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196話 魔狼の牙
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騎士たちが結界内にこもってからは、遠距離からの攻撃スキルや魔法が七色の光となって飛び交う射撃戦に移行した。
しかし、基本的に攻撃手段が魔法しかないこちらの攻撃は、玉座に付与さえれた魔法無効化能力に阻まれてしまう。
逆に向こうの攻撃も俺が生み出した強力な電磁バリアで空間ごと屈折して被害は皆無であった。
こうして派手な見た目と騒音に反し、互いに決め手の欠く泥仕合の様相を呈しいた。
『団長ダメです、こちらの攻撃がすべて曲げられます!』
『一体何なんだあのライトニングウォールは、普通ではないぞ!』
『うろたえるな。あれほど強力な防御結界だ、長時間維持できるとはとても思えん。皆攻撃の手を緩めるな! セドア、ル-ジュ殿の意識は戻られたか?』
『いいえまだです!』
『引き続き回復魔法をかけ続けろ』
手持ちの魔法蓄電池の残数を確認していると、バレンティン達の念話を傍受する。
砲撃戦でギンヌンガガプはかき消され、ルージュもいつ復活するかわからないのも困りものだ。
早々にケリをつけなければ。
そのルージュの胸に仕込んだ魔力塊の爆弾だが、結界に阻まれて心臓がもげるか魔力塊そのものが消えるかすると思ったが、どっちでもなく単純に制御下から外れてしまった。
ちっ、いざとなったら心臓ワシ掴みにしてやろうと思ったのに。
『こちら救護班、負傷者の回復が完了しました!』
『なら次は結界の外の負傷者へ回復魔法だ!』
『はっ!』
結界に逃げ込めず仲間に見捨てられた男たちへ、ようやく救済の手が入ろうとする。
当然俺としては彼らが戦線に復帰されては面倒なことになるだけなため、先手を打つべく負傷者を魔法の紐で縛り、ワープゲートで迷宮監獄に落としていく。
すると、結界に逃げ込んでいた騎士の1人が激昂を露わにした。
「貴様、皆をどこへやったのだ!」
「どうこうされて怒るくらいなら、最初から仲間を見捨てるな!」
文句なら戦況の流れを読み違えた責任者か、見捨てる指示を出した張本人に言え。
「それとも、あいつらの命が惜しければ降伏しろって言った方が良かったか?」
「なっ、負傷者を人質にするのか!? 卑怯者め、相対した者への敬意が貴様には無いのか!」
「卑怯者って、ついさっき俺に全く同じ要求をしたヤツが居たけど何言ってんの? なぁランペール?」
話を振られたウィッシュタニアの王太子は、そんなものは無かったと言わんばかりにすまし顔で俺を見下している。
「しかも人質は俺とは面識もない無関係の女性を使ってたような気がするんだけど? まだ脅してもいないのに示唆しただけで無礼だ卑怯だって言われるんだから、抵抗もできない女性を人質にしてた奴はどうなんよ? ほら言ってみ? 無礼&卑怯以下のヤツとその配下たちに向って言ってみ?」
「あれらは貴様の放ったスパイであるとすでに調べがついている! 殿下を貴様のような卑怯者と一緒にするでない!」
正論でマウント取りに行ったらまさかの濡れ衣な上に罵られた!?
奴隷の、しかも亜人種の女が、国家に対して何をどうやったら諜報活動ができるのか、今後の参考までにぜひ教えてほしい。
てか俺ですら容易に気付く矛盾を、責任のある立場のこいつらが信じちゃったわけか。
どんだけ目ん玉節穴なんだよ。
だが彼女たちが俺のスパイではない証拠がそもそも存在しないので、ここでその言い合いをしたって平行線でしかない。
「ヤツの挑発に乗せられるなテスロット。異世界の者に武人の何たるかが理解でると思うのか?」
バレンティンも侮蔑の眼差しをこちらに向けながら部下を諫めた。
国内の治安の悪化を放置し、その原因であるランペールたち第一王子派に与しておいて何が武人だ。
ましてやいい歳した大人とこんなくだらない口喧嘩をしているんだから、敬意を払って敬語を使っていたことが馬鹿らしくなる。
「なにが〝武人のなんたるか〟だ、えっらそうに。人としてクズの集まりが、一生結界に引きこもってガクブル震えてろ!」
「言わせておけば!」
こちらの挑発的な言葉に、怒りに満ちた騎士たちの攻撃が苛烈さを増す。
電磁結界の維持MPも馬鹿にならない、ここで終わりにさせてもらおうか。
ライシーン第五迷宮で〈魔滅の守護環〉に苦戦した経験から編み出した、魔法無効化に対する切り札を投入する。
「お前らがこもってる〈魔法絶対通さないバリア〉、そんなもので俺の攻撃魔法をいつまでもシャットアウトできると思ったら大間違いだ!」
槍を手放しすぐ隣りで浮かせると、収納袋様に突っ込んだ手に紐をひっかけて6つ取り出したのは、紐の先端からぶら下がる10センチ程の両面円錐形のアダマンタイト製の鋭利な錘(重り)だった。
電磁バリアによって湾曲した空間をワープゲートを開くことで射線を確保すると、左手を前方に突き出し弾速強化魔法を五重展開!
「〈フェンリル〉!」
ウィッシュタニア人が密集した場所に魔狼の名と共に放った金属の塊は、俺の手元を離れた途端に弾速強化が多重に重なり一瞬で音速を超えると、目の前で〝ブババババンッ!〟と空気を打つ大きな音を6つ連ねて姿を消した。
それらが次に姿を現したのは、ランペールたちの背後の壁に穿った穴の中だった。
投擲地点から着弾地点の間に居たフル武装の戦士たちが、ワンテンポ遅れて周囲に肉片や血しぶきを上げて後方に吹き飛ぶ。
対魔法防御対策に開発された〈フェンリル〉だが、元々アイシクルスピアの先端に金属片を取り付けて打ち出す方法で構想していた。
そこにシンくんが『〈ブリットスピード〉が使えるなら、そのまま鉄球みたいなのを投げた方が早いんじゃないですか?』の言葉にヒントを得て完成を迎えた。
その威力は御覧の通り、魔狼の牙は分厚い防壁スキルを易々と食い破り、一度に十数名の命を刈り取る凶暴性を遺憾なく発揮した。
「なん、だ……!?」
「我々は今、なにをされたのだ……?」
両面円錐に触れた者が次々と倒れ、それを目の当たりにしてもなお、自分達がどういった攻撃を受けているのか解らないといった面持ちのウィッシュタニアの戦士たち。
だがそんなものはお構いなしと、全く同じ金属を同じ数取り出し同じ動作でランペールとルージュだけを避けるように魔力で誘導して投げつけた。
アダマンタイト製の流星錘モドキが、特殊鋼製の鎧を紙の如く易々と貫通する。
それが貫通弾を用いたブロック崩しを連想させ、そのブロックに当たる部分が人間であるところに胸糞の悪さで頭をかきむしりたくなる。
こんなの人のやって良い所業じゃない。
しかしここに突入する直前、元ウィッシュタニア地方貴族の青年が話してくれた内容と涙する光景を思い出すと、今ここでこいつらを粛清しておかなければこの国の各地でより悲惨な死が蔓延する。
それを止めるためだというなら、この程度の汚れ役、いくらでも引き受けてやる。
こみ上げる吐き気を堪えながら、そのまま投擲を続行し、一方的な蹂躙は死傷者を増産し続けた。
「このままではヴィクトル将軍が戻られる前に……!」
「ええい、ヴィクトルは何をしている!」
部下の呻きと主君の言葉から、全滅の危機に焦りを見せるバレンティン。
苛立つランペールが念話で救援要請を送り続けるも、当然その念話は妨害魔法に阻まれ外部へは繋がらない。
『総員、突貫準備! なんとしても奴を仕留めるぞ!』
『『『はっ!』』』
『――突貫!』
「ギンヌンガガプ!」
近衛騎士団長の命令で騎士や兵士たちが突撃を開始するも、傍受した念話からタイミングを合わせて再び魔力の淀みを展開する。
「小癪な小僧め、同じ手が通用するほど我々は甘くはないぞい!」
老魔法使いが他の魔法使いたちが高出力の魔砲撃を乱射して空間を満たしていた魔力を払い、戦士たちの道を作る。
「デニン老、感謝する!」
高速移動してきたバレンティンとその部下たちに素早く取り囲まれた。
残りのマナバッテリーの少なさから全周囲に電磁結界を張る余裕もなく、このまま中途半端に維持していても近接戦闘では視界不良と注意力散漫となりかねないため、しかたなく結界を解除した。
おそらくそれを見越しての全力突貫か、戦いなれしたベテランは厄介極まりない。
「はぁっ!」
抜き身の剣で上から切りかかって来た男の太ももに斬撃短槍で浅く突き、バランスを崩した所へ翻した槍の石突きで額を殴打。
その衝撃で男は頭と足の位置が入れ替わるほど綺麗なもんどりを打ち、俺の後方に抜け顔面から着地した。
続いて向かって来た男の人中に石突きの底を打ち付けて悶絶させる。
それを押しのけ2人の兵士が斧と短槍で攻撃して来たので槍を支点に顔の高さまで飛び上がり、それぞれの顔面に足の裏をプレゼントしてやる。
もんどり2人目&3人目っと。
浮き上がった体を飛行魔法で地面に着地したところに、兵士のおかわりが4人同時に2メートルほどの槍を突き出した。
俺の槍より柄が長いからって舐め過ぎだ!
槍の穂先に紫の巨刃を生み出すと、相手の間合いの更に外側からまとめて横一文字に斬りつけ胴体から二分割にしてやった。
プラズマで炭化した傷口から内臓が飛び散る光景に、嫌悪感で一瞬体が強張る。
分かれた人体の隙間から、白く輝くレーザーブレードを握りしめた中年騎士の姿が目に飛び込む。
そんなブラインド殺法、常時全周囲索敵発動状態の俺に通用するかよ!
「紫電一閃!」
高敏捷に身体強化魔法と足の裏で炸裂させたファイヤーボールの合わせ技から生み出された超加速で、バレンティンの脇を通り抜け様に斬りつける。
稲妻の刃にレーザーブレードを当てられ何度目かの相殺がなされるも、雷刃の下にはアダマンタイトの実刃がある。
渾身の斬撃がバレンティンの脇に吸い込まれ勝ちを確信したが、その手応えは一切なく見事にスカった。
目測を誤った!?
更に左手のロングソードが振り抜かれるのを、危険を感じて大きく飛び退く。
完全に躱したはずの斬撃に魔法装甲をわずかに切り裂かれ、その事実に冷や汗と驚愕が混ざりあう。
驚きに目を見開くが、直ぐに原因は判明する。
目視で見た奴の身体の位置が、フリズスキャールヴでは10センチほど右にズレていたのだ。
幻影? 認識阻害?
……あ、モーディーンさんが使っていた〈ミラージュステップ〉か。
ミラージュステップは確か半歩から5歩程先の任意空間に自身の姿を投射し、気配や音などの存在感も投射した側に移すことであたかもそこに居ると思わせる幻惑スキルだ。
本体側も他人からは存在が認識できなくなるため、近接戦闘では極めて厄介なスキルである。
バレンティンが左手のロングソードで反撃してくるのを大きく後方に下がり間合いをとると、後ろから斬りかかって来た兵士に振り向きもせず蹴り飛ばす。
「騎士の癖にシーフ系最上級職のミラージュステップまで使うのか」
視界に映る奴にではなく、索敵魔法で捕らえた実体の方へ目を向け言葉を投げる。
「これも見破るかよ。なら次は――」
上段に構えたスターセイバーから再び光刃を生み出すと、射程外から振りぬいた。
振り抜かれた光刃は三日月状の刃となって飛来、それをギリギリで躱すが〈魔滅の守護環〉が発動しなかったことから、アレは魔法扱いでは無いのだと認識する。
それを間髪入れずに連射してくるのだから始末に負えない。
騎士とは思えない異常なまでの敏捷性、視界ズラしの小技に中距離をカバーする連射可能な飛び道具。
ここに来て魔滅の守護環で無効化出来ない高威力の飛び道具はきつすぎる。
どう考えても純粋な戦闘力だけならアキヤやルージュよりもやばいだろ。
光刃を躱していると、光刃を放つタイミングが不自然な間があることに気が付く。
周辺状況と照らし合わせると、俺の後ろに居る兵たちの隙間を縫うように放っていると確信した。
あの光刃、同じPT仲間の同士撃ち無効ルールは適用されないのか。
だったら。
わざと射線内に敵を入れる立ち回りをしたが、常にそういった位置取りをするのは容易でなく、少しでも外れると抜け目なく光刃が飛んでくるのが実にいやらしい。
「鬱陶しい、ちょっとコイツと遊んでろ!」
たまらず収納袋様から自動追尾魔法を付与した投擲ナイフを複数射出。
物理オールレンジ攻撃としてバレンティンを襲わせる。
「厄介な攻撃を次から次へと、貴様の育った国には本当に戦は無かったのか?」
「戦争は無くても戦闘に触れる機会は多いんでね」
主に創作の中だけど。
忌々しそうに、だがどこか楽し気でもある口調のバレンティンが、左手に握られたロングソードを高速で振り回しナイフを弾く。
こちらも軽口で返しながらもバカデカ包丁を持った女騎士の豪快なスイングをバックステップで避け、後ろに回り込んでいた兵士にノールックからの槍で横殴り。
俺の動きを封じようと近付く〈影踏み〉装備の男騎士を、足元から射出した石柱で打ち上げた。
その間もバレンティンは飛来するナイフを捌きながら、光刃を打ち出し部下たちの援護に余念が無い。
部下たちもその恩恵を最大限に受けるべく、射線に入らない立ち回りを心掛けていた。
忍び寄る金糸が身体に巻き着く前に炎で焼き払い、戦鎚を振り上げた大男の足を槍で払い、転ばせたところを金髪縦ロールの女騎士へ向けて蹴り飛ばす。
包丁女の追撃を内側に潜り込み体当たりで潰すと、その腕を掴んで魔法使いの集団へ力任せに放り投げた。
男騎士が攻撃スキルの乗った刺突を繰り出したのを槍で横から叩いて反らし、連撃となる左ハイキックを側頭部へ打ち込む。
ハイキックで回転する体を止めずに飛び跳ねてバレンティンからの光刃を躱し、光刃の追撃も飛行魔法で姿勢制御し空中へ放物線を描いて逃れた。
騎士たちが着地場予定の場所に走ってくるのを視界と索敵魔法の両方で捕らえる。
あ、それはもろたで工藤。
「〈フレズヴェルク〉!」
白鷲を模した特大の凍結榴弾魔法が、騎士たちが集結した地点に炸裂させる。
離れて居たバレンティンこそ巻き込めなかったが、騎士たちを分厚い氷の中に閉じ込めた。
「後ろの引きこもり共を除けば残りはあんただけだ、バレンティン」
「玩具の相手をさせられている間に俺の部下を一網打尽とは、まったくもって恐れ入る」
丁度スローイングナイフの最後の1本をキャッチしたバレンティンへ、挑発の言葉を放つ。
「だが彼らも氷に閉じ込められた程度で死ぬようなたまではない。悪いがしばらくはそのままでいて貰おう。俺の邪魔にならんためにもな」
「それもそうだな」
結局一対一に戻るのか。
多対一ではバレンティンの射線を切る障害物にもなったが、居たら居たでバレンティンに集中できない上に不確定要素となりえたため、その点では目の前の男に同意する。
「類い稀なる戦闘センスに空間認識力、人を殺すことに躊躇いの無い残虐性、ここで殺してしまうには実に惜しい」
殺気混じりの褒め言葉が、俺の感情を逆なでする。
「お前らが人の家にならず者をよこさなければ、俺は人を殺す覚悟なんて持たなかった。それを棚上げして〝殺すのに躊躇いが無い〟とか、一体どの口でほざきやがる」
なにが〝殺すには惜しい〟だ。殺意駄々洩れで説得力が無さすぎなんだよ。
嫌悪感から自分でも信じられないほどの怒りがこみ上げ、目の前の男が強敵ではなく、ただの排除対象になり下がる。
余りの怒りで吐き気がこみ上げるのをこらえるも、膨れ上がる殺意は抑えきれない。
「死なんて程度に殺してやろうと思ったけど、そこで転がってる肉片の仲間入りにさせてやる」
「そいつは楽しみだ。だが戯れ言は俺を殺してからにするのだな、死んだあとに大言壮語の身の程知らずなどと誹りは受けたくなかろう?」
「この時点でそっちはたった1人に精鋭が壊滅させられたって誹りを免れ無いと思うけどな」
「ふっ、こいつは一本取られた。ではそれをせしめたお前の血で汚名を濯ぐとしよう」
バレンティンが左手に握っていたロングソードを床に捨てると、懐中電灯のような見た目のアーティファクトを両手で握り込む。
「スターセイバー・フルバースト!」
バレンティンの持つ金属の柄がまばゆい光が放ち、今まで感じたことのない力の奔流が吹き荒れる。
全身がざわつき圧力でたまらず後ずさる。
あれはやばい。
全力で行かないと確実に殺られる類いの攻撃が来るぞ。
覚悟を決めて歯を食いしばり、光から覗くバレンティンの獰猛な笑みを睨み返す。
「小僧、貴様の全力を俺に見せてみろ!」
「言われなくてもそのつもりだ、銀の腕よ!」
自身の魔力に残りのマナバッテリーに蓄えられたすべての魔力を上乗せし、右腕に必殺の光を顕現させた。
しかし、基本的に攻撃手段が魔法しかないこちらの攻撃は、玉座に付与さえれた魔法無効化能力に阻まれてしまう。
逆に向こうの攻撃も俺が生み出した強力な電磁バリアで空間ごと屈折して被害は皆無であった。
こうして派手な見た目と騒音に反し、互いに決め手の欠く泥仕合の様相を呈しいた。
『団長ダメです、こちらの攻撃がすべて曲げられます!』
『一体何なんだあのライトニングウォールは、普通ではないぞ!』
『うろたえるな。あれほど強力な防御結界だ、長時間維持できるとはとても思えん。皆攻撃の手を緩めるな! セドア、ル-ジュ殿の意識は戻られたか?』
『いいえまだです!』
『引き続き回復魔法をかけ続けろ』
手持ちの魔法蓄電池の残数を確認していると、バレンティン達の念話を傍受する。
砲撃戦でギンヌンガガプはかき消され、ルージュもいつ復活するかわからないのも困りものだ。
早々にケリをつけなければ。
そのルージュの胸に仕込んだ魔力塊の爆弾だが、結界に阻まれて心臓がもげるか魔力塊そのものが消えるかすると思ったが、どっちでもなく単純に制御下から外れてしまった。
ちっ、いざとなったら心臓ワシ掴みにしてやろうと思ったのに。
『こちら救護班、負傷者の回復が完了しました!』
『なら次は結界の外の負傷者へ回復魔法だ!』
『はっ!』
結界に逃げ込めず仲間に見捨てられた男たちへ、ようやく救済の手が入ろうとする。
当然俺としては彼らが戦線に復帰されては面倒なことになるだけなため、先手を打つべく負傷者を魔法の紐で縛り、ワープゲートで迷宮監獄に落としていく。
すると、結界に逃げ込んでいた騎士の1人が激昂を露わにした。
「貴様、皆をどこへやったのだ!」
「どうこうされて怒るくらいなら、最初から仲間を見捨てるな!」
文句なら戦況の流れを読み違えた責任者か、見捨てる指示を出した張本人に言え。
「それとも、あいつらの命が惜しければ降伏しろって言った方が良かったか?」
「なっ、負傷者を人質にするのか!? 卑怯者め、相対した者への敬意が貴様には無いのか!」
「卑怯者って、ついさっき俺に全く同じ要求をしたヤツが居たけど何言ってんの? なぁランペール?」
話を振られたウィッシュタニアの王太子は、そんなものは無かったと言わんばかりにすまし顔で俺を見下している。
「しかも人質は俺とは面識もない無関係の女性を使ってたような気がするんだけど? まだ脅してもいないのに示唆しただけで無礼だ卑怯だって言われるんだから、抵抗もできない女性を人質にしてた奴はどうなんよ? ほら言ってみ? 無礼&卑怯以下のヤツとその配下たちに向って言ってみ?」
「あれらは貴様の放ったスパイであるとすでに調べがついている! 殿下を貴様のような卑怯者と一緒にするでない!」
正論でマウント取りに行ったらまさかの濡れ衣な上に罵られた!?
奴隷の、しかも亜人種の女が、国家に対して何をどうやったら諜報活動ができるのか、今後の参考までにぜひ教えてほしい。
てか俺ですら容易に気付く矛盾を、責任のある立場のこいつらが信じちゃったわけか。
どんだけ目ん玉節穴なんだよ。
だが彼女たちが俺のスパイではない証拠がそもそも存在しないので、ここでその言い合いをしたって平行線でしかない。
「ヤツの挑発に乗せられるなテスロット。異世界の者に武人の何たるかが理解でると思うのか?」
バレンティンも侮蔑の眼差しをこちらに向けながら部下を諫めた。
国内の治安の悪化を放置し、その原因であるランペールたち第一王子派に与しておいて何が武人だ。
ましてやいい歳した大人とこんなくだらない口喧嘩をしているんだから、敬意を払って敬語を使っていたことが馬鹿らしくなる。
「なにが〝武人のなんたるか〟だ、えっらそうに。人としてクズの集まりが、一生結界に引きこもってガクブル震えてろ!」
「言わせておけば!」
こちらの挑発的な言葉に、怒りに満ちた騎士たちの攻撃が苛烈さを増す。
電磁結界の維持MPも馬鹿にならない、ここで終わりにさせてもらおうか。
ライシーン第五迷宮で〈魔滅の守護環〉に苦戦した経験から編み出した、魔法無効化に対する切り札を投入する。
「お前らがこもってる〈魔法絶対通さないバリア〉、そんなもので俺の攻撃魔法をいつまでもシャットアウトできると思ったら大間違いだ!」
槍を手放しすぐ隣りで浮かせると、収納袋様に突っ込んだ手に紐をひっかけて6つ取り出したのは、紐の先端からぶら下がる10センチ程の両面円錐形のアダマンタイト製の鋭利な錘(重り)だった。
電磁バリアによって湾曲した空間をワープゲートを開くことで射線を確保すると、左手を前方に突き出し弾速強化魔法を五重展開!
「〈フェンリル〉!」
ウィッシュタニア人が密集した場所に魔狼の名と共に放った金属の塊は、俺の手元を離れた途端に弾速強化が多重に重なり一瞬で音速を超えると、目の前で〝ブババババンッ!〟と空気を打つ大きな音を6つ連ねて姿を消した。
それらが次に姿を現したのは、ランペールたちの背後の壁に穿った穴の中だった。
投擲地点から着弾地点の間に居たフル武装の戦士たちが、ワンテンポ遅れて周囲に肉片や血しぶきを上げて後方に吹き飛ぶ。
対魔法防御対策に開発された〈フェンリル〉だが、元々アイシクルスピアの先端に金属片を取り付けて打ち出す方法で構想していた。
そこにシンくんが『〈ブリットスピード〉が使えるなら、そのまま鉄球みたいなのを投げた方が早いんじゃないですか?』の言葉にヒントを得て完成を迎えた。
その威力は御覧の通り、魔狼の牙は分厚い防壁スキルを易々と食い破り、一度に十数名の命を刈り取る凶暴性を遺憾なく発揮した。
「なん、だ……!?」
「我々は今、なにをされたのだ……?」
両面円錐に触れた者が次々と倒れ、それを目の当たりにしてもなお、自分達がどういった攻撃を受けているのか解らないといった面持ちのウィッシュタニアの戦士たち。
だがそんなものはお構いなしと、全く同じ金属を同じ数取り出し同じ動作でランペールとルージュだけを避けるように魔力で誘導して投げつけた。
アダマンタイト製の流星錘モドキが、特殊鋼製の鎧を紙の如く易々と貫通する。
それが貫通弾を用いたブロック崩しを連想させ、そのブロックに当たる部分が人間であるところに胸糞の悪さで頭をかきむしりたくなる。
こんなの人のやって良い所業じゃない。
しかしここに突入する直前、元ウィッシュタニア地方貴族の青年が話してくれた内容と涙する光景を思い出すと、今ここでこいつらを粛清しておかなければこの国の各地でより悲惨な死が蔓延する。
それを止めるためだというなら、この程度の汚れ役、いくらでも引き受けてやる。
こみ上げる吐き気を堪えながら、そのまま投擲を続行し、一方的な蹂躙は死傷者を増産し続けた。
「このままではヴィクトル将軍が戻られる前に……!」
「ええい、ヴィクトルは何をしている!」
部下の呻きと主君の言葉から、全滅の危機に焦りを見せるバレンティン。
苛立つランペールが念話で救援要請を送り続けるも、当然その念話は妨害魔法に阻まれ外部へは繋がらない。
『総員、突貫準備! なんとしても奴を仕留めるぞ!』
『『『はっ!』』』
『――突貫!』
「ギンヌンガガプ!」
近衛騎士団長の命令で騎士や兵士たちが突撃を開始するも、傍受した念話からタイミングを合わせて再び魔力の淀みを展開する。
「小癪な小僧め、同じ手が通用するほど我々は甘くはないぞい!」
老魔法使いが他の魔法使いたちが高出力の魔砲撃を乱射して空間を満たしていた魔力を払い、戦士たちの道を作る。
「デニン老、感謝する!」
高速移動してきたバレンティンとその部下たちに素早く取り囲まれた。
残りのマナバッテリーの少なさから全周囲に電磁結界を張る余裕もなく、このまま中途半端に維持していても近接戦闘では視界不良と注意力散漫となりかねないため、しかたなく結界を解除した。
おそらくそれを見越しての全力突貫か、戦いなれしたベテランは厄介極まりない。
「はぁっ!」
抜き身の剣で上から切りかかって来た男の太ももに斬撃短槍で浅く突き、バランスを崩した所へ翻した槍の石突きで額を殴打。
その衝撃で男は頭と足の位置が入れ替わるほど綺麗なもんどりを打ち、俺の後方に抜け顔面から着地した。
続いて向かって来た男の人中に石突きの底を打ち付けて悶絶させる。
それを押しのけ2人の兵士が斧と短槍で攻撃して来たので槍を支点に顔の高さまで飛び上がり、それぞれの顔面に足の裏をプレゼントしてやる。
もんどり2人目&3人目っと。
浮き上がった体を飛行魔法で地面に着地したところに、兵士のおかわりが4人同時に2メートルほどの槍を突き出した。
俺の槍より柄が長いからって舐め過ぎだ!
槍の穂先に紫の巨刃を生み出すと、相手の間合いの更に外側からまとめて横一文字に斬りつけ胴体から二分割にしてやった。
プラズマで炭化した傷口から内臓が飛び散る光景に、嫌悪感で一瞬体が強張る。
分かれた人体の隙間から、白く輝くレーザーブレードを握りしめた中年騎士の姿が目に飛び込む。
そんなブラインド殺法、常時全周囲索敵発動状態の俺に通用するかよ!
「紫電一閃!」
高敏捷に身体強化魔法と足の裏で炸裂させたファイヤーボールの合わせ技から生み出された超加速で、バレンティンの脇を通り抜け様に斬りつける。
稲妻の刃にレーザーブレードを当てられ何度目かの相殺がなされるも、雷刃の下にはアダマンタイトの実刃がある。
渾身の斬撃がバレンティンの脇に吸い込まれ勝ちを確信したが、その手応えは一切なく見事にスカった。
目測を誤った!?
更に左手のロングソードが振り抜かれるのを、危険を感じて大きく飛び退く。
完全に躱したはずの斬撃に魔法装甲をわずかに切り裂かれ、その事実に冷や汗と驚愕が混ざりあう。
驚きに目を見開くが、直ぐに原因は判明する。
目視で見た奴の身体の位置が、フリズスキャールヴでは10センチほど右にズレていたのだ。
幻影? 認識阻害?
……あ、モーディーンさんが使っていた〈ミラージュステップ〉か。
ミラージュステップは確か半歩から5歩程先の任意空間に自身の姿を投射し、気配や音などの存在感も投射した側に移すことであたかもそこに居ると思わせる幻惑スキルだ。
本体側も他人からは存在が認識できなくなるため、近接戦闘では極めて厄介なスキルである。
バレンティンが左手のロングソードで反撃してくるのを大きく後方に下がり間合いをとると、後ろから斬りかかって来た兵士に振り向きもせず蹴り飛ばす。
「騎士の癖にシーフ系最上級職のミラージュステップまで使うのか」
視界に映る奴にではなく、索敵魔法で捕らえた実体の方へ目を向け言葉を投げる。
「これも見破るかよ。なら次は――」
上段に構えたスターセイバーから再び光刃を生み出すと、射程外から振りぬいた。
振り抜かれた光刃は三日月状の刃となって飛来、それをギリギリで躱すが〈魔滅の守護環〉が発動しなかったことから、アレは魔法扱いでは無いのだと認識する。
それを間髪入れずに連射してくるのだから始末に負えない。
騎士とは思えない異常なまでの敏捷性、視界ズラしの小技に中距離をカバーする連射可能な飛び道具。
ここに来て魔滅の守護環で無効化出来ない高威力の飛び道具はきつすぎる。
どう考えても純粋な戦闘力だけならアキヤやルージュよりもやばいだろ。
光刃を躱していると、光刃を放つタイミングが不自然な間があることに気が付く。
周辺状況と照らし合わせると、俺の後ろに居る兵たちの隙間を縫うように放っていると確信した。
あの光刃、同じPT仲間の同士撃ち無効ルールは適用されないのか。
だったら。
わざと射線内に敵を入れる立ち回りをしたが、常にそういった位置取りをするのは容易でなく、少しでも外れると抜け目なく光刃が飛んでくるのが実にいやらしい。
「鬱陶しい、ちょっとコイツと遊んでろ!」
たまらず収納袋様から自動追尾魔法を付与した投擲ナイフを複数射出。
物理オールレンジ攻撃としてバレンティンを襲わせる。
「厄介な攻撃を次から次へと、貴様の育った国には本当に戦は無かったのか?」
「戦争は無くても戦闘に触れる機会は多いんでね」
主に創作の中だけど。
忌々しそうに、だがどこか楽し気でもある口調のバレンティンが、左手に握られたロングソードを高速で振り回しナイフを弾く。
こちらも軽口で返しながらもバカデカ包丁を持った女騎士の豪快なスイングをバックステップで避け、後ろに回り込んでいた兵士にノールックからの槍で横殴り。
俺の動きを封じようと近付く〈影踏み〉装備の男騎士を、足元から射出した石柱で打ち上げた。
その間もバレンティンは飛来するナイフを捌きながら、光刃を打ち出し部下たちの援護に余念が無い。
部下たちもその恩恵を最大限に受けるべく、射線に入らない立ち回りを心掛けていた。
忍び寄る金糸が身体に巻き着く前に炎で焼き払い、戦鎚を振り上げた大男の足を槍で払い、転ばせたところを金髪縦ロールの女騎士へ向けて蹴り飛ばす。
包丁女の追撃を内側に潜り込み体当たりで潰すと、その腕を掴んで魔法使いの集団へ力任せに放り投げた。
男騎士が攻撃スキルの乗った刺突を繰り出したのを槍で横から叩いて反らし、連撃となる左ハイキックを側頭部へ打ち込む。
ハイキックで回転する体を止めずに飛び跳ねてバレンティンからの光刃を躱し、光刃の追撃も飛行魔法で姿勢制御し空中へ放物線を描いて逃れた。
騎士たちが着地場予定の場所に走ってくるのを視界と索敵魔法の両方で捕らえる。
あ、それはもろたで工藤。
「〈フレズヴェルク〉!」
白鷲を模した特大の凍結榴弾魔法が、騎士たちが集結した地点に炸裂させる。
離れて居たバレンティンこそ巻き込めなかったが、騎士たちを分厚い氷の中に閉じ込めた。
「後ろの引きこもり共を除けば残りはあんただけだ、バレンティン」
「玩具の相手をさせられている間に俺の部下を一網打尽とは、まったくもって恐れ入る」
丁度スローイングナイフの最後の1本をキャッチしたバレンティンへ、挑発の言葉を放つ。
「だが彼らも氷に閉じ込められた程度で死ぬようなたまではない。悪いがしばらくはそのままでいて貰おう。俺の邪魔にならんためにもな」
「それもそうだな」
結局一対一に戻るのか。
多対一ではバレンティンの射線を切る障害物にもなったが、居たら居たでバレンティンに集中できない上に不確定要素となりえたため、その点では目の前の男に同意する。
「類い稀なる戦闘センスに空間認識力、人を殺すことに躊躇いの無い残虐性、ここで殺してしまうには実に惜しい」
殺気混じりの褒め言葉が、俺の感情を逆なでする。
「お前らが人の家にならず者をよこさなければ、俺は人を殺す覚悟なんて持たなかった。それを棚上げして〝殺すのに躊躇いが無い〟とか、一体どの口でほざきやがる」
なにが〝殺すには惜しい〟だ。殺意駄々洩れで説得力が無さすぎなんだよ。
嫌悪感から自分でも信じられないほどの怒りがこみ上げ、目の前の男が強敵ではなく、ただの排除対象になり下がる。
余りの怒りで吐き気がこみ上げるのをこらえるも、膨れ上がる殺意は抑えきれない。
「死なんて程度に殺してやろうと思ったけど、そこで転がってる肉片の仲間入りにさせてやる」
「そいつは楽しみだ。だが戯れ言は俺を殺してからにするのだな、死んだあとに大言壮語の身の程知らずなどと誹りは受けたくなかろう?」
「この時点でそっちはたった1人に精鋭が壊滅させられたって誹りを免れ無いと思うけどな」
「ふっ、こいつは一本取られた。ではそれをせしめたお前の血で汚名を濯ぐとしよう」
バレンティンが左手に握っていたロングソードを床に捨てると、懐中電灯のような見た目のアーティファクトを両手で握り込む。
「スターセイバー・フルバースト!」
バレンティンの持つ金属の柄がまばゆい光が放ち、今まで感じたことのない力の奔流が吹き荒れる。
全身がざわつき圧力でたまらず後ずさる。
あれはやばい。
全力で行かないと確実に殺られる類いの攻撃が来るぞ。
覚悟を決めて歯を食いしばり、光から覗くバレンティンの獰猛な笑みを睨み返す。
「小僧、貴様の全力を俺に見せてみろ!」
「言われなくてもそのつもりだ、銀の腕よ!」
自身の魔力に残りのマナバッテリーに蓄えられたすべての魔力を上乗せし、右腕に必殺の光を顕現させた。
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