妖狐と風花の物語

ほろ苦

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5 主様と妖狼

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主様が東の主妖狼に連れ去られた
妖怪同士、主の取り合いはよくある
その土地を納める力が強ければ強い程いい
妖狼は以前より主様を狙っていたのだ
妖狐は自分が傍に居れば、こんな事にならなかったかもしれないと後悔した
自分の愚かさを呪い
妖烏に連れられて森に戻った

「……何をしていたのですか?」

主様の側近、妖狸が妖狐を冷たい目で睨む
妖狐は俯き何も言えなかった

「主様は貴方が来るのを外で待っていた時に連れ去られました。わかりますね?」

妖狸は遠まわしに妖狐を責め
妖狐は辛い顔をした
(俺のせいだ……)
ぎりっと歯を食いしばる

「すぐにでも助けに行く!」

妖狐は屋敷を出ようとしたが妖狸に腕を掴かむ

「ダメです。今行ってもどうしようもない」

「でも!」

妖狸は鋭く睨み妖狐を黙らせた

「しばらく様子を見ましょう。いいですね?妖狐」

妖狐に監視がつけられ、屋敷で過ごす事になった
自分が情けない
人間に現を抜かすからこんな事になったのだ
妖狐は一晩中自分を責めた

次の日になっても主様の情報はなに一つ入って来なかった
部屋に閉じ込められ妖狐の心は弱っていた

ガチャ
妖犬が部屋に入ってくる

「妖狐……」

流石にこの状況でココという名前は出せなかった
虚ろな瞳の放心状態の妖狐をみて妖犬は顔を歪める

なんて声をかけたらいいのか?

答えが出ないまま、妖犬は部屋をあとにした
屋敷を出て、鼻を高く上げ匂いを探す

妖狼は妖犬の遠い親戚だった

静かな夜、狼の遠吠えが響く
妖犬はその声と匂いの元に駆け出した

「…よぉー犬」

焦げ茶色の長い髪を高い位置で束ね、野性的な鋭い瞳、褐色肌の妖狼が待っていた
妖怪の中でも強い力を持ち、東の主と言われている
遠縁の親せきとはいえ、格の違いは明らかだった
妖犬は脂汗をかきながら、深々とお辞儀をする

「妖狼様、ご無沙汰してます。」
「あぁ、随分とな。大きくなったなー」
「はい。おかげさまで…あの、その」
妖犬は主様の事が聞きたかった
しかし、その事が中々口から出せない

「…主の事か?」

「!はい。あの、無事なのでしょうか?」

妖犬は目じりを下げ心配とばかりに耳と尻尾を下げる
妖狼はその様子をみて口角を上げる

「可愛いなー犬」

「え?」
妖狼はつかつかと妖犬に近づき尻尾を掴む

「あっ!やぁ…」

尻尾は妖犬の性感帯のひとつだ
その事を解っていて妖狼は尻尾を刺激する
妖犬の顎を乱暴に掴み引き寄せ貪るように唇を奪った
妖犬は逃げたい気持ちを押し殺し、それに答える
そう、すべては主様の事を聞くために

「ん……んん」

顔を上気させ涙目になり呼吸も荒くなってくる
ダメだ……このままでは先に理性が無くなってしまう
妖犬が一度距離を取ろうとしても、妖狼は逃がさない

「ぷはぁ。犬、随分うまくなったじゃないか?」
「はぁ……はぁ……」

妖犬はもう腰が砕けそうになって立っているのもやっとだった

「主に傷はつけてない。安心しろ。それよりお前から俺の元に来るなんてなぁー」

顎をくいっと上げられ指で濡れた唇をなぞる
妖犬は目線を逸らし表情を曇らせた

「そそられるなぁー犬。俺の屋敷に来い」

妖狼は妖犬を荷物のように抱きかかえ自分の棲家に連れ帰った
その日、妖犬は自分が暮らしている森に戻らなかった
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