四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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89話 道に転がる迷惑

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 こちらキャットスリー、任務完了。
 これより帰還する。

 などと意味も無くかっこ付けながら、リベクさんの家を出る。
 イルミナさんの奴隷契約解除のお礼をしにカステラ持参で伺ったところ、生憎と急用で留守だったため、後日出直すことにした。 
 イルミナさんの奴隷解除時の前に急用が入っていたらと思うとゾッとする。 
 そして、何処かへ行ったきり戻ってこないミネルバにも悶絶する。

 受けてみよ、我が悶絶流奥義!
 ももも悶っ絶ッッッッ!!!

 notノット一子相伝の〈悶絶流〉には自己を悶絶させる技しかなく、常に己との戦いである。
 よって敵などはなから不要。つまりは我が流派こそ無敵にして最狂。
 奥義を行使するごとに敗北を積み重ね続ける恐怖の流派には不可能しかない!

 ……自虐と頭の悪さしかないボケはやめよう、余計に悲しくなる。

 PTウィンドウからレスティーやミネルバの安否は確認できるため少しは安心できるが、突然HPゲージがロストでもしたらと考えるだけで、心臓に悪いから早く戻って来てもらいたい。

 ……とりあえず帰るか。

 空中歩行も何とかマスター出来たし、着地の衝撃とか思ったほどでもなかったのでもう大丈夫だ。

 さすがに空中でバランスを崩すと命に係わるので手に変な汗かくけど。

 ワープゲートでパン屋に戻り、再び空を駆け駆けだすと、帰路の途中で地面にたたずむミネルバを発見。
 そのミネルバの目の前では、道端で盛大に倒れている女性らしき物体と、その体にまとわりつく5匹のケットシー。

 なんだあれ?
 ミネルバが狩ったとかって訳じゃないよな?
 知らないところで人を襲ってましたなんてシャレにならんぞ……。

 だがウチの娘に限ってそんなバカなことはしないと思い直す。
 少し離れたところで着地し様子を見に行くも、途中でその足がピタリと止める。

 おいおいおい、嘘だといってよ、バーナード……。


〈勇者〉ヨシノ
 人 女 16歳
 ベースLv85
 ナイトLv47
 エンチャンターLv43


 勇者。

 ……あああああああああ!
 この世界って勇者がこんな頻繁に徘徊してるものなの!?
 あとなんで勇者が野垂れ死んでんだよ!?

 まだ死んではなさそうだが、正直死んでてくれた方が問題が起きなくて助かる。

 しっかしどうしたものか……。
 ワープゲートで迷宮の奥に捨てに行きたいが、Lv50オーバーの時点で、この人もたぶんワープが使えるんだよなぁ。

 レンさんがこの時間で夕飯に行ったって事は、2~3時間はチャットルームに戻ってこない。
 大福さんも朝食後は狩りに行くから次にチャットルームに戻ってくるのは恐らく6時間後以降。
 シンくんは絶賛就寝中。
 ただ今〈レン時間〉では夜の7時頃、この世界だと夜の6時くらいから夕食時だ。
 そして電気照明が無いため魔法使いの居ない家では油も勿体ないため、夕食のあとは女性とお楽しみか寝るか飲みに行くくらいしかすることがない。

 よりにもよって、レンさんが一日の中で唯一チャットルームに居らず、連絡が取れない時間帯にこの状況とか最悪だ。
 お酒もたしなみオーガの奥さんを持つ筋肉至上主義のレンさんはと言えば、当然酒も入るし奥さんと仲良くしていることだろう。
 そこに以前から恋焦がれていた姫騎士女騎士の奥さんが3人追加だろ? これまで以上に戻ってこない時間が延びると予測するなんて容易にすぎるわ。
 ホントどうしよう……。
 こんなことなら俺達を迷宮に案内した御者のおっちゃんと遭遇し、変な噂になる方が何千倍もマシである。
 教えてくれ大福さん、俺はあと何回悶絶すればいい?
 猫神様は俺に何も言ってはくれない……。
 
「あ、お父様……」

 しかもミネルバに気付かれてしまった。
 セカンドジョブを外しておけばなんとかなるか?
 もう遅いかもだが、とりあえず俺とミネルバのセカンドジョブを外しておこう。
 
「ミーちゃん、ちょっとこっちに来なさい」
「ちー……」
「あれはなに?」
「迷子……。お腹がすいて死にそうだって言ってる……」

 迷子て……。
 勇者で迷子で空腹で行き倒れとか訳のわからん役満を詰め込むな。
 運命の神とやらがもし居るなら、絶対に人に厄介事を押し付けて困る姿を見て楽しむドSに違いない。
 女性とめぐり合わせるのはスケベ心を満たすための覗き趣味の変態だからだ。
 ドSで覗き趣味の変態ストーカーとか、完全に邪神だな。

 運命の女神を勝手に邪神認定する猫原理主義者。
 
 異教の神だししょうがない。なくない?

「とにかく、変なモノに関わるんじゃありません」
「ケットシーがいっぱい居たから……」

 わかる。
 鑑定眼がなければ、ケットシー5匹連れとか俺でも迷わず近寄ってただろう。

 ステータスと各種スキルを魔力特化に振り込みいつでもれる状態にすると、女勇者の装備に意識を向けて〈鑑定〉と〈サーチマジック〉を起動する。
 やばそうな装備が無いかをチェックするも、特にそれらしいものは無い。
 というかこの世界の物らしき衣類以外の装備品が何もない。
 身に着けている服もその辺の一般人が着ている物よりは明らかに高品質だが、服としての機能しか備わっていない。

 しかし、よりによってエンチャンターでナイトなんだよなぁ。

 攻撃特化のウォーリヤーに全体防御特化のガーディアンは判りやすいが、ナイトはバランス近接だ。
 ユーベルトのような素早さに長けた奴やクサンテのような攻守のバランスの良い奴が就くと、前者は手数と機動力で押してくるし、後者は使い勝手の良いスキルのせいで手堅く隙が無い。
 一部ガーディアンの防御スキルや、効果こそ低いがHP回復スキルも持っており、ドルイドと並んで個として完成された能力を有する職でもある。
 しかもエンチャンターだからジョブスキルの習得次第で魔法で装備を生み出せる。

 つまり、この何も装備していない状態こそが彼女の通常装備である可能性が無きにしも非ず。 

 そして警戒すべきはファイターの半径2メートルの物理衝撃波〈バーストインパクト〉、それとバーストインパクトの派生であるナイトの攻撃スキル〈グロリアスプレス〉だな。
 クサンテが使っているのを見た限りでは、射程と火力強化のバーストインパクトだ。
 変なことをしたら反撃で射殺する。

 バックステップからの荷電粒子砲を即座に放てるよう、意識を集中して近付いていく。

「おい、大丈夫か?」
「…ダメ……かも……です……」

 ギリギリ聞き取れるくらいの小さな返事が返ってくると、俺の方を見る気力もないのか、こちらに顔を向けることすらしてこない。
 そこに彼女の声など霞んでしまう程の大きなおなかの音が鳴る。
 すると、彼女にまとわりついていたケットシー達が次々にこちらへ寄ってくる。

 よーしよしー、良い子だねーかわいいねー。
 ……はっ!? あまりの尊さに警戒を解いて撫でまくってしまった。

 緩んだ頬が自分でもはっきりとわかる。

 全匹お持ち帰りして我が家に解き放ちたい!
 連れて帰るとまたリシアに怒られるからできないけどっ! できないけどもっ!

「助けてくださいにゃヒュームの方」
「お嬢に食べ物を分けてあげてくださいにゃ」
「この子は3日もなにも食べてませんにゃ」
「お礼なら必ずしますにゃ」
「お嬢の身体で返しますにゃ」

 手に感じる幸福に苦悩していると、ケットシー達が愛らしい顔で訴えて来た。

 ……最後のは何かの聞き間違いかな?
 どのみち猫様方にここまでお願いされては断るわけにはいかないが。

 信仰とはここまで厄介なものだとは、今更ながら実感する。

 猫信者から猫好きにランクダウンしたい今すぐに。

「……とりあえずこれで良い?」

 先程買ってきたカステラを取り出し紙の包みを開くと、砂糖の甘く香ばしい匂いが辺りに広がる。
 その匂いに釣られて女勇者が黒縁眼鏡をかけた顔を上げると、目に飛び込んだカステラに飛びついた。
 地味娘だがよく見るとかなり可愛い。
 カステラにがっつき喉を詰まらせた少女へ、革の水筒を差し出した。

 本当にどうしたものか……。

 無我夢中にカステラを口に運ぶ地味眼鏡っ娘を注意深く観察しながら、出もしない答えを頭の中でぐるぐると模索するが、やはり答えは出なかった。


 ももも悶絶ッ!

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