四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

文字の大きさ
166 / 254

158話 鬼の洗礼

しおりを挟む
 アイヴィナーゼ玉座の間。
 放心したアウグストが玉座の間から兵士に両脇を抱えられこの場を退出していく。
 少年達を無事に保護出来たのでまずは一安心だ。
 だが本命であるウィッシュタニアへの開戦を止める話はまだ始まってすらいない。

「じゃぁ本題に移らせてもらっても?」
「申せ、聞くだけは聞いてやろう」

 相変わらずの尊大さで、人を見下した態度は健在だ。

「俺が今日ここに来たのは、アイヴィナーゼが侵略戦争に向かうのを止めるためだ」

 一握りの権力者の欲望で大勢の命が犠牲になるなんて、そんな理不尽があって堪るか。
 それを止める力が俺にあるのなら、例え相手が誰であろうと止めてやる!

「俺がこの世に存在している限り、この周辺で戦争を仕掛けた国の軍隊は尽く潰す。アイヴィナーゼが侵略戦争をすると言うなら、そのアイヴィナーゼ軍も俺の排除対象に加わえるだけだ。他所の国を攻める戦力があるなら民を苦しめる魔物でも狩りにいけ」

 こちらのを玉座から黙って聞いているアイヴィナーゼ王グレアム陛下と立ち並ぶアイヴィナーゼの重鎮達。
 将軍や大臣だけでなく、騎士達1人1人の迫力も凄まじく、どう言いつくろっても指定暴力団としか言いようがない面構えだ。
 すると、沈黙を守っていた老将軍が口を開く。

「小僧、戦争をするかどうかは陛下がお決めになること、それを否定する権限が貴様に有ると思っておるのか?」

 マクシミリアン将軍が1歩こちらに踏み出した。
 たった1歩間合いを詰められただけで、老将から強烈な圧迫を受けるも、相手はエキドナ以下の戦闘力だと言い聞かせる。

 平気へっちゃら平気へっちゃら……。

「否定する権限なんてある訳ないだろ? だがそれはあんたらも同じことだ」

 国家ってものは武力があるから国家として成り立っている。
 武力で従わせられないのなら、ほかのことで従わせるより他にない。

「俺を止める権限とやらがあんた等にあるなら行使してみせろ。侵略戦争を片っ端から否定するだけの武力が有ると自負している。撥ね退けられるのが嫌ならそれ以上の力を持って示せばいい。仮にそうなった場合は国が傾くどころか国名が変わることも覚悟はしておいてくれ」
「内政干渉も甚だしいな」
 
 にらみ返しそう告げると、老将軍がズイっともう1歩踏み出した。
 歳を感じさせない男の気迫に、更なる圧迫がのしかかる。

 確かに俺の主張は完全に内政干渉だが、〝戦争をやめろ〟とお願いしているのではなく〝戦争をするなら潰す〟と脅しているので、一応はお互いの主張をぶつけ合った外交だ。
 そして戦争とは、互いの主張が受け入れられない場合に発生する外交の最終手段である。
 俺は戦争をやらせないためにも、どれほどの強面で威圧されようとここで引く訳にはいかない。

 こちらも負けじと肩幅に足を開き、腕を組み胸を張り顎を引いて偉そうにふんぞり返り、不敵な笑みを浮かべてやる。
 するとあら不思議、全然負ける気がしなくなる。

 はっはっはっ!
 俺を誰だと思ってやがる!
 ライシーンのトシオ様たぁ俺のことだ!
 ……世間的にはまだ無名でしたねごめんなさい。

 引きつった顔をそうやって無理矢理隠すと、俺よりも頭一つ半程背の高い老将がどんどんと近付き、すぐ目の前で立ち止まる。
 背の高さと深いシワの刻まれた顔にはところどころ刀傷があり、その大きな体と相まって893なんて生ぬるく、〝鬼〟と形容するのがふさわしい恐ろしさだった。
 そんな物体が目線の高さを俺よりも下げるように屈み、額が触れそうなくらいに顔を寄せて下から覗き込むように睨み上げてきたのだからたまらない。

 ちかいこわいこわいちかいちかいちかいこわいちかいこわい!

 思わず顔を後ろに引いてしまう。
 それを俺が怖気付いたったと捕らえたか、将軍の口元に嘲りの笑みが生まれた。

 ――この程度で、舐められてたまるか!

 俺は上半身をそのまま大きく後に傾けると、反動を利用してその勝ち誇った男の額に頭突きをぶちかます!
 だが微動だにしないマクシミリアンが、力を込めて押し返してきた。
 身体強化魔法を発動させてそれを押し込める。

 ぐうぅ、自分でやっておきながら滅茶苦茶痛いけど痛くない!

 引くことの許されない攻防を、固唾を呑んで見守るクラウディアと周囲の騎士達。
 しばらく睨にらみ合いが続いたところで、玉座からパンパンと手を打つ音。

「そこまでだ、マクシミリアン。トシオもあまり粋がるでないわ」 

 グレアム国王の言葉に老将が引き下がり、何事も無かったかのような顔で王の傍に戻り立つ。
 次いでセドリック大臣が何やら耳打ちをすると、グレアム国王が小さく頷いた。

「それでは騎士達よ、この度の務め大儀であった。別命あるまで休暇を取らす。一同下がるがよい」 
「「「はっ!」」」

 国王の命令で騎士達が立ち上がり、胸に握りこぶしを当てて敬礼をすると、一糸乱れぬ動きで下がって行った。

「クラウディア、その者を客室に案内せい。それとすぐ執務室に来い」
「はい、お父様」

 国王がいかめしい口調で娘に命令を下すと、堂々とした足取りで臣下を従え退出していく。

 こうして俺VSアイヴィナーゼ首脳陣との第1ラウンドが終了した。

 この後すぐに第2ラウンドが待っているのかと思うと、気が重いし胃が痛い……。 

しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

処理中です...