四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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157話 闇の腕を持つ悪魔

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 奴隷である3人の少年に申し訳ない気持ちでいっぱいになるが、俺はまだ何もやっていない。
 これには3人の人間の未来がかかっているのだ、諦めてたまるものか!

 アウグストが駄目ならと今度は国王へと話しを振ることにした。

「ところでグレアム国王、クラウディアから話が行っているのなら、あんたは俺に対しての詫びはないの?」
「貴様、陛下に対して何という口の利き方だ、無礼であろう!」
「構わん。それで、貴様に対する詫びとはなんだ?」

 激昂するアウグストを国王が手を挙げて制止、冷徹な眼差しで問い返す。
 
「おたくが呼び出した勇者のおかげで、俺は金をだまし取られ、あまつさえ殺されそうになった。勇者を呼び出した最大の責任者であるあんたには、その責任を取る義務があるはずだ」
「それはあの者が勝手にしたこと。余が負うべき責務ではない」

 うん、なんとなくわかっていたが、どの世界でも国家の長がそう簡単に非を認めるなんてことはしないものだ。
 しかし、どう考えても責任が無いはずはないので、そんなもので納得できるか。
 だがここでそれを追求したところで、そもそもアウグストとは関係ないのでどうすることもできない。
 攻める方向はそのままに、攻め球を変える必要が有る。

「国家の長が自国で呼び出した勇者が他国を攻めても責任が無いとは言わせない。とりあえずその件に関しては後で追及させてもらうとして、次にここに居る奴らの命を救った礼を頂こうか」
「良いだろう。望みのものが有るなら申せ」

 今度はあっさりと認められた。

「ではアウグストが所持していた奴隷を所望する」
「この者達の命に対する礼ならば余の持ちうる財から支払うのが筋であろう。だがアウグストの奴隷はこの者の所有物であり、余の関与するところではない。臣下の持ち物を余が理不尽に剥奪したとあっては、暴君と何ら変わるまい?」

 だよな。
 言ってから〝あ、これも違う〟とは思っていた。
 むしろそれを言うならアウグストにこそ〝お前とお前の部下の命を救ってやったんだから~〟と言うべきだった。
 言ってもあのジジイが首を縦に振るとは思わないが。
 にしても、これは実に流れが悪い。
 どうにかして奴隷の3人だけでも助けてやりたいが、このままではどうしようもない。
 他に投げる球は無いのか?

 こんな時に答えが出ない、自分の低能さに嫌悪感を募る。

 いやまだだ、今すぐアウグストに謝罪し、頭を下げてでも3人の買い取りを申し出ればことは収まるかもしれない。
 今は彼らの平穏が最優先だ。
 そのためなら、俺のちっぽけなプライドなんてドブに捨てろ。

 奥歯を噛みしめ謝罪の言葉を脳内で組み立てている。
 その俺の試案顔が悔しがっているように見えたのか、アウグストが勝ち誇り口を開いた。

「ふん、用が済んだのならさっさと立ち去らんかニセ勇者め。薄汚い冒険者風情が場違いにも陛下の御前に立つでないわ、お目汚しであろう!」

 より屈辱を与えたいのか、アウグストは俺を侮蔑し退場を求めた。
 だがそのセリフに、瞬時に解決策が浮かんでしまった。

 ……あ、こいつ今余計なこと言いやがった。
 これは是非使わせて頂こう。

「それはつまり、俺のことを汚物って言ったんだよな? いいだろう、これだけの人の目がある前で俺を汚物と罵ったあんたの言葉を侮辱とみなし、自身の名誉にかけこの場で決闘を申し込む」
「な、なんだと!?」
「名誉を重んじる騎士が、これ程大勢の面前で人を愚弄しその名誉を踏みにじったんだ、まさか騎士の中の騎士である近衛騎士の、更にその上にいる近衛騎士団団長であらせられるアウグスト殿ともあろう御方が、決闘を挑まれ断るなんて恥知らずなマネはしないよな?」
「ふざけるな! 貴様は貴族でも何でもない平民であろう! そのようなゴロツキ風情ごときと近衛騎士団団長であるワシが決闘をする筋合いがどこにある!」
「だそうだけど、近衛騎士の皆さんはそれで良いの? ゴロツキに命を救われた挙句、恩も義理も返さず礼すら言わないで汚物と罵るのがアイヴィナーゼ王国の近衛騎士って言う役職ってことになっちゃうけど? 本当に、それで、よろしいか?」

 後ろを振り返り、成り行きを見守っていた騎士達に思い知らせるように問う。
 これには騎士達がまたも動揺どうようを見せるも、自分達のまとめ役であるアウグストとのやり取りなので動くに動けないといった様子。

 動けないなら動けるようにしてやろう。

「まぁ受けないなら受けないで良いけどね。俺はこの屈辱を持って他所の国に行くだけだ。そうそう、ウィッシュタニアと戦争するんだって? だったらその〝他所の国〟はウィッシュタニアにでもするか。あ、次に顔を会わせるときはお互い敵同士かもだけど、その時は手加減抜きで戦ってくれると嬉しいな♪」

 敵対を臭わせる脅しにクラウディアが血の気の引いた顔でこちらを見上げる。
 
「こ、この決闘をお受けください、アウグスト団長!」
「これは貴方だけでなく、我々近衛騎士団全員の名誉がかかっています!」

 この脅しには、動揺していた騎士達が一人、また一人と立ち上がり訴える。

「お受けください団長!」
「アウグスト団長!」
「団長!」
「貴様ら!? へ、陛下ぁ!」

 部下にこうも言われては流石に受けない訳にもいかないか、アウグストが国王に助けを求める。
 この決闘を受けるということは死を意味することくらい、アキヤとやり合った現場を直に見ている近衛騎士達には分かりきっている。
 それを分かっていて受けさせようとしているのだから質が悪い。

 まぁここで俺と仲違いした場合、アキヤに向けられた洒落にならない攻撃魔法がどこかの戦場で自分達に向けられるのだ、必死にもなるだろう。

 アウグストに助けを求められた国王陛下はというと、出会って初めてその固い表情に動きを見せた。
 それは少し困った顔で口を開く。 

「アウグストよ、お主の失言が招いた事態である。自身でそそぐがよい」
「お待ちください陛下、陛下! 私は10代にも満たない頃よりこの国のため、ひいては陛下や先代国王の為に必死に勤め上げて参りました! どうか、どうか御慈悲を!」
「慎めアウグスト、陛下の御前だ」

 国王陛下による死刑宣告に、アウグストが国王の足元に縋りつくように救いを求めるも、老将軍がアウグストの襟首をつかみ、厳格な口調でそれを押しとどめた。

「ふむ……。ならばお主が貴族の地位を捨て、職を辞すれば只の平民だ。決闘は免れるやもしれんな」

 さすがにこのまま殺されるのを黙ってみているのも不憫と思ったのか、国王は一つの案を提示した。

「おお、おお、陛下! 感謝します、感謝しますぞ! 聞いていたか小僧、ワシは今日この場をもって貴族をやめ職も辞す! よって貴様との決闘は無効だ! ふはははははは!」
「あはははははは! ってことはなんだ、こんな大勢の前で俺を汚物と罵った一般人ってことだな? ならただの老人が大人数の面前で暴言吐いてケンカを売ったって訳だ! それじゃあ私刑ってことで良いよな? でも安心しろ、今の俺ならお前の手足がもげてもくっつけられるから、楽に死ねると思うなよ☆」

 俺の右手から禍々しいまでの闇が吹き出し、その闇で巨大な悪魔の様な腕を成型すると、アウグストは再びの失言に口を押えその場にへたり込んだ。

 素直にごめんなさいも言えんのか……。

 しかし、そこに待ったをかけてきたのはやはりグレアム国王であった。

「まぁ待つがよい。さすがにそれでは忍びない。ここは余の顔に免じて見逃してやってはくれぬか?」
「………」

 人にものを頼むにしては偉そうに過ぎますよ国王陛下。
 あんたの顔ごときでは腹の一つも膨れないんだよ。
 とは口が過ぎるし、小心者なので思っていても言えやしない。
 それに、ここで国王の面子を潰したとあっては色々と困った事態になりかねない。

「不服そうな面だな。ならばこの者の財である奴隷共がお主に譲渡されれば気が済むか?」
「……それなら怒りを収めましょう」

 あ、うっかり敬語使っちゃった。
 次から気を付けるってことでまぁいいや。
 奴隷達を開放できたんだから、それだけでも上出来だろう。

「だそうである。どうだ、アウグストよ」
「っ――はい、その様に致します。……何故こんな奴に……」

 アウグストは顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながらも、尚も不満を小声でぼやく。

 どうやらまだ反省が足りないようだ。

「こっちが譲歩しても不満がある様だな、やっぱり殺すか」
「待て、ワシが悪かった! 渡す、奴隷はすべて貴様に渡す! だから命だけは見逃してくれ!」
「え、奴隷、だけなの? 散々侮辱しておいて? これ見よがしに不平をこぼして? いや別に良いけど。暗い夜道は気を付けてね、おじいちゃん。これ、闇夜だと目立たないと思うから」

 左の人差し指で右腕を指し示すと、腕に纏いつく闇が恐ろしげに揺らめいた。

 人の神経を逆なでするのがユニークスキル並みに得意なのはなんなんだ?

「ワシの財産全てを差し出す! だから頼む、許してくれ!」
「え、あ、うん、まぁそこまで言うなら……」

 臨時ボーナスで小金ゲットくらいだと思っていたのだが、まさか財産すべてを寄越してくるとは思わなんだ。

 こうして俺は、図らずしもアウグストの財産をせしめることになってしまった。



 これは後日フルブライトさんに聞いた話だが、一応近衛騎士達も俺に恩義を感じていたみたいで、俺に対する横柄な態度を取るアウグストの不義理っぷりに、嫌気が差していたのだそうだ。
 だが〝戦場で出会っても~〟の下りで脅されたので、近衛騎士達からの俺の評判はあまり宜しくない、いや、言葉を濁さず行ってしまえばかなり悪いのだそうだ。

「やはり貴方様は大変不快な性格をしてらっしゃいますわ」

 と、これはクラウディア談。

 ひどくね?
 
 この事件は後、〈闇の腕を持つ悪魔〉という都市伝説的な小話として噂となり、アイヴィナーゼ近隣にとどまらず、この大陸全土で〝口には気を付けましょうね〟と言う有難い教訓に使われ、語り継がれることになるとかならなかったとか。
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