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第一章 ムスカリラ王国を出るまで
閑話 シャーロットとセレナ
教会の作業室に向かいながら、シャーロットはステラから届いた手紙を思い出していた。
ステラが隣国に旅立ったのはもう半年ほど前だ。
伯母の家では、養父や義兄とも仲良くやっているらしい。
シャーロットは見習いを卒業して正式な聖女になった。引退するまでシャーロットは旅行できないため、ステラがムスカリラ王国に来ることがあれば会う約束をした。
「これ、間違ってませんか?」
「え、まさか。シャーロット様が書かれた護符ですよ」
扉のない作業室から聞こえてきた声に、シャーロットは足を止める。
書き間違いなんてどうしましょう、と焦りつつも凍り付いたように動けない。
公爵令嬢としてあるまじき失態だ。
「何言ってるのよ、あなたたち。シャーロット様だって間違えることくらいあるでしょ? 人間なんだから」
セレナの声だった。
彼女はまだ見習いだけれど、教会で暮らしているため、聖女の力が不要な作業には積極的に参加していた。
「あぁ。それはそうですよね」
「間違いなんて誰でもありますものねー」
納得した声が上がることに、シャーロットは驚いた。
幼いころから公爵令嬢として、聖女候補として、教育を受けてきた。課題をこなしても当然と思われ、逆に失敗はいつまでもあげつらわれる。ひとつも間違えることはできないと思っていたのだ。
――間違えても受け入れてもらえるものなのですね。
作業室内の会話は続く。
「まぁ、私は間違えたりなんてしないけれどね!」
「セレナ様。こっちのはセレナ様ですよね。ここ間違ってますけど……」
「ええ! 三回も見直したのに?」
そこで笑いが起きる。
セレナがシャーロットをかばってくれるとは思わなかった。
シャーロットの母に張り合っていたセレナの母。その隣で「史上初の双子の聖女」と胸を張っていたセレナを思い出す。あのころのセレナなら、シャーロットの失敗を嘲笑ったかもしれない。
教会で暮らすようになってから、セレナも変わったらしい。あの母親と離れたからだろうか。
平民の聖女たちともうまくやっているようだ。今なら彼女も、貴族の身分を持ち込まないように改革することに賛同してくれるかもしれない。
「だいたいシャーロット様はずるいのよ。全部ひとりでやってしまって。手柄は独り占めってことでしょ?」
「手伝いたいならそう言えばいいじゃないですかー」
「そんなことは言ってないわ! ずるいって言ってるの」
セレナが言い返しているところで、シャーロットは顔を出した。
「それなら、セレナ様に手伝っていただこうかしら」
「な、聞いていたんですか?」
振り返ったセレナは真っ赤になっていた。
「聞こえるような声でおしゃべりしているのが悪いのですよ」
シャーロットは追加分の用紙を作業机の上に置く。
「さあ、追加がありますから、そちらの確認は早く終わらせてしまいましょうね」
はーい、と各々声が上がる。
シャーロットはもうステラが聖女じゃないことを嘆かない。
ステラが隣国に旅立ったのはもう半年ほど前だ。
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シャーロットは見習いを卒業して正式な聖女になった。引退するまでシャーロットは旅行できないため、ステラがムスカリラ王国に来ることがあれば会う約束をした。
「これ、間違ってませんか?」
「え、まさか。シャーロット様が書かれた護符ですよ」
扉のない作業室から聞こえてきた声に、シャーロットは足を止める。
書き間違いなんてどうしましょう、と焦りつつも凍り付いたように動けない。
公爵令嬢としてあるまじき失態だ。
「何言ってるのよ、あなたたち。シャーロット様だって間違えることくらいあるでしょ? 人間なんだから」
セレナの声だった。
彼女はまだ見習いだけれど、教会で暮らしているため、聖女の力が不要な作業には積極的に参加していた。
「あぁ。それはそうですよね」
「間違いなんて誰でもありますものねー」
納得した声が上がることに、シャーロットは驚いた。
幼いころから公爵令嬢として、聖女候補として、教育を受けてきた。課題をこなしても当然と思われ、逆に失敗はいつまでもあげつらわれる。ひとつも間違えることはできないと思っていたのだ。
――間違えても受け入れてもらえるものなのですね。
作業室内の会話は続く。
「まぁ、私は間違えたりなんてしないけれどね!」
「セレナ様。こっちのはセレナ様ですよね。ここ間違ってますけど……」
「ええ! 三回も見直したのに?」
そこで笑いが起きる。
セレナがシャーロットをかばってくれるとは思わなかった。
シャーロットの母に張り合っていたセレナの母。その隣で「史上初の双子の聖女」と胸を張っていたセレナを思い出す。あのころのセレナなら、シャーロットの失敗を嘲笑ったかもしれない。
教会で暮らすようになってから、セレナも変わったらしい。あの母親と離れたからだろうか。
平民の聖女たちともうまくやっているようだ。今なら彼女も、貴族の身分を持ち込まないように改革することに賛同してくれるかもしれない。
「だいたいシャーロット様はずるいのよ。全部ひとりでやってしまって。手柄は独り占めってことでしょ?」
「手伝いたいならそう言えばいいじゃないですかー」
「そんなことは言ってないわ! ずるいって言ってるの」
セレナが言い返しているところで、シャーロットは顔を出した。
「それなら、セレナ様に手伝っていただこうかしら」
「な、聞いていたんですか?」
振り返ったセレナは真っ赤になっていた。
「聞こえるような声でおしゃべりしているのが悪いのですよ」
シャーロットは追加分の用紙を作業机の上に置く。
「さあ、追加がありますから、そちらの確認は早く終わらせてしまいましょうね」
はーい、と各々声が上がる。
シャーロットはもうステラが聖女じゃないことを嘆かない。
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