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235話 意識の外から
しおりを挟む「はぁ、はぁ、はぁ……っヒサ、ジン! クソッ」
「………」
「………」
窮地を逃れ肩で息をする猿藤が呼びかけるも、泥水の中で倒れるヒサシとジンは反応を示さない。
辛うじて生きてはいるが、意識は完全に飛んでいた。
「ちっ、使えねぇ最後くらい俺様の役に立ちやがれってんだ」
返事のない仲間を一瞥しながら何もない空間を指でなぞって何かを操作する仕草を見せると、なにをトチ狂ったのか剣を上段から一振り。
放たれた剣圧は仲間であるヒサシとジンを沼の底まで押し込み地面に挟んで押しつぶした。
「……は?」
唐突な仲間殺し、あまりの躊躇の無さに一瞬脳が追い付かない。
スキルや魔法による攻撃は同じPTの味方に当たってもダメージを受けないのがこの世界のルールである。
それが機能していなかったということは、先ほど見せた空間を指でなぞる仕草はステータス画面を開き2人をPTから追い出すためのものだったのだろう。
「レベルは――814。こんなんじゃ全然足りやしねぇ、死んでも俺様の役に立てねーとかマジ使えねーな」
思ったほどレベルアップできなかったことに不満を漏らす猿藤。
友であった者の命を何とも思わないその自分勝手さに心がザワつく。
「自分のダチを殺すとか普通ありえないし!」
「はぁ? 俺様のために時間も稼げねぇ、お前らの1匹も道連れに出来ねぇ、コンパじゃクソみたいな女しか集めらんねぇ。そんなヤツらが俺の仲間だぁ? 冗談でも笑えねぇぜ」
ルージュの戸惑いに猿藤がかつて友人であったであろう者たちを下卑た笑みを浮かべこき下ろす。
先ほどまで談笑していた相手にたいするこの言いぐさに、倒れた奴らが哀れにすら想えた。
が、そもそも盗賊団をやろうとしていた奴らの末路なんてこれくらい残念で丁度良いのかとも思い直す。
こんなクズ、もっと酷い死に方すればいいのに。
「肩を並べ戦い倒れた仲間を経験値の足しにするとは見下げ果てた奴め」
「将としての器の程度が知れるな」
「はっ、なんとでも言ってな。どうせお前らに神である俺様は止めらんねぇぜ」
ガーランドとディオンの罵りを猿藤が鼻で笑う。
さっきから自称〈神〉とか痛々し過ぎてちょっと。
冷ややかな目を向けていると、猿藤が前方の空間に腕を突っ込み1メートルほどの煌びやかな箱を取り出した。
地面に置かれたソレは漫画やアニメなんかでよくある〈宝箱〉だが、鑑定眼には〈強欲な宝物庫〉と固有名詞が表示され、能力は〝無限収納〟〝ドロップ品の自動回収〟と説明が表記されていた。
猿藤が無造作に足で蹴り上げ宝箱を開けると、周囲に散らばった勇者たちのドロップアイテムが瞬時に消えた。
〈強欲な宝物庫〉のアイテム効果で回収されたのだろう。
態々このタイミングで回収するということは、他の勇者が持つアーティファクトを自分が利用する以外に他ならない。
使わせるものか。
回収したアイテムを装備する瞬間の隙を狙って握りしめた神剣を投げつけてやろうとタイミングをうかがっていると、猿藤が自身の目の前にドラグライト製の全身鎧が出現した。
手には大きな棍、左腕には盾まで装着したフル武装状態で地面に立つ。
フルプレート〈ドラグライト〉〈超高品質〉
「今更ドラグライト製の鎧?」
ドラグライトは特殊鋼の中でも神鉄と呼ばれる〈オリハルコン〉や〈アダマンタイト〉に次ぐ硬さを誇る金属だ。
アダマンタイトの劣化版と言えばそれまでだが、今俺が手にしている神鉄〈ヒヒイロカネ〉の剣よりも純粋な強度面では上である。
超高品質とあるし俺の剣が防げるって考えも分からなくもないけど、着込む時間なんて無いのはいくらなんでも分かってるだろ、なのにこのタイミングで出すか普通?
狙いが全く分からん……。
「違うぞトシオ殿、アレは――」
「ここに来てアレを出されるのは少々厄介でござるな」
頭に?を浮かべまくる俺へ神官戦士が注意を促し、影剣さんが疾風の速さで猿藤へと斬りかかった。
それに合わせて鎧のフェイスガードの隙間に青い鬼火が怪しげに灯り、棒立ち状態からまるで中に人が入っているかのように動き出した。
同時に俺の〈敵感知〉に反応が現れる。
フルプレート Lv814〈ドラグライト〉〈超高品質〉
〈魔法半減〉〈強度強化〉〈性能向上〉
動き出した金属鎧はまるで中に他人が入っているかのような動きで影剣さんに殴りかかった。
見た目に反して素早い動きではあったが、影剣さんと比べると数段劣る。
すれ違いざまに忍者刀がきらめき鎧の胴を切り裂くと、その脇を駆け抜け猿藤へ向かう。
しかし影剣さんの前には同じ形状だが材質の異なる全身鎧がさらに5体同時に出現した。
そこですっかり頭から抜け落ちていた存在を思い出す。
「まさか、アレがディバイントルーパーか!?」
ディバイントルーパーはバラドリンド教徒の魂を入れた動く鎧。
影剣さんが1万体は用意されていると以前言っていた。
無限収納なんてアイテムを取り出したのだ、1万体全てが収納されていてもおかしくない。
「気付くのが遅ぇんだよクソ虫!」
猿藤は次から次へとディバイントルーパーを出しまくり、あっという間にその数は100を超え数的有利が覆えされた。
だがそんな物量などお構いなしに、影剣さんが自身に群がる100体以上のディバイントルーパーを捌いてゆく。
「ねこ殿の索敵魔法と情報共有魔法凄すぎワロタでござる。この程度の数など恐れるに足りずでござるぞ!」
笑いながら死角からの攻撃を目視することなく躱すと同時に、カウンターの後ろ回し蹴りが金属鎧の胴体中央にヒットし吹っ飛んだ。
黒い疾風は止まることなく鎧を次々に破砕、圧壊、切断する。
躱す行為とカウンターの動きが連動していてとても美しい。
「俺たちも行くぞ!」
「「「応!!」」」
500~600と増え続けるディバイントルーパーの群れに突撃する仲間たち。
後方からは猿藤やディバイントルーパーへとめがけて矢や攻撃魔法が放たれ仲間たちを援護する。
その攻撃魔法の援護も仲間の処理能力をカバーするようにピンポイントで刺さっているため非常に的確で無駄が無い。
索敵魔法は便利だが使用するのに意識と魔力のいくらかを割り振らなければならない。
魔法を用いた近接戦闘に長けた影剣さんも普段から索敵魔法を発動させて戦うタイプなだけに、それから解放され全力で戦えるのはさぞ気持ちが良いことだろう。
そして索敵に情報共有に鑑定妨害に強化外骨格に要所での攻撃魔法各種。
これらを1人で管理してる俺の負担ヤバ過ぎ問題。
だが意識下で魔法を固定し発動しっ放しにすることで攻撃魔法を使う思考領域を確保する方法が自然に身についていることに今更気付く。
慣れって怖いなぁ。
「くそっ、なんでだ、これから、俺様の、大逆転じゃ、ねぇのかよ!」
切り札であり形勢逆転の一手となるはずだった虎の子のディバイントルーパー軍団が通用しないことに、悔しさを滲ませた声で叫ぶ猿藤。
反撃に移りたくても攻撃無効化のために〈バトルオーラ〉を放出し続けるのが精一杯で動くに動けないのが手に取る様に分かりすぎた。
ここだな。
俺はワープゲート猿藤の背後に背中合わせの形で出現させた。
その距離わずが3メートル弱。
そのわずかな距離から振り向きざまに全長3メートルの神剣で水平に薙いだ。
神剣は猿藤の放つバトルオーラに吸い込まれるように侵入し、なんの抵抗も無く通り抜ける。
返す刀で袈裟斬り、逆袈裟、唐竹、刺突の各種連撃。
バトルオーラの調整や状況の打開策を考える時間など与えない。
大技なんてわかり易い攻撃手段で悟らせない。
防御どころか攻撃された認識すら気取らせない地味で静かな無慈悲を、人としての形状が保たなくなるまで丁寧に執拗に叩きつけた。
サーチエネミーから猿藤の攻撃表示が消失し、あふれ出たアイテムが開きっ放しとなっていた〈強欲な宝物庫〉に吸い込まれたところでその蓋を足で閉めた。
それが自称〈神〉を豪語していた男の、何ともあっけない幕引きとなった。
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