復讐のためオークに転生した元いじめられっ子、魔王を牝犬にして飼う。【R18】

いけお

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叶えられなかった未来

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「ここに来たのは、その…なんだ……」

「今日子のお腹の中にいた、俺の子どもについてか?」

 ディザイアが言いづらそうにしていると、サクラギは自分から用件を言い当てた。
 この拠点を陥落させるつもりなら、もっと大勢引き連れてくるだろうと予想をしていたらしい。

「ああ、そうだ。 2人の受精卵は今、中畑から奪った力を使って異空間で保管してある。 こちらの世界で誕生させても良いのかどうか、聞いておこうと思ってな」

 2人に命の選択を突きつけるディザイア、キョーコにとっては望まない妊娠だったはずなので即座に拒否される可能性もある。
 しかしキョーコは優しく微笑むと、その可能性を否定した。

「ディザイア……いいえ、佐伯君。 私達の代わりに、その子どもの面倒を任せてもいいかな?」

「自分の子どもを育てるつもりは無いってことか?」

「この子の幸せを願うならゾンビの両親に育てられるよりも、生きている人間の両親に育てられた方が良いと思う。 私達は孫やひ孫達の行く末を見守るだけで良いの」

 キョーコの言葉から、再び死ぬ気は無いという意志を感じ取る。
 だがこれまでに奪ってきた命に対する償いは、どうするつもりなのだろうか?

「それはお前が判断することじゃないぞ佐伯、俺はカルマから永遠に死ねない身体を与えられた。 つまりこれから何千年何万年と、多くの人間達の死を見ていかないとならない。 その中には……、イセヤやキョーコも含まれているはずだ」

 いずれは2人も解放するつもりなのだと、サクラギが苦笑しながら答える。
 その頃にはディザイアや、一緒に転移してきたクラスメイト達も当然居ない。
 永遠の孤独を1人で生きるのが自分なりの贖罪なのだと、サクラギは仄めかした。

「1人になるのは勝手ですけど、私を解放するのは子どもの血が途絶えてからにしてくださいね。 子だくさんの家系になったら、眺めているだけであっという間に時間も過ぎているでしょうけど」

 キョーコはそう言って、2人の子どもの血が続くかぎりこの牢獄に付き合うことを約束する。

「俺も自分から死にたくなるまでは付き合うことにするわ、俺がいないと生身の身体も保てないだろうからな。 不死王サクラギ」

 イセヤもどれぐらいの期間になるかは不明だが、不死の生活を続けるようだ。
 3人の意志は確認出来たが、最後に肝心なことが残っている……。

(サクラギと今日子の子どもを、誰に産ませるべきだろう?)



「……希望者が誰も居ないのなら、私がその役を引き受けます」

 ブレサに戻ったディザイアと玲奈が事の経緯を皆に説明すると、サクラギと今日子の子どもを産む母胎に鳳 舞依華(おおとり まいか)が名乗り出た。

「櫻木くんには色々と思うところは有るけど、河合さんには別に恨みは無いから。 それに……」

 舞依華は一旦深く息を吸ってから、今の考えを伝える。

「沙織さんの言葉の通りだと、私達日本人とこちらの世界の人間では交配は難しいのかもしれない。 ならばこの子どもが男の子であれば、なんとか子孫を残せる可能性も出てくるでしょう?」

 つまりこの子どもが大きくなった時に、残っている女子生徒達が相手をすることで日本人をこちらの世界に根付かせようというのだ。
 だがそうなると子ども同士を結ばせようとした際に、血が濃くなってしまう。
 この問題を解決する希望の光はリンネだと、舞依華は答えた。

「リンネちゃんは日本人とオークの間で生まれた初めての女の子、それにレイくんも日本人とのハーフだから血が濃くなる心配も少ない。 日本人の純血を残そうとすると難しいかもしれないけど、私達の子孫を残すことだけ考えれば可能のはずよ」

 ディザイアはそこまで深く考えていなかった、とりあえず2人の血を残すことだけを優先している。
 感心していると、舞依華が急に真剣な表情に変わった。

「……ねえ、ディザイア。 女の人がイッてる時に受精すると男の子が産まれやすいと聞いたことあるけど、櫻木くんは河合さんをイカせることが出来たのかしら?」

「さすがにそれを聞きに行く勇気は、俺には無いぞ」

 微妙な空気があたりをつつむ、もしサクラギが自信満々にイカせたと言って女の子が産まれたら、キョーコはその時イッたふりをしていたと思われかねない。
 そうなったら男としての自信を、サクラギはきっと失うだろう。

 逆の場合だったら、自信につながるかもしれないけど……。



 翌月生理を終えた舞依華の子宮に、ディザイアは受精卵を着床させた。
 指先では届かないので、コージに舌を使わせて運ばせる。
 無事に妊娠することを、皆で願った。

 舞依華の子宮に着床させてから、3ヶ月近くが過ぎたある日のこと。
 彼女の身体に皆が待ち望んでいた変化がおとずれた、つわりである。

 早速コーゾーをコージに預けたディザイアは、ジャンヌの操る馬に乗ってサクラギ達の居る拠点へ向かった。

「よろこべ、舞依華は無事に妊娠したぞ」

 報告を聞いたサクラギとキョーコは、複雑な笑みを浮かべる。
 自分達の子どもを本当に産ませてよかったのか、考えることも多いのだろう。
 するとサクラギが懐から1枚の紙を取り出して、ディザイアに手渡す。

 その紙には小さく、河一(コウイチ)と真桜(マオ)の文字が。

「男の子だったら河一、女の子だったら真桜と名前をつけてほしい。 男の子の方はキョーコが、女の子の方は俺が名前をつけた」

「わかった。 無事に産まれたら連れてくる、その時は顔くらい間近で見てやれ」

「ああ、楽しみにしているよ」

 子どもの顔を初めてみた時のサクラギの顔を思い浮かべながら、ディザイアは街に戻るためジャンヌの馬にまたがる。
 サクラギ達は遠ざかるその姿が見えなくなるまで、手を振って見送った。



(復讐するどころか、仲直りなんぞしおって……。 こやつらはもう用済みだな)

 遙か遠い場所から眺めていたカルマは、つまらなそうにため息を吐くと人差し指で地表のサクラギ達を指差して一言つぶやく。

『失せろ』

 用件が済んだカルマはなにか面白いものがないか、さまざまな世界を見始めた。
 興味を無くしたカルマが先ほどまで見ていた拠点では、折り重なるようにして3体の人骨が横たわっている。

 サクラギとキョーコが、我が子の顔を見る機会は訪れなかった……。
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