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17話 魔法検証

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 リシアLove職人の朝は早い。

 朝日がまだ昇ってはいないものの、白んできた空の明るさが室内にまで差し込んでいる。
 ベッドの上では俺に頭を抱えられるリシアが、静かな寝息をたてる。
 起きているときの彼女は歳相応の美少女だが、寝ているときの彼女の顔は幼子のように愛らしい。
 このまま彼女を愛でていたいが、互いに素っ裸な上に昨夜の情事を思い出すと余計なことをして起こしかねないので、気付かれないようにベッドから離れる。

 昨夜の情事。
 リシアは最高に美しくて可愛いく、そしてめちゃくちゃエロかったことを心に刻んでおく。

 愛おしさから彼女の寝顔をもう一度見ると、胸に甘い痛みが走る。
 布団に戻って彼女を抱きながら惰眠を貪りたい衝動に駆られるも、彼女と自分自身を守るためにも、俺は強くならなければならない。
 後ろ髪をひかれながらも、静かに服を着て槍を片手に部屋を抜け出す。
 外に出ると上半身を伸ばしながら、昨日モーディーンさんと対峙した中庭へ向かい、簡単な準備運動をしながらチャットルームを開く。

 ぴろん♪

《トシオがチャットに入室しました》

『おはよー』

 場所と時間を考慮し、念話モードで呼びかける。

『おはようございます』
『おかえり』

 チャットルームにはシンくんとレンさんが居た。

『ねこさん、大福さんからの伝言だ。プリーストのスキルが一切使用できなかったそうだ。それに関しては俺もだが』
『あ、やっぱり?』

 レンさんから聞いた大福さんの言伝内容の理由は予想できていたため、驚くことなく軽く応える。 

『知ってたんですか?』
『知ってたと言うか、なんとなくそうじゃないかなと思ってはいた』

 昨日は色々あって魔法の検証が頓挫とんざしてしまったが。

『説明を頼めるか?』

 レンさんの疑問に答えるために、俺が思いついた仮説を披露しておく。

『んー、これは俺の推測なんだけど、そもそもプリーストの〈神聖魔法〉ってどこから来てるの?』
『と言いますと……やはり神様ですか?』
『なら神様から力を借りないといけないよね?』
『そうだな』
『じゃぁその神様って誰? この世界の神様じゃないの?』
『……そうか、信仰か』
『うい』

 俺の言わんとしたことをレンさんが気付く。

『どういうことですか?』

 今ので分からん…だと……?

 そんなシンくんのために更に続ける。

『この世界の神様を崇めていない今の俺達が、プリーストになって魔法を使おうとしても、力を分けてもらう神様をちゃんと設定してないから、〈何も無い所から居もしない神の力を引き出そうとしてる状態〉になってるんだと思う』
『プリーストの魔法を使いたければ、どこかの教会に入らなきゃってことですか?』
『そういうことだ』

 シンくんの答え合わせにレンさんが〇をつける。

 ちなみに宗教云々の観点から言うなら『信仰しないけど力だけ貸せ』は、『神様に対して非常に失礼だ』とだけ言っておく。
 無神論者の受験生ですら、受験シーズンには天神さんに賽銭投げ込むくらいはするからね。

『宗教に入信とかもうそれだけで面倒な気がするわ……』
『いつも猫神様とか言っているねこさんがそれを言うんですか!?』
『俺のは御猫様を愛でるだけの簡単なお仕事だからね♪』

 完全に自分棚上げである。

 チャットを終えると、槍を握り中庭の中央に陣取った。
 目的は槍の練習。
 昨日使った基本動作を繰り返す。
 他にも人相手なら使えそうな動作をいくつか確認し、近くにあった石に腰を下ろした。

 修練というより朝の軽い運動ってところか。
 だって、スキルだ魔法だと、飛び道具使われたらぶっちゃけ意味ないんだもん。

 そして思考に耽る。
 先程のチャットの事を思い出す。
 信仰が無いと恐らく使えない神聖魔法。
 リシアはプリーストに憧れを持っていると言っていた。
 ならば後程彼女自身に試してもらおう。
 無理だったらジョブを元に戻せばいいしね。
 それとエレメンタラーも精霊と交信しなければいけないだろうからたぶん使えない。

 ボーナススキルに精霊語習得があるので、Lvを拡張してPTメンバーに拡張すればいけるかな?

 次に俺がセカンドにつけたマジックキャスター。
 定番な所ではマナとかエーテルといった魔法エネルギー的なものを使っているはずだ。
 まぁMPがそうなんだろうが。
 なら呪文が無くても明確な意思を持って魔法の具現化を願えば呪文が無くても引き出せないものか。
 ボーナススキルの〈詠唱短縮Lv1〉を使えば、その呪文に当たる部分が省略できるかも。

 なんにしろ試してみるか。

 中庭から外れ、周囲に人が居ないのを確認する。

 よし、ここなら大丈夫そうだ。

 マジックユーザーのジョブスキルである〈ファイヤーアロー〉を獲得する。
 まずは〈詠唱短縮〉の無い状態で手を地面にかざして唱えてみる。

「ファイヤーアロー」

 なにも起きない。
 やはりだめか…。

 次にボーナススキルの〈詠唱短縮Lv1〉を習得した状態で使ってみる。

「ファイヤーアロー」

 身体から何かが抜けでた気がした。
 それと同時にかざした手の前に赤い火の矢が現れ地面を焦がす。

 おお、出やがりました!?
 すごいよ異世界!
 奇跡も魔法もあるんだよ!!
 てことは、ファイアーアローを撃つにはそれに合った呪文が必要と。

〈詠唱短縮Lv2〉を習得。

 チンピラに絡まれた時のブレイブハートみたく、念じるだけでいけるかな?

 再び手を地面に向け、〈ファイヤーアロー〉と念じてみたら、火の矢は地面を打った。
 更に今度は手を翳さずに念じると、出て欲しいと思った空間に出現した。
 2m先の石に狙いを定め、『行け!』と心の中で命じると、高速で飛び石を焦がす。

 腕を使わなくても使えるのは便利だなぁ…でも威力無さすぎやしませんか?
 よーし、パパ、ボーナスステータスの魔力を99にして使っちゃうぞっ!

 次は腕を石に向けて飛ばすと、50cmほどの石がバゴっと大きな音を上げて砕けた。 

 …熱膨張で砕けたのか威力で破壊されたのかわからんな。
 まぁ威力を考慮しなくても牽制には使えるか。

 次にエレメンタラーを試したが、〈精霊語〉と〈詠唱短縮Lv2〉を以てしても発動には至らなかった。
 なにが原因か全くわからないため、今は放置案件とする。
 この魔法検証とこれまで得た知識を元にボーナススキルを振り直す。

〈鑑定Lv3〉
〈言語/人族共用語Lv1〉
〈ジョブ追加Lv1〉
〈アイテム収納空間Lv1〉
〈詠唱短縮Lv2〉
〈獲得経験値増加Lv3〉
〈ブレイブハートLv1〉

 次にファイターのスキルツリーを確認する。
 現在1ポイントで習得できるのは攻撃力が瞬間的に上がる〈バッシュ〉。
 特定の武器を装備していると攻撃力が上がる各種〈武器熟練度〉。
〈HP自動回復(小)〉と〈HP回復量増加(小)〉はノービスの持っているやつの上位互換っぽい。
〈HP増加〉はMAXHPの量が増えるので、HP底上げにはいいかもしれない。

 首をはねられればどれほどHPがあっても死にそうだけど。
 
 他にも範囲攻撃スキルなどもあるが、習得条件を満たしていないため灰色になっている。
 今回は〈バッシュLv1〉を選択しておく。
 マジックユーザーは各単体属性攻撃魔法の〈〇〇アロー〉。
 魔法の明かりを作る〈ライト〉。
 水を作り出す〈クリエイトウォーター〉。
 これまたノービスの上位スキルとなる〈MP自動回復(小)〉と〈MP回復量増加(小)〉。
 〈MP増加〉もある。
 ファイターと同じく習得条件を満たしていないのは範囲系の〈〇〇ボール〉。
 同じく範囲系の〈〇〇ストーム〉。
 壁を張る〈〇〇ウォール〉。
 おそらくボールは着弾地点から周囲へダメージをばら撒く奴で、ストームは指定した場所をまとめて攻撃か。
 まぁ今はファイヤーアローでいいだろう。
 称号は新たに獲得していた【魔法戦士】をつける。

【魔法戦士】
設定条件:ファイター系ジョブとマジックキャスター系ジョブを兼任していること。
設定効果
+HP75 +MP75
+MATK+15
スキル〈マジックウェポン〉

〈マジックウェポン〉
魔力で武器を具現化する。


【魔法戦士】一ノ瀬俊夫
人 男 24歳
ベースLv12
ファイターLv1
マジックキャスターLv1
HP:995   MP:277
ATK:50   MATK:54
DF:18    MDF:1
筋力:1
体力:1
敏捷:71
魔力:42
ステータスポイント:0

鉄のショートスピア
革のベスト 
鉄の手甲


 
 こうなりましたとさ。

 その後はアイスアローに魔法を切り替え、石ころめがけて打ち込んだ。

 いやぁ朝からあそ――魔法の練習に邁進したぜぇ。
 そう、これは魔法の実験。
 決して遊びなんかではない、真剣な戦闘技術の研磨なのだ!
 うっひょー、たーのしー!



 部屋に戻ると、既に給仕服を着ていたリシアがベッドに座って俺を待っていた。
 
 リシアのメイド服は結構好きになってきたが、それ以上に生まれたままのリシアが見たかった!

 そんな絶叫を表に出さず、慈しむ声で「ただいま」と告げる。

「おはようございますトシオ様」
「おはよう」

 挨拶を交わしくちづけも交わす。
 リシアと触れ合うことで生じる胸の痛みは、やはり何物にも代えがたい心地良さがある。

「目覚めたらトシオ様が居らっしゃらなくて、その…寂しかったです……」
「ちょっと槍の練習をしてたんだ。ごめんね」

 腰に手を回し頬を膨らませるこの世でもっとも可愛い生物を抱きしめ頭を撫でる。
 この子の可愛さは無限に湧き出る泉の水かなにかに違いない。

「リシアに聞きたかったんだけど、この世界の神様とか信仰してたりする?」
「信仰ですか? 私達獣人は大地の女神であるレイティシア様によって生まれた種族と言われておりまして、獣人の多くはレイティシア様を崇めています」

 よし、信仰はしているので第一関門クリア。

「じゃぁリシアはプリーストのヒールってどうやって使うかわかる?」
「治療院で何度か見ていますので、なんとなくでしたらわかりますよ」

 第二関門クリア。

「では本題です。俺の手にそのヒールを使ってみてくれる?」
「え……失礼しました。トシオ様、私はプリーストではありませんのでヒールは使えませんが?」
「まぁそうなんだけど、自分がプリーストだと思って試しにやってくれないかな?」
「……トシオ様がそう仰られるのであればやってみますが……」

 やや釈然としないながらも引き受けると、俺の手に自身の両手をかざし祈り始めた。

「大地の神にして偉大なる我らが母よ、どうか癒しの奇跡をお与えください。〈ヒール〉」

 リシアの手から優しい光が発せられると、優しく暖かな感触に触れる。

「トシオ様これはっ!?」
「おめでとう。リシアはプリーストに転職した」

 自身の手をマジマジと見つめて驚いているリシア。
 しかし実験はまだ終わってはいない。

「じゃぁ最後に、ヒールを唱えた時の気持ちをそのままにして〈ヒール〉とだけ唱えてくれる?」
「は、はい……〈ヒール〉」

 再び彼女の手に暖かな光が宿ると、リシアは更に困惑の表情を浮かべる。
 これにて実験終了。
 お疲れ様でした。

「たぶん心の中で念じるだけで使えると思うよ」

 リシアが慌てて冒険者カードを確認し、絶句する。

「……職業が変わってます、どういうことですか?」
「ん~、なんていうか、どうも俺にはPTメンバーのジョブを変えたり、特殊な能力が付与できるみたいなんだ」
「……」

 リシアが驚きをあらわにした目でこちらを見る。
 そんな驚いているリシアの顔も可愛いので、彼女の混乱が収まるまで抱き寄せ、頭と耳を撫で愛ではむはむと甘噛みすることにした。
〈鑑定〉なんかは自分しか使えないが、〈言語系〉〈HP&MP回復系〉〈ステータス上昇系〉〈耐性系〉〈経験値獲得〉などはPTメンバーにも有効である。

「トシオ様は他にもどの様なことが出来るのですか?」
「残念ながら今はそれ以上のことは出来ないよ」
「今は、ですか?」

 今後はそれ以上のことが出来ると暗に言いはしたが、すぐそれに気付くとは。
 さては、天才……!

「まぁあまり期待はしないでね。あと他の人には絶対に秘密でお願いします」

 PTを組んだだけでジョブの転職ができるとか、称号を好きに付け替える事が出来てお手軽にパワーアップとか、周りに知られたらどんな面倒な事態になるかわかったものではない。

 俺は最長老様かなにかですか?

「それと、エレメンタラーに関しては魔法の発動の仕様が解らなかったから、解る迄待っててね」
「そ、それは忘れてくださいと申したはずですよっ!」
「でもやってみたいんでしょ?」
「……はい」
「だったらやれば良いじゃない。リシアがしたいと思う事なら、俺は喜んで協力するからね」
「トシオ様……」

 涙を浮かべたリシアが目元を拭うと抱き着いてくる。
 彼女の凶悪な弾力に、頭の中でふんどし&さらし姿の美女達が神輿を担ぎ、『おっぱい! おっぱい!』とおっぱい祭りが開催される。

 咄嗟の妄想力が最低だな……。

「そ、そうだ、今日は狩りにいきたいんだけど、初心者にお勧めの狩場ってわかるかな?」
「はい、それでしたら私が案内できますよ。もうすぐ朝食ですし、終わったら早速行ってみます?」
「そう、じゃぁ頼むね」
「任せてください!」

 リシアの抱き着く力が増し、オパーイがより密着する。
 これには辛抱堪らずベッドに倒れ、何度となくその魅力的な唇をついばむ。
 頭や背中を撫でるのも忘れない。

「トシオ様は優しくて素敵です」
「そう?」
「そうですよ。言われませんか?」
「そんなことを、今まで女の子から言われたことなんて一度もないわ」
「それはトシオ様の近くに居た女性の見る目が無いだけです。ほら、今も髪を撫で続けてくれてますし」
「好きな人にはこうするものじゃないの?」
 
 自己肯定力が低いためかその手の言葉が受け入れにくいというのもあるが、こんなので優しい人認定されるなら誰だってやるとも思ってしまう。

「普通ではないと思いますよ? 少なくても父が母を撫でる姿なんて見たことありませんし、女性に対して横柄な男性は多いです」

 ベラーナさんを猫っ可愛がりするジスタさんの絵面がまず想像出来ん……。
 テレビでよく見かける恐妻プロレスラー夫婦に当てはめるとしっくりくるんだけど。

「それに、撫で方や口調の穏やかさにあなた愛情を感じます……。トシオ様はこれからもずっとこのままで居てほしいです……」
「うん、わかった」

 はにかみながらも俺を肯定してくれる愛妻の頬にキスを贈る。
 唇に伝わる柔らかな感触も愛おしい。

「~~~~!」

 すると、リシアの中で何かが爆発した。
 声にならない声を上げて縋りつき、自身の顔を俺の胸に潜らせぐりぐりと擦り付ける。
 まるで『これは自分の所有物』だとマーキングをされてるみたいでめちゃくちゃうれしい。

 そして何度も言うが、リシア可愛い。
 もうただただただただひたすらに可愛い。
 外見は言うに及ばず、仕草も可愛すぎて尊死しそうだ。

「あ、申し訳ありません、高ぶり過ぎて訳が分からなくなってしまって」

 我に返り、赤面しながらか打ち明ける可愛いの体現者。

「でもすごく可愛かったよ」
「!?」

 可愛いと言われるのに慣れていないのか、真っ赤な顔を更に真っ赤にして硬直した。

「こんなに可愛くて美人な奥さんにそこまで想ってもらえるのはすごく嬉しい。愛してるよ」

 愛妻のたれ猫耳に愛を囁くと、リシアが俺の胸で顔を隠す。
 だがしばらくすると、シャツ越しではみはみと唇で甘噛みやキスを始めだした。
 少しこそばゆいがなんとも心地良く、止めることなく好きにやらせてあげる。

「私も愛してます……」

 胸元から熱っぽい声で愛を口にしたリシアを抱きしめながら、朝食までの短い時間を満喫した。
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