四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

文字の大きさ
160 / 254

152話 手の中の妖精猫

しおりを挟む
「はぁ、一時はどうなる事かと思いましたよ。ミネルバが潰された際は流石に生きた心地がしませんでしたね」
「ちー……!」 

 リビングで溜息と共にぼやいたのは、ケンタウロス娘のユニスだった。
 折れた前脚は回復し、その背中には復活を遂げたミネルバが饅頭化して陣取っている。
 
 俺がもっとしっかりしていればあんな事態にはならなかっただけに面目ない。

「私も、あの時はダメかと思いましたよー」

 自室から着替えて戻って来たよしのんが、リビングに着くなり床にうつ伏せになる。
 薄布のズボンの上から程々に肉付きの良いお尻が強調される。

「ヨシノ、だらしないわよ」
「あはは」

 冷水の入ったケトルを持ってきたリシアに窘めたれ、笑って誤魔化しながら座り直す。
 
「目覚めても周囲が翼人まみれであったのにはキモを冷やされたえ」
「はい……」
「でしゅね……」

 イルミナさんがセシルとフィローラを両脇にはべらしながら、リシアから受け取った水をゆっくりと飲み下す。
 3人共精神的に疲労困憊だ。

「でしゅが、貴重な話も聞けましたね!」

 フィローラが気を取り直しハツラツと声を上げる。
 そんな彼女のポジティブさに元気をもらった。



 天使達との戦闘のあと、彼女ら(?)が知り得る神の封印のいきさつを聞くことが出来た。
  
 それは遥か神話の時代、女神レイティシアは大地を創り海を創り生命を創り、その過程で自分に似せた姿を持つ人種や獣と人を混ぜた外見の亜人種を作った。
 人族(人や亜人を含めた相称)は女神の庇護のもと、マナの恩恵を受け暮らしていた。
 ある日のこと、マナの扱いに長けた者が北の神殿にて女神はこの星に封印されてしまった。
 女神は愛していた我が子に裏切られ、その悲しみがいつしか怒りに変わり憎悪に変わり世界を呪った。

 とのこと。

 んで、呪いが魔素となって地表へ滲み出し、魔素は野生生物を魔物に変え多くの人々を殺戮した訳だ。
 俺がレンさんに聞いたこの世界の神話では、邪神を封じたって話だった。
 邪神だから封じられたのか封じられたから魔素を垂れ流す邪神となったのか、その真相や如何にといったところだな。

「主に見守られ平穏に暮らして居れば良いものを、マナを独占しようなどと、人の子とはなんと愚かなことよ……!」

 紅の大天使がそうぼやいていたので、彼女の話が正しければ後者の様だ。

 まぁこの辺の話は古代魔法人なら知っているのかもしれないな。
〝実は古代魔法人が封じた〟までありえるが、直接会って話を聞いたところでその真偽までは判断付かないだろう。
 理不尽な理由で封じられたのなら解放してやりたいと思う反面、世界が崩壊しかねない話なため、こればかりは慎重にならざるを得ない。

 ちなみに〝マナの独占〟の部分だが、大気を満たしているマナも神が生み出していたもので、その莫大なマナを己がモノとしようとした結果、マナだけでなく魔素まで垂れ流す世界になってしまったそうだ。
 
 世界を満たす程のマナを生み出し続けるって、流石は神様といったところか。
 ……ん? でも地表のマナは空から来てるんだよな?
 ってことは、封じられた神以外の存在も居るんじゃないのか?
 まぁ考えられるのはアイヴィナーゼ王国の2つ隣の宗教国家が崇拝してるっていう太陽神バラドリンドか。
 もしこの太陽系が地球と同じ規模だと仮定すると、バラドリンド神ってシャレにならないくらい強大なのかも……。

 勝手な想像に畏怖を覚え〝そんなのと関わり合いになりませんように〟と願って考えるのをやめた。

 頭の痛い話しを終え、トトが投げたハルバードを回収し、天使達からの敵意の視線が刺さる中を運搬魔法の〈グリンブルスティ〉で走り抜ける。
 無事中央へと到着した俺達は、ボスモンスターである昆虫人間とも言うべき外見の〈ヘラクレスカブト〉を撃破した。
 頭は地球に居たヘラクレスオオカブトそのもので、身体を硬い昆虫の様な装甲に覆われた2足歩行の人型怪物だ。
 手には巨大な両手剣を持ち凄まじい力で猛威を振うも、最後はザァラッドさんの豪快な振り下ろしで頭を粉砕され絶命した。
 今までの傾向で道中にこれの下位種が階層に出るはずだが、一切見かけなかったことから五十階層での生存競争に勝てなかったとみる。

 異常個体とも言うべき大天使が存在するのだ、まぁあり得る話だ。

 そしてヘラクレスカブトとの戦闘中にチャドさんの短槍が折れてしまい、俺が以前使っていたショートパルチザンを差し上げた。

『おいおい、特殊鋼製にカード差し武器じゃねぇか!? いいのかよ、こんなの貰っちまって。おい、しかも柄の材質はエアレーの角か!?』
『構いませんよ。それに無理を言って来てもらってるのはこっちですし、これくらい受け取っても罰は当たらないでしょ』

 使わなくなった槍一本で凄腕の戦士に恩が売れるのなら安いものだ。
 そんな打算込みの発言も、チャドさんはこちらの内心が見透かしたのか渋い顔で手にした槍を睨む。

「気が引けるなら俺に槍の扱い方を教えてください」
「教えるのは別に構わねぇが……本当にそれだけで良いんだろうな?」
「えぇ、後から代金を寄越せとか体で払え何て言いませんよ。何でしたら契約書でも書きましょうか?」
「………」
「おいおいチャドよ、後輩にここまで言わせるとはとんだ腑抜けになり果てたな」

 納得しかねるといった表情を浮かべるチャドさんに、ザァラッドさんが呆れ交じりの言葉を吐く。

「わーったよ! ったく……、俺は厳しいから覚悟しろよ?」

 こうして俺は槍の師匠を得たものの、中高と帰宅部であったため、ヘタレにも頼んだことを少し後悔してしまった。
 
 その後は五十階層と五十一階層とを繋ぐ下り坂で探索を打ち切り、ワープゲートで自宅へと帰還した。



 結局五十階層でワープゲートが使えなかったのは謎のままなんだよな。
 今後もああいったことが起きないとは限らない、ワープゲートでの緊急脱出が使えない可能性も考慮しないと。
 あと運搬魔法の〈グリンブルスティ〉、アレも乗車席を魔力で満たすとかして衝撃緩和機能を追加しておこう。

「しかし、いつの間にあんな魔法を習得しておったのじゃ?」
「あんな魔法?」
「ほれ、名はなんと言うたか、皆を運ぶ魔法やマジックシールドを大量に生み出した防御魔法の」
「あぁ、あれですか」

 イルミナさんが興味津々とばかりに身を乗り出し聞いてきた。
 この人の魔法に関する知識欲は相当なものだ。

「まぁご存じの通り、どちらもマジックシールドの発展型ですね。乗り物の方は馬車の荷台に動力をつけたものを想像して作りました。防御魔法の方は俺の世界にある創作物語に出てくる物を参考にしてます」
「なにかのアニメですか?」
「うん、〈機甲兵争Dヴァルガラック〉に出てくるインフィニティシールド」
「アニメの名前だけは知ってます。Aヴァルなら見てましたよ」
「あー、わかる」

 よしのんがアニメの話に目を輝かせるも、予想できる答えが返って来たので同意だけしておく。
 機甲兵装ヴァルガラックとは古くからある戦記物ロボットアニメで、名前や世界観を変えて今も尚新作が出るアニメシリーズだ。
 その中でもエンジェリックヴァルガラックは敵も味方も美形男子ばかりが出るため、腐女子には大人気。
 今までにシリーズを見て来たおっさんオタクには『泥臭さが足りない』と酷評。
 どちらでもないアニメ好きオタクである俺的には程々に楽しめた。
 と、評価が分かれる作品である。

「いいですよね、主人公のアイクが捕まったミクリアのために単身乗り込むあのシーンとか最高に胸熱ですよね!」
「そうだねー。けどその話はまた今度ね」

 だがここでアニメ談義をしても2人以外会話についていけないため、そちらに話が流れるのを避ける。
 
「俺の居た世界では物語が動く映像として作られるので、この手のアイデアには事欠かないんですよ」

 試しに手の平の上でケットシーのルーナを模した映像を魔法で生み出してみると、3Dホログラムの妖精猫が出現した。

 あ、これが出来るならこれの頭身を下げてあーしてこーして――。

 更に手中の映像に手を加えると、メイド服を着た3頭身のリシア(ケットシーVer)が爆誕してしまう。
 ミルクティー色をした折れ猫耳のスコティッシュソマリな姿を目にした俺に戦慄が走る。

 何だこの最高に可愛いもこもこは、天才かよ俺!?
 絵が描けなくても魔法なら直接脳から抽出できるため、想像したものがそのまま再現できるのがすばらし。

 素晴らしすぎるので映像のリシアにモンキーダンスを踊らせる。
 腕を上下に振りながら腰をくねらせて踊る姿が超絶可愛い。

「なんですかこれ、可愛すぎませんか?!」

 心の中で自画自賛していると、可愛い物好きな当の本人が真っ先に食いつく。
 どうやら自分を模しているとはお気付きで無いご様子。

「なんですかも何も、どう見てもこれはリシアであろう?」
「イエスマム」
「私ですか!?」
「そうだよ」
 
 イルミナさんのツッコミに頷く。
 そこに昼食の品を持ってきたローザがやってきた。
 
「あらあら、可愛いですね。リシアちゃんは元が良いですから羨ましいですわ~」
「ローザも負けてないよ?」

 手元の映像をローザベースで構築すると、丸々と太った青髪マヌルネコのデフォルメケットシーとなって現れた。
 相変わらずの仏の笑みを浮かべているので可愛さマシマシである。

「これはこれで……!」
「でしょ?」

 食い入るように見つめるリシアに悪い顔で頷くと、似たような笑みを浮かべた共犯者リシアが俺の映像魔法を模倣し、自らの手に寸分違わない映像を構築する。
 恐らくマナ感知に因るスキャニングで瞬時に解析したのだろうが、彼女が何気なくやった行為に危険が内包していると直感する。

 魔法を身内に模倣される分には構わないが、万が一これを敵にやられると危険極まりない。
 オリジナル魔法にはコピーガード的な防衛手段を用意しないといけないな。

「それにしても可愛いな」
「最高に可愛すぎますね」
「2人とも、恥ずかしいのでやめてください」

 2人して手の上の猫ローザをゴロゴロと転がしたりして遊んでいると、羞恥で赤面したローザに窘められたので程々にしておく。
 
 いつもニコニコしているローザのレアな反応に少し得した気分だ。

「トシオー、あてもあてもー!」
「私のも作れ」
「ちー!」
「はいはい、お昼ご飯が終わったらね」

 トトとメリティエ、おまけにミネルバまで大興奮で押し寄せて来たが、それと同時にククが巨大な中華鍋を持ってリビングに戻って来たのが目に入る。

 鍋からは食欲を刺激する香ばしい匂いが立ち込め、トトのお腹からぐ~っと大きな音が聞こえた。
 

 
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

処理中です...