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山岳キャンプ編
第4話「1日目① 翼竜」
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俺は眠れなかったから、この先どうすのか、日が昇るまでずっと座って考えていた。長い夜だった。ただでさえ時間がないのに、ここで足止めを喰らうのは非常にもどかしかった。
4月にしては夜は早く明けた。徐々に東の空が明るくなると、俺は目の前の光景に動転した。断崖絶壁の下には巨大な湖、その周りは鬱蒼と茂る森が地平線まで深緑を埋め尽くしている。正面遠くに見える山こそが、おそらくラクダ山であろう。右を見ると、大瀑布が轟音を立てて崖を流れ落ちていた。昨夜の音の正体はこれだったのだ。崖の下を覗いてみた。落差は数百メートルといった所だろうか。その時、ちょうど真下らへんの崖に小さな穴があることに気づいた。そこから色の違う水が流れ出て、もう一つの小さな滝を作っている。これが下水道から来ている事はすぐに察しがついた。
「おい!!ボブ、フランクリン!!…イッペイ!!聞こえるか!!」
俺は目一杯叫んだが返事は無かった。かわりに、木陰で寝ていたルイが起きたようだ。
「こ、これは…」
「ああ、どうやら皆ここに落ちてしまったみたいだ。」
「そ、そんな馬鹿な…!!」
俺たちは言葉を失った。
「こんなの狂ってる!学校がやることじゃない!死ぬくらいだったらこんなキャンプ抜け出してやる!!」
ルイは崖の下に向かって叫んだ。
「全くだ…。」
時計を見ると5時前くらいだった。
ジョンソンはまだ呑気に寝てやがる。こいつだけはとてもSPとは思えない。あの3人の中で最も堕落している。もしかすると、俺はジョンソンだけは他と区別できるのかもしれない。いや、別にしたくもない。
「ルイ。お前の気持ちはよく分かる。でも、俺思うんだ。イッペイ、ボブ、フランクリンはまだどこかで生きてる可能性もある。もしそうだとしたら、このまま置いていくことは俺にはできない。」
「亮…。」
「それに、きっと麓に行けば先生達がいるはずだ。助けを呼んで一緒に3人を探し出そう。」
「…。」
ルイが黙る。
「早い方がいい。助かる命も助からなくなってしまうかもしれない。」
この言葉で、ルイの表情は変わった。
「…うん、そうだね。グダグダしてられないや。あいつらが生きてるのを今は信じるしかないね。」
「おう!よっしゃ行こうぜ!」
後ろから声が聞こえてきた。ジョンソンが起きていた。
俺達は崖の端に並んだ。再出発だ。集合場所に行くのは、成績の為じゃない。仲間の命を一刻でも早く救う為だ。俺達は行く。何がなんでも絶対にラクダ山の麓に辿り着いて見せる。そう心に誓った。
《どうやって進むの……!?》
俺達は同じことを思った。遠くのラクダ山を見つめ、3人でアイデアを出し合った。それがこれだ。
プラン① 湖に飛び込んで、湖畔まで泳いだ後、陸路で麓まで移動する。
プラン② 崖に沿って歩き、傾斜の緩い場所を見つけてから、そこをゆっくり降りる。以降、同じく陸路で移動。
プラン③ 焚き火をしたり、大声を発するなどして救援を呼ぶ。可能性は殆ど無いが、もし成功すればその時点で目的は達成できる。
①は、万一飛び込んで全員無事に湖畔まで到達できなければ元も子もない。だから、これはすぐに却下された。とはいえ、③のように僅かな可能性に懸けて、動かないでいるのも苦であった。だから、俺達は②を選択した。それで、移動しながら周囲を常に注視し、移動しながら、時々大声を上げて助けを呼ぶことにした。俺達は、滝とは反対方向、すなわち滝から遠ざかるようにして崖沿いを移動していった。
数十分ほど歩いた頃、だんだん日は明るくなってきていた。時間的余裕も無く、ここ二日まともに眠れていないせいか、疲れていたのだろう。俺は木の根っこに躓いて転んでしまった。疲れからか、木の根が二重に見えて、跨ぐことに失敗してしまったのだ。
「おい、これ動いてないか?」
ルイが木の根を指して言った。
「お前も疲れてんだな。」
俺がそう言い振り返ると、驚愕した。
木の根は、どこの木の物か分からず、草むらから伸びていたのだが、それが突如浮いたのだ。俺達は確信した。これは木の根ではない。
メキメキッ、と枝の折れる音が草むらの奥から聞こえた。何かがいる。ジョンソンが俺とルイの前に出て、戦闘体勢を取る。その時、木の根が急に引っ張られて、草むらの中に消えてしまった。俺達が呆気に取られていると、大きな足音がした。
バァァァンッ!!!
目の前の木々がなぎ倒される。徐々に「何か」の姿が現れてきた。
「こ、これは…!!」
なんとジョンソンが後退りをした。SPらしくない。
「翼竜っっ!!!」
ジョンソンが叫んだ。俺達はジョンソンの後ろに隠れていたのだが、顔を出して、前の様子を伺った。そこには信じられない光景が広がっていた。さっき見た木の根と同じ、焦げ茶の模様をした大型生物がいた。ダンプカーほどある巨体に、長い尾。そして、とても大きな翼を持っていた。見たこともないその生物の後ろ姿は、まさしく空想上の生物、ドラゴンそのものだった。
「木の根はこいつの尻尾だったのか!」
俺が気付く。
「とんだ事をしちまったな坊主。こいつ寝てるの邪魔されてキレてるぞ。」
この期に及んでジョンソンが冗談を抜かしていた。アメリカンジョークというのだろうか。本当にこいつの気が知れない。
「ジョンソン、こいつのこと知ってるのか?」
ルイが訪ねた。
「ああ。誰しも聞いたことあるだろうが、これこそが翼竜だ。伝説上の生物だとされているのだが、実は数年前までグンマー帝国上空近辺で目撃情報が相次いでいたんだ。でもこの辺境の地だ。不安定な気候、異常気象により、今まで自衛隊と米軍が何度も調査隊を派遣してきたが、一度も発見することは出来なかった。それがまさか、こんなところで出くわすことになるとは…。」
「あまり詳しくは言えないけど、ジョンソンは生物学と考古学の博士号を持っていて、米空軍にも所属していたから、この手には詳しいんだ。」
ルイが俺に教えてくれた。八森財団のSPともなれば、これほどの経歴を持っていても不思議ではないのだろうか。
のそのそと、ゆっくりドラゴンが体を回して、ついにこちらを向いた。体が大きい分、動きは鈍い気がした。顔は牛とそっくりだった。ただ、俺達の背後は崖であり、その巨大生物を前にして完全に足がすくんでいた。その瞬間だった。突如ドラゴンの首が伸びてきて、口を大きく開けた。刹那、ジョンソンがその大きな暗闇の中に吸い込まれてしまった。俺とルイはあまりの恐怖に腰を抜かし、一切身動きが取れず、声も出せなかった。こんなにドラゴンの動きが速いとは思わなかった。油断していた。
ドラゴンの頬が小刻みに動いていた。ジョンソンが口の中で暴れているのだろうか。突如ドラゴンが顔をしかめた。すると、ドラゴンは勢いよく首を振り、ジョンソンを吐き出した。ジョンソンは地面に叩きつけられたが、ゆっくり立ち上がった。
「俺のハードボディーは口に合わなかったみたいだな。」
千切れたスーツの隙間から、隆々とした筋肉が所々見えていた。
ドラゴンが何やら苦しそうにしている。懸命に口から何かを出そうとしており、ひどく咳き込んでいた。
「よっぽど不味かったのかこりゃ…。」俺はそう思った。ジョンソンと目があった。
「こ、怖かった♡」
ジョンソンはそう言ってピースサインを出した。この男はとんでもない。
「ジョンソン顔色悪くない?」
ルイが言う。
「ぜ、全然大丈夫ですよルイ様っ。(中でアレを漏らしたのはマジで言えない…。墓場まで持っていく秘密がまた増えてしまった。)」
ドラゴンの動きはすぐに落ち着いた。再びこちらに顔を向けてきた。息が荒く、激怒しているようだった。俺達は逃げる余裕すらなかった。咆哮をあげると、ドラゴンは瞬く間に顔を俺達に近づけた。怖すぎて目が開けられなかった。
目を開けると、真っ暗だった。俺はもう無我夢中だった。上下左右も分からず、ネバネバした唾液に身動きを妨げられながら、目一杯手足を動かして抵抗した。殴れるものは殴り、蹴れるものは蹴った。ふと、あることに気がついた。ドラゴンは咀嚼していない。要するに、噛もうとしてこない。ただ、口の中に収納されているだけなのだ。そしてまた、あることに気付いた。
「ルイ、いるのか!?」
「ああ、体がすごく痛いよ。たくさん噛まれたみたいだ。もう駄目だ。」
「違う、それ俺だわ。すまん。」
「え?」
「ほら、ドラゴンは噛んでないよ。俺がパニックで君を痛めつけてしまった。」
「まだ僕の体は一つかな?噛みちぎられてない?」
暗くて見えん。
「た、多分大丈夫。打撲はあると思うけど…。」
「ていうか亮、臭くない?」
「確かに…早く出ないとまずい…。」
一方、ドラゴンの口の外では…
「なっ、おい!!2人をだせコラっ!!」
ジョンソンはドラゴンの足元に近寄り、決死のタックルを浴びせ続けていた。体当たりしては弾き飛ばされ、また体当たりをする。二、三回繰り返しただろうか。ドラゴンは翼を広げ、崖の向こうに目線を向けた。まずい、飛んで行ってしまう。そう思ったジョンソンはドラゴンの足の指に抱きついた。
グラッと大きく揺れる感覚がした。
「な、なんだ?」
ルイが驚く。
今度は外から風の音が聞こえてきた。
「飛んでる…!?」
俺は気づいた。
「まずいよ!!このままどこかに行ってしまえばそれこそ帰れなくなる!」
ルイが叫ぶ。
「口内の壁を叩いても全く効かないしな…。逆に今開いても空から落ちて死ぬかも知れない。」
俺が言った。
「こんなにも物事が上手くいかないことがあるのか!」
「…まあ、どこかに着陸するのを待つしかない。噛まないってことは、きっと何か目的があって、何処かに運ぼうとしているはずだ。」
口の中はベチャベチャしていて、その上臭いので、極めて不快である。体も自由に動けないし、せめて顔の前にはスペースを確保しなければ、息ができない。
「亮ってすごいよね。こんな大変な時だってのに、いつも冷静に次の手段を考えてる。」
「そうか?俺だって今怖すぎてちびっちゃいそうだよ」
ある男が大空でクシャミをした。
その拍子に、体が滑ってしまった。ドラゴンの指を体全体で抱いていたのが、両手で辛うじてぶら下がる形になってしまった。
ジョンソンは前後に揺さぶられながらなんとか耐えていた。何回か、前に振られた時に、ドラゴンがどこに向かっているかが見えた。
「ラクダ山…?」
4月にしては夜は早く明けた。徐々に東の空が明るくなると、俺は目の前の光景に動転した。断崖絶壁の下には巨大な湖、その周りは鬱蒼と茂る森が地平線まで深緑を埋め尽くしている。正面遠くに見える山こそが、おそらくラクダ山であろう。右を見ると、大瀑布が轟音を立てて崖を流れ落ちていた。昨夜の音の正体はこれだったのだ。崖の下を覗いてみた。落差は数百メートルといった所だろうか。その時、ちょうど真下らへんの崖に小さな穴があることに気づいた。そこから色の違う水が流れ出て、もう一つの小さな滝を作っている。これが下水道から来ている事はすぐに察しがついた。
「おい!!ボブ、フランクリン!!…イッペイ!!聞こえるか!!」
俺は目一杯叫んだが返事は無かった。かわりに、木陰で寝ていたルイが起きたようだ。
「こ、これは…」
「ああ、どうやら皆ここに落ちてしまったみたいだ。」
「そ、そんな馬鹿な…!!」
俺たちは言葉を失った。
「こんなの狂ってる!学校がやることじゃない!死ぬくらいだったらこんなキャンプ抜け出してやる!!」
ルイは崖の下に向かって叫んだ。
「全くだ…。」
時計を見ると5時前くらいだった。
ジョンソンはまだ呑気に寝てやがる。こいつだけはとてもSPとは思えない。あの3人の中で最も堕落している。もしかすると、俺はジョンソンだけは他と区別できるのかもしれない。いや、別にしたくもない。
「ルイ。お前の気持ちはよく分かる。でも、俺思うんだ。イッペイ、ボブ、フランクリンはまだどこかで生きてる可能性もある。もしそうだとしたら、このまま置いていくことは俺にはできない。」
「亮…。」
「それに、きっと麓に行けば先生達がいるはずだ。助けを呼んで一緒に3人を探し出そう。」
「…。」
ルイが黙る。
「早い方がいい。助かる命も助からなくなってしまうかもしれない。」
この言葉で、ルイの表情は変わった。
「…うん、そうだね。グダグダしてられないや。あいつらが生きてるのを今は信じるしかないね。」
「おう!よっしゃ行こうぜ!」
後ろから声が聞こえてきた。ジョンソンが起きていた。
俺達は崖の端に並んだ。再出発だ。集合場所に行くのは、成績の為じゃない。仲間の命を一刻でも早く救う為だ。俺達は行く。何がなんでも絶対にラクダ山の麓に辿り着いて見せる。そう心に誓った。
《どうやって進むの……!?》
俺達は同じことを思った。遠くのラクダ山を見つめ、3人でアイデアを出し合った。それがこれだ。
プラン① 湖に飛び込んで、湖畔まで泳いだ後、陸路で麓まで移動する。
プラン② 崖に沿って歩き、傾斜の緩い場所を見つけてから、そこをゆっくり降りる。以降、同じく陸路で移動。
プラン③ 焚き火をしたり、大声を発するなどして救援を呼ぶ。可能性は殆ど無いが、もし成功すればその時点で目的は達成できる。
①は、万一飛び込んで全員無事に湖畔まで到達できなければ元も子もない。だから、これはすぐに却下された。とはいえ、③のように僅かな可能性に懸けて、動かないでいるのも苦であった。だから、俺達は②を選択した。それで、移動しながら周囲を常に注視し、移動しながら、時々大声を上げて助けを呼ぶことにした。俺達は、滝とは反対方向、すなわち滝から遠ざかるようにして崖沿いを移動していった。
数十分ほど歩いた頃、だんだん日は明るくなってきていた。時間的余裕も無く、ここ二日まともに眠れていないせいか、疲れていたのだろう。俺は木の根っこに躓いて転んでしまった。疲れからか、木の根が二重に見えて、跨ぐことに失敗してしまったのだ。
「おい、これ動いてないか?」
ルイが木の根を指して言った。
「お前も疲れてんだな。」
俺がそう言い振り返ると、驚愕した。
木の根は、どこの木の物か分からず、草むらから伸びていたのだが、それが突如浮いたのだ。俺達は確信した。これは木の根ではない。
メキメキッ、と枝の折れる音が草むらの奥から聞こえた。何かがいる。ジョンソンが俺とルイの前に出て、戦闘体勢を取る。その時、木の根が急に引っ張られて、草むらの中に消えてしまった。俺達が呆気に取られていると、大きな足音がした。
バァァァンッ!!!
目の前の木々がなぎ倒される。徐々に「何か」の姿が現れてきた。
「こ、これは…!!」
なんとジョンソンが後退りをした。SPらしくない。
「翼竜っっ!!!」
ジョンソンが叫んだ。俺達はジョンソンの後ろに隠れていたのだが、顔を出して、前の様子を伺った。そこには信じられない光景が広がっていた。さっき見た木の根と同じ、焦げ茶の模様をした大型生物がいた。ダンプカーほどある巨体に、長い尾。そして、とても大きな翼を持っていた。見たこともないその生物の後ろ姿は、まさしく空想上の生物、ドラゴンそのものだった。
「木の根はこいつの尻尾だったのか!」
俺が気付く。
「とんだ事をしちまったな坊主。こいつ寝てるの邪魔されてキレてるぞ。」
この期に及んでジョンソンが冗談を抜かしていた。アメリカンジョークというのだろうか。本当にこいつの気が知れない。
「ジョンソン、こいつのこと知ってるのか?」
ルイが訪ねた。
「ああ。誰しも聞いたことあるだろうが、これこそが翼竜だ。伝説上の生物だとされているのだが、実は数年前までグンマー帝国上空近辺で目撃情報が相次いでいたんだ。でもこの辺境の地だ。不安定な気候、異常気象により、今まで自衛隊と米軍が何度も調査隊を派遣してきたが、一度も発見することは出来なかった。それがまさか、こんなところで出くわすことになるとは…。」
「あまり詳しくは言えないけど、ジョンソンは生物学と考古学の博士号を持っていて、米空軍にも所属していたから、この手には詳しいんだ。」
ルイが俺に教えてくれた。八森財団のSPともなれば、これほどの経歴を持っていても不思議ではないのだろうか。
のそのそと、ゆっくりドラゴンが体を回して、ついにこちらを向いた。体が大きい分、動きは鈍い気がした。顔は牛とそっくりだった。ただ、俺達の背後は崖であり、その巨大生物を前にして完全に足がすくんでいた。その瞬間だった。突如ドラゴンの首が伸びてきて、口を大きく開けた。刹那、ジョンソンがその大きな暗闇の中に吸い込まれてしまった。俺とルイはあまりの恐怖に腰を抜かし、一切身動きが取れず、声も出せなかった。こんなにドラゴンの動きが速いとは思わなかった。油断していた。
ドラゴンの頬が小刻みに動いていた。ジョンソンが口の中で暴れているのだろうか。突如ドラゴンが顔をしかめた。すると、ドラゴンは勢いよく首を振り、ジョンソンを吐き出した。ジョンソンは地面に叩きつけられたが、ゆっくり立ち上がった。
「俺のハードボディーは口に合わなかったみたいだな。」
千切れたスーツの隙間から、隆々とした筋肉が所々見えていた。
ドラゴンが何やら苦しそうにしている。懸命に口から何かを出そうとしており、ひどく咳き込んでいた。
「よっぽど不味かったのかこりゃ…。」俺はそう思った。ジョンソンと目があった。
「こ、怖かった♡」
ジョンソンはそう言ってピースサインを出した。この男はとんでもない。
「ジョンソン顔色悪くない?」
ルイが言う。
「ぜ、全然大丈夫ですよルイ様っ。(中でアレを漏らしたのはマジで言えない…。墓場まで持っていく秘密がまた増えてしまった。)」
ドラゴンの動きはすぐに落ち着いた。再びこちらに顔を向けてきた。息が荒く、激怒しているようだった。俺達は逃げる余裕すらなかった。咆哮をあげると、ドラゴンは瞬く間に顔を俺達に近づけた。怖すぎて目が開けられなかった。
目を開けると、真っ暗だった。俺はもう無我夢中だった。上下左右も分からず、ネバネバした唾液に身動きを妨げられながら、目一杯手足を動かして抵抗した。殴れるものは殴り、蹴れるものは蹴った。ふと、あることに気がついた。ドラゴンは咀嚼していない。要するに、噛もうとしてこない。ただ、口の中に収納されているだけなのだ。そしてまた、あることに気付いた。
「ルイ、いるのか!?」
「ああ、体がすごく痛いよ。たくさん噛まれたみたいだ。もう駄目だ。」
「違う、それ俺だわ。すまん。」
「え?」
「ほら、ドラゴンは噛んでないよ。俺がパニックで君を痛めつけてしまった。」
「まだ僕の体は一つかな?噛みちぎられてない?」
暗くて見えん。
「た、多分大丈夫。打撲はあると思うけど…。」
「ていうか亮、臭くない?」
「確かに…早く出ないとまずい…。」
一方、ドラゴンの口の外では…
「なっ、おい!!2人をだせコラっ!!」
ジョンソンはドラゴンの足元に近寄り、決死のタックルを浴びせ続けていた。体当たりしては弾き飛ばされ、また体当たりをする。二、三回繰り返しただろうか。ドラゴンは翼を広げ、崖の向こうに目線を向けた。まずい、飛んで行ってしまう。そう思ったジョンソンはドラゴンの足の指に抱きついた。
グラッと大きく揺れる感覚がした。
「な、なんだ?」
ルイが驚く。
今度は外から風の音が聞こえてきた。
「飛んでる…!?」
俺は気づいた。
「まずいよ!!このままどこかに行ってしまえばそれこそ帰れなくなる!」
ルイが叫ぶ。
「口内の壁を叩いても全く効かないしな…。逆に今開いても空から落ちて死ぬかも知れない。」
俺が言った。
「こんなにも物事が上手くいかないことがあるのか!」
「…まあ、どこかに着陸するのを待つしかない。噛まないってことは、きっと何か目的があって、何処かに運ぼうとしているはずだ。」
口の中はベチャベチャしていて、その上臭いので、極めて不快である。体も自由に動けないし、せめて顔の前にはスペースを確保しなければ、息ができない。
「亮ってすごいよね。こんな大変な時だってのに、いつも冷静に次の手段を考えてる。」
「そうか?俺だって今怖すぎてちびっちゃいそうだよ」
ある男が大空でクシャミをした。
その拍子に、体が滑ってしまった。ドラゴンの指を体全体で抱いていたのが、両手で辛うじてぶら下がる形になってしまった。
ジョンソンは前後に揺さぶられながらなんとか耐えていた。何回か、前に振られた時に、ドラゴンがどこに向かっているかが見えた。
「ラクダ山…?」
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