四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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65話 戦力低下

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「待て、喧騒だ」
「は?」

 ユーベルトが静かに制止の声を上げたのは、三十階層の左の通路を調べ尽くし、元の十字路まで戻ったところで前を第2PTと後退してすぐの事だった。
 ユーベルトの言葉が予想外すぎてマヌケな声が出してしまう。
 折角の迷宮独占状態がこれで失われたかと残念に思う。

「とりあえず様子が見たい。そっちに行ってみよう」
「わかった」

 ユーベルトに命じてその場所まで案内してもらう。
 どんな奴がどんな状況にあるのか、確認はしておいたほうが良いだろう。
 進むにつれて、次第に争うような音と男の怒号に女性の悲鳴がすぐに俺の耳にも届いてきた。

 かなり近いな。

「行くぞ」
「頼む」

 先行するユーベルトに短く告げ、全員で向かった先には横30奥行20メートルの広間があり、部屋の壁の左右に通路が続いていた。
 その部屋の隅では、冒険者一向がロックエイプ17体に囲まれて必死の抵抗を繰り広げている。

「総力戦、前衛突撃! 魔法は単体火力で仕留めろ! 間違っても人に当てるな!」

 ユーベルトとクサンテが駆けるとそれに続いてトトとメリティエも突撃を開始。
 ククはその場にとどまり、俺達後衛の壁として居座った。
 レスティー達が横から魔法で挟撃を加え、俺も天井付近に展開した各種マジックアローの雨で大猿の群れに攻撃を浴びせる。
 
 上からのダメージを受けて混乱しているところに前衛が切り込み、ロックエイプは背後から襲われなすすべもなく粒子散乱していった。
 不意さえ突ければ、多少モンスターの質が強化されたところで今の俺達の敵ではない。

「大丈…」

 リシアが声と共に奮戦していた冒険者にヒールをかけたが、言葉が途中で飲み込まれるほどの状況が目の前に広がっていた。
 大猿が粒子散乱した場所には、ボロボロのひき肉と化した数人の遺体が転がり、傷だらけの一人の男と二人の女だけが俺達の救援で生き残った。

「ゲイル!?」

 生き残った傷だらけの男が一人の男の亡骸に駆け寄り抱き上げると、大きな嗚咽を轟かせた。
 その男の亡骸が時間をかけゆっくりと粒子散乱を開始し、装備や衣類だけを残して消え去った。
 周りでも同様の現象が起きている。
 
 死ぬと俺もこうなるのか……。

 始めてみる人の死体に嫌悪感で悪寒が走り、鳴りを潜めていた恐怖心が首をもたげる。
 リシアにもゴブリンに襲われたときの恐怖が甦ったのか、その肩が小刻みに揺れているので彼女の傍に行き震える肩を抱いた。

 
 男の名はディオン。
 ジョブはナイトLv18、年齢は22才。
 アイヴィナーゼ王国の城下町を拠点とする若手冒険者集団で、彼と亡くなったゲイルという男が彼らPTのツートップを張り、他は全員転職を目前とした基本職だったとか。
 俺達と同じように攻略の進んでいない洞窟で旨い汁を味わおうとわざわざ遠出してみたものの、ここまで踏破されていたため旨味が無く、途中で出会った魔物も自分達の手に負える強さであったため引くタイミングを逃し、この階層に下りてきて始めての戦闘がモンスターハウスだったと聞かせてくれた。

「部屋に入ったところで右側から奴らが現れ、左の通路に逃げ込もうとしたが、そこにも奴らがいて挟まれてしまった……」

 逃げ道を無くした彼らは部屋の片隅に陣取り迎え撃つも、最後に戦った二十七階層の魔物より明らかにランクの高い魔物であったため対処できなかったそうだ。

 一度彼らを連れてライシーンに戻り、それから首都に送ってやれば良いかと思うのだが、流石にワープを見せるわけにはいかない。
 そのことを首脳陣で話し合うと、レスティーがいつに無く真剣な面持ちで口を開いた。

「私が彼らを首都へ連れて行くから、皆はこのまま攻略を続けて」
「んなこと出来るか。あいつらは遭遇してないみたいだが、二十五階層辺りに居たタイラントリザードや二十九階層のサンダーバードと出会ったらどうする気だ」

 タイラントリザードは巨大なかなりトカゲで、俺達を見ると器用に方向転換して硬い頭部を向け全速力の体当たりによる質量攻撃を仕掛けてくる。
 その上に非常にタフで、魔法2~3発では死んでくれない。
 サンダーバードはサンダーアローやサンダーストームを連射してくる危険なモンスター。
 それが通路を飛びまわり巡回している。
 攻略された階層ではモンスターの出現頻度が下がるとはいえ、士気がどん底まで落ちた人間を3人も抱えてレスティー含む4人で脱出とか、無謀にも程がある。
 いつもの冷静な彼ならそんなことは決して言わないはずだが、彼なりに何か考え、もしくは思うところがあるのかもしれない。

「でもここから迷宮を抜けて徒歩で首都に向かっても4日以上。それだけあればみんなのレベルだってもっと上がるし、他のPTが来て先に攻略される可能性だってあるじゃない」

 なるほど、PT全体の停滞を避けたい狙いか。
 経験値の高い狩場で後から加われば、レベル差なんてすぐに埋まるしな。
 だがそれでも誰かを付けないと、危険なことに変わりは無い。

「ならあたしも着いて行こう」

 名乗りを上げたのはクサンテだった。
 引く気配を見せないレスティーに、俺が周りを見回し人選をしていることを察したクサンテが名乗り出たのだ。

「…わかった。ユーベルト、アーヴィン、アレッシオ、レスティー達と行ってくれるか?」
「仕方がないな」
「友の危険は見過ごせないからね~♪」
「うん、任せてよ!」
「索敵はもう一人必要か……カーチェ、悪いけど君も一緒に行ってくれないか?」
「そんなことだろうと思ったわよ」
「すまないね」
「構わないって。その代わり、報酬はちゃんと山分けしてよね?」
「わかってる。この先のダンジョンで見つけた物も全員で山分けだ」

 最初の取り決め通の報酬を約束すると、カーチェもカラっと笑って頷く。
 なんだかんだ良い女である。

「残りは先に進む。セシル、三十階層までのマップをレスティーに渡してくれ」
「は、はい、少しお待ちください……!」

 俺の指示でセシルが三十階層の途中までの地図を新たに複製し、今まで書き溜めた物をレスティーに渡す。
 俺はクサンテに指で招き寄せる。

「もしかすると階層が変わった時点で俺のスキルが効果を失うかもしれない。くれぐれも気をつけてくれ。あと、ライシーンについたら俺の家で待機しててくれ。いつもの時間くらいには居ると思う」
「わかったわ」
 
 クサンテの耳元で声のトーンを落とすと クサンテも小さく頷いた。
 外では上空の魔物にも反応する〈サーチエネミー〉が、迷宮内では上下の階層に効果を発揮していない。
 この事からその可能性を危惧し、しっかり者のクサンテに耳打ちしたのだ。
 そして真面目な話をしているにもかかわらず、不謹慎にも間近で見るリザードマンに少し興奮する。

 トカゲ人間めちゃくちゃカッコいい。

 だが他にも考えないといけないことはある。
 実質1PT分の戦力が丸々居なくなるため、探索中は歩きながらの休憩が不可能になった。

 俺は収納袋様から保存食を全てクサンテに渡しながら、彼らの抜けた穴の大きさを考えた。
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