幼馴染と結婚する方法

神田柊子

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第一章 知っているのに知らない人

再会 2

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 ユニカから答えをもらう前に、勢いよく扉が開いた。振り返ると、兄のヴィクトールだった。
 入ってきたヴィクトールは、まっすぐにロレーヌの元へ行き、小さい子どもにするように軽々と長椅子から抱き上げる。ロレーヌの膝で寝ていた猫が突然落とされて抗議の鳴き声を上げた。
「ただいま、ロレーヌ」
「お帰りなさい、お兄様!」
 ぐるんと振り回されてから床に下ろされて、ロレーヌは少しふらついた。
「もう! こういうのは、今度から私じゃなくてユニカにしてあげて」
「嫌だ」
「嫌よ」
 間髪入れず、ヴィクトールとユニカは同時に拒否した。
 兄のヴィクトール・スィランは、うなじで一つに束ねている髪は褐色で、くっきりとした眉と高い鼻梁、鋭い目元が野性的な魅力を放つ青年だった。
 ヴィクトールは黒い瞳でロレーヌを見下ろす。ヴィクトールの色合いは父親譲りで、ロレーヌのプラチナブロンドと薄茶の瞳は母親譲りだった。二人とも平均以上に背が高いのは父親譲りだ。
「明日の舞踏会、俺はユニカをエスコートしないといけないだろ? お前を一人にするのは心配なんだ」
 社交界デビューしてから、ロレーヌが舞踏会に出るときは兄がエスコートしていた。
「お父様とお母様も行くんでしょう? 一緒にいるから心配ないわよ」
「いいや、心配だ」
 ヴィクトールはやけにきっぱりと言い、ユニカもうなずく。
「だから、エスコート役を呼んでおいた」
 ヴィクトールが振り返ると、開いたままだった扉から、懐かしい顔が現れた。
「アルフレッド!」
 駆け寄って勢いのまま抱きつく。子どものころなら倒れてしまっていたかもしれないけれど、アルフレッドはしっかりとロレーヌを抱き止めた。意外にもぎゅっと抱きしめ返され、記憶よりも硬い腕や胸に驚く。一緒に暮らしていたころは華奢で、ロレーヌと背の高さも変わらなかったのに。
 アルフレッドはすぐにロレーヌを離すと、顔にかかってしまった髪をそっと払う。その硬い指先や見下ろされる視線に、以前との違いを感じてロレーヌは少しだけ緊張した。それに気づいていないのか、アルフレッドは、
「ロレーヌ、久しぶり。君は変わらないね」
 穏やかな笑顔は記憶の通りだった。ロレーヌは口をとがらせる。
「そんなことないわよ!」
 ロレーヌは、一歩下がって淑女らしく礼をした。アルフレッドと会わない間に身に着けた社交界用の顔だ。
「アルフレッド様、ご無沙汰しております。爵位を継いだと聞きました」
 驚いた様子のアルフレッドにロレーヌはしてやったりと、めいっぱいの笑顔を向ける。
「おめでとう、アルフレッド」
 彼は、とてもうれしそうに笑った。
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