四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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151話 マナを統べる者

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「トシオ、本当に大丈夫なんだろうな?」
「まぁ策はあるから安心しろ」

 ユーベルトが周囲を不安げに見回しながら尋ねて来たのを、考え事をしながら言葉を返す。
 策はあるとはいえ、この状況を脱する魔法の選択をどうするかが問題だ。
 周囲は相変わらず視界が遮られ、普通に射撃系魔法をぶっぱしたところで相手の包囲網に穴を開けるだけになる。
 良案はないかとステータス画面からジョブにある魔法のリストを開いて眺めていると、1つの魔法が目に止まる。

 これならいけそうだな。

「……なんとかしてみせると言った以上、なんとかしてやろうじゃないか」
 
 天に|かざした左手で防御結界〈ブリーシンガメン〉を維持したまま、空いた右手で準備していた起死回生の一手を繰り出す!

「現れろ、〈黒き猟犬ガルム〉!」 

 集約したエネルギーの塊が闇色に染まり形状を変え、10トントラックにも匹敵する大きな魔犬となる。
 その内包する魔力量には、出現させた自分ですら怖気おぞけもよおす。

 ガルムの正体は到達者級ジョブであるセージの闇属性自動追尾魔法〈ダークハウンド〉。
 それの自己流アレンジ版だが、アレンジと一言で言っても内包する魔力量の桁がまるで違う。
 俺の周囲では、天使達に因る攻撃魔法とブリーシンガメンがぶつかり合って出来た魔法の残滓が大量に淀んでいた。
 ユーベルトに言った策とはそれらをかき集めて純粋な力として纏め、1つの魔法へと変換することだった。
 先程まで自分達が撃ちまくっていた魔法攻撃にそれを防いでいた魔法の魔力を上乗せしたのだ、魔力量が一味違うどころの騒ぎではない。
 それもこれも、マナロードのスキルである〈マナ変化〉をジョブシステムの枠から外れて習得したからこそ出来る芸当である。
 1人では成し得ない威力なだけに、こんなモノが自分に向けられたらと想像するだけでもゾッとする。

「わぁ、ペスルちゃんも大きかったけど、この子はそれ以上ですねー!」

 よしのんがガルムに対し味方となる存在だからと気を抜いたのか、魔力の圧力も気にせず腕を伸ばした。

「よしのんストップ、触ると腕が無くなるぞ!」
「ひっ!?」

 こちらの注意に慌てて手を引っ込めるよしのん。
 1から構築した魔法なのだ、これまで通り〝攻撃はPTメンバーには危害を加えない〟なんてこの世界のルールが適用されるとは限らない。
 そのせいで広範囲攻撃の様な魔法が選択できなかったからこその自動追尾型である。
 
 しっかし怖いもの知らずというかなんというか、いくら俺が生み出した魔法とはいえ、よくこんなエネルギーの塊みたいなのに触ろうと思えるな。

 地味メガネっ娘美少女の危機感の無さに呆れつつ、未だ攻撃が続く結界の外に視線を向ける。

 こっちはこっちでバカみたいに撃ちまくりやがって、だったら一方的に攻撃される怖さを教えてやる!

「行け!」

 短い命令に禍々しい黒犬が〝ドンッ!〟と大きな音を残し、結界の外へ解き放たれた。
 外が見えないため、手に汗握りながら待つ。
 暫くすると、あれ程激しかった敵の魔法攻撃の圧力が徐々に弱まるのを防衛結界越しに感じ取る。
 やがて攻撃は散発的なものへと代わり、やがては時折落ちてくる天使だった肉片を結界が防ぐこととなる。
 見たくはないが戦場で敵から目を背ける程バカにもなれず、夢に出るなよと願いながら四肢や臓物が粒子散乱するのを眺めた。
 上空では黒い魔獣が縦横無尽に飛び回り、反撃を試みる天使の群れの中で牙や爪を振るい、その獰猛どうもうさを遺憾なく発揮していた。 

「ピィィィィィィ!」
「キャァァァァァ!」
「キィィィィィィ!」

 逆に天使達の反撃は全く効いておらず、成すすべ無く謎の悲鳴を上げて逃げ惑う。
 ガルムがその背中を噛みつき体を裂く。
 こうなると虐殺ぎゃくさつショーとしか言い様が無い。
 左隅に現れるレベルアップのポップがバグったように表示され、ステータスでは現レベルが200を示す。

 流石に人型をした生物の惨殺シーンは見るに堪えないな……。

「止まれ!」

 あまりのむごたらしさに思わずガルムに停止を命じ、命令を出してから自分の甘さに心の中で舌打ちする。 

「……停戦に応じるならこれ以上の攻撃はしない、話し合いを望む!」
「ふんっ、怖じ気づいたか!」

 身体強化魔法に因る大声量を消音魔法の真逆の魔法で更に拡張して大天使に向けるも、ひよった俺の内心を見透かしてか、大天使がこちらを見下した口調で停止するガルムと間合いをとり、槍を握って警戒した。
 その警戒具合に向こうも内心の焦りを誤魔化しての強がりだと直感する。
 強気な態度で行けば交渉に持ち込めないかと思ったところで、ユーベルトが傍に来た。

「どう見たって話し合いに応じる相手じゃないだろ、あいつらが混乱している今の内に殺ってしまうべきじゃないのか?」
「お前の言いたいことも分かるけど、話し合いで解決できるならそれで済ませたい」

 音声拡張魔法を解き、俺達にしか聞こえない音量で話す。

「なにかあってからでは遅いんだぞ!」
「叫ぶなユーベルトボウズ、相手に聞かれる」
「けどよおっさん!」
「まぁ待て」

 ザァラッドさんがユーベルトの話を遮り、こちらに向き直る。

「ワシもユーベルトこいつの意見には賛成だ。戦士ならば敵に情けをかけず、殺れる内に殺るべきだ」
「………」
「だがお前にはお前の考えがあるのだろう?」
「えぇ、少し気になることがあって――」

 あの赤い大天使はさっきから気になる事を言い続けていた。

〝神の失敗作〟
〝神を裏切った〟
〝卑劣な種族〟

 それらのワードから察するに、この〈神〉とはレンさんの国に伝わる神話にある〝地中に封じられた神〟のことじゃないのだろうか。
 その地中に封じられた神が汚染物質である魔素を放出し、それを除去するために古代魔法人がダンジョンコアで魔素を集め、迷宮や勇者召喚に因る消費をしているのだと俺達は推測している。
 もしかするとこの世界を蝕む魔素の問題解決に繋がるかもしれない。
 答えてくれるかは分からないが、その辺りを是非聞いてみたいのだ。

「なるほどな、そういうことならワシも聞いておきたい」
「私モダ」

 ザァラッドさんが俺の説明に納得してくれると、ワトキンさんも頷いた。
 他の面々の中には何か言いたそうにしている者もいるが、口を挟まず中立を保つ。
 
「いつまでコソコソと話しをしているのだ!」

 しびれを切らせた大天使が、ガルムを警戒しながら問う。
 
「そっちこそ、話し合いには応じる気になったのか?」
「知れたこと、貴様の言葉にいかほどの価値がある!」

 毅然とした態度で突っぱねているように聞こえなくも無いが、明らかに言葉選びがおかしい。

 なんだその突き放すようで突き放していない言い方は?
 それじゃあまるで、信用が有るなら聞き入れると言っているようなものじゃないか。
 さてはこいつもひよりやがったな。
 そして今のセリフはプライドか周りの目が邪魔してなのか、受け入れるに受け入れられないといったところか?
 だったら信用とか関係ない方向に話を持っていくとしよう。

「信用なんて関係ない。お前たちの攻撃は封殺しているし、こちらの攻撃はお前たちを蹂躙するに十分な能力があるのは実証済みだ。お前らにそれを覆す術が有るならやってみせろ。その時はこちらも全力で行かせてもらう。だがこれだけは理解しておけ、ガルム《それ》は俺が生み出した魔法だ。魔法である以上、MPが続く限り何体だって生み出せる。それを理解した上で停戦するかどうかはそっちで決めろ!」

 一方的な口上と共に、周囲にガルムを模したダークハウンドを数体並べて精神的に揺さぶりをかける。
 それを見た天使達の表情に明確な怯えが刻まれたのが視て取れた。

 先程の戦闘が有ればこそ出来上がったガルムこんなものが、そう何体もポコポコと生み出せたら苦労はしない。
 しかしここは口八丁手八丁。
 こんなもので平和的に解決できるなら、ハッタリだってなんだって使ってやる。

 すると、紅色の大天使の傍へと同じような恰好をした金髪の大天使が寄って行き、何やらヒソヒソと話し合い始め他かと思うと2人揃って下に降りて来た。

 まだ居んのか大天使。
 この分だとそれ以上のが居そうだなぁ。

「……良かろう、こちらもこれ以上兄妹達を失うのは耐え難い。遺憾ながら休戦には応じてやる」

 とりあえずは休戦になると他の天使達も心を撫で下ろした。

「ならこちらの要求は2つ。1つは俺達が下の階層に行くのを黙認しろ。2つめはさっきからお前が言ってる神を裏切っただのなんだのって話の詳細を聞かせろ」
「休戦だけでは飽き足らずー、まだ要求をするとは恥を知れー! それに貴様らに物を教えてやる理由はどこに無いー。疾くとこの場より失せるがよいー!」

 大天使のどこかの王女様程に吹っ切れていない3文芝居&棒セリフの何処までも上から目線な物言いだが、互いに主導権を握りたいのだろうから仕方がない。
 だがその態度もひよった結果の虚勢である。
 死んだ天使達に謝れと言いたくなるが、殺した張本人が言って良いセリフではないので言葉を飲みこむ。

「そうか、じゃぁ休戦以外の交渉は決裂だ。あとは勝手に先へ進ませてもらう。こちらからは攻撃を加えないが、止めたければ実力で止めてみせろ」

 皆がグリンブルスティに乗り込むのを確認すると、言い忘れていたことがある体を装って口を開く。

「ところで散々罪人だなんだと罵っておいて、当の俺達にその認識が無いままなんだが。このままじゃ死んだ仲間達が浮かばれないんじゃないのか? せめて罪悪感くらいは植え付けておいた方が良いと思うぞ?」
「……そこまでして知りたいのならば聞かせてやろー、そして聞いてその罪の重さを知るのだなー!」

 どの口でほざくレベルのこちらの誘導に、ホイホイ乗ってくれる心優しい大根天使。

 世の中の皆がこうだったら楽なのになぁ。

 だが教えてくれた内容は、なかなかに頭の痛いものだった。





――――――――――――――――――――――――――――――――――

 更新が遅くなり申し訳ありません。
 予定では次の話で書き下ろしパートは終了します。
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