103 / 254
96話 女性型モンスター
しおりを挟む四十一階層ボス部屋。
今朝出来なかった様々な実験と検証を行う。
勇者のスキル〈光刃〉は武器に光属性の付与と攻撃力強化といったもので、防御スキル貫通とかそう言ったたぐいのものではなかった。
アキヤのエクスカリバー(笑)は俺の知らないスキルっぽいけどなんなんだろうな。
あいつが使っていたグレーターソードにも、そんな特殊なスキルは付いてないし、結局は分からず終いとなった。
次にアイシクルスピアを半分の長さにして連射してみたが、ガーディアンの〈ウォールシールド〉で受けたクク曰く――
「弱いと思います」
とのこと。
試しにアロー系も打たせてもらうと、
「ブリザードアローよりは強いと思います」
だそうだ。
アロー系よりは強いが属性が氷限定の単発射撃魔法にどう価値を見出すか……。
やはりこれは対非戦闘員or雑魚モンスター用にしかなり得ないので使えないとみなした方が、攻撃の選択しに迷いが生じないという意味で有用だと切り捨てた。
「弾速は優秀なんだけどなぁ」
同じ速度で飛ぶストーンブラストの重ね掛けとかやってみたい。
弾丸と同等の速度で飛んでくる巨大石柱の質量弾とか、想像しただけでもゾッとする。
次にエンチャンターのマジックウェポンを手放し空中で操作しようと試みたところ、手から離れると消えてしまった。
無属性射撃魔法の夢破れる。
魔法戦士にも同じスキルがあるため試してみたが、これもダメだった。
魔法自体がそういう仕様なのかもしれないが、何だか納得いかないものがある。
……けどまぁ無属性攻撃は近接職の特権の様なところもあるし、諦めるか……と思ったら大間違いだ!
無属性で尚且つ遠隔操作が可能なマジックシールドを出現させ手で掴み、これでもかと勢いをつけて投げてみた。
そこにアイシクルスピアの弾速をイメージしたところ、アロー系くらいの速度には達した。
一般人ならともかく、冒険者なら避けられなくもない速度だな。
しかも魔法自体にダメージが発生しないから、近接職なら余裕で受け止めそう。
無属性攻撃魔法はひとまず置いといて次々っと。
「一ノ瀬さん、まだ行かないのですか?」
今度は防御魔法の可能性を試そうとしたところ、よしのんが初めてのダンジョンに逸る気持ちを抑えられないと言った様子で尋ねて来た。
今日はここまでにしておくか。
「そうだね、そろそろ出発しようか」
皆を呼び昨日のフォーメーションの再確認をすると、四十二階層へと歩みを開始した。
ライシーン第五迷宮四十二階層。
今は身心共にすこぶる調子が良い。
そして早速サーチエネミーに反応あり。
「皆さん、その先の角の右から1体来ます」
ククの注意に皆が注目し、俺の右前方に居るよしのんに緊張が走る。
そしてククの忠告通り、四十二階層最初の十字路でそのモンスターと遭遇した。
ゴルゴーンLv42
属性:なし
耐性:魔法ダメージ半減。
弱点:光
状態異常:なし
メデューサと言えばわかるだろうか、ある意味お待ちかねの女性型モンスターでもあったゴルゴーンと遭遇したよ!
やったね皆、家族が――
右手の通路から出てきたゴルゴーンの顔を目にした瞬間、俺はあまりの衝撃に硬直した。
その容姿はボロをまとった鬼女といったもので、頭に無数の毒蛇をうねらせ目は白く濁り、病的に青い肌は全身の皮膚の下に透けた血管のせいだと見て取れる。
青いゼリーの様な謎の涎を垂らした口には吸血鬼のような鋭い牙、背には黒くどろどろに汚れたカラスの翼が生えている。
そんなのが出来の悪いロボットダンスを踊りながら、緩慢な動きでのし歩いているのだ。
サンドワームがモンスター系パニックホラーなら、ゴルゴーンは間違いなくゾンビ系ホラーの類であった。
そらあんなの見たら石化もするわ。
外見が気持ち悪すぎて正視に耐えない。
映画のモンスター系パニックホラーは好きなジャンルだが、見るからに嫌悪レベルの人型の化け物が唐突に現れるタイプのホラーはかなり苦手である。
軽度の先端恐怖症で高所恐怖症にお化けが怖いとか、苦手なモノ多すぎだろ俺。
ほかにもGやゲジもダメだし。
以前レンさんにお化け屋敷苦手の話をした時のことだが『お化け屋敷か、俺はどこから演者や仕掛けが出てくるのかがわかってしまうせいで純粋に楽しめんな。だがデートには打って付けだぞ。俺は冷静な上に女はパニックになって抱き付いてくるのが素晴らしい。特にレスリングをしていた元カノのリミッターが外れた力で締め付けて来た時は、心底生きていて良かったと実感させられた』とかのたまいやがったのを思い出す。
奴はどこまでも筋肉至上主義だな。
てかレスリング女子のリミッター解除の抱擁とか、一般人からしたらただのベアハッグじゃないか!
生きててよかったとか、どう考えても逝きかけてるだろ!
それを聞いていた大福さんは『スマンがワシはそもそもお化けとか怖無いから分かってやれんわ。……せやけど、暗がりから突然ヤ〇ザが日本刀で切りつけてきたら流石にビビるな』とのこと。
それは確かに驚くけど違うんだよ! そうじゃないんだよ! てかどんだけ武闘派なんだよ大福さん!!
さらに共通のネトフレでサイクリストの〈鬼灯〉さんが『自転車保険に入ってるとは言え、突然車道に飛び出してくるガキとか怖いよな』とつぶやき。
チャットツールにINはするも、聞き専で音声チャットに参加しない女性ゲーマーの〈きにゃこ〉さんが『私は大きな猫が寄ってきて、お腹とか撫でさせてもらえた時が一番怖いです』と書き込む。
きにゃこさんの書き込みに『せ、拙者もふたなり娘が怖いでござる……デュフフ』と、キモオタ全開の影剣《えいけん》さんが乗っかる。
挙句に〈ぼちぼちぼっち〉さんが『休日前の晩に会社から電話がかかってくるのが怖い』とぼやいた。
鬼灯さんのは物理的な恐怖って意味では種類が大福さんと同じだが、子供を跳ねて死亡させた場合は刑罰を問わず逮捕され全国放送で名前が出て社会的にも抹殺されかねないので確かに怖い。だがそれも違う!
きにゃこさんのは〈まんじゅうこわい〉だよね? それ俺も怖いし、最後は〝ここらで一匹子猫が怖い〟とかいっちゃうやつだよね?
影剣さんはチャット内に女性が居るってことを理解しようね。
ぼっちさんのブラック&社畜っぷりには全米が涙した。
……現実逃避はこれくらいにしてゴルゴーンだ。
俺が苦手なのは対抗手段のない物体と暗闇から突然飛び出してくる系のホラー物。
確かに見た目だけなら怖いが、対抗手段があるのとサーチエネミーでどこに居るのかわかるので、そういう意味では怖さが薄れる。
たぶんレンさんが言っていた〝お化け屋敷は相手がどこから飛び出してくるかがわかるから怖くない〟はこういう事なんだろう。
ならばまだなんとかなる。
なんとかなりはするが……この階層は早々に抜けよう。
見た目の気持ち悪さもあるが、ラミア形態のイルミナさんのような〝モンスター美女〟が出てくると信じ切っていた俺の遣る瀬無さが凄まじくて咽び泣きそうになるから。
ハーピーやスライムの時みたく、いい意味で裏切ってほしかったぞっ。
「〈石化耐性〉、〈毒耐性〉……」
「〈フィールドプロテクション〉、〈対地属性防御〉」
「〈流星弓〉!」
セシルとフィローラの耐性強化と防御強化の魔法が展開されると、人馬のユニスが馬の前足を高く上げ、打ち下ろし気味に矢を放つ。
弓から放たれた煌く無数の光が一度外に膨らみ、突然金縛りにかかったように固まったゴルゴーンに全ての光が殺到し、次々と蛇髪の鬼女に突き刺さり粒子散乱させてしまった。
〈流星弓〉はボウライダーの最上級職であるボウナイトのスキルで、矢をホーミング性能のある無数の光弾として放ち目標に多段ヒットさせる攻撃だ。
俺のファンタジー知識で言えば、モンスターとは言え女神でもあるゴルゴーンを多重発動もせず消し飛ばしたのだから、結構シャレにならない威力である。
「おー、トシオみたい!」
「お姉さまステキです……」
「ユニスさんマジカッケー」
「いえいえ、それ程でもありません……ふふっ」
トトとミネルバと俺の称賛の声に頭をかいて謙遜するも、やはり褒められると嬉しいようで、照れながらも笑みがこぼれた。
「次はあてが行くー!」
「私もやるぞ」
「うん、敵が一体だけなら2人で行ってくれ。ユニスと代わり番こね」
「はーい」
「わかった」
「承知しました」
俺の指示にトトとメリティエとユニスの3人がはっきりとした返事をすると、横に居たイルミナさんが優しい顔で自分の娘を見つめていた。
イルミナさんのジョブはメインをウィザード、サブをラミアクイーンに設定してある。
そのラミアクイーン、ジョブスキルに状態異常を引き起こす魔眼を各種備え、石化や麻痺などで相手を拘束することができるそうだ。
魅了に混乱に麻痺に石化、聞いてるとなんだか面白そう。
……あ、さっきゴルゴーンが動きを止めたのはこの視線系が原因かな?
複数状態異常とかまるでモル〇ルだな。
確かハイセントーラも麻痺の魔眼持ってたし、ハイハーピーの言霊シリーズもあるしで、完全にモ〇ボルPTだ。
更に探索を続けていると、本日2体目のゴルゴーンが左への通路を挟んだ正面から向かってきた。
すぐさまトトとメリティエが駆け出したところでゴルゴーンの足元に赤い光を発した魔法陣が浮かび上がり、ストーンアロー10本をトトとメリティエに射出してきた。
それをトトがアダマンタイトの槍斧で粉砕し、メリティエもアダマンタイト製の拳で易々と弾き受け流す。
「〈くらっしゅうぉーる〉!」
「〈鬼神瀑布〉」
足を止めることなく突進した2人が間合いに入ると、トトの袈裟切りとメリティエの後ろ回し蹴りがスキル攻撃となって放たれ、頭を断ち腹を吹き飛ばした。
〈クラッシュウォール〉はグラディエーターの単体攻撃スキルで、〈鬼神瀑布〉はグラップラーの単体攻撃スキル。
攻撃の着弾と同時に破壊エネルギーを打ち込むことで、外部から相手を叩き潰す。
スキル火力的には鬼神瀑布の方が高いと言われているみたいだが、攻撃力の地力がトトの方が高いようなので、トータルの火力で見ればトントンくらい。
どちらも相手にとっては致命傷となる攻撃なため、オーバーキルにも程がある。
「トシオー見てたー?」
「やったぞ」
「2人ともよくやった、早くアイテム拾って戻っておいで」
粒子散乱するゴルゴーンを背にし、こちらに手を振るトトと親指を立ててドヤ顔のメリティエを誉めながら注意を促す。
まぁこの調子ならこの階層も問題はないな。
ゴルゴーンのドロップアイテムである牙や黒い羽を回収させると、左の通路に曲がって進軍を再開した。
0
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる