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94話 可愛いの単位
しおりを挟む吉乃さんを連れて本日何度目だよって思いながらワープゲートをオープン。
思い立ったら即行動、モーディーンさんに教えてもらっていた共同住居施設の誰も来なさそうな暗がりに出たまでは良かったのだが、施設の扉を叩いて顔を出したケインさんに彼らの不在を告げられた。
ズワローグ戦でお世話になったケインさん、いつの間にやらロイヤルガードに転職してる。
「帰宅はいつ頃になりそうです?」
「そうだな……ライシーン第一迷宮の近くにあるタンザスという村は知っているか?」
「名前だけなら。確か復興作業中だったと思いますが?」
「その復興作業で、物資運搬の護衛と現地での警備の依頼が来て、3日前に出立したばかりだ。最低でも2週間は戻らんだろうな」
「うわぁ、マジですか……」
「無駄足になってすまんな。だが俺もこれから同じ現場へ向かうところだ。言伝くらいなら届けてやれるがどうする?」
間が悪いと言うか何と言うか。
心の中がキングオブあちゃーな気分なのでとりあえず呻いておく。
あちゃー。
でも言伝が頼めるなら……って何をどう言って説明したものか。
モーディーンさんに直接なら兎も角、ケインさんにってというのが引っかかった。
命の恩人の一人ではあるが、彼が悪いというよりも、彼の事をよく知らないので言伝を頼んで良い人物かの判断だ出来ない。
かと言って直接出向くのも、村までの日程を考慮すると、今は数よりも質を揃えておきたいので、移動時間を迷宮探査によるレベル上げに費やしたい。
ここは諦めるか。
「そうですね……、戻られたらまた伺いますとだけお伝えください」
「わかった。実は俺からもお前に言っておきたいことがある。あの時はお前達を守る立場にありながら、逆に助けられてしまいすまなかった。そして改めて礼を言う」
小さく頭を下げられてしまったので、こちらも
「いえいえ、頭をお上げください。あの時は皆さんが体を張って守ってくれたからこそ、俺は生き残れたんです。なので、どうか気にしないでください」
「……なるほど、こういう所か……。それでは俺はこれで失礼する」
何やら一人で納得してそう言い残すと、ケインさんは冒険者ギルドの方へと去っていった。
礼を失してはいないと思うのだが、今のなるほどとは一体なんなのだろう?
「以前犯罪臭い強さの魔物と戦った時、彼や他の人が命懸けで守ってくれてね、それで俺はその魔物にトドメを刺せたって話しなんだけど、今何か変なこと言ったかな?」
「いいえ、それなら普通の返しだったと思いますよ?」
当時現場に居なかった吉乃さんには訳が分からないだろうと説明してから聞いてみたが、彼女にもわからないようだった。
俺達の察しが悪すぎるのか、文化の違い的なやつなのか。
まぁどちらにせよ、これ以上ここに居ても意味は無いので彼女を連れて帰宅した。
帰宅後は、気疲れから現実逃避の一環として、正面に座るケモっ娘状態のリシアのミルクティー色の優しい髪を、丁寧に丹念に真心こめて撫でさせてもらう。
なめらかな手触りが非常に心地よく、猫特有の笑ったような口元が愛らしい。
ピンク色の猫鼻も可愛い。
まぁ部位もそうだが元々リシアはリシアというだけで可愛いため、もう可愛いを現す単位は〝リシア〟にすればいいと思う。
例えば公園でお母さんと遊ぶ幼児の可愛さは0.17リシアみたいに。
単位がリシアを基準にしているため、1リシア=リシア本人。
よって、1リシアを超える物はこの世に存在せす、仮にあるモノが0.999リシアだったとして、新たにそれ以上のモノが出てきた場合は、今まで0.999リシアだったモノは0.998リシアの様に基準を下げる仕様だ。
……仮に世界征服した後に布令を出しても、絶対に流行らないと断言できてしまうのが悲しすぎる。
そもそも基準が人の好みや主観だけで容易に覆り過ぎる時点で、基準として完全に破綻しているな。
「おお、帰って来ておったか」
毎度の如くアホなことを考えていると、声のするリビングの入り口に目を向ける。
そこには湯上りらしき人間形態のイルミナさんが、数時間前が嘘の様に肌に艶を取り戻し、彼女の娘でこれまた湯上りの和風幼女を伴い立っていた。
「ただいま」
「お帰りなさいまし」
返事をする俺に湯上り美人さんが科を作って近寄ってくるなり、後ろから頭に手をかけ抱きしめられた。
俺の両肩には巨大で柔らかな質量がズシリと乗り、完全に顔が埋没して前が見えない。
手にはふわもこ、顔にむにゅむにゅ。
これなーんだ?
正解は今の俺!
肩から顔全体に当たる弾力がすごすぎて、もう一生このままの状態で過ごしたい衝動に駆られる。
だが重い。
あまりの重さに耐えきれず、下から乳を持ち上げて頭を抜き、そのまま横に下ろす。
その乳射程に入っていたリシアの顔が再び視認可能となると、小さな咳ばらいをして表情を引き締めた。
今一瞬恍惚とした表情してたよね?
「さ、夕飯の仕込みをしなくっちゃ」
目で訴えかけるも、リシアがぎこちない口調ですっとぼけて土間へと逃げた。
そんなリシアと入れ替わりで俺の隣に座ったイルミナさんが、甘えるようにしな垂れる。
押し付けられる乳圧は、やはり凄まじいの一言に尽きる。
モティナと吉乃さんが視線を逸らすふりをしながらちらちらとこちらに視線を飛ばして来る。
非常に残念ではあるが、昼間っから未成年に見せて良いモノではないな。
「イルミナさん、抱き着かれるのは大変光栄なんですが、人目があるのでここではやめてください」
「はて、そのようなものは我には見えぬが? ささ、良いではないか良いではないか♪」
リシア並みのすっとぼけから更なる密着を図ってくる肉体の魔物。
先程堪能させてもらったばかりだからこそ余計に流されてしまいそうになる。
「すごく良いんですけど、未成年が居るので良くありません。それよりもう体調は良いのですか?」
「うむ、ちゃんとした食事と休息、それとお主の精を得られれば、我らなんぞこんなものじゃ。…じゃから今晩からでも、相手をしてやらんでもない……」
悪代官のようなセリフで色気を振りまいてきたかと思えば、今度は乙女の仕草で恥じらいを見せる絶世の美女。
周りに人が居るので完全に痴女のセリフと化しているのが少しツボに入り、おかげで冷静さを取り戻す。
そこのモティナ&吉乃、女の子なんだから鼻息を荒げて食い入るように見ないでくれ。
「して、なんじゃこの娘は?」
2人の食いつきっぷりに、イルミナさんが胡乱なモノを見るように吉乃さんを観察する。
「昼間に拾った現在隣国から絶賛逃亡中の勇者、井上吉乃さん。保護って名目で居候することになりました。恋愛事が絡むと常時こんな感じですから無視してくれていいですよ」
「井上吉乃と言います、よろしくお願いします。って、無視とかひどくないですか!?」
「酷くない酷くない。酷いってのはね、明日の働き次第で個室が納屋、あるいは山荘になる事を言うんだよ。だからがんばってね♪」
「納屋……が、がんばりますから納屋だけは止めてください!」
さすがに納屋は嫌か、必死に懇願するゆうしゃよしのん16さい。
見た目もっさり仕草変態、口を開けば御腐れ様。
完全に残念系美少女である。
強く生キロ。
「勇者のくせになぜこれほど弱腰なのだ?」
「そらこの世界で勇者だなんて奉られても、元はその辺の町娘その1なんだからしょうがないでしょ」
その吉乃さんにメリティエがツッコミを入れたので、一応擁護してあげた。
擁護はしてあげたが……なんて言うか、この子はもうよしのんでいいや。
「ですが、トシオ殿も同じ一般人であるのに惚れ惚れするほどお強いではありませんか。あの強力な魔法砲撃には驚嘆の一言に尽きます」
「雷の剣、アレかっこいー!」
「さっきは空も走ってた……」
「誉めてくれるのはうれしいけど、秘密兵器だから秘密にしといてね。真面目な話」
ユニスが目をキラキラさせてこちらと見つめると、トトとミネルバまで興奮気味に告げてくれる。
二人の興奮度合いがプリン以下なのは俺の気のせいに違いない。
ちくせう……。
しかし、今後誰がどこで聞き耳を立ててるかわからないため、手の内を口に出されては困る。
特に〈紫電一閃〉はダメだ。
刃渡り3メートル以上もある魔法の刃とは言え、切りつける時に接近しなければならない。
こちらの攻撃に合わせて放出系攻撃でカウンターを入れられると、良くて相打ち悪くて一方的にやられかねないのだ。
それをさせないための魔力=敏捷の二極だが、俺の知らないスキル一つで優位性がひっくり返るのはアキヤ戦で嫌というほど味わった。
過信は出来ない。
また何か別の必殺技を考えておこう。
使い勝手の良い魔法で何かないかな……。
アースブラストの重ね掛けによる重質量弾を上空から高速で落としたり、アイシクルスピアを一つにまとめて打ち込む〈運動エネルギー+質量攻撃〉や、単純に多重展開して氷槍を鬼のように射ちまくるとか面白そうだな。
てかなにも多重発動させるのを一種類に限定しなくても良いか。
正面から荷電粒子砲を撃ちつつ様々な方向から魔法を撃てば、一人十字砲火も出来なくはない。
アロー系全盛り多重展開飽和攻撃とか、軍隊相手でも効果が期待できそうだ。
なんか色々と夢がひろがりんぐ。
問題は燃費だが、いざとなればビショップのMP回復魔法〈マナチャージ〉があるから気にするな。
ふふっふー。
明日も色々と試してみよう。
「トシオさん、おかしな笑みが顔に出てますよ?」
「きっと変な事を想像してまふね」
「トシオさんに限ってその様なことは……でもそうとしか見えませんね……」
「こういう時のお父様は凄い魔法を考えてる……」
ローザの指摘に我が家の知恵袋二人が頷き合うも、ミネルバだけは的確に言い当ててくれた。
俺の味方は君だけだよミネルバ。
さっき上空で置いて行かれたけど。
序でによしのんには前衛を任せようかと思いつつ戦闘スタイルを聞いてみると、予想通り魔法で武器や装備を生み出しナイトのスキルで戦う魔法剣士スタイルだそうだ。
「こう見えて運動は結構得意ですし、ゲームでも魔法剣士やってたんですよ!」
そう得意気に話すと、文学少女が魔法の剣を生み出し掲げて見せた。
いや、そんなドヤ顔されてもほめてやらんぞ恋愛妄想騎士よしのん。
うん、なかなか頭の悪いネーミングが生まれたな。
この子はもしかすると腐女子であると同時にオタク気質でもありそうだ。
違い? 考えるな、感じろ。
とりあえず前衛のローテーションに組み込むとしよう。
フィローラ達の右サイドに一人欲しかったところだし丁度いい。
それと俺専用のアダマンタイトのグリーブが欲しいな。
いざという時に空中移動できた方が何かのためになるかもだし。
魔力ガン積みでも足に怪我しなきゃいいんだが……。
威力の調整も感覚的にできれば良いんだけどその辺どうなんだろ?
でもまぁとりあえずは発注しておこう。
「モリーさん、アダマンタイトの塊ってまだ余ってます?」
「アレならまだ半分以上残ってるよ。ただライトウエイト化に必要な鉱物の在庫が不足気味だねぇ」
「ならアダマンタイトを少し売却してその鉱物の購入資金に充ててくれても構いませんよ。それとアダマンタイトでグリーブを作ってもらえると助かります。あとはトト用のアダマンハルバードも作ってほしいのですが」
「あいよっ。ちょっくら一仕事しようかねぇ。トトテナ、付いといで」
「あーい」
モリーさんが店の方へ向かうと、トトもその後に付いていく。
ライトウェイトの触媒鉱物も迷宮で仕入れられたら良いんだけどなぁ。
いくら強力な金属が作られた装備あろうと、重くて動けないでは話にならない。
……そう言えば神鉄の三種ってどんな効果があるんだっけ?
「フィローラ、セシル、神鉄の三種類って、性能的にどう違うの?」
「えっとでふね、オリハルコンは金属そのものに魔力上昇効果があって、魔力の低い人でも強い魔法が使えたりしましゅ」
「逆にアダマンタイトは魔法を通し辛いため、魔法に対する防御効果が期待できます……。金属の強度としては同じくらいと言われています……」
「つまり、魔法が使える奴にはオリハルコン、純粋な戦士にはアダマンタイトが良いって事かな?」
「その通りでふ!」
「トシオさんは聡明なので、説明のし甲斐があります……」
「ははっ、ありがとね」
この程度で聡明とかマジやめて!
こんなのゲーム好きなら誰でもわかることだから!
そんなに持ち上げられてもこっ恥ずかしくて死にそうになるからホントやめてー!
セシルのお世辞に居たたまれなくなるも、微塵も表に出すことなく軽く流す。
「それで、ヒヒイロカネは?」
「ヒヒイロカネは先の二つより希少で、魔力を増幅する効果があるそうです……」
「オリハルコンとはどう違うのです?」
セシルの説明に対し、俺が聞きたかったことをユニスが問うてくれた。
「オリハルコンは装備者の魔力を底上げして、ヒヒイロカネは元からある魔力をより高める効果があるそうでしゅ」
「解り易く言うとじゃな、オリハルコンは魔力を持たぬものに10の魔力を足し、ヒヒイロカネは所持者の魔力を一割引き上げるといった具合じゃ」
「つまり、魔法使いはヒヒイロカネを持つのが良いと言う訳ですね」
「そういう事じゃ」
イルミナさんの説明に、よしのんが端的に述べた。
さすがイルミナさん、元マジックショップ経営者は伊達じゃない。
「ヒヒイロカネのロッドとか強そうだな」
「うむ、ヒヒイロカネ製の装備は魔法使いの武具としては最高峰の一つじゃからのう」
俺がヒヒイロカネに夢をはせると、イルミナさんが肯定する。
穂先に魔法で刃を生み出し槍として用いるって使い方もありだな。
「ヒヒイロカネ良いなぁ、どこかに落ちてないかなぁ。少量でも良いんでオリハルコンのグレーターソードと交換してほしい」
「オリハルコンと言えば、本日入手したあの装備をヨシノさんに使って頂いてはどうです?」
「ソレダ。やったねよしのん、君に良いものを貸し与えよう!」
戻って来たリシアの名案を即採用すると、収納袋様から白を基調にした金縁の豪華な防具一式を取り出した。
「よしのん……。あ、これは……!?」
よしのんの鑑定眼が働いたか、その目に輝きを帯びる。
それとは真逆に、リシアにユニス、それにミネルバやイルミナさんの表情が若干引きつった。
「すごい、オリハルコンの防具が全部揃ってる……。ゲームならまだまだ序盤なのに、こんな最強装備が手に入るなんて!?」
「よしのんを信じてこれを託す。サイズはモリーさんが合わせてくれるから、後で自分で頼んでくれ」
「こんなにすごいのを良いんですか!?」
「いいよいいよ、今のところ使いたい人居ないし」
「ありがとうございます、大事にしますね!」
持て余していた装備を処分することが出来、女の子からも感謝され恩を売る。
完璧です、完璧ですよリシアさん。
言い出しっぺにも拘わらず、当の本人は鎧を見てドン引きしてるけど。
「お母様GJ……」
「流石はリシア殿、なんと素晴らしい機転でしょうか」
「誰も使いた――じゃなくて、使えませんし、丁度良かったでふね」
「私では思いつきもしませんでした……、リシアさんも聡明です……」
「でも隣には居てほしくない」
「視界に入る度に誤射したくなりそうじゃ」
ミネルバはGJなんて言葉どこで覚えた?
メリティエも隣に居るなとかひどいな……。
そしてイルミナさんは目が本気なのが怖いのでやめてつかぁさい。
その後は明日の準備にと所持品や装備とスキルの調整、彼女達との簡単な連携などを話し合う。
そうこうしている間に夕食となる。
汗だくになって食べる夏場のおでんは、よく味が染みていて最高だった。
はんぺんうめぇ。
夕食を終えると、そこで一日の疲れが一気に噴き出したのか、意識が途切れだしリビングで船を漕ぎだした。
「トシオ様、今日はもうお休みになられては?」
「そうだね、なんか今日は異常に疲れた……」
リシア達に連れられ寝室に敷かれた布団に倒れ込むと、そこで意識が飛び眠りに落ちた。
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