あなたの隣で

ほろ苦

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それからどれだけ時間が経ったのかわからないが、私は冷たい床に倒れた状態で目が覚めた。
辺りは薄暗く、少し湿った空間と鉄格子が視界に入り、ここは牢屋だと理解できた。
起き上がろうとすると、ジャラという鎖が擦れる音と首についている鉄の首輪にに両手が後ろで拘束されていることに気が付く。
鉄格子の向こう側には、なんと壁に張り付けられているボロボロのクリウスと、見覚えのある令嬢が首枷をつけられて繋がられていた。
彼女はいつかの令嬢、レイラお嬢様だ。
虚ろな瞳でまるで抜け殻の人形のような彼女に生気を感じなかった。
これはいったい…
しばらくして、部屋に入る扉がギギギとひらくと、サムロ伯爵が執事を連れて上機嫌に入ってきた。

「いやーお待たせして申し訳無い。我が愛すべき妻の願いを叶えるための準備が必要でね」
「サムロ伯爵、これはどういうことですか!」
「見ての通り、我が妻が欲しがるモノを与え、その邪魔になるものを退治しようと思っているのですよ。わたしはなんと優しい夫なのでしょう」

サムロ伯爵は不気味に笑って、レイラお譲さまの首枷についた鎖を引っ張りレイラお嬢様を引きづり倒す。
私は狂っているサムロ伯爵にゾッとして顔を歪めた。

「さて、ミリアさん、貴女には彼等に最大限苦痛をあたえて死んでもらいますからね」

そう言うと執事が怪しい薬の瓶をサムロ伯爵に渡して、サムロ伯爵は牢屋の中に入ってきた。

「これはどんなものでも溶かす液体です、あなたの可愛い顔もこれで醜くなるでしょう。アイツは自分の妻がそうなることにきっと…ふふひひひ」

上気を異した目をしているサムロ伯爵は異常者だった。
私は何とかしないとと焦っていると、その液体を振りかけられた。
私は苦渋の決断で、自ら封印していた魔力を巡らせ液体が私にかかる直前に物質を変化させただの水にした。

「なぜだ!なにもならないぞシュバル!」

サムロ伯爵は執事を叱りつけると執事も不可解といった顔をして頭を下げている。
両手が使えなくても魔力を操ることは出来る。
しかし、やれることは限られており、状況としてピンチのままだった。
サムロ伯爵は近くにあった体罰棒を持ち

「これでボコボコにしてやる!!!」

棒を振りかぶると同時に爆音と共に部屋の入口の扉が吹き飛んだ。
そして、一瞬の間に執事がぶっとばされ、牢屋の中にツインテールの細身な少女が鬼の形相で入ってきたのだ。

「な、ナナン!」
「変態伯爵、証拠を押さえた。もうあんたは終わりだ」
「なんなんだ、お前はぁぁぁぁ」

殴りかかったサムロ伯爵に一発KOのアッパーをナナンはサムロ伯爵の顔面に決めて、サムロ伯爵は気絶した。
ナナンはサムロ伯爵から鍵を奪い、私の首枷と両手の拘束を外してくれた。

「ナナン、ありがとうーもうダメかと」
「ちゃんと相談しないで勝手について行くから、バチがあたったんだよ」

たしかに、私は深く反省した。
シュンと落ち込んでいる私を、ナナンはそっと抱き寄せた。

「無事で良かった…ミリア。君は魔術師だね」
「!」
「さっき、見えたんだ。有害な薬を水に変えたのを。あれは高度な魔術だよね」
「それは……」

じっと睨むナナンに私はもう誤魔化せないと思った。
そうこうしていると、バタバタと国の騎士たちが入ってくる。
どうやらサムロ伯爵は色々とヤバい人だったらしく、悪事の尻尾を掴むためにナナンは協力していたようだ。
騎士の偉そうな人がナナンに深々と頭を下げている。
ナナンも一体何者だろうか?
かろうじて意識があるクリウスは身体が自由になると弱々しく歩いてレイラお嬢様に近づきそっと優しく抱きしめ涙を流していた。
しかし、レイラお嬢様は壊れた人形のままだった。
私は切なく少し落ち込んでナナンと帰ることになった。
帰り道、私はぽつりぽつりと自分のことをナナンに打ち明けた。

「私、サルレルド国の第一王女リーリエと申します」
「……は?え?」

ナナンが目を丸くして歩いている足を止めた。
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