四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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66話 モンスターテイミングその1

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 レスティー達が6人が一時PTを離れ、残るは9人。
 最低でも10日はこの戦力でやりくりしなければいけなくなった訳だが、ぶっちゃけ開き直ってスキルをフル活用するのも有りか。
 有能な人材が集まったため、PTメンバーに頼る方が万が一を考えると良いのではと思えたからこそやっていたが、こうなったらその万が一が起きてもびくともしないLvにまで持っていくのが正しいのかもと思えてきた。

 あとは新たな戦力の補充だな。

「ご主人様、敵を探り当てるのなら私にも出来ますが、やってみましょうか?」
「あても出来るよー」
 
 レスティー達を送り出したあと、2頭の美獣が金属の兜から飛び出ている兎のような長い耳を動かしながら言い切った。

「マジか」
「はい。失礼ながら御二人よりも耳は良いと思いますので」

 驚愕の新事実だが、普通に考えれば二人はカーチェやユーベルトよりも耳が長いんだし、気付かない俺の方がどうかしている。
 だがそうなるとまたこれまでの索敵をすることになる。
 万が一を考えて彼女達に経験を積ませるべきなのだろうが、慎重すぎて時間が掛けすぎるのも問題だ。

 ん~、このやりたい事とやれている事の食い違いに思考が空転してる感じは……。
 あぁ、クサンテにしごかれる前のあのダメっぷりか。
 これは早急に軌道修正をしなければまずい。
 もっとシンプルに安全と効率を求めるべきである。
 しばらく考えてか全員に下す指示を決めた。

「クク、トト、メリティエは正面を頼む。何か物音が聞こえたら警告してくれ。ただし、今までの様に慎重になりすぎなくて良い」
「はい、ご主人様」
「わかったー」
「了解」

 ククが落ち着いた物腰で返事をすると、トトが元気に手を上げ、メリティエは親指を立てた腕をこちらに突き出した。

 メリティエは本当に口数が少ないな。

「フィローラとセシルは真ん中、その後ろにリシア、ユニスも中央付近で、ミーちゃんもユニスの背でいいよね? 敵が一匹ならトトとメリティエとユニスに任せる」
「はい!」
「は、はい……!」
「はい」
「心得ました」
「ちー」
「敵が複数の場合は魔法で処理、後方は俺が受け持つ。それじゃぁ行こう」
「「「はい!」」」

 思い浮かぶのは先程の死者の骸。
 この中の誰一人としてそんなことにさせる気は無い。
 チートでも何でも使って全員のLvを底上げしてやる。
 俺は彼女達の真剣な眼差しを受け止め腹を括った。



「ご主人様、そこの角を曲がったところに一匹居ます。更にその奥に4匹です」 
「わかった」

 曲がり角の数メートル手前のククの報告に頷き、指さされた角へとストーンアローを一発打ち込み、最初の一匹を釣り上げた。
 ロックエイプがこちらを視認するなり全速力で走ってくる。

「行け」

 即GOサインを出すと、トトとメリティエもロックエイプへ駆け出し、ユニスが弓を番える。

「心眼・スパイラルショット!」
「んなああああああああ! ぱわぁーすまぁぁぁぁぁーっしゅ!」
「〈パンプアップ〉〈クリティカルブレード〉〈気功〉〈鉄拳制裁〉!」

 ユニスの弓から単体火力スキルが放たれると大猿の胸部に直撃、口と胸から血をこぼして立ち止まる。
 各種自己強化を発動させた4足歩行の愛獣が、走り抜け様に斧の一撃を腹部に打ち込み、その影から飛び出したメリティエが下がった猿の頭部に必殺の拳を叩き付けた。
 ウォーリアーの自己強化が乗った攻撃スキルは魔法にも引けを取らない威力を発揮する。
 
「トシオー、4匹向かってくるよー!」
「すぐ戻って来い」

 粒子散乱してアイテムだけをその場に残して消えるロックエイプを跨いだトトが走って戻ってくる。
 現在トトと近接攻撃でツートップ状態のメリティエは、俺がトトに言うよりも早く、ククの隣に戻っている。

 キビキビした動きが実に素晴らしい。

「ミネルバ、セシル、範囲魔法用意!」
「ゴオオオオオオオ!」
「オッホオホォォォ!」
「ホォホオオオオ!」
「ホォホォ!!」

 後衛に指示を出したところで、走って来たロックエイプが角から姿を現し、牙をむき出し敵意の咆哮を喚き散らす。

「吠えてる暇があったら走れよ」
 
 敵のマヌケさを罵りながら、フレアストームを二連射する。
 三人のフレアストームが重なり渦を巻くと、大猿4匹を纏めて炭にした。
 粒子散乱後に安全を確認しつつ、ドロップ品のエイプの毛皮や茶色い地属性鉱石アースクリスタルを回収する。
 アースクリスタルは装備に属性を付与するのに使われるためそこそこ高値で取引されているとか。
 ロックエイプは稀に美しいオレンジ色をした宝石〈トパーズ〉を落とした。

「みんな良くやった。クク、進んでくれ」
「はい、ご主人様」
「トシオさん、MPの回復が終わりましたよ」
「わかった。サモンエレメンタルで精霊を召喚してくれ」
「はい、サモンエレメンタル・シャドー」

 ククに先を促したところにフィローラが告げてくれたので、リシア同様低級精霊魔法の乱舞に戦法をシフトする。
 これをローテーションで回しながら、MPを循環させ階層を攻略する戦法を確立した。
 そんな戦闘をしばらく続けていると、これまで何度も見た大きな扉が目の前に現れる。

「ボス部屋か……、ロックエイプの上位種って何かわかる?」

 階層ボスはその階層に出現するモンスターの上位種が出現するため、それなりに対応が検討できる。
 それでもより詳細な情報は欲しいのでフィローラとセシルに聞いてみた。

「えっとえっと、マウンテンエイプです」
「マウンテンエイプの特徴は?」
「ロックエイプの2倍は大きいそうでしゅ!」
「体長は最低でも10メートル以上あるそうで、雷が利かないみたいです……。魔法で出した岩石を投げてくる以外ロックエイプと差は無かったと思われます……」
「ストーンバレットを使うのか」

 フィローラよりも少し正確な情報で補足したセシル。
 これまでの階層でも、フィローラの知らない知識をセシルが、セシルの知らない知識をフィローラがといった具合に互いに補足しあうことが度々あるので頼りになる。
 ボス部屋は通路より広く設けられており、ボスが多少でかくても動き回れるサイズは確保されている。
 
「わかった、ありがとね。少し試したいことがあるから皆は扉が開いても部屋に入らなくて良い」

 皆にそう言い聞かせ扉を開き、俺だけが中に踏み込んだ。
 三十一階層への扉の手前に黒い魔方陣が光を発して浮かび上がると、煙を纏って灰がかった黒い毛皮の巨大な猿が姿を見せた。
 
 マウンテンエイプLv30
 属性:地
 耐性:雷属性無効。
 弱点:なし
 状態異常:なし

 体長14メートルの巨大猿。
 あのズワローグをも上回る大きさである。

 地属性なので地属性が無効、他は等倍。
 耐性は雷属性無効だが弱点部位や体内に打ち込めば有効な場合もある。
 弱点となる属性も無いので火や風辺りで攻めるのが無難。

 こいつの場合だと目とか口なら雷属性も有効か?

 分析をしている間にマウンテンエイプが拳を振り上げ殴りかかってきたが、拳の軌道上にフレアボールを多重展開して爆破相殺。
 爆風で手首から先を失った事実に気付いていない猿が左の拳を振り上げたところに単体火力魔法〈フレアランス〉が巨体の周囲に多重展開。
 槍の穂先の形をした紅蓮の巨大刃が猿の肩と手足に突き刺さり、後方へ吹き飛んだところに上へ移動した残りの槍が、猿に狙いを定めた状態で浮遊する。
 四肢を傷つけられ、マウンテンエイプは起き上がれずに身動ぎするが、行動不能なのは誰の目から見ても明らかであった。

 称号の【魔物使い】に設定。
 
「〈魔物契約〉」

 称号の魔物使い固有のスキルで、対象のモンスターを服従させるための〈魔物契約〉を発動。
 しばらく待ってみたが変化は無い。
 奴の顔が見えるところまで歩み寄り、睨みつけながら展開中の炎槍を眼前に付き付け、また〈魔物契約〉を発動する。

「………」

《新たな使役モンスターを獲得しました》

 すこし間があったが視界左隅にシステムメッセージが現れると同時に次の階層への道が開いた。
 ステータスウィンドウから使役奴隷と使役モンスターの欄を確認すると、そこにはミネルバの名前の下にマウンテンエイプと表示されている。

 今後の戦力拡充を考え階層ボスでもテイムが可能なのかを試させてもらった。
 このロックエイプ程度の魔物では戦力にはならないが、更に下の階層に出現するボスならオーバースペックの可能性も捨てきれない。
 迷宮内でも問題なく行動可能なサイズで知性があり尚且つ強力な魔物が居れば確保したいところである。

 特に体格と知性の部分が重要だ。
 マウンテンエイプほどの大きさでは迷宮などで色々と困る事態しか起きない。
 戦略や指示を理解できる知性さえあれば大切に育てるのもやぶさかではないが……。

 マウンテンエイプに傷の手当を施し、全員が三十階層を抜けたところで使役モンスターから解除した。
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