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山岳キャンプ編
第5話「1日目② 民族」
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日の出前、とある少年が湖に来て、漁をしていた。網を引き揚げると、何匹か魚がかかっていた。魚を背負っている籠に入れ、籠の蓋を閉めた。
なんとなく湖畔を眺めていると、異変に気が付いた。何かが湖畔に流れ着いている。よく見ると、人が倒れていたのだ。少年は恐る恐る近づくと、倒れた人の顔が見えた。男は、頭髪、髭共に手入れがなっておらず、放浪者のようであった。少年は、籠を体の前に回すと、今度はその男を背中に乗せた。少年は一瞬ぐらついたが、そのまま森の中に消えてしまった。
目が覚めると、ワラで出来た天井が見えた。そして、動物の毛皮だろうか、布団のようなものを掛けられていて、とても暖かい。イッペイは昨日までの事を思い出して、すぐさま体を起こした。イッペイは、自分がワラ作りのドーム状の部屋の中にいることに気がついた。まさしく、縄文時代の竪穴住居の中にいるようだった。布団の横には囲炉裏のようなものがあり、その上に自分の橙色の袴、それとフンドシが干されていた。そして、刀を探したがどこにも見当たらなかった。袴を触ってみるとまだ湿っており、着ることは出来なかった。なぜ濡れているのか見当がつかなかった。昨晩、山道を歩いていた以降の記憶が無い。他の仲間達は何処だろう。そもそも、一体なぜ自分はここにいるのだろう。
イッペイは竪穴住居の出口から、顔を出した。すると、周りには無数の竪穴住居があることに気がついた。 朝靄で、遠くまでよく見えないが、少なくとも見える範囲まではずっと集落が続いていた。
外に出ると、集落の周りは高い木々で囲まれており、ここが森を切り開いた土地であると分かった。ウロウロしていると、どこかで人の声が聞こえた。聞き慣れない言語であった。声のする方に近づいた。声はますます大きくなり、たくさんの人々が談笑しているのが聞こえた。それと同時に、いい香りがしてきた。何か、焼き魚のような、美味しそうな香りだった。イッペイは腹が鳴った。食べ物があるに違いない。イッペイは、朝靄のなか、さらに声のする方に歩み寄った。
キャアアアアアアアアッ!!!
いきなり甲高い悲鳴が聞こえた。よく見ると、石器時代のような、民族衣装を着た女性達が騒いでいた。すると、その内の何人かが石を投げてきた。イッペイは状況が飲み込めなかったが、石が体に当たって痛かったので、すぐさま退散した。
とりあえず、朝起きた住居に急いで戻った。ここで、ようやくイッペイは気づいた。全裸だった。袴はまだ乾いていなかったので、仕方なく毛皮の布団を腰に巻き、再び出口から顔を出した。すると、騒ぎを聞きつけた男達が住居の前に集まっており、物々しい雰囲気になっていた。
イッペイがそろり、と外に出ると、突然横から2人ほど体格の良い男達が出てきて、力尽くで地面に倒された。無理やり手を縛られると、先程の投石に遭った広場に連れて行かれた。
そこには、村の住民達が多く集まっていた。何やらヤジがあちこちから飛ばされている。何を言っているのか聞き取れない。イッペイは、とりあえず自分は今、裁きを受ける運命にあるのだと悟った。自分は部外者である上に、公然わいせつを犯してしまった。迂闊だった。
村民に囲まれた中央に、焚き火があった。その前に連れて行かれ、座らされた。すると、群衆の中から杖をついた一人の老人が出てきた。後ろに男達が構えていた。この老人は村の長老なのだろうか。
「お前、何、目的?」
お爺さんはカタコトの日本語で尋ねてきた。
「それは、むしろおいどんが聞きたい。なんでおいどんはここにいるんだ?」
イッペイは聞き返した。
「ほざけ、あほ。私、ここの長老。生意気、変態、殺す。」
会話にならない。そう思ったイッペイは、とりあえず自己紹介した。
「すまぬ、冗談だ。おいどんはイッペイ。サムライの生き残りさ。」
そう言ってイッペイは苦笑いをした。
ところが、長老の顔が曇った。
「サムライ…、なのか?」
サムライという単語に、周囲の村民達も動揺しているようだった。ヤジがどよめきに変わっていた。長老は、慌てて後ろの男達から、一人を呼んで前に出した。
「お前今なんて言った!?」
その男は、よりまともな日本語が話せるようだった。
「サムライだが、何か?」
イッペイが答えた。
「রগমরসৈকযলহ,দেহত্যাগ”৭৭১কে”!!」
男は後ろを振り向き、村民達に何かを訴えてかけていた。どういう訳か、村民達は慌てふためいた様子であった。
「申し遅れた。私の名前はムラタ。貴方に私達の無礼を謝罪しなければならない。」
男がひざまずいて話した。
続いて長老も、その隣でひざまずいた。
「私、まちがえた、謝る。」
周りを見るとその場にいた村民は皆ひざまずいていた。
「ムラ…タ…?どういう訳か説明してくれないか?」
「貴方は知らないのか?そうか、もう何百年も昔の事だから無理もない。教えましょう。」
そう言うと、男と長老はイッペイを村一番の大きく立派な竪穴住居に案内した。
ムラタと長老、イッペイで一緒に囲炉裏を囲んだ。イッペイには、焼き魚や山菜などの料理が振る舞われた。竪穴住居は長老の家らしく、外では屈強な男達が厳重な警備を張っていた。
イッペイが半分ほど料理を食べると、ムラタの話は始まった。
「この村はイタークラ村といってグンマー帝国の端にある。イタークラ村は、昔はグンマー帝国の玄関口として栄えていたんだ。昔と言ってもエドだけどな。」
ムラタは水を一口飲んで続けた。
「貴方はサムライだから分かるだろうが、エドが終わる頃、日本中でメイジっていう奴らが戦争をしていたんだ。」
「あの頃、本当、悲惨。みんな、殺された。もう、思い出す、嫌。」
長老が付け加える。
「思い出す…って、あんた今何歳なんだよ!」
イッペイが聞いた。
「756、いや、757。」
イッペイが口から料理を吹き出した。
「すまない、ここでは暦が違うから貴方達の方では何歳か分からない。ただ、エドから長老が生きていたのは事実だ。」
ムラタが説明をする。
イッペイは開いた口が塞がらなかった。
ムラタは話を続ける。
「それで、グンマー帝国にもメイジの奴らが攻めてきたんだ。長老とその仲間は必死に戦ったさ。当時の村の男達の全員、2万人ほどが戦いに繰り出されたが、何とか生きて帰ったのは10人にも満たなかった。長老はその中で今、唯一の生き残りなんだ。」
現在のイタークラ村の人口は、もって数百と言った所か。何万という民がいたとは、昔はかなり栄えていたのだろう。
長老は脚の大きな古傷を撫でていた。よく見ると、足の指が所々無く、足りていない。こんなにも悲惨だったのか。
「メイジの奴らは残虐だった。女や子供にまで手を出して、区別なく村中を殺してまわった。そしてイタークラはわずか一日で壊滅、メイジの軍勢は今でいう帝都、マエヴァシに向かって行ったんだ。」
「なんと、むごいのだろうか。」
イッペイは息を飲んだ。
「でも、結局、グンマーはメイジを破って、全境界を封鎖。グンマー帝国を樹立し、大日本帝国に対抗したんだ。それ以降半独立状態を保って今に至っている。」
「どうやってメイジを撃退したんだ?」
イッペイが食いつく。
「救世主たち、いた。」
長老の言葉で、イッペイは勘付いた。
「まさかそれが…。」
「サムライ…。」
三人が同時にその単語を口にした。
「彼らは本当に強かった。最終的にサムライは皆、メイジに捕われて死罪になってしまったようだが、彼らのおかげでメイジ軍はかなりの打撃を受け、俺たちグンマーの民はメイジ撃退に成功したんだ。」
「そんな過去があったのか…。」
イッペイは料理を完食した。
「ところで、イッペイはなぜここに来たんだ?」
ムラタが聞いてきた。
「それが、おいどんもよく分かっていない。昨晩山道を歩いていたら突然気を失ったみたいなんだ。朝目が覚めて、気がついたらこの村にいたんだよ。」
ムラタはポカンとしていた。
「まあ…どうやら迷い込んでしまったようだな。ここの周りの森は俺たちでさえ油断すると帰れなくなるからな。」
「安心しろ、私達、お前、送り帰す。」
長老がイッペイの肩を撫でた。
「あ、でも、おいどんの仲間がどこかにいるんだ。みんなバラバラになっちゃったけど、そいつらを見つけないと…。」
「なあに、心配するな。俺たちイタークラ村の総力を上げて見つけ出してやるよ
!」
ムラタの熱い言葉に、イッペイは感激して、固い握手を交わした。
「ところで、おいどんの刀は知らないか?」
「ああ、確かに。サムライなのに刀を持っていないのは不思議だったが、失くしてしまったのか…。それは大変だな。」
「それより、お前、服。」
腰にただ一枚、毛皮を巻いたイッペイを指差して長老は言った。
「あっちの家に干してあるよ。あそこでさっき目が覚めたんだ。」
「どれだ?」
ムラタ、長老達と最初の家に向かった。
「これは…ミズノの家ではないか。」
ムラタが言った。
「ミズノ、漁、狩り、上手い。期待、若手。」
「おい、誰か!ミズノを呼んでこい!」
ムラタが後ろの男達に命令した。
「ミズノって奴が何か知っているはずだ。」
ムラタはそう言って家の中に入った。
家の中に入ると、袴とフンドシが乾いていた。それを着付けながら、イッペイは尋ねた。
「ここの人達は何語を話しているんだ?」
「一応、日本語だよ。何百年も封鎖されていたから、訛りがすごいけどね。」
ムラタが答える。
「ムラタはそんなに訛っていないんだな。」
「まあ、長年出稼ぎしていたからな。」
「出稼ぎしないと生活が厳しいのか?」
「出稼ぎっていうか、実際はスパイ行為に近い。」
「大変なんだな。」
話していると、外から声が聞こえてきた。
「পরগাযযৈ?」
一人の少年が何か話しながら出口から入ってきた。これがミズノという者らしい。そして、驚いたことにミズノはあの刀を体に巻きつけており、両手には見たことのない豚のような動物の胴体の一部を抱えていた。
「狩りから帰ってきたらしい。こいつがミズノだよ。」
ムラタが紹介をする。
「それ俺の刀だよ!」
イッペイが言うと、ムラタが通訳をしてくれた。すると、ミズノはすぐに刀を返してくれた。
「すごく使いやすかったらしい。」
ムラタが教えてくれた。
その時、長老がミズノを怒鳴りつけた。
「まあまあ、無事に刀は見つかった訳だし気にしないでくれ。」
イッペイが長老をなだめる。
「ところで、ミズノ。このサムライについて知っているか?」
ムラタが聞くと、ミズノは驚きの表情を見せた。
「サム…ライ!?」
「ああ、こいつはサムライなんだ。それで今朝広場で…」
ムラタが事情を教えた。
「この人、今朝ワタラセの湖に漁に行った時、岩場で倒れてたぽ。」
ミズノは話そうと思えば、意外と綺麗な日本語が話せた。ムラタ曰く、若くしてミズノも出稼ぎの経験があるらしい。ただ、まだ完全に訛りが抜けてなく、語尾にポがついてしまうのだ。
「ワタラセ湖か…少し遠いな…。」
ムラタが言う。
「お前、こいつ、背負い、村まで帰った?」
長老が聞く。
「うん、重かったけど。助けようと思ったぽ。」
「お前さぁ、今回はたまたまサムライだから良かったけど、外からの侵入者は基本的に相手にするなっていつも言ってるだろ?」
ムラタが怒った。
「同じ人間じゃないか。回復したら帰してやればいいだろぽ!」
ミズノが言い返した。
「お前、外の奴ら、残虐、分かってない。」
長老が言った。
「まあ、落ち着いて。おいどんは時間がない。早く仲間の所に行かないとまずい。」
イッペイが再びなだめる。
「仲間がどこにいるか手掛かりはあるのか?」
ムラタが聞いた。
「分からないけど、おいどん達は目指してる場所があるんだ。」
「どこだ?」
ムラタが尋ねた。
「ラクダ山…。」
なんとなく湖畔を眺めていると、異変に気が付いた。何かが湖畔に流れ着いている。よく見ると、人が倒れていたのだ。少年は恐る恐る近づくと、倒れた人の顔が見えた。男は、頭髪、髭共に手入れがなっておらず、放浪者のようであった。少年は、籠を体の前に回すと、今度はその男を背中に乗せた。少年は一瞬ぐらついたが、そのまま森の中に消えてしまった。
目が覚めると、ワラで出来た天井が見えた。そして、動物の毛皮だろうか、布団のようなものを掛けられていて、とても暖かい。イッペイは昨日までの事を思い出して、すぐさま体を起こした。イッペイは、自分がワラ作りのドーム状の部屋の中にいることに気がついた。まさしく、縄文時代の竪穴住居の中にいるようだった。布団の横には囲炉裏のようなものがあり、その上に自分の橙色の袴、それとフンドシが干されていた。そして、刀を探したがどこにも見当たらなかった。袴を触ってみるとまだ湿っており、着ることは出来なかった。なぜ濡れているのか見当がつかなかった。昨晩、山道を歩いていた以降の記憶が無い。他の仲間達は何処だろう。そもそも、一体なぜ自分はここにいるのだろう。
イッペイは竪穴住居の出口から、顔を出した。すると、周りには無数の竪穴住居があることに気がついた。 朝靄で、遠くまでよく見えないが、少なくとも見える範囲まではずっと集落が続いていた。
外に出ると、集落の周りは高い木々で囲まれており、ここが森を切り開いた土地であると分かった。ウロウロしていると、どこかで人の声が聞こえた。聞き慣れない言語であった。声のする方に近づいた。声はますます大きくなり、たくさんの人々が談笑しているのが聞こえた。それと同時に、いい香りがしてきた。何か、焼き魚のような、美味しそうな香りだった。イッペイは腹が鳴った。食べ物があるに違いない。イッペイは、朝靄のなか、さらに声のする方に歩み寄った。
キャアアアアアアアアッ!!!
いきなり甲高い悲鳴が聞こえた。よく見ると、石器時代のような、民族衣装を着た女性達が騒いでいた。すると、その内の何人かが石を投げてきた。イッペイは状況が飲み込めなかったが、石が体に当たって痛かったので、すぐさま退散した。
とりあえず、朝起きた住居に急いで戻った。ここで、ようやくイッペイは気づいた。全裸だった。袴はまだ乾いていなかったので、仕方なく毛皮の布団を腰に巻き、再び出口から顔を出した。すると、騒ぎを聞きつけた男達が住居の前に集まっており、物々しい雰囲気になっていた。
イッペイがそろり、と外に出ると、突然横から2人ほど体格の良い男達が出てきて、力尽くで地面に倒された。無理やり手を縛られると、先程の投石に遭った広場に連れて行かれた。
そこには、村の住民達が多く集まっていた。何やらヤジがあちこちから飛ばされている。何を言っているのか聞き取れない。イッペイは、とりあえず自分は今、裁きを受ける運命にあるのだと悟った。自分は部外者である上に、公然わいせつを犯してしまった。迂闊だった。
村民に囲まれた中央に、焚き火があった。その前に連れて行かれ、座らされた。すると、群衆の中から杖をついた一人の老人が出てきた。後ろに男達が構えていた。この老人は村の長老なのだろうか。
「お前、何、目的?」
お爺さんはカタコトの日本語で尋ねてきた。
「それは、むしろおいどんが聞きたい。なんでおいどんはここにいるんだ?」
イッペイは聞き返した。
「ほざけ、あほ。私、ここの長老。生意気、変態、殺す。」
会話にならない。そう思ったイッペイは、とりあえず自己紹介した。
「すまぬ、冗談だ。おいどんはイッペイ。サムライの生き残りさ。」
そう言ってイッペイは苦笑いをした。
ところが、長老の顔が曇った。
「サムライ…、なのか?」
サムライという単語に、周囲の村民達も動揺しているようだった。ヤジがどよめきに変わっていた。長老は、慌てて後ろの男達から、一人を呼んで前に出した。
「お前今なんて言った!?」
その男は、よりまともな日本語が話せるようだった。
「サムライだが、何か?」
イッペイが答えた。
「রগমরসৈকযলহ,দেহত্যাগ”৭৭১কে”!!」
男は後ろを振り向き、村民達に何かを訴えてかけていた。どういう訳か、村民達は慌てふためいた様子であった。
「申し遅れた。私の名前はムラタ。貴方に私達の無礼を謝罪しなければならない。」
男がひざまずいて話した。
続いて長老も、その隣でひざまずいた。
「私、まちがえた、謝る。」
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「ムラ…タ…?どういう訳か説明してくれないか?」
「貴方は知らないのか?そうか、もう何百年も昔の事だから無理もない。教えましょう。」
そう言うと、男と長老はイッペイを村一番の大きく立派な竪穴住居に案内した。
ムラタと長老、イッペイで一緒に囲炉裏を囲んだ。イッペイには、焼き魚や山菜などの料理が振る舞われた。竪穴住居は長老の家らしく、外では屈強な男達が厳重な警備を張っていた。
イッペイが半分ほど料理を食べると、ムラタの話は始まった。
「この村はイタークラ村といってグンマー帝国の端にある。イタークラ村は、昔はグンマー帝国の玄関口として栄えていたんだ。昔と言ってもエドだけどな。」
ムラタは水を一口飲んで続けた。
「貴方はサムライだから分かるだろうが、エドが終わる頃、日本中でメイジっていう奴らが戦争をしていたんだ。」
「あの頃、本当、悲惨。みんな、殺された。もう、思い出す、嫌。」
長老が付け加える。
「思い出す…って、あんた今何歳なんだよ!」
イッペイが聞いた。
「756、いや、757。」
イッペイが口から料理を吹き出した。
「すまない、ここでは暦が違うから貴方達の方では何歳か分からない。ただ、エドから長老が生きていたのは事実だ。」
ムラタが説明をする。
イッペイは開いた口が塞がらなかった。
ムラタは話を続ける。
「それで、グンマー帝国にもメイジの奴らが攻めてきたんだ。長老とその仲間は必死に戦ったさ。当時の村の男達の全員、2万人ほどが戦いに繰り出されたが、何とか生きて帰ったのは10人にも満たなかった。長老はその中で今、唯一の生き残りなんだ。」
現在のイタークラ村の人口は、もって数百と言った所か。何万という民がいたとは、昔はかなり栄えていたのだろう。
長老は脚の大きな古傷を撫でていた。よく見ると、足の指が所々無く、足りていない。こんなにも悲惨だったのか。
「メイジの奴らは残虐だった。女や子供にまで手を出して、区別なく村中を殺してまわった。そしてイタークラはわずか一日で壊滅、メイジの軍勢は今でいう帝都、マエヴァシに向かって行ったんだ。」
「なんと、むごいのだろうか。」
イッペイは息を飲んだ。
「でも、結局、グンマーはメイジを破って、全境界を封鎖。グンマー帝国を樹立し、大日本帝国に対抗したんだ。それ以降半独立状態を保って今に至っている。」
「どうやってメイジを撃退したんだ?」
イッペイが食いつく。
「救世主たち、いた。」
長老の言葉で、イッペイは勘付いた。
「まさかそれが…。」
「サムライ…。」
三人が同時にその単語を口にした。
「彼らは本当に強かった。最終的にサムライは皆、メイジに捕われて死罪になってしまったようだが、彼らのおかげでメイジ軍はかなりの打撃を受け、俺たちグンマーの民はメイジ撃退に成功したんだ。」
「そんな過去があったのか…。」
イッペイは料理を完食した。
「ところで、イッペイはなぜここに来たんだ?」
ムラタが聞いてきた。
「それが、おいどんもよく分かっていない。昨晩山道を歩いていたら突然気を失ったみたいなんだ。朝目が覚めて、気がついたらこの村にいたんだよ。」
ムラタはポカンとしていた。
「まあ…どうやら迷い込んでしまったようだな。ここの周りの森は俺たちでさえ油断すると帰れなくなるからな。」
「安心しろ、私達、お前、送り帰す。」
長老がイッペイの肩を撫でた。
「あ、でも、おいどんの仲間がどこかにいるんだ。みんなバラバラになっちゃったけど、そいつらを見つけないと…。」
「なあに、心配するな。俺たちイタークラ村の総力を上げて見つけ出してやるよ
!」
ムラタの熱い言葉に、イッペイは感激して、固い握手を交わした。
「ところで、おいどんの刀は知らないか?」
「ああ、確かに。サムライなのに刀を持っていないのは不思議だったが、失くしてしまったのか…。それは大変だな。」
「それより、お前、服。」
腰にただ一枚、毛皮を巻いたイッペイを指差して長老は言った。
「あっちの家に干してあるよ。あそこでさっき目が覚めたんだ。」
「どれだ?」
ムラタ、長老達と最初の家に向かった。
「これは…ミズノの家ではないか。」
ムラタが言った。
「ミズノ、漁、狩り、上手い。期待、若手。」
「おい、誰か!ミズノを呼んでこい!」
ムラタが後ろの男達に命令した。
「ミズノって奴が何か知っているはずだ。」
ムラタはそう言って家の中に入った。
家の中に入ると、袴とフンドシが乾いていた。それを着付けながら、イッペイは尋ねた。
「ここの人達は何語を話しているんだ?」
「一応、日本語だよ。何百年も封鎖されていたから、訛りがすごいけどね。」
ムラタが答える。
「ムラタはそんなに訛っていないんだな。」
「まあ、長年出稼ぎしていたからな。」
「出稼ぎしないと生活が厳しいのか?」
「出稼ぎっていうか、実際はスパイ行為に近い。」
「大変なんだな。」
話していると、外から声が聞こえてきた。
「পরগাযযৈ?」
一人の少年が何か話しながら出口から入ってきた。これがミズノという者らしい。そして、驚いたことにミズノはあの刀を体に巻きつけており、両手には見たことのない豚のような動物の胴体の一部を抱えていた。
「狩りから帰ってきたらしい。こいつがミズノだよ。」
ムラタが紹介をする。
「それ俺の刀だよ!」
イッペイが言うと、ムラタが通訳をしてくれた。すると、ミズノはすぐに刀を返してくれた。
「すごく使いやすかったらしい。」
ムラタが教えてくれた。
その時、長老がミズノを怒鳴りつけた。
「まあまあ、無事に刀は見つかった訳だし気にしないでくれ。」
イッペイが長老をなだめる。
「ところで、ミズノ。このサムライについて知っているか?」
ムラタが聞くと、ミズノは驚きの表情を見せた。
「サム…ライ!?」
「ああ、こいつはサムライなんだ。それで今朝広場で…」
ムラタが事情を教えた。
「この人、今朝ワタラセの湖に漁に行った時、岩場で倒れてたぽ。」
ミズノは話そうと思えば、意外と綺麗な日本語が話せた。ムラタ曰く、若くしてミズノも出稼ぎの経験があるらしい。ただ、まだ完全に訛りが抜けてなく、語尾にポがついてしまうのだ。
「ワタラセ湖か…少し遠いな…。」
ムラタが言う。
「お前、こいつ、背負い、村まで帰った?」
長老が聞く。
「うん、重かったけど。助けようと思ったぽ。」
「お前さぁ、今回はたまたまサムライだから良かったけど、外からの侵入者は基本的に相手にするなっていつも言ってるだろ?」
ムラタが怒った。
「同じ人間じゃないか。回復したら帰してやればいいだろぽ!」
ミズノが言い返した。
「お前、外の奴ら、残虐、分かってない。」
長老が言った。
「まあ、落ち着いて。おいどんは時間がない。早く仲間の所に行かないとまずい。」
イッペイが再びなだめる。
「仲間がどこにいるか手掛かりはあるのか?」
ムラタが聞いた。
「分からないけど、おいどん達は目指してる場所があるんだ。」
「どこだ?」
ムラタが尋ねた。
「ラクダ山…。」
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