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181話 戦闘狂
しおりを挟む「やはり隠し持っていやがったか」
「なんのことやら」
強化装甲魔法〈エインヘリヤル〉を〈勇者の遺物〉と決め受けたマルケオスに、無機質な声ですっとぼける。
「それが貴様の本気か?」
「さぁね」
マルケオスの問いに連続ですっとぼける。
半分アタリで半分ハズレ。
あくまでも俺のポジションは後衛魔法職。
そんな俺がエインヘリヤルを着込んだからって、前線で戦っている時点でとても本気とは言い難い。
だがそれを態々教えてやる必要も無いので教えない。
「その気の抜けた物言いこそ、余裕の無さの現れだな」
にやりと笑ったかと思いきや、まるで瞬間移動でもしたかのように巨体が目の前に現れ左ストレートが眼前に迫る。
バックステップで距離をずらしたところへ放たれた袈裟斬りに合わせ、マルケオスの右脇に潜り込み、一回転してガラ空きの胴体に短槍をフルスイング。
強引に人間ホームランをぶち込むも、マルケオスの身体が巨大な岩の如く動かない。
その場で動きを止められた俺の側頭部が大剣の柄で殴打され、咄嗟に踏ん張ったものだから奴の攻撃範囲から逃げそびれ、強烈な蹴り上げで20メートルほど真上に飛ばされた。
咄嗟にガードした右足にしびれが走る。
何この高さ、一体どこのバトル漫画だ!?
それもこれも、全身に〈闘気〉を纏い身体能力を爆発的に高める近接最強の強化スキル〈バトルオーラ〉と、使用者の意識を覚醒させ流れる時間を飛躍的に加速させる〈クイックスピード〉のなせる技だ。
各種強化スキルに乗って更に倍々って感じか。
ぐう卑怯。
自由落下を開始した身体をエインヘリヤルに組み込まれた飛行魔法を制御し空中で停止。
そこに地上から飛び上がって来た奴が剣を振りかぶり、空中で抜き胴を敢行してきた。
素早く槍を正面に立てるも、その剣は振られることなく俺の脇を通り抜ける。
ここで虚かよ!?
「〈グランドインパクト〉!」
上を取られ慌てて背後へ無数の小六角形をばらまく物量防御魔法〈ブリージンガメン〉を展開するも、それらをぶち抜かれ痛烈な攻撃スキルが後頭部を直撃し、視界がぶれたと思った時には頭から地面に激突していた。
削られた頭部装甲に高熱による痛みを覚える。
視界が大きく歪み波打つ中、直ぐに立ち上がることも出来ない。
脳震盪から立ち直るための時間稼ぎの電磁結界を展開し、マルケオスの追撃を阻む。
「今のを食らって装甲が削れただけとは化け物かよ」
視界と共に奴の声も歪んで聞こえる。
まるで大荒れの海の上にでも居るような揺れを味わいながら、冷静に結果を分析する。
エインヘリヤルとブリージンガメンが無ければ2回は死んでいた。
いくら強固な魔法装甲をもってしても、装甲を身体に密着させていれば頭部を殴られた際の衝撃で直接脳を揺さぶられる訳か。
ちょっと考えれば気付きそうなものを見落とす辺り、流石は平均以下の脳みそである。
もし相手がクレアル湖で戦った魔族のミストリックさんであったなら、この時点で俺の首が飛んでいたことだろう。
なんたって俺の攻撃魔法を切り裂く人だから、この程度の魔法装甲くらい普通に切り裂くだろうなぁ。
あの人の人の良さに今更ながら感謝である。
やはりこのままではミストリックさん級の敵を相手にするには役不足だし、こんな筋肉ダルマ如きにも後れを取ってしまう。
今すぐ改修が必要だ。
今の戦闘で浮き彫りになった問題点を踏まえ、装甲の強化プランを模索する。
まずは耐衝撃性。
魔法装甲と自身の間に断層を作り、外装と身体の間には衝撃を吸収するための緩衝材として魔力で満たす。
次に装甲の強度を高めるため、硬い魔法装甲を何枚も重ねた積層化を施した。
これで倍以上の強度と衝撃吸収性を確保できたはずだ。
ちょっと着膨れしてる感はあるけど、動くのに支障はなさそうだしまぁ良いか。
ブリージンガメンは――まぁ、これは単純に適正距離と展開量の不足だから改良する必要はないか。
立ち上がりながら電磁結界を解除し、こちらを凝視するマルケオスに顔を向ける。
増加された装甲で一回り以上膨れた鎧の感覚を確かめながら、再び自然体の構えを取った。
けど奴の超速の動きも侮れないな。
俺もクイックスピードくらいは使っておくか。
バトルオーラは疲労が激しいからこれは魔法で代用しよう。
魔法版バトルオーラをでっち上げ、エインヘリヤルに組み込んだ。
「やはり殺すには惜し……お前、でかくなってないか?」
「錯覚だろ?」
その歳でもうろくするには早いですよ、お爺ちゃんっと。
「それに、お前が前言を翻したところで心変わりするつもりは無い。だから安心して殺しに来い――いや、今度は俺から行くわ」
加速!
魔法版クイックスピードを施しその場で軽ろやかに跳ねると、数度目の着地と同時に膝を折り、マルケオス目がけて突撃した。
加速した意識はまるで、マウスのポインター速度をMAXにしているような感覚で視界が移動する。
試運転はこれまでの戦闘訓練で何度もやっている。
まだ完全に慣れてはいないがここで慣れればいいだけの話だ。
「ストライクプラズマクロー!」
一足飛びで間合いを詰め、先程のお返しとばかりに奴の目の前に出現と同時に紫電の走る掌底をその腹部に打ち込んだ。
左手に宿した大出力の雷撃が大男の鎧を突き抜け肉を焼き、そのまま奴の身体を地面に押し付けた状態で低空飛行。
血に染まる地面を推し進む。
「おおおおおおおおおおおおお!」
超低空を滑るように飛翔しながら雷撃の威力を上げていくも、こちらよりも長いリーチの握りこぶしが振るわれたのでマルケオスの拘束を解き、飛行魔法を操作してスライド移動で横に回避した。
やっぱ自分より腕の長い奴相手に至近距離での肉弾戦はダメだな。
全身から煙を発しするマルケオスが憤怒に顔を歪め、地面を後向きに滑りながら器用に立ち上がる。
その起き上がり際に――
「紫電一閃!」
足元に生み出したファイヤーボールで爆発加速を飛翔魔法に上乗せして突撃。
マルケオスの脇を駆け抜け様、紫電の巨刃を宿した槍を振り抜いた。
しかし素早く掲げられた大剣によって、稲妻の斬馬刀が防がれる。
お互いすぐに振り返り同時に疾走。
徒手空拳の届かない武器の間合いで足を止め、激しい斬撃が交わされる。
「ははははは! モヤシの癖に楽しませてくれるじゃねえか!」
「額に血管浮かべて余裕ぶっこかれても、それこそ負け惜しみにしか聞こえんからな!」
紅の剛剣が魔法装甲を削り、紫電の槍が肉を焼く。
魔法装甲を削られた傍から修復し、長身の男の身体には常に回復魔法の光が灯る。
互いに相手の回復を上回るための斬撃を、超高速で乱舞させる。
「クイックスピードにバトルオーラ並みアーティファクトとは恐れ入るぜ!」
「恐れ入ったのなら平伏して? でないと出荷よ?」
「〝人の魔道具で試合をする〟ってのも貴様の世界の言葉だぜ!」
一瞬なんのことか分からなかったが、単語と状況を照らし合わせて変換することで〝人のフンドシで相撲をとる〟のことだと理解する。
大方過去の勇者がこちらの世界に合わせてことわざを改変して言ったんだろう。
「アーティファクトの力で勝ち誇られても失笑しか出ないぜ。そんなんじゃあ例え額を地面に擦りつけようと、お前の下を行くことはなさそうだ」
思いついたネットスラングを返しただけなのに鼻で笑われてしまったでござる。
だが事実とは異なるため悔しさなんて微塵も湧かない。
それどころかブラフを口にし刃で斬り結んでいる内に、それらの駆け引きを楽しんでいる戦闘狂じみた自分に気が付く。
殺し合いを楽しむとかホント狂ってるな。
冷静に自虐しつつも、戦闘による高揚感を押さえることが出来なかった。
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