四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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198話 老将の秘策

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 最悪の状況に、真っ先に浮かんだのは逃亡だった。
 だが逃げるにしても、バレンティンと同等と言われている男が加速魔法も使えなくなった今の俺を見逃すとはとても思えない。
 悠然とした足取りでランペールの元へ歩むヴィクトルの周囲は、魔法剣が不規則に動きまわる。
 剣から耳障りな振動音が響くことから、それが振動剣バイブレーションソードであると疑う余地もない。

 並みの魔法では傷1つ付かないこの城の壁を余裕で切り裂く切れ味の剣が7本。
 しかもそれらを独立して動かせるだけのコントロール力は洒落にならんぞ。

 その動きを目で追っていると、バレンティンが宝具スターセイバーを腰に収め、一度は床に捨てたロングソードを拾いなおした。

 いや、まだ不敗の魔剣クラウ・ソラスがある内は最悪にはほど遠い。
 光弾これで剣諸共まとめて蹂躙じゅうりんしてやる!

 死中に活を求め、魔法で出来た全身鎧を解除しMPに変換すると、クラウ・ソラスの維持に回す。
 
「見よパトリック。あやつの眼、まるで手負いの獣ではないか。下手に手を出せば逆にこちらが食われかねんわい」
「肌を突き刺すような殺意ですな。どれ程の死線を潜り抜ければあのような眼になるのやら」

 鋭い眼光の老将に、精悍せいかんな騎士が相槌を打つ。
 2人だけでなく背後に続く騎士たちからも、いかにも叩き上げといった印象を感じる。
 自然体でありながら隙の無いたたずまいとからして、集団がかなりの猛者であると確信する。
 だがその人数は20名ほどと、ここを出て行った時と比べて明らかに少なかった。

 1人1人がモーディーンさん並みの達人だと仮定すると、ガス欠状態で勝てるビジョンが浮かばない。
 厳しい状況に震える指を握りこぶしに変えて誤魔化す中、老将は賞賛と期待の歓声を受けながら悠々と歩みを進め、ランペールの元へたどり着く。

「遅いぞヴィクトル、何をやっていた!」
「これは申し訳ありません殿下。必勝の準備が整いましたので急ぎせ参じました」

 玉座から立ち上がったランペールに、ヴィクトルがうやうやしく臣下の礼を示した。

 歩いてここまで来ておきながら急いだとはこれいかに。
 それにランペールの言う通り、これ程遅い到着では、挟撃するには機をいっしている。
 せっかく挟撃するのなら、バレンティンが全力を出し切る前か、あるいはルージュが戦闘継続状態でなければならなかった。
 それらを犠牲にしてでもする準備とは一体何なのか。

「おぉ、この状況をくつがえす秘策があると申すか?!」
「覆すと申しますか、終わらせる手段ですな」

 とぼけた口調でそうのたまうと、ヴィクトルの左アッパーがランペールのあごにめり込んでいた。
 下顎が陥没かんぼつし、天井付近まで上昇する金髪の美男子。
 あまりの唐突さに思考が停止してしまい、予備動作のないアッパーで人間が10メートル以上も昇る光景に感動さえ覚えてしまった。

「いかんいかん、つい殺してしまうところであった」
「気でも触れたかヴィクトルよ!」

 老魔法使いが叫びながら魔法を発動させるより速く、ヴィクトルの周囲に浮遊していた魔法剣が老人の首に突き付けられた。
 残りの魔法剣もバレンティンに急接近するなり切っ先を向けて旋回し、先んじて動きを封じる。
 背中から床に着地したランペールに騎士が馬乗りになり、首輪と手かせをはめた。

「ウッシュタニアの騎士たちよ、悪虐にして愚劣なるランペール王太子はこのヴィクトルが捕らえた! 疲弊したおぬしらでは抵抗は無意味、神妙に縛につけ!」

 老将の後より現れたフル武装の騎士たちが、騎士や魔法使い達に詰め寄り得物と突き付けた。
 騒然とする場の成り行きを注視しながら、ランペールの首にはめられた首輪を鑑定眼にかけると、〈魔封じの首輪〉と記されていた。

 首輪程度で魔法が封じられるのか、便利なものがあるもんだなぁ。

 効果を確認すると〝装着者が魔法を使用すると首輪が爆発する〟とあった。

 魔法そのものを封じるんじゃなく、魔法を使わせない方向での封じ方なのね。

「これはどういうことですかな、ヴィクトル殿」
「どうもこうも見ての通りだ、バレンティンよ」
「遅れて戻ってきた挙句あげく、我々が劣勢れっせいと知り寝返ったか!」
「劣勢だから寝返ったのではない。たとえアイヴィナーゼの勇者殿が破れようと、もとよりこうするつもりであった」

 激高するバレンティンにヴィクトルが静かな声音で返しているが、この部屋で一番殺意を漲らせているのは間違いなくこの老人であると肌で感じる。

「どういうことか、俺も聞かせてもらえるか?」
 
 ヴィクトルとバレンティンの会話に割って入ったのは、俺のすぐ隣に開いたワープゲートから現れたエルネスト第三王子だった。
 同じワープゲートで入ってきたリシア達が俺の周りに集結した。

「では、この者らを捕縛次第ご説明いたしましょう」 

 好々爺といった笑みを浮かべてそう告げるヴィクトルの後ろでは、金髪縦ロールの女騎士が連行されていくランペールに泣いて縋りつき、それをヴィクトルの部下たちが引き剥がす。

 それが俺が置いて行かれてる感と相まって、まるで場違いな喜劇を観させられているようでとてもシュールに思えた。
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