉莉ちゃんもそれを見習って最近は勉強を頑張っている。そんな二人に変に期待して負担をかけたくない。だから、貰えなくても最悪いいと思ってはいた。


「まあ前からバレンタインデーなんて俺には縁がないし、そういうもんだと思ってたらいいよな」


 そう諦めて俺は気分転換のために席を立つ。そして賑わう廊下を歩いて階段を上がり、そろそろ戻ろうかと思っていたその時だった。


「あのさ!」


 背後から聞こえてきたその声に俺はため息をつく。いい加減絡まないでほしい。そう思いながら後ろを向くと、そこには案の定愛花がいたが、もううんざりだ。

 そしてよく見れば、少し離れたところからこちらを見ている女子がいる。おおよそ愛花の友達なんだろうし、今日がバレンタインデーというのもあって本当ならムードがあるところだが、俺からすればハッキリ言って邪魔でしかなかった。


「なんだよ。俺は忙しいんだけど」
「なによ、その態度!」
「うるさいな。他に好きな人出来たから別れるってお前から言っといて、今さら話しかけてくるなよ。俺の人生にお前の存在はいらないんだよ」


 心からの言葉が冷たい声と共に出てくる。それだけの気持ちの裏切りを受けたのだ。それくらい言っても許されるはずだ。

 そう思っていると、愛花がうつ向き始め、肩を震わせ始めた。めんどくさい事になったと思いながらため息をついていると、離れて見ていた女子達が突然近づいてきた。


「ちょっと、そんな言い方ないんじゃないの!」
「愛花だって頑張ってるんだからさあ!」
「男としてサイテー!」


 次々に向けられる心ない言葉にうつむく愛花の口元がこっそり緩む。やっぱりだ。愛花は俺を悪者にして自分がさも被害者かのように振る舞いたいのだ。

 前に母さんが愛花と別れるように俺に言おうとしていたと話してくれたけれど、それは本当に正解だ。こんな奴と付き合い続けていたらと思うと気持ちが悪くて仕方ない。もちろん、ろくに事情も知らずに俺を責め立てるこの女子達も。


「何も事情を知らないくせにしゃしゃり出てくるなよ」
「はあ!? アンタが愛花の事を身勝手に振ったんでしょ?」
「は、はあ……?」
「愛花に飽きたとかつまらない女って言ったんでしょ、このろくでなし!」
「ちょ、何を言って……」
「男って本当にサイテー。愛花が可哀想よ」
「コイツら……!」


 ろくでもないのはお前らだろう。そう言いたくなったけれど俺はどうにかそれを飲み込む。おおよそ愛花に適当な嘘を吹き込まれてそれを信じ込んだ奴らで、自分達が正義なんだと思い込んでいるのだ。そんなわけはないのだが。


「酷い、酷いよ……」
「愛花、泣かないで」
「ほら、謝んなさいよ!」
「サイテー男でもそれくらいは出来るでしょ!」


 愛花は泣き真似をするし、女子達は調子に乗って俺を責め立て、廊下を歩いていた人達は何事かと思いながら俺達を見てくる。これでは明らかに俺が悪者だ。というか、三人目は明らかに自分が抱いている男に対しての怨恨を言いたいだけだ。余計にタチが悪いが、これは放っておこう。そんな事よりも今は愛花だ。


「くそ、どうしたら……」


 注目されながら何をすればいいかを考えていたその時だった。


「廊下で何を騒いでいるのですか?」
「え……あ、田母神生徒会長」


 そこには生徒会長モードの真夏さんがいた。普段とは違う学校での生真面目で少し威圧感のあるその姿に安心感を覚えていると、女子達は真夏さんの登場にビクリと体を震わせた。


「せ、生徒会長……」
「ここは二年生の教室がある階です。一年生が何の用ですか?」
「二年生……あ、言われてみれば」


 何も気にせずに階段を上がっていたが、よく考えれば上の階は二年生の教室がある階だ。知らず知らずの内に俺は真夏さんのところにでも行こうとしていたのかもしれない。

 二年生達が信頼しきった目で真夏さんを見る中、真夏さんは俺をチラリと見てからその前に立って愛花達を睨んだ。


「廊下は騒ぐところではありません。二年生に用がないならば一年生の階へ戻ったらどうですか?」
「う……」
「それに、少しお話が聞こえていましたが、さもこちらの男子生徒だけが悪いかのように責め立てるのはどうかと。一方からの話を聞くだけで物事を判断するのは早計ですし、どう考えても不公平ですよ」
「せ、生徒会長には関係は――」
「何か、言いましたか?」


 冷たい目で真夏さんが睨む。その目は名前とは真逆の震えが来るほどの冷たいものであり、反論しようとした女子はひっと悲鳴を上げてから黙ってしまった。それだけの怒りを向けられているのだから当然だろう。


「本来は生徒間の色恋沙汰には介入しないのですが、場所が校内ですし他の生徒の迷惑になるので介入しました。この件をこの辺りで終わりにするなら私もこれ以上は言いませんが、続けるというならば生徒指導の先生も交えて生徒指導室に行く事になりますが?」


 真夏さんは女子達だけじゃなく、俺にも視線を向けてくる。けれど、それはあくまでも俺にだけ視線を向けないのが相手に不公平だと思わせないためなのはわかっている。その目がとても優しく、まるで自分に任せてくれと言っているかのようだった。やはり真夏さんはすごい。そう思わせてくる物だった。


「さあ、どうしますか?」
「う……」
「あ、愛花……」


 女子達は勢いを失って愛花を見る。愛花はとても悔しそうに、そして憎しみのこもった目をしていたが、それを真夏さんに向けるだけの勇気はないようだ。そして歯をギリッと鳴らしてから愛花はすれ違いざまに俺を軽く突き飛ばしてから階段の方へと歩いていった。


「あ、ちょっと!」
「待ってよ、愛花!」
「置いてかないでよー!」


 愛花を追って女子達が走っていく。そんな中で二年生達が真夏さんを讃えるように拍手を送る中、俺はもめ事が終わった事による安心感でふうと息をついた。


「……ほんと、アイツらの方がろくでもないな」


 こちらは関わりたくないのに向こうから関わってこようとするのだからタチが悪い。俺がもう愛花とは関わらない人生を送ろうとしている中で何の用だか知らないが関わってくるのは本当にやめてほしい。おまけに自分が被害者かのように演じて味方を勝手に増やしてくるのは性格が悪い。もう、ウンザリだ。


「本当にどうしたら……」
「貴方は少しきてもらってもいいですか? ある程度の事情を聞きたいので」
「あ、わかりました」


 答えた後、俺は真夏さんの後に続いて歩き始めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

昔好きだったお姉さんが不倫されたので落としに行ったら後輩からも好かれていた

九戸政景
恋愛
高校三年生の柴代大和は、小学校一年生の頃からの付き合いである秋田泰希の姉である夕希に恋心を抱いていたが、夕希の結婚をきっかけに恋心を諦めていた。 そして小学生の頃の夢を見た日、泰希から大和は夕希の離婚を伝えられ、それと同時にある頼みをされる。

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

俺をフッた女子に拉致されて、逃げ場のない同棲生活が始まりました

ちくわ食べます
恋愛
大学のサークル飲み会。 意を決して想いを告げた相手は、学内でも有名な人気女子・一ノ瀬さくら。 しかし返ってきたのは―― 「今はちょっと……」という、曖昧な言葉だった。 完全にフラれたと思い込んで落ち込む俺。 その3日後――なぜか自分のアパートに入れなくなっていた。

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編4が完結しました!(2026.2.22)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...