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103話 BBQ
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汗だくで帰宅した俺を待っていたのはまた地獄だった。
生肉を取り合う鳥と獣。俺の欲望が生み出したハーレムの我が家。歌声と談笑、熱気と肉の焼けるにおいをジューサーでかきまぜぶちまけたここは自宅の庭の芝生。
次回、四十四階層。明日も俺と迷宮に付き合ってもらう。
頭の中に謎の渋い声で語られるナレーションを垂れ流したのは、リシアが小綺麗になったレスティー達を仕切り、夕食のバーベキューを庭で始めているところだった。
さすがにこの大人数だとうるさいので近所迷惑も考えて少し静かにさせるべきだな。
てか知らない人が十数人は要るんですが誰ですかあなた達?
おかげで朝の練習で槍を振り回してる拾い庭が今はとても狭く感じる。
なんにしろ、今日拾ったばかりのキ産〈牛肉〉があって助かった。
……どこのモンスターだか妖怪だかわからん牛の肉とか食っても大丈夫なのか?
いや、そう言えば俺がこの世界で食ってた肉とかほぼローザ任せで、原材料なんて知らずに食ってるな。
何故帰宅後すぐに〝今晩は焼き肉パーリィだ!〟と浮かれてた時に気付かなかった俺。
いやむしろ食う前にどうしてそこに気付いてしまった俺のバカ!
このまま永遠に気付かなければ良かったものを!
……とりあえず汗かいたし、俺もあとで風呂に入ろう。
ミネルバと言う保険を連れていたとはいえ、1時間程の空中走行は肉体的にも精神的にもかなりきつい。
汗を流してさっぱりしたいところである。
井戸で顔と手を洗い、汗などを洗い流す。
「お帰りなさいトシオさん」
「ただいまローザ」
手ぬぐいで水を拭いていた俺に気付いたローザが出迎えてくれたので、優しく抱擁させてもらう。
身体に腕を回しても自分の手が背中で出会うことのない程の肉厚なため、どちらが抱きしめられているのかわからなくなるが、ローザなので抱きしめてもらいたいと思ってしまう。
彼女に母性を感じた日からつい甘えたくなってしまう自分が居るのを自覚するも、名残惜しさを振り払いながら彼女から身を離す。
「レスティーさん達の寝る場所などはどういたしましょうか?」
「あー、いい加減納屋で寝てもらうのもあれだよなぁ。……まぁ今日は適当に宿にでも行ってもらうか。その内納屋を掃除するなり改修するなりして居住性を高めたいな」
「ではそう手配しておきましょうか?」
「手配って?」
「父に言えば大工さんに頼んで改修していただけると思いますので」
「ふむ」
ドロップアイテムを現金化すればそれくらいの費用は捻出できるか?
流石に俺の資金だけで足りるかは謎だけど。
「明日の昼にでも実家に送るから、見積だけでも出してもらえるか聞いてくれる?」
「はい、わかりました」
「ところで、知らない人が何人か居るみたいだけど、あの人たちは?」
初顔の一般の家族っぽい人達が何組か、それと冒険者風の男女5人が和やかに談笑しながら肉を食っている。
あとリベクさんの所で護衛を務めるサラさんが居た。
サラさんの周りに居る中年の夫婦らしき筋肉質で大柄の男性と、恰幅の良い女性は彼女のご両親かな?
リベクさんの所で見た覚えがあるし。
「あそこの方達はお隣のミューゼルさんご家族と、お向かいのエクエスさんご夫婦。それとその横にいらっしゃるのがモリーさんのお店のお隣さんでオルグレンさんのご家族。あちらの方達ははす向かいのハミルトンさんとその冒険者のお仲間だそうです。お肉が多くてさすがに私たちだけでは食べきれないと思いお誘いしました。その、事前に相談もなく申し訳ありません」
「いや、ご近所付き合いも大事だし問題無いよ。後で挨拶してくる。でも何かある時は気兼ねなく言ってね」
ローザにそう言いながら冒険者風の5人に目を向ける。
へー、冒険者のご近所さんか、人当たりが良いなら仲間に引き込む手もありだな。
後で探りを入れてみよう。
「ところで、あそこにサラさんが居るけど、ここで油を売ってて大丈夫なの?」
「サラさんとそのご両親は家がこの近くでして、毎日様子を見に来てくれますのでとても心強いですわ。時々食材なども頂いたりしてますのよ」
そうなんだ~っ…て、目茶苦茶世話になってますやん!?
なのに今まで礼もしていなかったとか、失礼にも程があるだろ!?
サラさん達に慌てて駆け寄り今までのお礼と謝罪を述べさせて頂く。
「ここだけの話しで頼むけど、ローザお嬢様の護衛が今の私達の任務なのよ」
サラさんが俺を引き込み、誰にも聞かれない様にと小声で告げて来た。
「お義父さんどんだけ過保護なんだよ……」
『なぁに、娘なんてものは甘やかするために居るようなものだよ? ぬぁっはっはっは~っ!』
脳内でこんなこと言いそうだなと想像したら幻聴となって聞こえて来たので、赤紫から紺色になりつつある空に浮かぶ笑顔のリベクさんに敬礼した。
生きてるけど。
「旦那様からすれば溺愛していた一人娘な訳だし、その辺りは察して頂戴」
サラさんが苦笑いを浮かべて出来の悪い弟を窘めるような口調でそう言った。
だが俺の方が3つ年上なので、お姉さんぶられるとなんだか釈然としない物がある。
サラさんに「肉ならまだまだありますので楽しんでください」と言い残してからローザを連れてご近所さんへの挨拶回りを終えると、入れ替わりでこちらに来たレスティーが声をかけて来た。
「それで、交渉っていうのは上手く行ったのかしらん?」
「まぁなんとかね」
したり顔で返しておく。
その隣ではディオンも俺の発言に、緊張していた顔が少し緩んだ。
2人からしてみれば、自分達の今後に関わる事なので気になるのは仕方がない。
「もしダメだった場合はどうする気だったのん?」
「仲間を増やす計画その2として、奴隷や魔物で代用する案を発動させていた。あと当然この面子のレベルを爆上げしまくる。魔水晶もいくつか手に入れたしな。最上級職で勇者と同じ戦闘力を持った人間が二十人以上居れば、下手に喧嘩を売ってくるバカも居ないだろ」
凡人には凡人なりのやり方がある。
知恵で劣っていても戦力的に隙を与えなければどうとでもなるはずだ。
はず…だよな?
まだ何も事件は起きていないので、これ以上の心配は疲れるだけだが。
今のところ誰とも敵対していないのに、仮想敵を作って動き回っているのだから滑稽にすぎる。
今日も何だかんだ疲れたし、食える時にしっかり食って明日に備えよう。
ローザが持ってきてくれた焼けた肉にフォークをぶっさし、甘辛いタレに付けて頬張った。
料理の味覚が日本に近いものが多いのは本当にありがたい。
トトとアレッシオが勝手に大食い大会を開催し、負けじとメリティエも参戦する。
「勝った方にはテレンスのお店のプリンを奢ってやるぞ」
「なにっ、プティングと聞いては譲れないねぇ」
「ですねぇ」
盛り上げるための軽率な一言になぜかモリーさんとローザまで名乗りを上げる。
「テレンスの店のプティングとは、王都にまで名を轟かせる一品ではないか。それは是が非でも堪能せざるを得ないな」
「それほどの品と聞かされると、俄然興味が湧きますね。自分も参加させていただいても宜しいですか?」
肉を焼いていたディオンが持ち場を離れ、はす向かいに住んでいるという冒険者御一行の中からも、細マッチョな長身のイケメンが参戦した。
「肉なら腐る程あるからどんと来い。他にも参加したい奴は参加しろよっ。勝負は大食い、時間無制限、トト達の今食ってるのもちゃんとカウントしてるから、安心して食いまくれ!」
シャキシャキ食感の瑞々しい野菜に塩コショウされた焼肉を包んでモノを口に入れると、ディオンと肉を焼く作業を交代しながらルールを決める。
それでは我々もと、はす向かいの冒険者達が続々と参戦し始めた。
出されているコンロだけでは明らかに間に合わないな。
マジックシールド出現させてその下に火加減を調整したフレアストームで熱し、即席のまじかるほっとぷれーとをでっちあげて肉を投下。
灼熱に熱せられたマジックシールドが、一度に大量の肉を焼きまくる。
その大量に焼かれた肉が、大食い大会参加者の腹に収まり、焼いた傍から消えていく。
肉、足りるよな……?
参加者の暴食と目の前で焼ける肉を目にしながら、まだ2切れしか入れていない俺の腹がぐ~っと鳴った。
生肉を取り合う鳥と獣。俺の欲望が生み出したハーレムの我が家。歌声と談笑、熱気と肉の焼けるにおいをジューサーでかきまぜぶちまけたここは自宅の庭の芝生。
次回、四十四階層。明日も俺と迷宮に付き合ってもらう。
頭の中に謎の渋い声で語られるナレーションを垂れ流したのは、リシアが小綺麗になったレスティー達を仕切り、夕食のバーベキューを庭で始めているところだった。
さすがにこの大人数だとうるさいので近所迷惑も考えて少し静かにさせるべきだな。
てか知らない人が十数人は要るんですが誰ですかあなた達?
おかげで朝の練習で槍を振り回してる拾い庭が今はとても狭く感じる。
なんにしろ、今日拾ったばかりのキ産〈牛肉〉があって助かった。
……どこのモンスターだか妖怪だかわからん牛の肉とか食っても大丈夫なのか?
いや、そう言えば俺がこの世界で食ってた肉とかほぼローザ任せで、原材料なんて知らずに食ってるな。
何故帰宅後すぐに〝今晩は焼き肉パーリィだ!〟と浮かれてた時に気付かなかった俺。
いやむしろ食う前にどうしてそこに気付いてしまった俺のバカ!
このまま永遠に気付かなければ良かったものを!
……とりあえず汗かいたし、俺もあとで風呂に入ろう。
ミネルバと言う保険を連れていたとはいえ、1時間程の空中走行は肉体的にも精神的にもかなりきつい。
汗を流してさっぱりしたいところである。
井戸で顔と手を洗い、汗などを洗い流す。
「お帰りなさいトシオさん」
「ただいまローザ」
手ぬぐいで水を拭いていた俺に気付いたローザが出迎えてくれたので、優しく抱擁させてもらう。
身体に腕を回しても自分の手が背中で出会うことのない程の肉厚なため、どちらが抱きしめられているのかわからなくなるが、ローザなので抱きしめてもらいたいと思ってしまう。
彼女に母性を感じた日からつい甘えたくなってしまう自分が居るのを自覚するも、名残惜しさを振り払いながら彼女から身を離す。
「レスティーさん達の寝る場所などはどういたしましょうか?」
「あー、いい加減納屋で寝てもらうのもあれだよなぁ。……まぁ今日は適当に宿にでも行ってもらうか。その内納屋を掃除するなり改修するなりして居住性を高めたいな」
「ではそう手配しておきましょうか?」
「手配って?」
「父に言えば大工さんに頼んで改修していただけると思いますので」
「ふむ」
ドロップアイテムを現金化すればそれくらいの費用は捻出できるか?
流石に俺の資金だけで足りるかは謎だけど。
「明日の昼にでも実家に送るから、見積だけでも出してもらえるか聞いてくれる?」
「はい、わかりました」
「ところで、知らない人が何人か居るみたいだけど、あの人たちは?」
初顔の一般の家族っぽい人達が何組か、それと冒険者風の男女5人が和やかに談笑しながら肉を食っている。
あとリベクさんの所で護衛を務めるサラさんが居た。
サラさんの周りに居る中年の夫婦らしき筋肉質で大柄の男性と、恰幅の良い女性は彼女のご両親かな?
リベクさんの所で見た覚えがあるし。
「あそこの方達はお隣のミューゼルさんご家族と、お向かいのエクエスさんご夫婦。それとその横にいらっしゃるのがモリーさんのお店のお隣さんでオルグレンさんのご家族。あちらの方達ははす向かいのハミルトンさんとその冒険者のお仲間だそうです。お肉が多くてさすがに私たちだけでは食べきれないと思いお誘いしました。その、事前に相談もなく申し訳ありません」
「いや、ご近所付き合いも大事だし問題無いよ。後で挨拶してくる。でも何かある時は気兼ねなく言ってね」
ローザにそう言いながら冒険者風の5人に目を向ける。
へー、冒険者のご近所さんか、人当たりが良いなら仲間に引き込む手もありだな。
後で探りを入れてみよう。
「ところで、あそこにサラさんが居るけど、ここで油を売ってて大丈夫なの?」
「サラさんとそのご両親は家がこの近くでして、毎日様子を見に来てくれますのでとても心強いですわ。時々食材なども頂いたりしてますのよ」
そうなんだ~っ…て、目茶苦茶世話になってますやん!?
なのに今まで礼もしていなかったとか、失礼にも程があるだろ!?
サラさん達に慌てて駆け寄り今までのお礼と謝罪を述べさせて頂く。
「ここだけの話しで頼むけど、ローザお嬢様の護衛が今の私達の任務なのよ」
サラさんが俺を引き込み、誰にも聞かれない様にと小声で告げて来た。
「お義父さんどんだけ過保護なんだよ……」
『なぁに、娘なんてものは甘やかするために居るようなものだよ? ぬぁっはっはっは~っ!』
脳内でこんなこと言いそうだなと想像したら幻聴となって聞こえて来たので、赤紫から紺色になりつつある空に浮かぶ笑顔のリベクさんに敬礼した。
生きてるけど。
「旦那様からすれば溺愛していた一人娘な訳だし、その辺りは察して頂戴」
サラさんが苦笑いを浮かべて出来の悪い弟を窘めるような口調でそう言った。
だが俺の方が3つ年上なので、お姉さんぶられるとなんだか釈然としない物がある。
サラさんに「肉ならまだまだありますので楽しんでください」と言い残してからローザを連れてご近所さんへの挨拶回りを終えると、入れ替わりでこちらに来たレスティーが声をかけて来た。
「それで、交渉っていうのは上手く行ったのかしらん?」
「まぁなんとかね」
したり顔で返しておく。
その隣ではディオンも俺の発言に、緊張していた顔が少し緩んだ。
2人からしてみれば、自分達の今後に関わる事なので気になるのは仕方がない。
「もしダメだった場合はどうする気だったのん?」
「仲間を増やす計画その2として、奴隷や魔物で代用する案を発動させていた。あと当然この面子のレベルを爆上げしまくる。魔水晶もいくつか手に入れたしな。最上級職で勇者と同じ戦闘力を持った人間が二十人以上居れば、下手に喧嘩を売ってくるバカも居ないだろ」
凡人には凡人なりのやり方がある。
知恵で劣っていても戦力的に隙を与えなければどうとでもなるはずだ。
はず…だよな?
まだ何も事件は起きていないので、これ以上の心配は疲れるだけだが。
今のところ誰とも敵対していないのに、仮想敵を作って動き回っているのだから滑稽にすぎる。
今日も何だかんだ疲れたし、食える時にしっかり食って明日に備えよう。
ローザが持ってきてくれた焼けた肉にフォークをぶっさし、甘辛いタレに付けて頬張った。
料理の味覚が日本に近いものが多いのは本当にありがたい。
トトとアレッシオが勝手に大食い大会を開催し、負けじとメリティエも参戦する。
「勝った方にはテレンスのお店のプリンを奢ってやるぞ」
「なにっ、プティングと聞いては譲れないねぇ」
「ですねぇ」
盛り上げるための軽率な一言になぜかモリーさんとローザまで名乗りを上げる。
「テレンスの店のプティングとは、王都にまで名を轟かせる一品ではないか。それは是が非でも堪能せざるを得ないな」
「それほどの品と聞かされると、俄然興味が湧きますね。自分も参加させていただいても宜しいですか?」
肉を焼いていたディオンが持ち場を離れ、はす向かいに住んでいるという冒険者御一行の中からも、細マッチョな長身のイケメンが参戦した。
「肉なら腐る程あるからどんと来い。他にも参加したい奴は参加しろよっ。勝負は大食い、時間無制限、トト達の今食ってるのもちゃんとカウントしてるから、安心して食いまくれ!」
シャキシャキ食感の瑞々しい野菜に塩コショウされた焼肉を包んでモノを口に入れると、ディオンと肉を焼く作業を交代しながらルールを決める。
それでは我々もと、はす向かいの冒険者達が続々と参戦し始めた。
出されているコンロだけでは明らかに間に合わないな。
マジックシールド出現させてその下に火加減を調整したフレアストームで熱し、即席のまじかるほっとぷれーとをでっちあげて肉を投下。
灼熱に熱せられたマジックシールドが、一度に大量の肉を焼きまくる。
その大量に焼かれた肉が、大食い大会参加者の腹に収まり、焼いた傍から消えていく。
肉、足りるよな……?
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