四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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78話 わんちゃん大行進

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 サンドワームの卵でワーキャー騒いでいると、突然少しはなれた前後の通路でワープゲートが開き、次元の門からオルトロスが次々と出現した。

「…………」

 出現したオルトロスがこちらに向かって疾駆する。
 あまりの唐突さに血の気が引き、逆に冷静になっているのを自覚する。

 マジックシールド!

 突撃してきたオルトロスに対し、咄嗟に魔法の盾を全力で多重展開。敵との間に防壁を構築し通路を塞ぐ。
 直後に響く重たい激突音。
 魔獣達が魔法防壁を押し込んでくる。

 防壁が持ち堪えている間に耐性を整えなければ!

「クク、ウォールシールドでも通路全体は防げない、右の壁に密着させるように前後に出してくれ!」
「はい、ウォールシールド!」
「リシア達も右の壁に寄ってくれ、あとはいつものように防御態勢を整えてから攻撃に移る!」
「「「はい!」」」

 ククが指示通りにウォールシールドを2枚展開すると、俺もそれに合わせて空いた隙間にマジックシールドをスライドさせて穴を埋める。
 パニックで固まっているセシルとフィローラを、リシアが手を引き壁際に連れていく。

「トト、メリティエ、抜けた奴の対処を頼む!」
「おー!」
「了解!」

 2人が身体向上系スキルを自身に発動させ身構える。

 我ながら咄嗟にしてはよく対応できたとこの時ばかりは褒めたいところだが、音による索敵とワープゲート、どちらもこの世界に存在するものだ。
 それをモンスターが使わないなんて誰が決めつけた。
 ボーナススキルが異世界人の特権だと思い込み、良い気になっていた自分の傲慢さが実に腹立たしい。

「後衛は補助のかけ直し、攻撃には氷魔法を使え! リシア、マナチャージを頼む!」
「はい、〈マナチャージ〉!」

 相手はオルトロス、炎で大気諸共焼かれかねない。
 こちらに狙いを定めた黒犬が地面を蹴るのを、魔法とスキルの壁で抑え込む。
 そこへオルトロスよりも更に大きな白い固体が1頭、群れの最後尾から姿を現す。


 ケルベロス:Lv88
 属性:なし
 耐性:打撃ダメージ半減 斬撃ダメージ軽減 炎無効 状態異常耐性(中)
 弱点:なし
 状態異常:なし


 ライオンの様なたてがみを生やした犬の頭は3つ、黒い瞳には敵意をみなぎらせ、威風堂々と言った歩みで先頭に躍り出た。
 狼犬にも似たスマートでいかつい顔立ちに、白い全長は10メートルをくだらない。
 他はLv40代のオルトロスが全部で後ろに60頭、前に51頭。
 それらが一堂に会したと同時にワープゲートも閉ざされた。

 111ぴきワンちゃん大行進ってか。

 そしてこの10メートルオーバーのケルベロスが群れのリーダーで、フロア内の異物を排除しに来たと言ったところであろう。

 だったら最初に消えてもらう!

「ユニス、あの白いのだけを狙って射撃し続けろ!」
「任された! 〈弓威向上〉、〈弾速向上〉、〈着爆〉、〈心眼・スパイラルショット〉!」

 凛々しき女狩人が人一倍高い視点から、ホーミング性能を有した矢を射下した。
 だがケルベロスの眼前でフレアボールが生まれ、それを回避しようとした矢の横で大爆発。
 大きく逸れた矢が後方に居たオルトロスの眉間に着弾し、黒犬の右頭部で起きた爆散に隣の頭も巻き込んだ。

 器用に避けやがる。
 むしろ除けたと言うべきか。

 だが構わずブリザードストームを三重展開、通路で極寒の嵐が巻き起こすと、追加の氷や吹雪が後衛の皆から放たれ、ケルベロスの周囲に居た5頭を氷づけ、粉砕する。
 しかしボス犬は俺達の攻撃タイミングを察したのか、素早く飛び退き前足の先を少し掠めた程度で難を逃れた。 
 レベルUPを告げるシステムメッセージがいくつもポップするのが、今は目障りで仕方がない。
 残り105頭。
 一気に5頭も始末したが、まだその20倍は健在だ。
 ケルベロスの足元に魔法円が広がると、お返しとばかりにフレアストームが俺達が張った防御陣の外で巻き起こる。
 
 ストーム系は発動指定場所に属性攻撃の竜巻を起こす攻撃魔法のはず。
 防壁に阻まれてるとその中では発動しないということか。

 冷静に観察していると、ケルベロスが牙に宿した灼熱の刃で、展開したマジックシールドを粉砕する。
 ユニスがまたも矢を射かけたが、魔獣はこれまたギリギリで回避すると、粉砕した魔法防壁の隙間に入り込む。
 そのケルベロスの後を追い、オルトロス共も雪崩込んでくる――はずだった。

「ちー……!」

 ミネルバが一鳴きしたかと思うと、通路の両側で俺達とオルトロスとの間に無数のライトニングアローが現れバリケードを成し侵攻を妨害。
 更に大量のライトニングアローを出現させ、その紫の稲光をチラつかせて後続を通路の奥へと押し込めた。
 ケルベロスが家来と分断され、完全に孤立した形となる。
 事態に戸惑いを見せたボスベロスに、俺は毛皮を掠める程の至近距離で新たなブリザードランスの檻を作ってやる。
 身動きすら取れなくなったボス犬の額にアダマンタイトの槍を突きつけチェックメイト。
 その間フィローラとセシルがマジックシールドで崩壊した防壁の隙間を埋め直す。

「よくやったミネルバ」

 ミネルバの機転からあっけないほど事態が鎮静化してしまった。
 一匹も敵が動かないのを確認し、魔物共用語と共に魔物使いの称号をセット。
 その場に居た105頭の魔獣に〈魔物契約〉のスキルを発動させた。

「選べ、受けるなら生かしてやる。そうでないならこの場で俺達の餌だ」  
「……ウォオオオオオオオオオオオオン!!」

 大きな遠吠えと共に足元に魔法円。
 危険を感じて飛び退き様にブリザードボルトを一発打ち込むも、大きな矢は白い巨犬が生み出したフレアストームの飲まれて消失した。
 それと同時に奴を押さえていたブリザードランスの檻も溶解させられる。

 熱対策に氷系魔法を使っていたが、炎で溶かされるのは問題だな。
 そこまで見抜いてライトニングアローを展開したのなら、ミネルバの知性の高さは俺以上である。

 サーチエネミーで当たりを付け、群れの後ろにもライトニングランスを多重展開する。
 これでオルトロスの群れは大きな檻に閉じ込められた状態になる。
 前にも勧めず後ろにも下がれなくなったオルトロス共が一斉に灼熱の吐息を放ち、ミネルバもブリザードストームで防御しつつ、雷の矢を雨の様に降らせて応射した。

 ミネルバにばかり負担を強いるわけには行かない、こちらも早く決めてしまわないと。

 ライトニングランスを2枚出現させ、刃を意識下で操作しケルベロスに襲い掛かる。
 まるで二振りの巨大な剣と化したような動きで、紫電の穂先がケルベロスの肩を焼き頬を焦がす。
 そこへユニスの矢が容赦なく射かけるが、ケルベロスも体を傷付けられながらも力強い動きで身を躱す。
 ついに2枚の刃とユニスの矢を躱しきった魔獣が、俺の眼前迄迫る。

 飛び掛かる魔獣の3つの口腔には紅蓮の光。
 口が開かれると喉の奥から膨大な熱量が膨れ上がる。

 でも残念。

 空中に身を躍らせたケルベロスの全周囲に大量のライトニングランスを出現させ、回避不能のタイミングでその白く美しい体毛を容赦なく貫く。
 
「荷電粒子砲!」

 空中に縫い留められてもまだ諦めず、炎を吐き出そうとした魔獣へ、全力のライトニングブラストをくれてやる。
 紫電の柱が轟音と共に、ケルベロスの巨体を飲み込んだ。
 魔法が効力を失った空間では、白い巨獣は黄緑色の粒子となり消え去った。

 再びレベルUPのポップが浮かび、魔獣の消滅を確認する。 

 それでは、残党狩りと行こうか。

「リシア、スノーラビットを呼んでくれ」
「サモンエレメンタル、雪兎スノーラビット

 雪で構築されたウサギの中位精霊がリシアの胸元に出現するのを確認すると、俺もワープゲートをオルトロス共の最後尾に出現させた。
 ワープゲートの向こうでは、ライトニングアローの柵の向こうでいきり立つオルトロスのでっかいお尻とふさふさに毛を逆立てた犬の尻尾が見える。

「手加減は無用だ」
「はい」

 リシアの眼前が極寒の白に染まり、凍てつく大気がオルトロスの氷像を大量に生産し粉砕する。
 純白の世界に赤い絨毯が敷き詰められ、黄緑色に発光する大量の蛍が舞い消えていった。
 システムメッセージのレベルUP報告と出現したドロップアイテムは無視し、リシアを先導するようにライトニングアローと共にそのまま前進を続ける。
 粒子となり消えかかっている凍った肉片を踏みしめ、ライトニングアローの柵が見えるところまで到着すると、ミネルバのライトニングランスとリシアのスノーラビットが魔獣達を全滅させた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――
 ここ数日は以前書いたものに全修正を施した投稿が続いています。
 そのため現在投稿できる話のストックが尽きている状態となっております。
 もう少し話が進めば改善されると思いますので、しばらくの間ご容赦ください。
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