207 / 254
195話 世界は二度と止まらない。
しおりを挟む
時間停止スキル。
実際に食らった感覚で言えば、おそらく停止時間は1~数秒で、再発動には数秒のクールタイムあり。
そんなしょっぱい間しか時間を止められないスキルを使用者であるルージュが最強だと言い張る理由は、コンマ数秒でパンチが交わされる世界を前の世界から慣れ親しんでいるからこそだろう。
そこに精神と肉体を加速させるクイックスピードが加わることで、短い停止時間ですら最強となりえる凶悪コンボが完成されてしまったのだ。
彼女の誤算としては、俺が強化外骨格魔法の習得により、それをぶち破るための時間を消費させられている点だろう。
俺だったら時間を止めてる間に、エキドナ戦でやったワープゲートの攻撃転用で首を跳ねるけど。
そこに気付かれていないのが幸運であり、この世界での戦闘経験の差ともいえる。
なので、ルージュがそれに気付く前にどうにかしなければならない。
俺にできることは遠距離から魔法で攻撃することだけだ。
攻撃力だけならルージュを超えている自信があり、そのルージュは玉座の持つ魔法遮断能力の範囲外に居る。
殺るなら今だが、回避にも使える時間停止スキルは厄介極まりない。
トモノリだったら〈スキル奪取〉して終わるのになぁ。
つい先ほど保護したばかりのぽっちゃり少年の顔が頭によぎるが、無いものねだりをしていても仕方がない。
だがバレンティン1人に苦戦していた先程までと比べると、明らかに状況が悪化している気がしてならない。
まぁルージュの時間停止対策は頭の中に有るし、ここからは俺の土俵で戦わせてもらおうか。
槍を魔念動力で回収すると、周囲のマナに干渉し小細工を仕込む。
「ルージュ殿はランペール殿下の元までお下がりください。貴女の身に何かあっては一大事です」
バレンティンが一歩前に出る。
「あんたらがヨワヨワなせいであーしがこうやって出張ってんでしょ?」
「これは面目ない」
悪びれた様子の無いバレンティンが、後ろから睨んでいる白黒逆パンダのような化粧の少女に微笑みながら詫びを入れる。
「でもさ~? あいつなら殺しても良いみたいだしぃ? 一度相手を死ぬまで殴ってみたかったからラッキー、みたいな?」
「はっはっはっ、ルージュ殿はなかなかに豪気でおられる」
軽く物騒なことを口走るルージュに、バレンティンが笑って褒める。
「死ぬのはお前らだけどな」
「あ”?」
思わず漏れてしまった呟きをルージュが拾い、ものすごい目つきで睨まれた。
JKが〈あ〉に濁点着けんなよ。
「お前の時間停止、そんな規格外なスキルが何のデメリットもなく使えると本気で思っているのか?」
「はぁ? 使ってて何ともないんだから、メリットしかないっしょ」
ニヤニヤ顔で応えるルージュだが、デメリットへの不安かその瞳は微かに揺らぐ。
実際デメリットがあるなら俺が教えてほしいくらいだ。
「いいかよく考えろよ。元の世界でなら全力を出せば疲労が蓄積されるだろ? こっちの世界ならスキルの〈HP自動回復〉や〈疲労軽減〉があるからある程度は緩和されるけど、それでも〈クイックスピード〉や〈バトルオーラ〉なんて高位スキルは体の負担が凄まじいんだ。そんなものを発動させたまま停止した時間の中を動き回るのに、何のデメリットも無いなんて本気で思ってるのか?」
「……あぁ~、ハッタリおつ。あーしのスキルに勝てないからって、ハッタリしか言えないとかダサ過ぎっしょ」
ルージュが臨戦態勢をとったが、これ見よがしにはぁ~~~と、大きなため息を吐いた。
俺のハッタリはまだ終わっちゃいない。
「本気でそう思ってるならおめでたいな。俺がこっちに来て色々と試した経験上、この手の疲労やダメージは確実に身体に残る。実際それで体を壊した奴らを何人も見てきた」
時間が稼げさえすれば良いので、嘘に嘘をかぶせてもっともらしい風に仕立てる。
「てかこんなのこの世界の人間なら誰でも知ってることなのに、お前の周りの人間は教えてくれなかったのか?」
「信じてはなりませんぞルージュ殿」
更に周囲への不信感を煽ると、すぐ傍にいたためルージュに視線を向けられたバレンティンがこちらに見据えたまま即答した。
「もし彼が言うことが事実であるなら、私がこの年で剣なんぞ振れているのがおかしいではありませんか」
「だよね、だよね? ほら、やっぱ嘘じゃん!」
「お前の体を案じてるのに嘘をつく理由がどこにあるんだ? ま、信じる信じないはお前の自由だ、好きにしろ」
そもそもこいつの体を案じる理由が無いが。
小細工の仕込みが終了したため、選択権を雑に丸投げしてやる。
「あーしって男のくせに嘘つくヤツが大嫌いなんだよねー。土下座して謝んならパシリに使ってやってもいいかなー、みたいな?」
「お前の好き嫌いなんか知るかボケ。んでもって誰が土下座なんかするか白黒逆パンダ。たかだか時間が止められるってだけでイキられても怖くもなんともないわ」
「あ”? キモいクセにイキってるのはそっちっしょ!」
「あ~はいはい。あ、そういえばお前、どこかで見たことあると思ったらアレだ、えーっと、クっソマイナーな格闘技の世界ちゃんぴょんだっけ?」
「シュートボクシングの世界チャンピオンよ!」
「ふ~ん、至近距離で時間停止なんてして仕留められない格闘技のちゃんぴょんねぇ。てことはシュート雑っ魚、クソ雑っ魚、はははは!」
キックボクシングに投げと関節技を加えたシュートボクシングが弱いわけがない。
ルージュを挑発するためとはいえ、シュートボクシングを落とす言い方をしたことに心が痛い。
「ルージュ殿、安い挑発に乗ってはなりませんぞ」
「シュートを馬鹿にされて黙ってられる訳ないっしょ!」
「そういうの良いからくっちゃべってないで早よかかってこいや、クソ雑魚ナメクジ~」
「マジありえない、絶対グチャグチャにしてやる!」
バレンティンが窘められるも、キレたルージュが〈バトルオーラ〉で爆発的な身体能力の向上行うと、〈クイックスピード〉による速度上昇も合わさった突撃でトップスピードまで一気に加速した。
ルージュに釣られる形でバレンティンも剣を構えて並走し、周囲の騎士たちも一斉に距離を詰める。
だがここからは俺のターンだ!
「お前らに、最前線に立つ後衛魔法使いがどんだけ恐ろしいか分からせてやる。〈奈落へ沈め〉!」
周囲のマナを魔法に変換し、玉座の間を抵抗を感じるほどの濃密な魔力で満たしてやると、こちらへと駆ける者たちの動きが緩慢なものへとなり下がった。
「なんですの、この肌に張り付く淀んだ魔力は!?」
金髪縦ロールの女騎士が手で口元を覆う。
「まるで水の中に居るかの如く身体が思うように動かん!」
「これでは走ることもままならんではないか!」
他の騎士たちも自分たちに起きている現象に驚愕の声を上げる。
「何よこんなの!」
ルージュが力任せに淀みを払おうとするも、払われた魔力の淀みは彼女の体にまとわりついて離れない。
〈ギンヌンガガプ〉は周囲を濃密な魔力を空間に満たしたもので、効果範囲内に居る者は汚泥に沈んだかのような抵抗を受けることで機動力を極端に落とされる近接殺しの非殺傷デバフ魔法だ。
特筆すべきは魔力の淀みは空間に作用しているため、相手の魔法抵抗など関係ないという点であろう。
相変わらず玉座に付与されている魔法無効化領域に阻まれてるけど。
あそこに居る奴らはまた後で料理してやればいい。
なので、今は俺の脅威となりうる脳筋ゴリラの近接職共の始末に取り掛かる。
「それじゃ、死のうか?」
左腕を頭上に掲げると、うすのろ共へ向け全方位に威力の絞った光線魔法を乱射。
鎧の無い部位を打ち抜かれた騎士や兵士たちに負傷をばらまき、大惨事を引き起こす。
だが手練れの騎士たちは魔力を付与した発光する剣で華麗にさばき、レイボウを跳ねのける。
光の剣で光線を弾くとか、こんな腐敗した国じゃなく銀河共和国でも守ってろよ。
「これほどでたらめな後衛魔法使いが居てたまるか。総員〈守護の玉座〉の中へ退避しろ!」
バレンティンの退避命令に健常者が負傷者に手を貸し後退を始める。
だがその背後に容赦ない追い打ちを浴びせ、被害を増加させていく。
「負傷者を囮に被害を増やすのが狙いか!? ならば!」
こちらの意図にようやく気付いたバレンティンが、生命エネルギーやスターセイバーの刀身を破壊の刃として飛ばしこちらの攻撃の阻止しに動いた。
「〈怒鳴るもの!〉」
飛来するエネルギー刃に対し目の前に強烈なプラズマを展開して電磁バリアを形成すると、磁場で歪められた空間でエネルギーを強引に屈折させた。
屈折しきれなかったエネルギーをエインヘリヤルの魔法装甲が弾く。
シンくん発案、レンさん実証、俺開発による空間湾曲魔法は伊達じゃない!
ちなみにシンくんだが、先程ここに来る前の作戦会議で知った話しでは、この世界でマヨネーズを作ったは良いが、買ってきた生卵をそのまま使用したため現在便所の住人と化していた。
レンさんにこの世界の衛生観念を日本基準で考えていたことを怒られてたシンくんカワイソス。
「俺の攻撃を曲げるかよ。デタラメに過ぎるな」
魔法装甲の中で思い出し笑いに口元をゆがめていると、獰猛な笑みを浮かべているバレンティンが直接攻撃を阻止するつもりか光線を弾きながら前進を再開する。
「団長、我々もお供します!」
光線を弾けく猛者たちもそれに続く。
「近付く前にすり潰れろ!」
「やらせるかっつーの!」
乱射する光線の威力を上げていくと、ルージュの姿が一瞬だがコマ飛びした。
すぐにその場に跪き、胸を押さえて呼吸を荒げていた。
「なん、なの、胸が急に……!」
「言ったろ、強力なスキルはそれだけ体の負担が大きいって。使い続けるともしかすると死ぬかもだから気をつけろよー」
嘘と真実を半々にした言葉を軽口で告げてやると、バレンティンがルージュを庇いながら光線を切り払う壁となる。
「アンタ、あーしに何かしたっしょ! 正直に言いなさいよ!」
「ナ、ナンノコトカナー。あ、もしかして恋じゃね? でも俺には美人の嫁さん居るし、お前みたいな変なメイクしてる奴はノーサンキューだわ」
「ふざけんなし! アンタあーしに何かしたでしょ! 今すぐやめなさいよ!」
「殺し合いの最中でネタばらしする馬鹿は居ないしやめる奴なんてもっと居ねーよバーカバーカ、オソマ、バーカ」
お願いしますも言えない生意気なクソギャルに光線の数を増量してやるも、そのことごとくをバレンティンに阻止される。
だが少女を守りながらではさすがに前進出来ないか、その場で足を止めている。
「ルージュ殿、一旦お引きを!」
「こんなコスプレ野郎に舐められたまま下がれるわけないっしょ!」
前傾姿勢をとったルージュがまたもコマ飛びするも、一瞬で地面に倒れた姿を晒していた。
俺は別に大したことはしていない。
タネ明かしとしては、時間稼ぎをしていた間中、気付かれないようずっとルージュの心臓とその周辺に魔力を流し続け、濃密な魔力の塊を作った。
そしてその魔力は心臓の鼓動に連動するように設定して固定した。
たったそれだけ。
そこにルージュが時間を停止をしたことで、俺の支配下にある魔力が周囲の時間に合わせて停止。
心臓が握られた状態となったことで機能不全を引き起こしたのだ。
時間を止めていた間は心臓も強制停止させられていたわけだから、実際のところ何秒くらい心臓が止まってたんだろうな?
この時間停止対策だが、そんな物は俺がとっくの昔に通った道だった。
今の俺が24だから、丁度10年くらい前になる。
そもそも時間停止なんて、異能力バトル漫画においては誰もが認めるチートスキル第一位と言っても過言ではない程のぶっ壊れスキル。
そしたらほら、男の子としては〝異能バトル物の主人公として、時間停止能力持ちと戦うならどうするか?〟を、あーだこーだと妄想しちゃう訳ですよ。
思春期の嗜みってことで、ミンナモヤッテルカラフツウノコトダヨー。
「スキルなんて無くったって、あんな奴……!」
気丈にも起き上がるルージュだったが、突撃のために腰を落としたところでまた彼女だけがコマ飛びし、またも床にうつ伏せ状態で倒れてビクビクと痙攣した。
腰のあたりから何やらシミのようなものが滲みだしたが、敢えて見なかったことにする。
スキルなんて無くてもとか言ったそばから即スキル発動とか、こいつもなかなか良い根性してるなぁ。
さすが1つの世界でてっぺん獲っただけはある。
「フラン、ルージュ殿を玉座までお連れしろ! 我々も後退だ!」
「了解ですわ!」
金髪縦ロールの女が胸を押さえて苦しむルージュを担ぎ後退し、バレンティンがその援護に回る。
女騎士がルージュを抱える際、嫌そうな顔したのがとても印象的だった。
実際に食らった感覚で言えば、おそらく停止時間は1~数秒で、再発動には数秒のクールタイムあり。
そんなしょっぱい間しか時間を止められないスキルを使用者であるルージュが最強だと言い張る理由は、コンマ数秒でパンチが交わされる世界を前の世界から慣れ親しんでいるからこそだろう。
そこに精神と肉体を加速させるクイックスピードが加わることで、短い停止時間ですら最強となりえる凶悪コンボが完成されてしまったのだ。
彼女の誤算としては、俺が強化外骨格魔法の習得により、それをぶち破るための時間を消費させられている点だろう。
俺だったら時間を止めてる間に、エキドナ戦でやったワープゲートの攻撃転用で首を跳ねるけど。
そこに気付かれていないのが幸運であり、この世界での戦闘経験の差ともいえる。
なので、ルージュがそれに気付く前にどうにかしなければならない。
俺にできることは遠距離から魔法で攻撃することだけだ。
攻撃力だけならルージュを超えている自信があり、そのルージュは玉座の持つ魔法遮断能力の範囲外に居る。
殺るなら今だが、回避にも使える時間停止スキルは厄介極まりない。
トモノリだったら〈スキル奪取〉して終わるのになぁ。
つい先ほど保護したばかりのぽっちゃり少年の顔が頭によぎるが、無いものねだりをしていても仕方がない。
だがバレンティン1人に苦戦していた先程までと比べると、明らかに状況が悪化している気がしてならない。
まぁルージュの時間停止対策は頭の中に有るし、ここからは俺の土俵で戦わせてもらおうか。
槍を魔念動力で回収すると、周囲のマナに干渉し小細工を仕込む。
「ルージュ殿はランペール殿下の元までお下がりください。貴女の身に何かあっては一大事です」
バレンティンが一歩前に出る。
「あんたらがヨワヨワなせいであーしがこうやって出張ってんでしょ?」
「これは面目ない」
悪びれた様子の無いバレンティンが、後ろから睨んでいる白黒逆パンダのような化粧の少女に微笑みながら詫びを入れる。
「でもさ~? あいつなら殺しても良いみたいだしぃ? 一度相手を死ぬまで殴ってみたかったからラッキー、みたいな?」
「はっはっはっ、ルージュ殿はなかなかに豪気でおられる」
軽く物騒なことを口走るルージュに、バレンティンが笑って褒める。
「死ぬのはお前らだけどな」
「あ”?」
思わず漏れてしまった呟きをルージュが拾い、ものすごい目つきで睨まれた。
JKが〈あ〉に濁点着けんなよ。
「お前の時間停止、そんな規格外なスキルが何のデメリットもなく使えると本気で思っているのか?」
「はぁ? 使ってて何ともないんだから、メリットしかないっしょ」
ニヤニヤ顔で応えるルージュだが、デメリットへの不安かその瞳は微かに揺らぐ。
実際デメリットがあるなら俺が教えてほしいくらいだ。
「いいかよく考えろよ。元の世界でなら全力を出せば疲労が蓄積されるだろ? こっちの世界ならスキルの〈HP自動回復〉や〈疲労軽減〉があるからある程度は緩和されるけど、それでも〈クイックスピード〉や〈バトルオーラ〉なんて高位スキルは体の負担が凄まじいんだ。そんなものを発動させたまま停止した時間の中を動き回るのに、何のデメリットも無いなんて本気で思ってるのか?」
「……あぁ~、ハッタリおつ。あーしのスキルに勝てないからって、ハッタリしか言えないとかダサ過ぎっしょ」
ルージュが臨戦態勢をとったが、これ見よがしにはぁ~~~と、大きなため息を吐いた。
俺のハッタリはまだ終わっちゃいない。
「本気でそう思ってるならおめでたいな。俺がこっちに来て色々と試した経験上、この手の疲労やダメージは確実に身体に残る。実際それで体を壊した奴らを何人も見てきた」
時間が稼げさえすれば良いので、嘘に嘘をかぶせてもっともらしい風に仕立てる。
「てかこんなのこの世界の人間なら誰でも知ってることなのに、お前の周りの人間は教えてくれなかったのか?」
「信じてはなりませんぞルージュ殿」
更に周囲への不信感を煽ると、すぐ傍にいたためルージュに視線を向けられたバレンティンがこちらに見据えたまま即答した。
「もし彼が言うことが事実であるなら、私がこの年で剣なんぞ振れているのがおかしいではありませんか」
「だよね、だよね? ほら、やっぱ嘘じゃん!」
「お前の体を案じてるのに嘘をつく理由がどこにあるんだ? ま、信じる信じないはお前の自由だ、好きにしろ」
そもそもこいつの体を案じる理由が無いが。
小細工の仕込みが終了したため、選択権を雑に丸投げしてやる。
「あーしって男のくせに嘘つくヤツが大嫌いなんだよねー。土下座して謝んならパシリに使ってやってもいいかなー、みたいな?」
「お前の好き嫌いなんか知るかボケ。んでもって誰が土下座なんかするか白黒逆パンダ。たかだか時間が止められるってだけでイキられても怖くもなんともないわ」
「あ”? キモいクセにイキってるのはそっちっしょ!」
「あ~はいはい。あ、そういえばお前、どこかで見たことあると思ったらアレだ、えーっと、クっソマイナーな格闘技の世界ちゃんぴょんだっけ?」
「シュートボクシングの世界チャンピオンよ!」
「ふ~ん、至近距離で時間停止なんてして仕留められない格闘技のちゃんぴょんねぇ。てことはシュート雑っ魚、クソ雑っ魚、はははは!」
キックボクシングに投げと関節技を加えたシュートボクシングが弱いわけがない。
ルージュを挑発するためとはいえ、シュートボクシングを落とす言い方をしたことに心が痛い。
「ルージュ殿、安い挑発に乗ってはなりませんぞ」
「シュートを馬鹿にされて黙ってられる訳ないっしょ!」
「そういうの良いからくっちゃべってないで早よかかってこいや、クソ雑魚ナメクジ~」
「マジありえない、絶対グチャグチャにしてやる!」
バレンティンが窘められるも、キレたルージュが〈バトルオーラ〉で爆発的な身体能力の向上行うと、〈クイックスピード〉による速度上昇も合わさった突撃でトップスピードまで一気に加速した。
ルージュに釣られる形でバレンティンも剣を構えて並走し、周囲の騎士たちも一斉に距離を詰める。
だがここからは俺のターンだ!
「お前らに、最前線に立つ後衛魔法使いがどんだけ恐ろしいか分からせてやる。〈奈落へ沈め〉!」
周囲のマナを魔法に変換し、玉座の間を抵抗を感じるほどの濃密な魔力で満たしてやると、こちらへと駆ける者たちの動きが緩慢なものへとなり下がった。
「なんですの、この肌に張り付く淀んだ魔力は!?」
金髪縦ロールの女騎士が手で口元を覆う。
「まるで水の中に居るかの如く身体が思うように動かん!」
「これでは走ることもままならんではないか!」
他の騎士たちも自分たちに起きている現象に驚愕の声を上げる。
「何よこんなの!」
ルージュが力任せに淀みを払おうとするも、払われた魔力の淀みは彼女の体にまとわりついて離れない。
〈ギンヌンガガプ〉は周囲を濃密な魔力を空間に満たしたもので、効果範囲内に居る者は汚泥に沈んだかのような抵抗を受けることで機動力を極端に落とされる近接殺しの非殺傷デバフ魔法だ。
特筆すべきは魔力の淀みは空間に作用しているため、相手の魔法抵抗など関係ないという点であろう。
相変わらず玉座に付与されている魔法無効化領域に阻まれてるけど。
あそこに居る奴らはまた後で料理してやればいい。
なので、今は俺の脅威となりうる脳筋ゴリラの近接職共の始末に取り掛かる。
「それじゃ、死のうか?」
左腕を頭上に掲げると、うすのろ共へ向け全方位に威力の絞った光線魔法を乱射。
鎧の無い部位を打ち抜かれた騎士や兵士たちに負傷をばらまき、大惨事を引き起こす。
だが手練れの騎士たちは魔力を付与した発光する剣で華麗にさばき、レイボウを跳ねのける。
光の剣で光線を弾くとか、こんな腐敗した国じゃなく銀河共和国でも守ってろよ。
「これほどでたらめな後衛魔法使いが居てたまるか。総員〈守護の玉座〉の中へ退避しろ!」
バレンティンの退避命令に健常者が負傷者に手を貸し後退を始める。
だがその背後に容赦ない追い打ちを浴びせ、被害を増加させていく。
「負傷者を囮に被害を増やすのが狙いか!? ならば!」
こちらの意図にようやく気付いたバレンティンが、生命エネルギーやスターセイバーの刀身を破壊の刃として飛ばしこちらの攻撃の阻止しに動いた。
「〈怒鳴るもの!〉」
飛来するエネルギー刃に対し目の前に強烈なプラズマを展開して電磁バリアを形成すると、磁場で歪められた空間でエネルギーを強引に屈折させた。
屈折しきれなかったエネルギーをエインヘリヤルの魔法装甲が弾く。
シンくん発案、レンさん実証、俺開発による空間湾曲魔法は伊達じゃない!
ちなみにシンくんだが、先程ここに来る前の作戦会議で知った話しでは、この世界でマヨネーズを作ったは良いが、買ってきた生卵をそのまま使用したため現在便所の住人と化していた。
レンさんにこの世界の衛生観念を日本基準で考えていたことを怒られてたシンくんカワイソス。
「俺の攻撃を曲げるかよ。デタラメに過ぎるな」
魔法装甲の中で思い出し笑いに口元をゆがめていると、獰猛な笑みを浮かべているバレンティンが直接攻撃を阻止するつもりか光線を弾きながら前進を再開する。
「団長、我々もお供します!」
光線を弾けく猛者たちもそれに続く。
「近付く前にすり潰れろ!」
「やらせるかっつーの!」
乱射する光線の威力を上げていくと、ルージュの姿が一瞬だがコマ飛びした。
すぐにその場に跪き、胸を押さえて呼吸を荒げていた。
「なん、なの、胸が急に……!」
「言ったろ、強力なスキルはそれだけ体の負担が大きいって。使い続けるともしかすると死ぬかもだから気をつけろよー」
嘘と真実を半々にした言葉を軽口で告げてやると、バレンティンがルージュを庇いながら光線を切り払う壁となる。
「アンタ、あーしに何かしたっしょ! 正直に言いなさいよ!」
「ナ、ナンノコトカナー。あ、もしかして恋じゃね? でも俺には美人の嫁さん居るし、お前みたいな変なメイクしてる奴はノーサンキューだわ」
「ふざけんなし! アンタあーしに何かしたでしょ! 今すぐやめなさいよ!」
「殺し合いの最中でネタばらしする馬鹿は居ないしやめる奴なんてもっと居ねーよバーカバーカ、オソマ、バーカ」
お願いしますも言えない生意気なクソギャルに光線の数を増量してやるも、そのことごとくをバレンティンに阻止される。
だが少女を守りながらではさすがに前進出来ないか、その場で足を止めている。
「ルージュ殿、一旦お引きを!」
「こんなコスプレ野郎に舐められたまま下がれるわけないっしょ!」
前傾姿勢をとったルージュがまたもコマ飛びするも、一瞬で地面に倒れた姿を晒していた。
俺は別に大したことはしていない。
タネ明かしとしては、時間稼ぎをしていた間中、気付かれないようずっとルージュの心臓とその周辺に魔力を流し続け、濃密な魔力の塊を作った。
そしてその魔力は心臓の鼓動に連動するように設定して固定した。
たったそれだけ。
そこにルージュが時間を停止をしたことで、俺の支配下にある魔力が周囲の時間に合わせて停止。
心臓が握られた状態となったことで機能不全を引き起こしたのだ。
時間を止めていた間は心臓も強制停止させられていたわけだから、実際のところ何秒くらい心臓が止まってたんだろうな?
この時間停止対策だが、そんな物は俺がとっくの昔に通った道だった。
今の俺が24だから、丁度10年くらい前になる。
そもそも時間停止なんて、異能力バトル漫画においては誰もが認めるチートスキル第一位と言っても過言ではない程のぶっ壊れスキル。
そしたらほら、男の子としては〝異能バトル物の主人公として、時間停止能力持ちと戦うならどうするか?〟を、あーだこーだと妄想しちゃう訳ですよ。
思春期の嗜みってことで、ミンナモヤッテルカラフツウノコトダヨー。
「スキルなんて無くったって、あんな奴……!」
気丈にも起き上がるルージュだったが、突撃のために腰を落としたところでまた彼女だけがコマ飛びし、またも床にうつ伏せ状態で倒れてビクビクと痙攣した。
腰のあたりから何やらシミのようなものが滲みだしたが、敢えて見なかったことにする。
スキルなんて無くてもとか言ったそばから即スキル発動とか、こいつもなかなか良い根性してるなぁ。
さすが1つの世界でてっぺん獲っただけはある。
「フラン、ルージュ殿を玉座までお連れしろ! 我々も後退だ!」
「了解ですわ!」
金髪縦ロールの女が胸を押さえて苦しむルージュを担ぎ後退し、バレンティンがその援護に回る。
女騎士がルージュを抱える際、嫌そうな顔したのがとても印象的だった。
0
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる