四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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6話 リシア

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 リベクさんのお宅に招かれそのまま客室へと案内された俺は、着けていた装備を外して一人ソファーに身を沈める。
 置かれた水出しのハーブティーを、ランタンの光りに照らしながらすすった。

 お茶を飲むと一息つけるのは、異世界でもおなじなんだろうなぁ。

 お茶を置いていることにそんな思いをはせながら客間を見回す。
 部屋はかなり広く、豪華な調度品がそこかしこに配置されている。
 寝具もダブルサイズで、畳に布団で馴れ親しんだ俺があれに寝るのかと思うと、今し方の一段落が嘘のように落ち着かなさが半端無い。

 見なかったことにしよう。
 でも、今座っているソファーの座り心地は最高だな。
 あとハーブティーうめぇ。
 絶叫で痛んだ喉に沁みわたりますなぁ…。
 にしても時計は無いのか。
 そこはファンタジーな世界だしそんなもんかな。
 まぁ現在の時刻は〈ねこ時間〉で夜の7時位か?

〈レン時間〉深夜1時
〈大福時間〉昼1時
〈シン時間〉朝の7時
 
 今が19時だと仮定すると、他の三人はこうなるのかな?

 この世界に来たのが太陽の位置的に大体お昼の12時頃だと思うので、たったの7時間程しか経っていないことになる。

 7時間で色々ありすぎだろ…。

 とりあえずは〈チャットルーム〉には居ない大福さん以外の二人に「まだ時間が取れそうに無い。これから食事でもう少しかかる」と伝え、レンさんにもちゃんと寝るようにも言っておいた。
 チャットルームがあるので四人が情報交換し合っていくとは言え、これからしばらくは一人で生きていかなければならないのだ。
 生活のリズムは現地の時間に合わせるべきである。
 レンさんの事だし起きてる間中もずっと考え事とかしてただろうし、いい加減休んだ方がいい。
 お茶を啜って吐息を吐いた時、コンコンと客間の扉がノックされた。

 食事の準備ができたのかな?

『ちょっと飯行ってくる』
『ああ』
『いってらっしゃい』

 念話で伝えるとすぐにこちらのチャットの音声をOFFにした。
 これでチャットルームの声は聞こえるが、こちらの声は聞こえなくなる。
 野郎の咀嚼音なんて、誰も聞きたくありませんやん?

「お待たせ致しました、食事の支度が整いました」

 脳が蕩けそうなくらい心地の良い声と共に扉を開けて入ってきたのは、かなり胸の大きな侍女服の女性だった。
 へぇ、この世界にもメイド服なんてあるんだ。
 と思いながら、何気なく見た顔に絶句した。
 現れたのはランタンの炎でオレンジ色に輝く髪の美少女だ。
 ミディアムショートの頭にはタレて折れ曲がった毛の長い猫耳、整った美しい顔には琥珀の瞳。

 美人さんです。
 こんなところに超絶美少女が侍女服着て徘徊してますよ奥さん!?
 だが俺の目は誤魔化されんぞ!
 あの折れたタレ猫耳、毛や耳の重さで折れているんじゃあ断じてない!
 俺はあの折れ曲がり具合には見覚えがある! 
 いや待つんだ、本当にそのような奇跡があるとでも言うのか!
 そんな…長毛スコティッシュ猫耳美少女なる神の奇跡がッッ!! 
 だがしかし、その毛色も見逃してはいない。
 今は火に当てられてオレンジ色に染まっているが、よく見ると元は美しいミルクティー色をしているではないか。
 お前…ソマリか…!?
 ソマリでスコティッシュの猫耳巨乳美少女とか役満すぎるだろがぁぁぁぁぁッッッ!!!!
 猫神様は彼女に二物どころか乗算で100物は与えてますよ!
 これはもうお持ち帰りしてもいいでしょうか?!
 はい、全俺会議が満場一致で彼女を持ち帰る採択を可決しました!!
 ――っと、あまりの芸術性に完全に錯乱してしまったよ。
 そしてスキルの【鑑定】が、彼女が先程ゴブリンに殺されかけた少女であると告げていた。

リシア
獣人 女 17歳
ファイターLv7

 名前を認識して冷静になると、思い浮かぶのは頭部を庇うように腕で顔を覆い倒れていた彼女のあの光景だった。
 胸に棘が刺さったような痛みが走る。
 先程までのハイテンションが嘘のように消え去った。

「――怪我はもう大丈夫?」
「え!? あ、はい、おかげさまで…」

 見た感じ怪我が残っている様子は無い。

「そう、なら良かった」

 安堵に思わず口元を緩ませるも、なぜか彼女はうつむいてしまう。

「あの、先程はありがとうございました! あの時助けて頂けなかったら私は今頃…!」

 自分の身体を抱きしめ、恐怖で小さく身体を震わせて声も無く涙をこぼすリシア。
 次の瞬間には自然と身体が動いていた。
 壊れそうなガラス細工を扱うように彼女を抱きしめると、左手で頭をそっと抱え、右手の手の平で背中を優しく幾度も叩いた。

「大丈夫…大丈夫…」

 言い聞かせるように囁きながら、何度も何度も一定のリズムでポンポンっと手の平で背中を優しく打ち続ける。
 まるで小さな子供をあやすように。
 するとリシアも俺の背に手を回し力を込めて抱きつくと、鎖骨付近に顔を押し付け声をかみ殺すように泣き始めた。

 あー、いや、あの、リシアさん…!  
 俺の胸に凶暴極まりない大きくて柔らかな物体が押し付けられています。

 その胸はあまりに大きく、目測が誤りであったことを痛感するほど大きなモノだった。
 押し付けられた彼女の胸で我に返る辺り、本当に締まらないなぁと内心苦笑いを浮かべながらも、俺は彼女が落ち着くまであやし続けた。

 無心じゃ、無心であやすのじゃ…!

 しばらくそうしていると、彼女の嗚咽おえつが止まった。

「……落ち着いた?」
「はい…」

 呼吸が整うのを見計らってから声をかけると、俺はゆっくりと身体を離す。

「あ…」

 リシアの整った愛らしい口から、か細い声が漏れる。

 なに、今の『あ…』って!?
 まるで名残惜しいみたいな感じは!
 いやいや落ち着け俺、俺はキモヲタ、勘違いしちゃあいけない! いけないよー!

「……じゃぁそろそろ行こうか?」

 リシアに笑いかけながら頭を二度ぽんぽんっと手を当て促すと、「はい…」と小さく頷いた。
 しかし、俺の背中から移動した彼女の手は、俺の服の袖を握り締めてそこから動く気配が無い。
 するとリシアは泣きはらした目でこちらを見上げてくる。

 どうしたら良いんですか猫神様あああああああああ!!!!
 はい、傍から見ると冷静そうだけどパニくってますテンパってます錯乱しておりますですよー!
 これはもうアレか? アレなのか? いってもいいのですか? 勘違いじゃありませんか!?

 鼓動は早鐘を鳴らすように脈打ち、緊張で指先が震えている。

 ―よし!

 意を決し覚悟を持って不退転の想いを全身に込め、俺は彼女の腰に手を回し引き寄せながらゆっくりと彼女の唇に己の口を近付け――

「おおトシオ殿、まだこんなところに居られたのか!」
「「にゃ”!?」」

 開けっ放しの扉からお茶目なおじさんの登場に、俺とリシアは異口同音の悲鳴を上げて身を離した!
 心臓が飛び出る程の驚きを、こんな所で体験するとは思わなかったよ!?
 リシアに至っては床に崩れ落ち肩で息をしている。

「どうかなされたのかな?」 

 リベクさんは不思議そうな顔をしているが、その目が笑っているのをはっきりと見て取れた。

「折角の料理が冷めてしまう。ささ参りますぞ!」

 リベクさんはリシアに手を貸し立ち上がらせると、何事も無かったかのように俺達の背に手を回して促した。
 その顔には満面の笑みが浮かんでおられます。

これはアレや、絶対に後で弄られるパテーンや…。
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