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219話 礼拝堂の惨事
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勇者7人に取り囲まれた影剣さんとガーランド。
だが相手も警戒してか、攻めるに攻められないといった様子。
『このままじゃ埒が明かねぇ、エイタ、死なない身体になってんだからお前が行け』
『また俺っスか!? そりゃないっスよシュウジさん、俺シュウジさんみたいにどんな攻撃でも防ぐスキルとかもってないんスから、いくら死なないって言ってもシャドウセイバーと正面張って戦うなんて無理っスよ! ここに1人で来るのだってマジヤバいんスから、次は他の奴の番じゃないんスか?』
『しょうがねぇなぁ。じゃぁタカナシ、お前が行け』
『え、俺も嫌ですよ。あ、オオグリとカキハタに行かせればいいんじゃないですか? 2人がどれくらい強いか見てみたいし』
『は? お前俺様のこと舐めてんのか?』
『何ならお前からヤってやんぞあぁ?!』
『あ、いや、そういう訳じゃ……』
などと誰が先に行くかを押し付け合い、終いには内輪もめが始める始末。
茶髪に縦長顔のオオグリとくすんだ金髪にやや目が離れた魚顔のカキハタ。
両者とも見た感じは高校生くらいだが、自分を俺様呼びしてるのがDQN臭い。
タカナシくんもビビるくらいならんなこと言わなきゃいいのに……。
『言動がヤカラでやってることは年端もいかぬ子供のそれでござるな』
『チンピラが童の如くカゴメカゴメってか? 気持ち悪すぎて付き合いきれんな』
『まったくでござる。拙者たちはお暇いたすとしよう』
『だな』
『逃げるのか?!』
そんなやり取りを見させられていた囲まれている側の2人が心底しらけ切った口調でその場を去ろうとすると、オオグリが大声を上げる。
咄嗟に出た言葉がそれってどうなんだ?
『逃げるも何も、なぁ?』
『うむ。お主らの出来の悪いコントを見せつけられれば誰だって逃げたくもなるでござる』
『コントだと!?』
『幼稚園児のお遊戯以下のものが、コントでなければ茶番としか言えぬでござるな』
至極真面目といった様子で告げられたカキハタが、握りこぶしをプルプルさせて俯いた。
『よもやキレてしまったでござるか?』
『いやいや、流石に今時アレでキレるガキなんて居るはずがないだろ?』
『くふふ、でござるよな? まったく、このような茶番に付き合わされる拙者たちの身にもなるでござる。そういうのは水族館のお魚仲間たちだけでやってもらいたいものでござるな。デュフフ』
影剣さんとガーランドが談笑のフリでこれでもかと煽る煽る。
相手の怒りを煽って冷静さを奪いミスを誘うのなんて常套手段。
そもそも先に煽ってきたのは向こうなので、やられても文句は言えないはずだ。
だが釣られてしまうのが若さ故か。
ゆっくりと面を上げたカキハタの顔には血管が浮かび、怒りで真っ赤に歪んでいた。
『テメェ、俺のことを魚って言いやがったな? 久々にキレちまったぜ。もう誰が先とか関係無ぇ、俺様が直々に引導を渡してやる!』
カキハタが手にしていた片手剣を捨てると、代わりに鉄パイプにしか見えない物体を取り出した。
先端の湾曲具合からしても製品の精度的に間違いなく地球で作られた鉄パイプ、ってかよく見たら手元の所にバ-コードシール貼ってるし。
てことはあれ完全に〈勇者の遺物〉だな。
勇者の遺物はこの世界に来た際にそいつが身に着けていた物品にユニークスキルと同等の性能が宿る反則級の壊れアイテム。
相手に奪われる危険はあるが、MPも消費せず即死効果を有したり光の刃を生成出来たりするため極めて凶悪な物品だ。
『最初から飛ばして行くぜ!〈バトルオーラ〉、〈クイックスピード〉!』
『来るでござるぞガーランド!〈剛力招来〉、〈急々如律令〉!』
『分かっている! 〈バトルオーラ〉、〈クイックスピード〉〈グロリアス〉、〈ブレッシング〉、〈サンクチュアリ〉、〈ホーリープロテクション〉!』
『俺たちも行くぞ!』
全員が近接系最強の身体強化と速度増加スキルを同時に発動させ、ガーランドがそれに加えて神聖魔法を重ねていく。
影剣さんのは忍者っぽく陰陽師系の技名だったけど、見た感じバトルオーラとクイックスピードだな。
小さなところで忍者っぽさへのこだわりの強さを感じる。
『オラァ!』
『キャッスルウォール!』
カキハタがその場で威勢良く鉄パイプを振り下ろされると、影剣さんその軌道上から素早く離れ、ガーランドが防御スキルを発動させる。
それと同時に影剣さんたちが居た空間で〝パンっ!〟と鈍い打撃音が発生し、ガーランドの体を何かが打ち据えた。
『がはっ!?』
その瞬間、奴の攻撃を察した俺の背筋が凍る。
「その場に居ながら攻撃を目標の空間に発生させる能力か?」
「おぉ、一目見て看破するとはさすがねこ殿でござるな」
「俺も避けりゃよかったぜ」
「お主の戦闘スタイルは固い防御で前線を支えるタンクゆえ、受けようとしたのは間違いではござらんよ」
影剣さんが妙なテンションで俺を褒め、ガーランドが後悔を滲ませる。
初見であの攻撃は、うちのメイン盾であるククでも食らっていたんじゃないだろうか。
もちろん多重防御魔法を使う俺もだが。
けどこれは厄介過ぎないか?
射程がどれくらいかは分からないけど、攻撃モーションから攻撃発生までのタイムラグがゼロなのは普通にヤバ過ぎだろ。
目視可能な距離ならまずやられると思っておいても良さそうだ。
『遠当ての類でござるな』
『どこに居てもその場から攻撃が可能って訳か、やってくれるな!』
『どの道ナオキ殿の〈唯我独尊〉同様、攻撃モーションで判断して躱すだけでござる』
『俺も次からそうするさ』
『オラオラオラァー! ガンガン行くぜぇ!』
カキハタが乱打で攻撃を重ね、影剣さんが壁を、ガーランドも礼拝堂の長イスの背もたれの上を走って逃げる。
時折その打撃が味方撃ちするも、〝同じPTの仲間への攻撃は効果が無い〟この世界のルールで無効化された。
『馬鹿みたいに撃ちまくりやがって!』
『全くもって見境なしでござるな』
『怖気づいてももう遅ぇんだよ!』
だがここでガーランドがその遠当て攻撃をわざと左腕で受けると、盾が大きな打撃音を発した。
下手をすれば腕が潰されていただけに、危険な確認方法だ。
『打撃が防具を超えて浸透するのか。だが覚悟して受ければ耐えられない威力ではないな』
余裕を口にするガーランドへ男たちが群がるも、足を止めガーランドが剣と盾で守りに徹し攻撃を防ぎ、さばききれなくなると防御スキルで押し返した。
影剣さんも壁を走りながら全体を俯瞰し、要所要所でクナイや手裏剣を投げて攻撃を引き付けるガーランドの援護に回る。
『こいつも食らってまだそんなこと言えたら褒めてやるよ、〈ギガントクラッシュ〉!』
カキハタが俺が聞いたことのない技名を叫びながら鉄パイプを大上段から振り下ろすと、上からの超圧力がガーランドを中心に石の床と長イスを粉砕した。
『ぐおっ!』
バキバキに破壊された床に踏ん張り、膝を付くことなくなんとか持ちこたえたガーランド。
見た感じ遠当てには攻撃スキルの威力も上乗せできるようだ。
回復魔法をつかうガーランドへ、ナオキと呼ばれた青年が剣に光を宿して斬りかかった。
『グランド――』
『やらせぬでござるよナオキ殿』
『うおっと!?』
影剣さんの棒手裏剣の投擲に、ナオキと呼ばれた青年が慌てて飛びのく。
ナオキは攻撃に入るとその動きを阻害されず、放たれた攻撃はユニークスキル〈唯我独尊〉の持ち主だ。
影剣さんの手裏剣は、妨害できないなら本人に攻撃を停止させるという発想からだろう。
『それと、死なぬお主はそこで一生寝ているでござる』
1人戦闘に参加することなく様子を窺っていたエイタが、顔面に無数の棒手裏剣を生やしてゆっくりと後方に倒れた。
本日4度目の致命傷である。
影剣さんが攻撃を放ったのは、おそらくナオキへ牽制を入れたタイミングであろう。
乱戦中に相手に認識されなくなるスキル〈認識阻害〉なんて厄介極まりないので、俺がこの場に居ても同じことするわ。
『それだけ深く刺されば戦闘中に抜くことも叶わぬでござる』
『ちっ、だが調子に乗るなよ忍者野郎!』
壁から地面に着地してまた床を蹴る影剣さんに、勇者の1人がその動きに食らいつき剣撃を浴びせまくる。
目まぐるしく立ち位置を変えながらの殺し合いは、映像を視聴するこちらも精神加速をしなければ目が追いつかないほどの超スピードだった。
『製造系スキル持ちのタカキ殿が前に出てくるとは意外でござるな。大人しく工房でディバイントルーパーの鎧を作成していれば良いものを……。6人の中でもお主はややまともだと思っていたが、やはり危機認識が足りぬ類いでござったか』
『うるせぇ、俺のスキルは戦闘でも強えんだよ!』
タカキと呼ばれた青年は、自身が言う様に正面から影剣さんと刃を交えるほどの剣技を披露し、無なにも無い空間方剣を生成して打ち出した。
しかしそこは影剣さん。
まともにやり合おうとはせず、俊敏な身のこなしや癇癪玉を破裂させるなどの目くらましで距離を開けると、オーラを纏わせた手裏剣を四方八方に投げつけ勇者たち全員を強襲。
殆どの者が回避に専念する中、シュウジと呼ばれた男だけがその場に留まり球体の防御膜を展開して防ぐ。
シュウジは確かどんな攻撃でも防ぐ〈絶対防御〉だったか。
俺もマナを使って戦ってる以上、世界のルールとして絶対防御は打ち破れないんだろうなぁ。
激しく続くバトルを眺めながら絶対防御の対策を模索していると、映像の中で動きがあった。
『タカキはそのまま忍者野郎を抑えておけ! シュウジ、俺を守れ! オオグリ、アレをやるぞ! 他はガーランドをボコり続けろ!』
『わかった』
『良いぜ、やってやんよ!』
ナオキが状況を一変させるための指示を出すと、それに呼応してそれぞれが動く。
影剣さんがそれらの阻止に向おうとするも、タカキが猛攻を仕掛け自由に動けず。
隙を見て寝起きを狙って投擲したクナイもシュウジによって阻まれた。
その間にもオオグリが剣にエネルギーを集めるナオキの背後に回ってその背中に手をかざす。
『影分身の術!』
2人に分かれた影剣さんが無理やりタカキの圧力から無理やり逃れるも、ナオキの刀身に既に凶悪なまでに神々しいオーラを宿していた。
その狙いはもちろん足を止めて奮戦するガーランドだ。
攻撃の阻止は間に合わないと判断した影剣さんが、超速の動きでガーランドへ走る。
『グランド―――』
剣を振りかぶるナオキ。
影剣さんがギリギリでガーランドの元に到達すると、その勢いのまま突き飛ばした。
『―――インパクト!』
ナオキより放たれた極光が、影剣さんの片腕を巻き込んで礼拝堂の壁を粉砕し、礼拝堂の外へと流れた。
逃れた2人の先にはワープゲートがあり、飛び込んだワープゲートから我が家の納屋に飛び込んだ。
「とまぁこんな感じでござるな」
「グランドインパクトって確かウォーリアー系の最上位職〈グラディエイター〉の放射スキルだったよね? あんな凶悪な射程と威力だったっけ?」
「直線にオオグリって奴が何かやって居ただろ? あれがナオキの攻撃をブーストしたのではないと思う」
俺の疑問の声にガーランドが腕を組んだままそう言った。
力をブーストするユニークスキルに目標の空間を直接攻撃できるアーティファクトか、ぽっと湧いて出たクセに2人とも厄介な能力を持ってやがるな。
……ん?
「あの鉄パイプをナオキが持ってオオグリがブーストしたら普通に反則レベルなんじゃ?」
「う”っ!?」
「確かにその組み合わせは凶悪でござるな」
俺の気付きにガーランドが顔をしかめて呻き、影剣さんも渋い顔をした。
その影剣さんが急に何かに反応して黙り込むと、沈痛な表情と共に小さいが重たい溜息を吐く。
「今バラドリンドに潜伏中の忍び衆から連絡が入ったでござる。先程のナオキどっ――、こほん。ナオキの攻撃で、礼拝堂の外では多数の死傷者が出たそうでござる」
「確かあの方角には住宅地があったはずだ……。野郎、自分の攻撃の直線状になにがあるのかも分からないのか!」
連絡を受けていた影剣さんが先程以上に顔をしかめて報告すると、ガーランドがナオキの非常識さにブチギレる。
ナオキから敬称を外したのは、よっぽど腹に据えかねたのだろう。
わかった上でやっている可能性もあるけどな。
「じゃが、奴らがしでかしたことをネタにバラドリンドの勇者共を糾弾してやれば、奴らの居場所が無くなるのではないのかえ?」
「そうしたいのはやまやまですがご婦人、おそらく教会側が今回のこと全てを俺たちの仕業に仕立て上げるでしょうな」
イルミナさんの言葉にガーランドが悔しげに答えた。
まぁそうだわな。
「ビラ撒きで明るみになった汚職で落ちた教会の権威と求心力を取り戻すって意味じゃぁ、今回のことを影剣さんたちのせいにするのが3分クッキング並みにお手軽簡単だからなぁ」
「そのビラ撒きで訴えようにも警邏が増えたゆえ、中止せざるを得ないでござる」
影剣さんがビラ撒き作戦の中止を示唆する。
「ではこの映像記録を証拠に公開裁判をして、公の場に晒してはどうでしゅか?」
「無実の潔白を証明するという意味ではそれしかないでござる――が、拙者らに証言されては困る向こう側としては、素直に裁判などさせてはくれぬでござろうな」
「ノコノコと出て行こうものなら奴らにとっ捕まって一方的に断罪され、大広場で火あぶりになるのがオチだろうさ。神殿騎士団の団長だった俺が言うんだ、全財産を賭けても良いぜ」
フィローラの問いに影剣さんとガーランドが辟易といった様子で肩をすくめる。
そうならない方に賭ける奴が現れないので賭けにならないやつや。
「つまり、御2人の名誉を晴らすには、戦争に勝利しバラドリンド教会の力を削いでから裁判に持ち込むしかないという訳ですな」
「その通りでござるユニス殿」
人馬の娘に頷く影剣さん。
「だが俺たちの名誉なんて二の次だ。ただ奴らには関係のない人たちにまで被害を出した落とし前だけはきっちりととらせてやる……!」
憤怒に燃える男が報復を誓う。
「結局戦争に勝たないとどうにもならないのか……」
「その通りですわトシオ様。アイヴィナーゼの未来のため、そしてわたくしたちの愛のためにも、トシオ様が此度の戦に勝利すると信じておりますわ!」
ずいぶんと打算にまみれた愛があったもんだなぁ。
てかガーランドの真面目な誓いが台無しですやん……。
いつの間にか湧いて出たクラウディア王女が自信満々高らかに焚きつけてくるのを、俺はモヤモヤしながらも生暖かい目で見守った。
だが相手も警戒してか、攻めるに攻められないといった様子。
『このままじゃ埒が明かねぇ、エイタ、死なない身体になってんだからお前が行け』
『また俺っスか!? そりゃないっスよシュウジさん、俺シュウジさんみたいにどんな攻撃でも防ぐスキルとかもってないんスから、いくら死なないって言ってもシャドウセイバーと正面張って戦うなんて無理っスよ! ここに1人で来るのだってマジヤバいんスから、次は他の奴の番じゃないんスか?』
『しょうがねぇなぁ。じゃぁタカナシ、お前が行け』
『え、俺も嫌ですよ。あ、オオグリとカキハタに行かせればいいんじゃないですか? 2人がどれくらい強いか見てみたいし』
『は? お前俺様のこと舐めてんのか?』
『何ならお前からヤってやんぞあぁ?!』
『あ、いや、そういう訳じゃ……』
などと誰が先に行くかを押し付け合い、終いには内輪もめが始める始末。
茶髪に縦長顔のオオグリとくすんだ金髪にやや目が離れた魚顔のカキハタ。
両者とも見た感じは高校生くらいだが、自分を俺様呼びしてるのがDQN臭い。
タカナシくんもビビるくらいならんなこと言わなきゃいいのに……。
『言動がヤカラでやってることは年端もいかぬ子供のそれでござるな』
『チンピラが童の如くカゴメカゴメってか? 気持ち悪すぎて付き合いきれんな』
『まったくでござる。拙者たちはお暇いたすとしよう』
『だな』
『逃げるのか?!』
そんなやり取りを見させられていた囲まれている側の2人が心底しらけ切った口調でその場を去ろうとすると、オオグリが大声を上げる。
咄嗟に出た言葉がそれってどうなんだ?
『逃げるも何も、なぁ?』
『うむ。お主らの出来の悪いコントを見せつけられれば誰だって逃げたくもなるでござる』
『コントだと!?』
『幼稚園児のお遊戯以下のものが、コントでなければ茶番としか言えぬでござるな』
至極真面目といった様子で告げられたカキハタが、握りこぶしをプルプルさせて俯いた。
『よもやキレてしまったでござるか?』
『いやいや、流石に今時アレでキレるガキなんて居るはずがないだろ?』
『くふふ、でござるよな? まったく、このような茶番に付き合わされる拙者たちの身にもなるでござる。そういうのは水族館のお魚仲間たちだけでやってもらいたいものでござるな。デュフフ』
影剣さんとガーランドが談笑のフリでこれでもかと煽る煽る。
相手の怒りを煽って冷静さを奪いミスを誘うのなんて常套手段。
そもそも先に煽ってきたのは向こうなので、やられても文句は言えないはずだ。
だが釣られてしまうのが若さ故か。
ゆっくりと面を上げたカキハタの顔には血管が浮かび、怒りで真っ赤に歪んでいた。
『テメェ、俺のことを魚って言いやがったな? 久々にキレちまったぜ。もう誰が先とか関係無ぇ、俺様が直々に引導を渡してやる!』
カキハタが手にしていた片手剣を捨てると、代わりに鉄パイプにしか見えない物体を取り出した。
先端の湾曲具合からしても製品の精度的に間違いなく地球で作られた鉄パイプ、ってかよく見たら手元の所にバ-コードシール貼ってるし。
てことはあれ完全に〈勇者の遺物〉だな。
勇者の遺物はこの世界に来た際にそいつが身に着けていた物品にユニークスキルと同等の性能が宿る反則級の壊れアイテム。
相手に奪われる危険はあるが、MPも消費せず即死効果を有したり光の刃を生成出来たりするため極めて凶悪な物品だ。
『最初から飛ばして行くぜ!〈バトルオーラ〉、〈クイックスピード〉!』
『来るでござるぞガーランド!〈剛力招来〉、〈急々如律令〉!』
『分かっている! 〈バトルオーラ〉、〈クイックスピード〉〈グロリアス〉、〈ブレッシング〉、〈サンクチュアリ〉、〈ホーリープロテクション〉!』
『俺たちも行くぞ!』
全員が近接系最強の身体強化と速度増加スキルを同時に発動させ、ガーランドがそれに加えて神聖魔法を重ねていく。
影剣さんのは忍者っぽく陰陽師系の技名だったけど、見た感じバトルオーラとクイックスピードだな。
小さなところで忍者っぽさへのこだわりの強さを感じる。
『オラァ!』
『キャッスルウォール!』
カキハタがその場で威勢良く鉄パイプを振り下ろされると、影剣さんその軌道上から素早く離れ、ガーランドが防御スキルを発動させる。
それと同時に影剣さんたちが居た空間で〝パンっ!〟と鈍い打撃音が発生し、ガーランドの体を何かが打ち据えた。
『がはっ!?』
その瞬間、奴の攻撃を察した俺の背筋が凍る。
「その場に居ながら攻撃を目標の空間に発生させる能力か?」
「おぉ、一目見て看破するとはさすがねこ殿でござるな」
「俺も避けりゃよかったぜ」
「お主の戦闘スタイルは固い防御で前線を支えるタンクゆえ、受けようとしたのは間違いではござらんよ」
影剣さんが妙なテンションで俺を褒め、ガーランドが後悔を滲ませる。
初見であの攻撃は、うちのメイン盾であるククでも食らっていたんじゃないだろうか。
もちろん多重防御魔法を使う俺もだが。
けどこれは厄介過ぎないか?
射程がどれくらいかは分からないけど、攻撃モーションから攻撃発生までのタイムラグがゼロなのは普通にヤバ過ぎだろ。
目視可能な距離ならまずやられると思っておいても良さそうだ。
『遠当ての類でござるな』
『どこに居てもその場から攻撃が可能って訳か、やってくれるな!』
『どの道ナオキ殿の〈唯我独尊〉同様、攻撃モーションで判断して躱すだけでござる』
『俺も次からそうするさ』
『オラオラオラァー! ガンガン行くぜぇ!』
カキハタが乱打で攻撃を重ね、影剣さんが壁を、ガーランドも礼拝堂の長イスの背もたれの上を走って逃げる。
時折その打撃が味方撃ちするも、〝同じPTの仲間への攻撃は効果が無い〟この世界のルールで無効化された。
『馬鹿みたいに撃ちまくりやがって!』
『全くもって見境なしでござるな』
『怖気づいてももう遅ぇんだよ!』
だがここでガーランドがその遠当て攻撃をわざと左腕で受けると、盾が大きな打撃音を発した。
下手をすれば腕が潰されていただけに、危険な確認方法だ。
『打撃が防具を超えて浸透するのか。だが覚悟して受ければ耐えられない威力ではないな』
余裕を口にするガーランドへ男たちが群がるも、足を止めガーランドが剣と盾で守りに徹し攻撃を防ぎ、さばききれなくなると防御スキルで押し返した。
影剣さんも壁を走りながら全体を俯瞰し、要所要所でクナイや手裏剣を投げて攻撃を引き付けるガーランドの援護に回る。
『こいつも食らってまだそんなこと言えたら褒めてやるよ、〈ギガントクラッシュ〉!』
カキハタが俺が聞いたことのない技名を叫びながら鉄パイプを大上段から振り下ろすと、上からの超圧力がガーランドを中心に石の床と長イスを粉砕した。
『ぐおっ!』
バキバキに破壊された床に踏ん張り、膝を付くことなくなんとか持ちこたえたガーランド。
見た感じ遠当てには攻撃スキルの威力も上乗せできるようだ。
回復魔法をつかうガーランドへ、ナオキと呼ばれた青年が剣に光を宿して斬りかかった。
『グランド――』
『やらせぬでござるよナオキ殿』
『うおっと!?』
影剣さんの棒手裏剣の投擲に、ナオキと呼ばれた青年が慌てて飛びのく。
ナオキは攻撃に入るとその動きを阻害されず、放たれた攻撃はユニークスキル〈唯我独尊〉の持ち主だ。
影剣さんの手裏剣は、妨害できないなら本人に攻撃を停止させるという発想からだろう。
『それと、死なぬお主はそこで一生寝ているでござる』
1人戦闘に参加することなく様子を窺っていたエイタが、顔面に無数の棒手裏剣を生やしてゆっくりと後方に倒れた。
本日4度目の致命傷である。
影剣さんが攻撃を放ったのは、おそらくナオキへ牽制を入れたタイミングであろう。
乱戦中に相手に認識されなくなるスキル〈認識阻害〉なんて厄介極まりないので、俺がこの場に居ても同じことするわ。
『それだけ深く刺されば戦闘中に抜くことも叶わぬでござる』
『ちっ、だが調子に乗るなよ忍者野郎!』
壁から地面に着地してまた床を蹴る影剣さんに、勇者の1人がその動きに食らいつき剣撃を浴びせまくる。
目まぐるしく立ち位置を変えながらの殺し合いは、映像を視聴するこちらも精神加速をしなければ目が追いつかないほどの超スピードだった。
『製造系スキル持ちのタカキ殿が前に出てくるとは意外でござるな。大人しく工房でディバイントルーパーの鎧を作成していれば良いものを……。6人の中でもお主はややまともだと思っていたが、やはり危機認識が足りぬ類いでござったか』
『うるせぇ、俺のスキルは戦闘でも強えんだよ!』
タカキと呼ばれた青年は、自身が言う様に正面から影剣さんと刃を交えるほどの剣技を披露し、無なにも無い空間方剣を生成して打ち出した。
しかしそこは影剣さん。
まともにやり合おうとはせず、俊敏な身のこなしや癇癪玉を破裂させるなどの目くらましで距離を開けると、オーラを纏わせた手裏剣を四方八方に投げつけ勇者たち全員を強襲。
殆どの者が回避に専念する中、シュウジと呼ばれた男だけがその場に留まり球体の防御膜を展開して防ぐ。
シュウジは確かどんな攻撃でも防ぐ〈絶対防御〉だったか。
俺もマナを使って戦ってる以上、世界のルールとして絶対防御は打ち破れないんだろうなぁ。
激しく続くバトルを眺めながら絶対防御の対策を模索していると、映像の中で動きがあった。
『タカキはそのまま忍者野郎を抑えておけ! シュウジ、俺を守れ! オオグリ、アレをやるぞ! 他はガーランドをボコり続けろ!』
『わかった』
『良いぜ、やってやんよ!』
ナオキが状況を一変させるための指示を出すと、それに呼応してそれぞれが動く。
影剣さんがそれらの阻止に向おうとするも、タカキが猛攻を仕掛け自由に動けず。
隙を見て寝起きを狙って投擲したクナイもシュウジによって阻まれた。
その間にもオオグリが剣にエネルギーを集めるナオキの背後に回ってその背中に手をかざす。
『影分身の術!』
2人に分かれた影剣さんが無理やりタカキの圧力から無理やり逃れるも、ナオキの刀身に既に凶悪なまでに神々しいオーラを宿していた。
その狙いはもちろん足を止めて奮戦するガーランドだ。
攻撃の阻止は間に合わないと判断した影剣さんが、超速の動きでガーランドへ走る。
『グランド―――』
剣を振りかぶるナオキ。
影剣さんがギリギリでガーランドの元に到達すると、その勢いのまま突き飛ばした。
『―――インパクト!』
ナオキより放たれた極光が、影剣さんの片腕を巻き込んで礼拝堂の壁を粉砕し、礼拝堂の外へと流れた。
逃れた2人の先にはワープゲートがあり、飛び込んだワープゲートから我が家の納屋に飛び込んだ。
「とまぁこんな感じでござるな」
「グランドインパクトって確かウォーリアー系の最上位職〈グラディエイター〉の放射スキルだったよね? あんな凶悪な射程と威力だったっけ?」
「直線にオオグリって奴が何かやって居ただろ? あれがナオキの攻撃をブーストしたのではないと思う」
俺の疑問の声にガーランドが腕を組んだままそう言った。
力をブーストするユニークスキルに目標の空間を直接攻撃できるアーティファクトか、ぽっと湧いて出たクセに2人とも厄介な能力を持ってやがるな。
……ん?
「あの鉄パイプをナオキが持ってオオグリがブーストしたら普通に反則レベルなんじゃ?」
「う”っ!?」
「確かにその組み合わせは凶悪でござるな」
俺の気付きにガーランドが顔をしかめて呻き、影剣さんも渋い顔をした。
その影剣さんが急に何かに反応して黙り込むと、沈痛な表情と共に小さいが重たい溜息を吐く。
「今バラドリンドに潜伏中の忍び衆から連絡が入ったでござる。先程のナオキどっ――、こほん。ナオキの攻撃で、礼拝堂の外では多数の死傷者が出たそうでござる」
「確かあの方角には住宅地があったはずだ……。野郎、自分の攻撃の直線状になにがあるのかも分からないのか!」
連絡を受けていた影剣さんが先程以上に顔をしかめて報告すると、ガーランドがナオキの非常識さにブチギレる。
ナオキから敬称を外したのは、よっぽど腹に据えかねたのだろう。
わかった上でやっている可能性もあるけどな。
「じゃが、奴らがしでかしたことをネタにバラドリンドの勇者共を糾弾してやれば、奴らの居場所が無くなるのではないのかえ?」
「そうしたいのはやまやまですがご婦人、おそらく教会側が今回のこと全てを俺たちの仕業に仕立て上げるでしょうな」
イルミナさんの言葉にガーランドが悔しげに答えた。
まぁそうだわな。
「ビラ撒きで明るみになった汚職で落ちた教会の権威と求心力を取り戻すって意味じゃぁ、今回のことを影剣さんたちのせいにするのが3分クッキング並みにお手軽簡単だからなぁ」
「そのビラ撒きで訴えようにも警邏が増えたゆえ、中止せざるを得ないでござる」
影剣さんがビラ撒き作戦の中止を示唆する。
「ではこの映像記録を証拠に公開裁判をして、公の場に晒してはどうでしゅか?」
「無実の潔白を証明するという意味ではそれしかないでござる――が、拙者らに証言されては困る向こう側としては、素直に裁判などさせてはくれぬでござろうな」
「ノコノコと出て行こうものなら奴らにとっ捕まって一方的に断罪され、大広場で火あぶりになるのがオチだろうさ。神殿騎士団の団長だった俺が言うんだ、全財産を賭けても良いぜ」
フィローラの問いに影剣さんとガーランドが辟易といった様子で肩をすくめる。
そうならない方に賭ける奴が現れないので賭けにならないやつや。
「つまり、御2人の名誉を晴らすには、戦争に勝利しバラドリンド教会の力を削いでから裁判に持ち込むしかないという訳ですな」
「その通りでござるユニス殿」
人馬の娘に頷く影剣さん。
「だが俺たちの名誉なんて二の次だ。ただ奴らには関係のない人たちにまで被害を出した落とし前だけはきっちりととらせてやる……!」
憤怒に燃える男が報復を誓う。
「結局戦争に勝たないとどうにもならないのか……」
「その通りですわトシオ様。アイヴィナーゼの未来のため、そしてわたくしたちの愛のためにも、トシオ様が此度の戦に勝利すると信じておりますわ!」
ずいぶんと打算にまみれた愛があったもんだなぁ。
てかガーランドの真面目な誓いが台無しですやん……。
いつの間にか湧いて出たクラウディア王女が自信満々高らかに焚きつけてくるのを、俺はモヤモヤしながらも生暖かい目で見守った。
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