210 / 254
198話 老将の秘策
しおりを挟む
最悪の状況に、真っ先に浮かんだのは逃亡だった。
だが逃げるにしても、バレンティンと同等と言われている男が加速魔法も使えなくなった今の俺を見逃すとはとても思えない。
悠然とした足取りでランペールの元へ歩むヴィクトルの周囲は、魔法剣が不規則に動きまわる。
剣から耳障りな振動音が響くことから、それが振動剣であると疑う余地もない。
並みの魔法では傷1つ付かないこの城の壁を余裕で切り裂く切れ味の剣が7本。
しかもそれらを独立して動かせるだけのコントロール力は洒落にならんぞ。
その動きを目で追っていると、バレンティンが宝具スターセイバーを腰に収め、一度は床に捨てたロングソードを拾いなおした。
いや、まだ不敗の魔剣がある内は最悪にはほど遠い。
光弾で剣諸共まとめて蹂躙してやる!
死中に活を求め、魔法で出来た全身鎧を解除しMPに変換すると、クラウ・ソラスの維持に回す。
「見よパトリック。あやつの眼、まるで手負いの獣ではないか。下手に手を出せば逆にこちらが食われかねんわい」
「肌を突き刺すような殺意ですな。どれ程の死線を潜り抜ければあのような眼になるのやら」
鋭い眼光の老将に、精悍な騎士が相槌を打つ。
2人だけでなく背後に続く騎士たちからも、いかにも叩き上げといった印象を感じる。
自然体でありながら隙の無い佇まいとからして、集団がかなりの猛者であると確信する。
だがその人数は20名ほどと、ここを出て行った時と比べて明らかに少なかった。
1人1人がモーディーンさん並みの達人だと仮定すると、ガス欠状態で勝てるビジョンが浮かばない。
厳しい状況に震える指を握りこぶしに変えて誤魔化す中、老将は賞賛と期待の歓声を受けながら悠々と歩みを進め、ランペールの元へたどり着く。
「遅いぞヴィクトル、何をやっていた!」
「これは申し訳ありません殿下。必勝の準備が整いましたので急ぎ馳せ参じました」
玉座から立ち上がったランペールに、ヴィクトルが恭しく臣下の礼を示した。
歩いてここまで来ておきながら急いだとはこれいかに。
それにランペールの言う通り、これ程遅い到着では、挟撃するには機を逸している。
せっかく挟撃するのなら、バレンティンが全力を出し切る前か、あるいはルージュが戦闘継続状態でなければならなかった。
それらを犠牲にしてでもする準備とは一体何なのか。
「おぉ、この状況を覆す秘策があると申すか?!」
「覆すと申しますか、終わらせる手段ですな」
とぼけた口調でそうのたまうと、ヴィクトルの左アッパーがランペールの顎にめり込んでいた。
下顎が陥没し、天井付近まで上昇する金髪の美男子。
あまりの唐突さに思考が停止してしまい、予備動作のないアッパーで人間が10メートル以上も昇る光景に感動さえ覚えてしまった。
「いかんいかん、つい殺してしまうところであった」
「気でも触れたかヴィクトルよ!」
老魔法使いが叫びながら魔法を発動させるより速く、ヴィクトルの周囲に浮遊していた魔法剣が老人の首に突き付けられた。
残りの魔法剣もバレンティンに急接近するなり切っ先を向けて旋回し、先んじて動きを封じる。
背中から床に着地したランペールに騎士が馬乗りになり、首輪と手枷をはめた。
「ウッシュタニアの騎士たちよ、悪虐にして愚劣なるランペール王太子はこのヴィクトルが捕らえた! 疲弊したおぬしらでは抵抗は無意味、神妙に縛につけ!」
老将の後より現れたフル武装の騎士たちが、騎士や魔法使い達に詰め寄り得物と突き付けた。
騒然とする場の成り行きを注視しながら、ランペールの首にはめられた首輪を鑑定眼にかけると、〈魔封じの首輪〉と記されていた。
首輪程度で魔法が封じられるのか、便利なものがあるもんだなぁ。
効果を確認すると〝装着者が魔法を使用すると首輪が爆発する〟とあった。
魔法そのものを封じるんじゃなく、魔法を使わせない方向での封じ方なのね。
「これはどういうことですかな、ヴィクトル殿」
「どうもこうも見ての通りだ、バレンティンよ」
「遅れて戻ってきた挙句、我々が劣勢と知り寝返ったか!」
「劣勢だから寝返ったのではない。たとえアイヴィナーゼの勇者殿が破れようと、もとよりこうするつもりであった」
激高するバレンティンにヴィクトルが静かな声音で返しているが、この部屋で一番殺意を漲らせているのは間違いなくこの老人であると肌で感じる。
「どういうことか、俺も聞かせてもらえるか?」
ヴィクトルとバレンティンの会話に割って入ったのは、俺のすぐ隣に開いたワープゲートから現れたエルネスト第三王子だった。
同じワープゲートで入ってきたリシア達が俺の周りに集結した。
「では、この者らを捕縛次第ご説明いたしましょう」
好々爺といった笑みを浮かべてそう告げるヴィクトルの後ろでは、金髪縦ロールの女騎士が連行されていくランペールに泣いて縋りつき、それをヴィクトルの部下たちが引き剥がす。
それが俺が置いて行かれてる感と相まって、まるで場違いな喜劇を観させられているようでとてもシュールに思えた。
だが逃げるにしても、バレンティンと同等と言われている男が加速魔法も使えなくなった今の俺を見逃すとはとても思えない。
悠然とした足取りでランペールの元へ歩むヴィクトルの周囲は、魔法剣が不規則に動きまわる。
剣から耳障りな振動音が響くことから、それが振動剣であると疑う余地もない。
並みの魔法では傷1つ付かないこの城の壁を余裕で切り裂く切れ味の剣が7本。
しかもそれらを独立して動かせるだけのコントロール力は洒落にならんぞ。
その動きを目で追っていると、バレンティンが宝具スターセイバーを腰に収め、一度は床に捨てたロングソードを拾いなおした。
いや、まだ不敗の魔剣がある内は最悪にはほど遠い。
光弾で剣諸共まとめて蹂躙してやる!
死中に活を求め、魔法で出来た全身鎧を解除しMPに変換すると、クラウ・ソラスの維持に回す。
「見よパトリック。あやつの眼、まるで手負いの獣ではないか。下手に手を出せば逆にこちらが食われかねんわい」
「肌を突き刺すような殺意ですな。どれ程の死線を潜り抜ければあのような眼になるのやら」
鋭い眼光の老将に、精悍な騎士が相槌を打つ。
2人だけでなく背後に続く騎士たちからも、いかにも叩き上げといった印象を感じる。
自然体でありながら隙の無い佇まいとからして、集団がかなりの猛者であると確信する。
だがその人数は20名ほどと、ここを出て行った時と比べて明らかに少なかった。
1人1人がモーディーンさん並みの達人だと仮定すると、ガス欠状態で勝てるビジョンが浮かばない。
厳しい状況に震える指を握りこぶしに変えて誤魔化す中、老将は賞賛と期待の歓声を受けながら悠々と歩みを進め、ランペールの元へたどり着く。
「遅いぞヴィクトル、何をやっていた!」
「これは申し訳ありません殿下。必勝の準備が整いましたので急ぎ馳せ参じました」
玉座から立ち上がったランペールに、ヴィクトルが恭しく臣下の礼を示した。
歩いてここまで来ておきながら急いだとはこれいかに。
それにランペールの言う通り、これ程遅い到着では、挟撃するには機を逸している。
せっかく挟撃するのなら、バレンティンが全力を出し切る前か、あるいはルージュが戦闘継続状態でなければならなかった。
それらを犠牲にしてでもする準備とは一体何なのか。
「おぉ、この状況を覆す秘策があると申すか?!」
「覆すと申しますか、終わらせる手段ですな」
とぼけた口調でそうのたまうと、ヴィクトルの左アッパーがランペールの顎にめり込んでいた。
下顎が陥没し、天井付近まで上昇する金髪の美男子。
あまりの唐突さに思考が停止してしまい、予備動作のないアッパーで人間が10メートル以上も昇る光景に感動さえ覚えてしまった。
「いかんいかん、つい殺してしまうところであった」
「気でも触れたかヴィクトルよ!」
老魔法使いが叫びながら魔法を発動させるより速く、ヴィクトルの周囲に浮遊していた魔法剣が老人の首に突き付けられた。
残りの魔法剣もバレンティンに急接近するなり切っ先を向けて旋回し、先んじて動きを封じる。
背中から床に着地したランペールに騎士が馬乗りになり、首輪と手枷をはめた。
「ウッシュタニアの騎士たちよ、悪虐にして愚劣なるランペール王太子はこのヴィクトルが捕らえた! 疲弊したおぬしらでは抵抗は無意味、神妙に縛につけ!」
老将の後より現れたフル武装の騎士たちが、騎士や魔法使い達に詰め寄り得物と突き付けた。
騒然とする場の成り行きを注視しながら、ランペールの首にはめられた首輪を鑑定眼にかけると、〈魔封じの首輪〉と記されていた。
首輪程度で魔法が封じられるのか、便利なものがあるもんだなぁ。
効果を確認すると〝装着者が魔法を使用すると首輪が爆発する〟とあった。
魔法そのものを封じるんじゃなく、魔法を使わせない方向での封じ方なのね。
「これはどういうことですかな、ヴィクトル殿」
「どうもこうも見ての通りだ、バレンティンよ」
「遅れて戻ってきた挙句、我々が劣勢と知り寝返ったか!」
「劣勢だから寝返ったのではない。たとえアイヴィナーゼの勇者殿が破れようと、もとよりこうするつもりであった」
激高するバレンティンにヴィクトルが静かな声音で返しているが、この部屋で一番殺意を漲らせているのは間違いなくこの老人であると肌で感じる。
「どういうことか、俺も聞かせてもらえるか?」
ヴィクトルとバレンティンの会話に割って入ったのは、俺のすぐ隣に開いたワープゲートから現れたエルネスト第三王子だった。
同じワープゲートで入ってきたリシア達が俺の周りに集結した。
「では、この者らを捕縛次第ご説明いたしましょう」
好々爺といった笑みを浮かべてそう告げるヴィクトルの後ろでは、金髪縦ロールの女騎士が連行されていくランペールに泣いて縋りつき、それをヴィクトルの部下たちが引き剥がす。
それが俺が置いて行かれてる感と相まって、まるで場違いな喜劇を観させられているようでとてもシュールに思えた。
0
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる