四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

文字の大きさ
72 / 254

65話 戦力低下

しおりを挟む
「待て、喧騒だ」
「は?」

 ユーベルトが静かに制止の声を上げたのは、三十階層の左の通路を調べ尽くし、元の十字路まで戻ったところで前を第2PTと後退してすぐの事だった。
 ユーベルトの言葉が予想外すぎてマヌケな声が出してしまう。
 折角の迷宮独占状態がこれで失われたかと残念に思う。

「とりあえず様子が見たい。そっちに行ってみよう」
「わかった」

 ユーベルトに命じてその場所まで案内してもらう。
 どんな奴がどんな状況にあるのか、確認はしておいたほうが良いだろう。
 進むにつれて、次第に争うような音と男の怒号に女性の悲鳴がすぐに俺の耳にも届いてきた。

 かなり近いな。

「行くぞ」
「頼む」

 先行するユーベルトに短く告げ、全員で向かった先には横30奥行20メートルの広間があり、部屋の壁の左右に通路が続いていた。
 その部屋の隅では、冒険者一向がロックエイプ17体に囲まれて必死の抵抗を繰り広げている。

「総力戦、前衛突撃! 魔法は単体火力で仕留めろ! 間違っても人に当てるな!」

 ユーベルトとクサンテが駆けるとそれに続いてトトとメリティエも突撃を開始。
 ククはその場にとどまり、俺達後衛の壁として居座った。
 レスティー達が横から魔法で挟撃を加え、俺も天井付近に展開した各種マジックアローの雨で大猿の群れに攻撃を浴びせる。
 
 上からのダメージを受けて混乱しているところに前衛が切り込み、ロックエイプは背後から襲われなすすべもなく粒子散乱していった。
 不意さえ突ければ、多少モンスターの質が強化されたところで今の俺達の敵ではない。

「大丈…」

 リシアが声と共に奮戦していた冒険者にヒールをかけたが、言葉が途中で飲み込まれるほどの状況が目の前に広がっていた。
 大猿が粒子散乱した場所には、ボロボロのひき肉と化した数人の遺体が転がり、傷だらけの一人の男と二人の女だけが俺達の救援で生き残った。

「ゲイル!?」

 生き残った傷だらけの男が一人の男の亡骸に駆け寄り抱き上げると、大きな嗚咽を轟かせた。
 その男の亡骸が時間をかけゆっくりと粒子散乱を開始し、装備や衣類だけを残して消え去った。
 周りでも同様の現象が起きている。
 
 死ぬと俺もこうなるのか……。

 始めてみる人の死体に嫌悪感で悪寒が走り、鳴りを潜めていた恐怖心が首をもたげる。
 リシアにもゴブリンに襲われたときの恐怖が甦ったのか、その肩が小刻みに揺れているので彼女の傍に行き震える肩を抱いた。

 
 男の名はディオン。
 ジョブはナイトLv18、年齢は22才。
 アイヴィナーゼ王国の城下町を拠点とする若手冒険者集団で、彼と亡くなったゲイルという男が彼らPTのツートップを張り、他は全員転職を目前とした基本職だったとか。
 俺達と同じように攻略の進んでいない洞窟で旨い汁を味わおうとわざわざ遠出してみたものの、ここまで踏破されていたため旨味が無く、途中で出会った魔物も自分達の手に負える強さであったため引くタイミングを逃し、この階層に下りてきて始めての戦闘がモンスターハウスだったと聞かせてくれた。

「部屋に入ったところで右側から奴らが現れ、左の通路に逃げ込もうとしたが、そこにも奴らがいて挟まれてしまった……」

 逃げ道を無くした彼らは部屋の片隅に陣取り迎え撃つも、最後に戦った二十七階層の魔物より明らかにランクの高い魔物であったため対処できなかったそうだ。

 一度彼らを連れてライシーンに戻り、それから首都に送ってやれば良いかと思うのだが、流石にワープを見せるわけにはいかない。
 そのことを首脳陣で話し合うと、レスティーがいつに無く真剣な面持ちで口を開いた。

「私が彼らを首都へ連れて行くから、皆はこのまま攻略を続けて」
「んなこと出来るか。あいつらは遭遇してないみたいだが、二十五階層辺りに居たタイラントリザードや二十九階層のサンダーバードと出会ったらどうする気だ」

 タイラントリザードは巨大なかなりトカゲで、俺達を見ると器用に方向転換して硬い頭部を向け全速力の体当たりによる質量攻撃を仕掛けてくる。
 その上に非常にタフで、魔法2~3発では死んでくれない。
 サンダーバードはサンダーアローやサンダーストームを連射してくる危険なモンスター。
 それが通路を飛びまわり巡回している。
 攻略された階層ではモンスターの出現頻度が下がるとはいえ、士気がどん底まで落ちた人間を3人も抱えてレスティー含む4人で脱出とか、無謀にも程がある。
 いつもの冷静な彼ならそんなことは決して言わないはずだが、彼なりに何か考え、もしくは思うところがあるのかもしれない。

「でもここから迷宮を抜けて徒歩で首都に向かっても4日以上。それだけあればみんなのレベルだってもっと上がるし、他のPTが来て先に攻略される可能性だってあるじゃない」

 なるほど、PT全体の停滞を避けたい狙いか。
 経験値の高い狩場で後から加われば、レベル差なんてすぐに埋まるしな。
 だがそれでも誰かを付けないと、危険なことに変わりは無い。

「ならあたしも着いて行こう」

 名乗りを上げたのはクサンテだった。
 引く気配を見せないレスティーに、俺が周りを見回し人選をしていることを察したクサンテが名乗り出たのだ。

「…わかった。ユーベルト、アーヴィン、アレッシオ、レスティー達と行ってくれるか?」
「仕方がないな」
「友の危険は見過ごせないからね~♪」
「うん、任せてよ!」
「索敵はもう一人必要か……カーチェ、悪いけど君も一緒に行ってくれないか?」
「そんなことだろうと思ったわよ」
「すまないね」
「構わないって。その代わり、報酬はちゃんと山分けしてよね?」
「わかってる。この先のダンジョンで見つけた物も全員で山分けだ」

 最初の取り決め通の報酬を約束すると、カーチェもカラっと笑って頷く。
 なんだかんだ良い女である。

「残りは先に進む。セシル、三十階層までのマップをレスティーに渡してくれ」
「は、はい、少しお待ちください……!」

 俺の指示でセシルが三十階層の途中までの地図を新たに複製し、今まで書き溜めた物をレスティーに渡す。
 俺はクサンテに指で招き寄せる。

「もしかすると階層が変わった時点で俺のスキルが効果を失うかもしれない。くれぐれも気をつけてくれ。あと、ライシーンについたら俺の家で待機しててくれ。いつもの時間くらいには居ると思う」
「わかったわ」
 
 クサンテの耳元で声のトーンを落とすと クサンテも小さく頷いた。
 外では上空の魔物にも反応する〈サーチエネミー〉が、迷宮内では上下の階層に効果を発揮していない。
 この事からその可能性を危惧し、しっかり者のクサンテに耳打ちしたのだ。
 そして真面目な話をしているにもかかわらず、不謹慎にも間近で見るリザードマンに少し興奮する。

 トカゲ人間めちゃくちゃカッコいい。

 だが他にも考えないといけないことはある。
 実質1PT分の戦力が丸々居なくなるため、探索中は歩きながらの休憩が不可能になった。

 俺は収納袋様から保存食を全てクサンテに渡しながら、彼らの抜けた穴の大きさを考えた。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

処理中です...