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101話 牛と山羊

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 四十三階層の踏破を完了するも、よしのんが思いのほか疲労していたため帰還した。
 そして昨日に引き続き午後の探索を中止とし、のんびりとリビングでくつろぎながら、エキドナ戦を振り返る。

 今回はたまたま上手くいったが、実際あんな化け物とまともにやり合っていたらどうなっていたのかわからない。
 今後も気を引き締めていきたいところだ。
 何をやっても勝てそうになかった場合は、前にセシルにも言った通り逃げるつもりだったけど。
 そういえば、俺も大福さんに似たようなことを聞いたことあったなぁ。

『自分より強い奴と戦う時ってどうしますん?』
『そら一番手っ取り早くて楽なんは〝相手に何かされる前にやってまう〟ことやろな。どんなに腕の立つ奴でも、実力を発揮出来んまま勝負が終わってもうたらどうしようもないし。ポイントはいかに自分のペースに持ち込めるかやな』
『それでも勝てない奴だったら?』
『せやな……これが試合やったらやっぱ根性やなぁ。精神論なんて持ち出すんは、それまでの自分の練習量が足らん原因かもしれんけど、練習量で勝ってても才能で負けてる場合もある。だったらその才能の分は別の何かで補うしかない。路上のケンカやったら逃げてもぇんやがな。もしくは相手よりさらに上のどぎつい事をやったったらなんとかなるもんや』

 迷宮での戦いはその路上のケンカなので、先手やどぎつい作戦を立てる。もしくは逃げるのが妥当だろう。
 エキドナも本能的に先手を打って、どぎつい手段である〝回避不能体当たり〟を敢行し、勢いで勝負を決めに来た。
 残念ながらこちらの作戦とかみ合ってしまったのが奴の不運である。
 ダークネスで視界を遮られてもお構いなしに突っ込んでくるとか、俺だったら絶対にしない。
 だが今思うと、奴には俺達の姿を見えていたのかもしれない、例えば熱反応で。
 蛇にはピット器官と呼ばれる熱源から放射される赤外線を識別する機能が備わっている。
 熱を感知する能力で暗闇でも問題はなかったからこそ、強引に突っ込んできた可能性は大いにある。
 他にもよっぽど頭に血が上っていたのかもしてないし、こんな閉鎖された自分より弱い相手しかいない環境で育ったせいで慢心していたのかもしれない。 
 それと、大広間に火炎魔法を打ち込んだ際に部屋から逃げだしたのは、突然ねぐらが高熱に包まれたのに驚いてなのかもしれない。

 今まで生きてきて、あんなこと一度もなかっただろうし。

 何年生きて来たか知らないが、戦闘経験と置かれた環境の差が如実に出た結果だと結論付けておく。

 すべて〝かもしれない〟の憶測の域を出ないので、答えはやっぱり〝死者だけが知っている〟というやつか。

 家に戻り納屋のアイテムも収納袋様に収め、昼食を済ませて一段落すると、昨日発注しておいた冷蔵庫が俺たちが居ない間に届いていたので、かなり大きな冷蔵庫の上部に氷を生成した。
 それとローザに晩御飯の食材を指定し、取れたて新鮮な〈キ〉産牛肉を取り出しマジックシールドのまな板に置く。
 討伐したキが高確率で〈牛肉〉を落としてくれたのが実にありがたい。

 今晩は焼き肉パーリィだ!

 しかし――

「肉デカすぎ……このままじゃ冷蔵庫に入らないな」
「これは捌くのに一苦労ですね」
「私がやりますので任せてください」

 後ろで見ていたユニスの率直な言葉に、ククが出刃包丁を握って頼もしくも作業を開始した。
 ローザの指導の下、あっという間に捌くその手際に、本日何度目かの感動を覚える。

 こうして晩飯に夢を馳せながら、座布団を枕にステータスウィンドを開く。
 エキドナ戦でベースLv112と大幅なレベルUPを果たせ、最上級職もカンストした。
 お楽しみのジョブやスキルの調整とボーナススキルを確認していく。

 新たなボーナススキルがちらほらと現れているな。
 でもステータスの上限は99なのね。
 とりあえず体力に振っていくかな。
 次に新ボーナススキルを見てみよう。
 
〈全習得称号スキル使用可能〉所持している称号のすべてのスキルを任意に発動できる。
〈サードジョブ追加〉3つ目のジョブを設定できる。
〈ジョブレベル上限解放〉ジョブレベルを51以上に引き上げることが可能になる。
〈ラーニング〉一度見た魔物のスキルが習得できる。
〈マップ〉一度通った道を記憶し地図として呼び出せる。
〈サーチPT〉PTメンバーの位置情が確認できる。
〈PTチャット〉離れた場所に居るPTメンバーと会話が可能。
〈視覚強化〉より遠くのものを見ることが出来る。
〈聴覚強化〉より遠くのにおいを嗅ぎ分けることが出来る。
〈嗅覚強化〉より遠くの音を聞き分けることが出来る。
〈言語習得/神語〉
〈HP最大値増加(大)〉HP最大値が大幅に増加する。
〈MP最大値増加(大)〉MP最大値が大幅に増加する。
〈SP最大値増加(大)〉SP最大値が大幅に増加する。


〈習得称号固有スキル使用可能〉って、これは態々称号を変えなくても固有スキルが使えるようになるって事かな?

〈小英雄〉のまま〈炎禍〉にある〈火属性付与〉を試したところ、パルチザンがほんのりと赤く輝いた。

 おお、これは便利だ。
 部屋でくつろいでたところに突然の奇行なため、皆からの視線が痛いけど気にしない。
 特にトトとユニスがこれ以上は何もしないのに、今にもさすがトシオさすトシと言わんばかりに目を輝かせてるので、その期待感に心が痛い。
〈炎禍〉は火属性付与がと言うより、自動発動スキル〈業火〉で常に火属性ダメージは倍加してくれるのがありがたい。
 いつの間にか得ている称号の〈雷禍〉で雷属性ダメージ、〈水禍〉で水属性ダメージ、〈氷禍〉で氷属性ダメージ、〈光禍〉光属性ダメージ、〈闇禍〉で闇属性ダメージがUPだ。
 それと大体のスレイヤー系が習得できてるな。
 ますます火力過多なのは、もう開き直って相手になにもさせずに仕留めるスタイルを貫くべきとの猫神様のお達しに違いない。
 アイサツ前のアンブッシュはニンジャの嗜みだしな。
 ほかの称号は……〈英雄〉に〈神殺し〉とな?
 またも俺の中二心をくすぐるパワーワードな称号だ。


〈英雄〉
HP+1000 MP+400
ATK+60 MATK+60
DF+60 MDF+60
パッシブスキル〈英雄(中)〉

〈英雄〉のステータス効果をPT全員に付与。


〈神殺し〉
HP+1500 MP+800
ATK+200 MATK+200
DF+100  MDF+100

〈神殺し〉
 神族に与えるダメージ2倍。
 神族から受けるダメージ半減。
〈不死無効〉
 相手の〈不死性〉を無効化する。


 いつの間に習得したんだ〈英雄〉。
〈神殺し〉はエキドナで出たのかな?
 毎度言ってるが、討伐で獲得する系の称号はレベルUPに重なることが多く、メッセージポップを見逃すので困る。
 早く利便性をアップデートしてくれ。
 このシステムを管理してるのが誰かは知らないし、管理してる存在が居るのかも謎だが。


〈サードジョブ追加Lv1〉
 サードジョブが付けられのか、レベル上げが捗るな。


〈ジョブレベル上限解放〉
 今までLv50で止まっていたジョブレベルがそれ以上になるのか。
 スキルポイント取り終わったら意味無さそうだけど、現地人のリシア達はメインジョブLvでHPとMPの上限が少し上がるので塵積程度には役に立つだろう。


〈ラーニング〉
 …エキドナの時もそうだが、相手に何かをさせる前に倒す事を前提に戦っているので、案外役に立たないかも。
 ククの防御力を突破できない攻撃スキルとか役に立たないだろうし、突破してくるスキルなんて打たれたらPTが壊滅しかねない。
 ……いや、でも10倍掛けで使えばまた変わってくるかも?
 まぁスキルそのものは面白そうなので習得しておきたい。


〈マップ〉
 ダンジョンだろうが通常空間だろうがお構いなしに通った場所を地図として見れるのか。
 さっそくスキルポイントを振ってマップを呼び出すと、黒い球体が浮かび上がった。

 ……なんぞ?

 周りに居る皆はこの球体に反応していないってことは、俺にしか見えていないようだ。

 黒い球体の上には緑の逆三角が浮かんでいる。

 もしかしてこの緑色のが俺の現在位置かな?

 つんつんと人差し指で突いてみると、黒い球体が平面に変わり、航空写真のような鮮明な画像となってライシーンとその周辺を映し出した。
 ライシーンから川沿いに南に延びた道、西南に森、北東に森と湖に村、ライシーン第五迷宮。
 川沿いの道は俺がこの世界に出現した最初の場所だ。
 西南の森はスリープゴートを狩った場所で、北東の森はクレアンデル大森林、湖と村は合宿で行ったクレアル湖とデクシ村。
 それ以外は相変わらず黒くなっている。
 映し出されているのは実際に行った事のある場所なため、未踏の地は表示されないってことか。

 こうしてみるとあまり移動してないな。
 大福さんたちの中で俺が一番行動範囲狭いかも。


〈サーチPT〉
 PTメンバーの位置確認って、今別行動中のレスティー達の位置がわかるのかな?
 
 試しにポイントを振って習得してみると、近くにシリア達の反応、それにライシーン第五迷宮の方に9つの反応――これはレスティー達だ。

 更に先程から開いていた〈マップ〉のライシーン第五迷宮と思しき場所を見ると、先程までなかった緑の矢印が動いていた。

 位置からしてこれはレスティー達だな。
 マップとサーチPTのコンボ、なにこれ凄く便利。
 自分の場所だけでなく他人の位置までわかるのがいいな。

 試しに球体状に戻して全体を見るも、大福さん達の居場所はわからなかった。
 残念ながらPTを組んでいないので対象外のもよう。


〈PTチャット〉
 これが有れば離れているレスティーたちとも連絡が取れるし、離れたところから作戦指示が出せるとか目茶苦茶便利すぎるな。
 あとでレスティー達と連絡を取ってみよう。


〈言語習得/神語〉
 俺は異世界の神になるっ!
 ……真面目な話、神様と会話とかそんな状況になること自体嫌かも。
 そんな状況、大体は何かしら良くないことや困ったことが起きてるだろし。


 感覚強化系はまぁそれなりに便利そう。
 嗅覚は必要なのか微妙だけど常時発動させるなら嗅覚が無難か。
 反面強い光や大きな音に弱くなったりしそうで注意も必要だし。
 目と耳は使いたいときだけ習得する感じで良いかも。
 そして必要な時に存在を忘れるいつものパテーンや……。
 あとのはそのまんまのステUP系なので余裕をみて取って行こう。
 特にMP。

 試しに振ってみたらLv10まで、最大五割増しとなったので最大値増加系は優秀だ。

 とりあえず今回得た情報をレンさん達に報告すると、ボーナススキルの〈PTチャット〉の話しになったところで3人が突然言葉を濁し始めた。

 ん? なんかあるのか?
 使い勝手が悪すぎて微妙とか?
 いやでも書いてある通りだろうし、使い勝手もクソも無いだろ。

 疑問に思いながらも報告を終えると、シンくんから『鑑定に4レベルがある』と教えてもらった。

 マジかよ、ボーナススキルを弄るときでも固定習得扱いにして一切目を向けていなかったせいで全然気付かなかった!?
 鑑定のLvを上げて鑑定眼を発動!
 …おお、イルミナさんとメリティエ、それにフィローラとセシルの本来の姿が朧気に見える。
 まるで幽霊が重なってるみたいだ。
 ちょっとスタ〇ド使い見たいでかっこいい。


 イルミナ
 人 女 32歳
 メインジョブ:セージLv50
 セカンドジョブ:なし
 サードジョブ:なし
(メティーカ・ダモンクレア
 ハイラミア 女 297歳)


 人物鑑定だとこう映るのか。
 面白いな。

 などとローザが出してくれた紅茶をすすりながら皆を眺めていると、思わず紅茶を噴き出す物体を見てしまった。


 モティナ
 人 女 15歳
(サテュロス 女 15歳)


「ブフっ、ごほっごほっ!?」 
「トシオさん大丈夫ですか!?」
「大丈夫…ごほっ、紅茶が少し変な所に入っただけだから…ごほっごほっごほっ!」

 傍でのんびりと寛いでいたローザが驚きと心配で慌てさせてしまったため宥めつつ、よしのんと恋愛シチュエーション談義に花を咲かせているモティナを二度見した。
 薄っすらと見える本性は、額付近から山羊の捻じれ反り返った角を生やし、すらりと伸びた足は長いもこもこの体毛に覆われた羊のそれで、つま先は蹄になっている。
 顔は人間時とあまり変わらず……目の瞳孔部分が横長の四角でまんま山羊だな。

 サテュロス…なんだっけ…あぁ、思い出した、パーン程神性はないけど、似た姿をした獣人とも精霊とも言われる奴か。
 ファンタジー知識で当てはめると、霊ほど不確かではなく獣程物質寄りでもないので、部類で言えばエルフやドワーフと同じ妖精ってところだな。
 この世界なら獣人と見ていいだろう。
 それがなんだってこんなところで人間のフリしてるんだ?

「ちょ、ちょっとモリーさんの所に行ってくる」

 咽て乱れた呼吸を整えながら立ち上がると、皆にそう告げて裏口へ向かう。
 そしてモリーさんの元へ行くと、更に噴き出すものを拝ませて頂いた。


 モリー
 人 女 32歳
(ミノタウロス 女 32歳)


 あんたミノタウロスかよ!? 

「なにか用かい?」

 俺の驚く顔に怪訝な表情を浮かべて問うて来たモリーさんの側頭部から上に伸びる牛の角、上半身は頭からお腹までほぼそのままだが、腰から脚部は直立する牛っぽいそれになっている。 
 身体の構造はモティナに似ているな。
 だが体の大きさはラミア状態のイルミナさん並みの大女だった。
 胸は張りがあって堅そうだが、なかなかにムチムチした健康エロボディであった。

 すごく、好みです。
 でも、よく考えると事情を聴いてどうなる訳でもなく、結局は今まで通り、関係が悪化するのを避けたいのでこのまま黙っていよう。

 でもこれで2人が人間に化けている理由が分かった。
 ミノタウロスはラミアやダークエルフと同じ魔族領の種族。
 そんなのが人族領に居たとなれば、イルミナさんの様に吊るし上げられ奴隷化される。
 娘だけサテュロスでも目立つし、両方人間にと言う訳だ。
 まぁ一番の突っ込み処は〝人化の手法が出回りすぎだろ〟だな。
 大丈夫なのか人族領?
 いや広めたのはイルミナさんっぽいけど。
 その内国一つまるっと魔族領の種族に取って代わられてたらおもしろ――もとい、大変なことになるんじゃないだろうか。

 なんて思いながら、モリーさんにこの場をごまかす言葉を紡いでおく。

「あー、吉乃さんの武器を発注したいのですが、後でお願いできます?」
「構わないよ、今は客も居ないし連れて来るならすぐにでもやってやるが……やはり妙だねぇ。何か隠してるだろ?」

 鋭い。

「俺がモリーさんに隠するだなんて、してるに決まってるじゃないですか? むしろ堂々と視姦させてくれるんですか? もっと言えば、そのステキなオパーイとお尻を直で触りたいので結婚してください」
「っ……はぁ。こんなおばさんからかってるんじゃないよ」

 彼女の鋭さに内心ひやりとしつつも冗談っぽく返すと、心底呆れたと言わんばかりにため息を吐かれた。

 一瞬動揺を見せたのは、脈があるからだろうか?

「おばさんって、俺と8つしか変わらないじゃないですか。イルミナさんなんて俺の年齢を10倍にしたってまだ足りませんよ?」
「ラミアとあたしを一緒にするんじゃない。ったく、あんたの冗談は疲れんのよ。用が済んだのならとっとと家に戻りな。序でにモティナを呼んで来とくれ」
「はーい」

 気軽に返事をしてモリーさんの横を通り抜けざま、油断しきった彼女のデニムの短パンを後ろから一撫でさせてもらうと、何事もなかったかのように裏口へと移動する。
 武器屋の裏口を抜けたところでモリーさんの罵声が飛んできたが、気にせずモティナを呼びにリビングへと帰還した。
 昨日自分で触っても良いと言っていただけあり、そのボリュームはとても素敵なものでした。

 でもモリーさんがミノタウロスならモティナの父親はサテュロスか?
 あるいはパーンで、ミノタウロスとの間に生まれたからサテュロスになったかかな?
 まぁその辺の事情は自分から話してくれる気になった時にでも伺えば良いか。
 よっぽどの事でもない限りは今は知らなくても良いことだけど。

「モティナ、モリーさんが呼んでたよ」
「はーい。ヨシノちゃん、また後でね」
「うん、またねっ」

 モティナがよしのんへと手を振り、リビングを出て裏口へ向かった。

「モティナと仲良くなったんだね」
「あ、はい。あんな話が出来る人が傍にいなかったので、つい話し込んじゃいました!」

 よしのんの気持ちが落ち込んでいただけに少し心配したが、どうやらそれも杞憂で済んだようだ。

 代わりに〝どういった話をしていたのか〟という新たな杞憂が生まれているが……。

 
 
―――――――――――――――――――――――――――――――
 1万7千文字の話に修正を加えて分割するお仕事中です。
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