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心境の変化とサクラギとの再会
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「へぇ~かわいい女の子じゃない、父親に似て豚顔にならずに済んで良かったわね」
「……ミザリー、お前あとで俺の部屋まで来い」
「いやん、今度は私が孕まされる番? でも豚顔じゃない男の子が、魔王の世継ぎ的には理想なのよね」
軽口を言うミザリーを少しばかり懲らしめてやろうかと思ったが、娘の頭を優しく撫でる姿を見ると次第に怒れなくなる。
ブレサやカルミアに遺る文献を確認してみたが、オークと人間の間で女の子が誕生したという記録は記載されていなかった。
ちなみに娘の名前は、凜音(リンネ)と命名された。
元は輪廻転生からだがそれだと娘に付ける漢字としてふさわしくない、だが厨二病をもしも発症させていたら、この漢字をそのまま使ったかもしれない。
「もしかするとこの世界の住人と元の世界の人間では、遺伝子が微妙に異なるのかもしれない」
安藤 沙織(あんどう さおり)は、娘が産まれた理由をそう分析する。
そうなると息子のコージと紅葉院 玲奈(こうよういん れいな)の子ども、レイがオークだった説明がしづらい。
色々と予想を立ててみたが、皆が一番納得出来た答えはミザリーが何気なく発した言葉だった。
「きっとレーナがオークの子を強く望んだから、産まれてきたのだと思う。 この娘もあなた達2人が心の奥底で、人間の娘の誕生を強く願ったから産まれたのよ」
だがこの世界はそこまで優しくはない、人間の子どもそれも女の子が産まれた理由はもっと単純なものだったのである。
それにディザイア達が気付くのは、これからわずか数年後のことだった。
「櫻木の奴と会ってこようと思う」
遅い朝食を食べながら、ディザイアは皆の前で告げる。
魔王ミザリーの後ろ盾もあり2つの街の領主となった彼だが、慣れない領主生活で疲れが上手く取れないのか早起きが出来なくなってきた。
それは息子のコージも同様で、玲奈は彼が心配で傍を離れようとしない。
(転生して10年かそこらでもう体力の衰えを感じるとは、俺もまだまだだな)
ディザイアが櫻木と会おうと思ったのは、保存してある受精卵の扱いを聞くためである。
生前櫻木 誠(さくらぎ まこと)はその力で河合 今日子(かわい きょうこ)を犯し、あげくの果てに孕ませていた。
それを知った今日子はショックで自殺したが、櫻木は彼女を再び蘇らせて支配下に置いている。
今日子がどういう反応を示すのかは不明だが、自身の血をこの世界に残しても良いのであれば誰か代理で出産する者を見つけるつもりでいた。
憎い相手ではあるがその子どもに罪は無い、しかし望まれない子どもを誕生させるのはためらってしまう。
拠点に居た頃のディザイアであれば、戯れに誰か適当な女に産ませていただろう。
復讐を終えたことで心境にも変化が訪れたのか、命を誕生させる意味と重さを彼は真剣に考えるようになっていたのである。
コージの傍から離れるのを嫌がる玲奈を何とか説得して、ディザイアはたった2人で昔住んでいた拠点を目指した。
ミザリーとジャンヌに2つの街の防衛を任せてあるので、特に不安はない。
ディザイア達の戦力はそれほど多くないが、ミザリーが本来率いている筈の魔王軍は一国を滅ぼせるだけの数と実力がある。
それを自国に招き入れるような愚策を選択する王ではなかった、無論監視のために密偵を派遣しているが街の様子を見るだけにとどめていた。
2日ほどの移動で久しぶりに拠点に戻ってきたディザイアと玲奈だったが、最初に拠点を見て驚いたのはその変わりよう。
近代的な設備がずらりと並んでいた、高射砲や榴弾砲に機関銃。
玲奈の告白ではそれらを創造するには、伊勢谷に精力を分け与える必要があるため今日子が人間の男を襲って命を奪っているらしい。
目を離している隙に、どれだけの命が奪われたのだろう?
ディザイアは思わず唇をかむ、そして伊勢谷達の命を再び奪うことも覚悟した。
攻撃に警戒しながら入り口に着いた2人を、待ち構えていた伊勢谷が出迎える。
罠を疑っていると伊勢谷は、呆れた顔をしながら話しかけてきた。
「警戒しなくても平気だ。 俺とキョーコに不死王サクラギの3人しか、今この拠点に残っていないからな」
「お前ら3人しか残っていないだと? 一体どういうことだ?」
「その原因を作ったのは紅葉院、お前だ。 お前がいる以上不死王サクラギに勝てる見込みはない、佐伯と何とか交渉する機会を得るにしてもそれまではこの拠点を維持する必要がある。 そこで眷属化されていた他の連中の精気を使って、高射砲などをわざと見える場所に設置しておいたのさ。 高射砲や榴弾砲を知らない連中には異界の武器はとても恐ろしく見えるらしく、おかげで誰も近づこうとはしなかった」
サクラギは手駒にしていた者の大半を、不死の牢獄から解放したことにもなる。
だが中には命を奪われた上に手駒にされた者も居るはずなので、その罪が消える訳ではない……。
「そろそろ主達が居る屋敷に到着するが……、くれぐれも言っておく。 どんな姿を見ても、決して驚かないと約束して欲しい」
「それだとかえって不安になる、はっきりと言え」
「……口から砂が出そうだから勘弁してくれ」
なんだか嫌な予感がする、伊勢谷の口ぶりからすると櫻木と今日子で甘い空気でも漂わせているということか?
その予感は見事に的中してしまう。
縁側に腰掛けた今日子の膝の上に頭をのせて、櫻木は彼女に耳かきをさせていた。
「佐伯か。 もう少し早く来るかと思ったが、遅かったな」
(耳かきか……クレアの奴、頼めばやってくれるかな?)
膝枕で耳かきをしてくれる妻の姿を想像して、ディザイアは短いシッポを振る。
玲奈はそれを見て、釣られて妄想を抱き始めた。
(コージも膝枕で耳かきをしてあげたら、ディザイアのようにシッポを振って喜んでくれるかな?)
「お~い2人とも、そろそろ本題に入ってくれないか?」
伊勢谷の言葉も、2人の耳には届かない。
サクラギ達は2人が妄想を止めるまで、5分ほど待たされたのだった。
「……ミザリー、お前あとで俺の部屋まで来い」
「いやん、今度は私が孕まされる番? でも豚顔じゃない男の子が、魔王の世継ぎ的には理想なのよね」
軽口を言うミザリーを少しばかり懲らしめてやろうかと思ったが、娘の頭を優しく撫でる姿を見ると次第に怒れなくなる。
ブレサやカルミアに遺る文献を確認してみたが、オークと人間の間で女の子が誕生したという記録は記載されていなかった。
ちなみに娘の名前は、凜音(リンネ)と命名された。
元は輪廻転生からだがそれだと娘に付ける漢字としてふさわしくない、だが厨二病をもしも発症させていたら、この漢字をそのまま使ったかもしれない。
「もしかするとこの世界の住人と元の世界の人間では、遺伝子が微妙に異なるのかもしれない」
安藤 沙織(あんどう さおり)は、娘が産まれた理由をそう分析する。
そうなると息子のコージと紅葉院 玲奈(こうよういん れいな)の子ども、レイがオークだった説明がしづらい。
色々と予想を立ててみたが、皆が一番納得出来た答えはミザリーが何気なく発した言葉だった。
「きっとレーナがオークの子を強く望んだから、産まれてきたのだと思う。 この娘もあなた達2人が心の奥底で、人間の娘の誕生を強く願ったから産まれたのよ」
だがこの世界はそこまで優しくはない、人間の子どもそれも女の子が産まれた理由はもっと単純なものだったのである。
それにディザイア達が気付くのは、これからわずか数年後のことだった。
「櫻木の奴と会ってこようと思う」
遅い朝食を食べながら、ディザイアは皆の前で告げる。
魔王ミザリーの後ろ盾もあり2つの街の領主となった彼だが、慣れない領主生活で疲れが上手く取れないのか早起きが出来なくなってきた。
それは息子のコージも同様で、玲奈は彼が心配で傍を離れようとしない。
(転生して10年かそこらでもう体力の衰えを感じるとは、俺もまだまだだな)
ディザイアが櫻木と会おうと思ったのは、保存してある受精卵の扱いを聞くためである。
生前櫻木 誠(さくらぎ まこと)はその力で河合 今日子(かわい きょうこ)を犯し、あげくの果てに孕ませていた。
それを知った今日子はショックで自殺したが、櫻木は彼女を再び蘇らせて支配下に置いている。
今日子がどういう反応を示すのかは不明だが、自身の血をこの世界に残しても良いのであれば誰か代理で出産する者を見つけるつもりでいた。
憎い相手ではあるがその子どもに罪は無い、しかし望まれない子どもを誕生させるのはためらってしまう。
拠点に居た頃のディザイアであれば、戯れに誰か適当な女に産ませていただろう。
復讐を終えたことで心境にも変化が訪れたのか、命を誕生させる意味と重さを彼は真剣に考えるようになっていたのである。
コージの傍から離れるのを嫌がる玲奈を何とか説得して、ディザイアはたった2人で昔住んでいた拠点を目指した。
ミザリーとジャンヌに2つの街の防衛を任せてあるので、特に不安はない。
ディザイア達の戦力はそれほど多くないが、ミザリーが本来率いている筈の魔王軍は一国を滅ぼせるだけの数と実力がある。
それを自国に招き入れるような愚策を選択する王ではなかった、無論監視のために密偵を派遣しているが街の様子を見るだけにとどめていた。
2日ほどの移動で久しぶりに拠点に戻ってきたディザイアと玲奈だったが、最初に拠点を見て驚いたのはその変わりよう。
近代的な設備がずらりと並んでいた、高射砲や榴弾砲に機関銃。
玲奈の告白ではそれらを創造するには、伊勢谷に精力を分け与える必要があるため今日子が人間の男を襲って命を奪っているらしい。
目を離している隙に、どれだけの命が奪われたのだろう?
ディザイアは思わず唇をかむ、そして伊勢谷達の命を再び奪うことも覚悟した。
攻撃に警戒しながら入り口に着いた2人を、待ち構えていた伊勢谷が出迎える。
罠を疑っていると伊勢谷は、呆れた顔をしながら話しかけてきた。
「警戒しなくても平気だ。 俺とキョーコに不死王サクラギの3人しか、今この拠点に残っていないからな」
「お前ら3人しか残っていないだと? 一体どういうことだ?」
「その原因を作ったのは紅葉院、お前だ。 お前がいる以上不死王サクラギに勝てる見込みはない、佐伯と何とか交渉する機会を得るにしてもそれまではこの拠点を維持する必要がある。 そこで眷属化されていた他の連中の精気を使って、高射砲などをわざと見える場所に設置しておいたのさ。 高射砲や榴弾砲を知らない連中には異界の武器はとても恐ろしく見えるらしく、おかげで誰も近づこうとはしなかった」
サクラギは手駒にしていた者の大半を、不死の牢獄から解放したことにもなる。
だが中には命を奪われた上に手駒にされた者も居るはずなので、その罪が消える訳ではない……。
「そろそろ主達が居る屋敷に到着するが……、くれぐれも言っておく。 どんな姿を見ても、決して驚かないと約束して欲しい」
「それだとかえって不安になる、はっきりと言え」
「……口から砂が出そうだから勘弁してくれ」
なんだか嫌な予感がする、伊勢谷の口ぶりからすると櫻木と今日子で甘い空気でも漂わせているということか?
その予感は見事に的中してしまう。
縁側に腰掛けた今日子の膝の上に頭をのせて、櫻木は彼女に耳かきをさせていた。
「佐伯か。 もう少し早く来るかと思ったが、遅かったな」
(耳かきか……クレアの奴、頼めばやってくれるかな?)
膝枕で耳かきをしてくれる妻の姿を想像して、ディザイアは短いシッポを振る。
玲奈はそれを見て、釣られて妄想を抱き始めた。
(コージも膝枕で耳かきをしてあげたら、ディザイアのようにシッポを振って喜んでくれるかな?)
「お~い2人とも、そろそろ本題に入ってくれないか?」
伊勢谷の言葉も、2人の耳には届かない。
サクラギ達は2人が妄想を止めるまで、5分ほど待たされたのだった。
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