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143話 ゆーえふえっち
しおりを挟む巨鳥と化したミネルバとよしのんの2人をライシーン第五迷宮の入り口前に連れ出した。
2人にはこれからアイヴィナーゼの首都へと向かってもらうことになっている。
「なんだか色々と落ちてますね」
「もともとゴブリンの集落だったからね。このダンジョンの1階にゴブリンが湧くから、放っておくとまた集落を作りかねないけど」
よしのんにそう答えながら周囲を見回す。
まだ数週間しか経っておらず、原始的な生活感が残ったままだ。
ドロップ品も大量に放置されてはいるが、カードの類は落ちていなかった。
ゴブリンカードって、かなりしょぼかったような?
冒険者ギルドの掲示板で見たような気がするが、覚えていなくてもそういう認識がすぐに出てくる辺り、つまりはそう言うことなのだろう。
「〈マップ〉」
ボーナススキルの〈マップ〉を開きながら、収納袋様からもライシーン周辺を記した地図を取り出す。
「アイヴィナーゼの首都はあっちか」
地図とマップを見比べながら方角を指さすと、2人もそちらに目を向ける。
「とりあえず地図を渡しておくから、方角が分からなくなったら確認してね」
「私、地図見るのって苦手なんですよね。どうしたら道に迷わなくなるんですかね?」
方向音痴発見。
「もしかして〝前に来たときはあそこの角にはいつも赤いバイクが止まっていたのに〟って事なかった?」
「ありました! どうして知ってるんですか!?」
方向音痴の典型例その1〝動く物体を目印にする〟を指摘してみたところ、まさかの返答が返ってきた。
本当に居たんだそんな奴……。
「あと、あるはずのコンビニやガソリンスタンドが見つからなかったりしない?」
「一ノ瀬さんってもしかして、他人の心を読み取るチートスキル持ちだったんですか!? あ、違うんだ……」
こっちが否定する前に勝手に独りで納得すんなし。
「常識的に考えて、バイクなんて所有者の気まぐれで動くものだし、コンビニやガソリンスタンドは入れ替わりが激しいから目印にしちゃダメな店舗ね」
「あ、言われてみれば確かにそうですね」
「逆に学校や郵便局、あと交番も早々移転はしない」
他にも学校や消防署なんかもそうで、むしろころころと移転されたら困るものだ。
「ホントだ。一ノ瀬さんってすごいですね」
よしのんがとても感心した面持ちでこちらに尊敬の眼差しを向けてくる。
そんな目を向けられても全然嬉しくない。
「そろそろ向かった方が良いのでは……?」
俺達の雑談をぼーっと見ていたミネルバが、ウズウズした様子で急かしてきた。
大空を飛びたくて仕方がない様だ。
そのミネルバだが、流石に胸を丸だしには出来ず、リシア達がブラジャー替わりに使ってる布と同じ物を巻いている。
ブラしかしていないのでやっぱりエロい。
「そうだね。んじゃ、2人とも準備して」
「ちー……」
「準備って何をすれきゃあああああああ!?」
俺達のやり取りを聞いていたよしのんが疑問の声を上げるも無視。
ミネルバがよしのんの傍に行くと、足元から巨大な石柱が出現し、先端に2人を乗せてそそり立つ。
ミネルバが生み出したアースブラストの石柱だ。
「いいい一ノ瀬さん、なんですかこれ!?」
「顔出すと危ないから、出来るだけ真ん中に居る様に」
「答えになってませんよ!」
「射出台……」
「射出台って……ええええええ!?」
ミネルバの回答に絶叫するよしのん。
打ち出されても居ないのに既に半泣き状態である。
「これ大丈夫なんですか!?」
「大丈夫ヨー。コノ前ー、チャント自分デ試シタヨー。心配ハイリマセ~ン」
「なんで片言なんですか!?」
「HAHAHA、気ニシテハイケマセーン! 隣ノミーチャン見テクダサーイ。ヤル気満々デース」
「お父様のを見てから一度やってみたかった……」
「え、じゃぁ本当に自分で試したんだ……」
よしのんが血の気の引いた顔でミネルバに振り返り、再びこちらに目を向ける。
信じあえないって悲しいね。
「まぁ冗談はこれくらいにして。一日で到着するとは思ってないから、疲れたら戻って来ていいからね。あと、危ないと感じたらすぐに逃げる事。もし何かあったら連絡をくれ。分かった?」
「ちー……!」
いつになくやる気を見せるミネルバに頼もしさすら感じる。
「他に忘れ物は無い? ハンカチは持った? 知らない人について――」
「そういう小ボケは要らない……」
「ごめんなさい」
見送りするお母さんの様な小言を述べると、愛娘にお叱りを受けてしまった。
「じゃあ行くよっ、3・2・1ドーン!」
「え、待ってまだきゃあああああああ!!!」
「ちぃぃぃぃぃぃぃ!」
俺の合図でよしのんが淵から離れて中央に引っ込むと、2人が乗る石柱が勢いよく空へと打ち出された。
やがて石柱はその勢いを失い空中に投げ出されたよしのんが悲鳴を上げる。
それをミネルバが空中で鷲掴みにして飛んで行った。
こうして2人はお空のお星さ――ゲフンゲフン、アイヴィナーゼの首都へと向かったのであった。
これで数日後には首都近郊で、ハーピーに追われて空中を走る未確認飛行人間(unidentified flying human)が目撃されるのかもしれない。
アイヴィナーゼ首都の冒険者が「俺は見たんだ! 巨大なハーピーが人を鷲掴みにして飛んでいるのを!」と仲間に必死に訴えるも誰も信じない情景を想像すると、ちょっと面白いかも。
勝手な妄想が頭に過り、妙な笑いが込み上げて来た。
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