77 / 86
パレードの開始
しおりを挟む
「……あなた。 妻が到着したのに出迎えにも来ないで、言い訳の1つや2つ考えてあるのですよね?」
「まったく考えておりません」
王城アトモスに牝犬達が続々と到着し、割り振られた部屋に荷物を運んでいる。
それより一足早く到着したクレアの前で、ディザイアはまた正座させられていた。
ジャンヌ率いる魔王軍の精鋭に護衛されて無事入城を果たしたクレアは、文字通り一国を支配した夫にねぎらいの言葉をかけようと大広間に足を運ぶ。
だがそこで見たものは牝犬となった魔王と、見覚えのない新たな牝犬2匹。
そしてその3匹の牝犬に、精を浴びせている夫の姿だった……。
妻の入城を聞き流していたディザイアは、クレアの顔を見た瞬間背筋が凍り付く。
即座に土下座して謝ったが、乱交していた最中だったので言い訳出来る筈もない。
さらに怒らせてしまったのは牝犬お披露目パレードの計画を、事前に彼女に伝えるのを忘れていたことだった。
「あなたが街でお散歩している間、私はここでボーッとしていれば良いのですか?」
「いや、そうじゃなくてだな」
「まさか、私にもその破廉恥なお散歩に付き合えと言うのですか?」
怒気を含んだ口調にディザイアは一言も返せない。
こうなったクレアの機嫌を直すのは至難の業だと、これまでの経験で知っている。
しかしこの日の彼女は少し様子が違っていた、軽くため息を吐きながらパレードの内容を変更するように夫を諭す。
「あなた。 このパレードが誰の発案か分かりませんが、自分のモノにした女を大勢の人の前で晒すのは、国を統べる者としてふさわしくありません。 どうしても披露されたいのであれば、夜中にこっそりとすべきです」
「夜中にこっそり?」
「そう、こっそり」
クレアの提案を聞き入れたディザイアは、ミザリーとマリアにパレードを一部変更する旨を説明した。
それは国の内外に向けて表向き盛大に披露する昼の部と、夜中にこっそりと誰にも気づかれないように行う夜の部と2回行うというものである。
「……つまり深夜0時になると同時に、カリウスの大通りにレッドカーペットを敷き途中に砂場も数カ所設置すると?」
「うむ」
「そうすると、夜は花火を打ち上げなくても大丈夫なのですね」
パレードの準備を担当していたミザリーの部下の1人の質問に対する、魔王の答えは斜め上のものだった。
「もちろん昼以上に盛大な花火を打ち上げるぞ、大勢の楽士による演奏も行う。 夜の部こそが、真のパレードなのだ」
部下はこめかみを押さえながら、パレードの内容を確認する。
「夜中にこっそりとパレードするのに、何故花火や楽器の演奏が必要なのですか? そんなことをしたら、すぐにバレてしまいます」
部下が疑問に思うのも当然だ、夜中にこっそりとするのに花火を打ち上げたり楽器の演奏なんてことをしたら、住人達は何事かと外に出てきてしまう。
そうなれば気づかれずにやろうとする意味が無い、しかしその疑問の答えもさらに斜め上をいっていた。
「当日はすべての建物に術士を配置し、遮音で花火や楽器の音を消したり幻惑の術で窓から見える景色を闇夜に変えるのだ」
建物の中にいる者を起こさないように、音を遮り光も建物の中に入らなくする。
周辺を警護する者も含め、昼の部の倍以上の人員が必要だ。
(都に住む者を全員眠らせれば、幾らでも花火も打ち上げられるし楽器を鳴らしても問題はない。 何故それをしない?)
花火や楽器の演奏の中止を考えない魔王に、部下は苛立ちを隠せない。
それに気づいたのかミザリーは、悪戯っぽい笑みを浮かべながら答えた。
「だってバレるかバレないかハラハラしながら、御主人様と街の中を散歩するのよ。 当日何が起きるか誰にも分からない、考えるだけで興奮しちゃうわ」
何故魔王が花火や楽器の演奏を中止しないのか、ようやく部下も理解する。
とどのつまり魔王は、人目に晒される可能性で興奮する変態さんだったのだ。
ならば派手な花火や楽器の演奏は、彼女にとって羞恥心を高めるスパイスの1つでしかない。
部下は魔王の望みを叶えるべく、より羞恥心を刺激しそうな花火や演奏時の楽器を選び始めたのだった。
それから半月ほど経った雲1つ無い晴天の日、ついにパレードの当日をむかえる。
しかし魔王ミザリーをはじめとする牝犬一同は、朝から打ち上げられている花火の音に戦々恐々としていた。
「ね、ねえ、夜にもあの花火を使うの?」
「音や光は何とかするって言ってたけど、今からでも変更は可能なの?」
夜の部のパレードを心配する声が次々とあがる。
その理由は花火が打ち上がる度に、音の振動で全身を大きく揺さぶられるからだ。
「それに花火だけじゃないわよ、演奏している楽団が使用しているのもドラムなどの打楽器が中心。 振動で窓ガラスも共鳴しているわ」
よく見れば演奏する曲に合わせるように、周囲の窓ガラスも音を立てている。
どうやら都で使われている窓ガラスと共鳴しやすいように、使用する楽器も吟味をされているようだ。
しかしここまできて、もう引き下がることはできない。
牝犬達の不安をよそに、昼の部のパレードが始まった。
「こうなったら、もう運を天に任せてやるしかない。 まずはこの昼の部のパレードを成功させてからだ」
ディザイアは楽団の演奏をバックに、手を振りながら歩き始める。
その横で共に歩くのは、新王妃となったクレア。
新たな国王夫妻を祝福する花火が一斉に打ち上げられる、身体を揺らすその振動に内心でおびえながらディザイアは切に願った。
(どうか今日1日、夜のパレードまで無事に終わりますように……)
「まったく考えておりません」
王城アトモスに牝犬達が続々と到着し、割り振られた部屋に荷物を運んでいる。
それより一足早く到着したクレアの前で、ディザイアはまた正座させられていた。
ジャンヌ率いる魔王軍の精鋭に護衛されて無事入城を果たしたクレアは、文字通り一国を支配した夫にねぎらいの言葉をかけようと大広間に足を運ぶ。
だがそこで見たものは牝犬となった魔王と、見覚えのない新たな牝犬2匹。
そしてその3匹の牝犬に、精を浴びせている夫の姿だった……。
妻の入城を聞き流していたディザイアは、クレアの顔を見た瞬間背筋が凍り付く。
即座に土下座して謝ったが、乱交していた最中だったので言い訳出来る筈もない。
さらに怒らせてしまったのは牝犬お披露目パレードの計画を、事前に彼女に伝えるのを忘れていたことだった。
「あなたが街でお散歩している間、私はここでボーッとしていれば良いのですか?」
「いや、そうじゃなくてだな」
「まさか、私にもその破廉恥なお散歩に付き合えと言うのですか?」
怒気を含んだ口調にディザイアは一言も返せない。
こうなったクレアの機嫌を直すのは至難の業だと、これまでの経験で知っている。
しかしこの日の彼女は少し様子が違っていた、軽くため息を吐きながらパレードの内容を変更するように夫を諭す。
「あなた。 このパレードが誰の発案か分かりませんが、自分のモノにした女を大勢の人の前で晒すのは、国を統べる者としてふさわしくありません。 どうしても披露されたいのであれば、夜中にこっそりとすべきです」
「夜中にこっそり?」
「そう、こっそり」
クレアの提案を聞き入れたディザイアは、ミザリーとマリアにパレードを一部変更する旨を説明した。
それは国の内外に向けて表向き盛大に披露する昼の部と、夜中にこっそりと誰にも気づかれないように行う夜の部と2回行うというものである。
「……つまり深夜0時になると同時に、カリウスの大通りにレッドカーペットを敷き途中に砂場も数カ所設置すると?」
「うむ」
「そうすると、夜は花火を打ち上げなくても大丈夫なのですね」
パレードの準備を担当していたミザリーの部下の1人の質問に対する、魔王の答えは斜め上のものだった。
「もちろん昼以上に盛大な花火を打ち上げるぞ、大勢の楽士による演奏も行う。 夜の部こそが、真のパレードなのだ」
部下はこめかみを押さえながら、パレードの内容を確認する。
「夜中にこっそりとパレードするのに、何故花火や楽器の演奏が必要なのですか? そんなことをしたら、すぐにバレてしまいます」
部下が疑問に思うのも当然だ、夜中にこっそりとするのに花火を打ち上げたり楽器の演奏なんてことをしたら、住人達は何事かと外に出てきてしまう。
そうなれば気づかれずにやろうとする意味が無い、しかしその疑問の答えもさらに斜め上をいっていた。
「当日はすべての建物に術士を配置し、遮音で花火や楽器の音を消したり幻惑の術で窓から見える景色を闇夜に変えるのだ」
建物の中にいる者を起こさないように、音を遮り光も建物の中に入らなくする。
周辺を警護する者も含め、昼の部の倍以上の人員が必要だ。
(都に住む者を全員眠らせれば、幾らでも花火も打ち上げられるし楽器を鳴らしても問題はない。 何故それをしない?)
花火や楽器の演奏の中止を考えない魔王に、部下は苛立ちを隠せない。
それに気づいたのかミザリーは、悪戯っぽい笑みを浮かべながら答えた。
「だってバレるかバレないかハラハラしながら、御主人様と街の中を散歩するのよ。 当日何が起きるか誰にも分からない、考えるだけで興奮しちゃうわ」
何故魔王が花火や楽器の演奏を中止しないのか、ようやく部下も理解する。
とどのつまり魔王は、人目に晒される可能性で興奮する変態さんだったのだ。
ならば派手な花火や楽器の演奏は、彼女にとって羞恥心を高めるスパイスの1つでしかない。
部下は魔王の望みを叶えるべく、より羞恥心を刺激しそうな花火や演奏時の楽器を選び始めたのだった。
それから半月ほど経った雲1つ無い晴天の日、ついにパレードの当日をむかえる。
しかし魔王ミザリーをはじめとする牝犬一同は、朝から打ち上げられている花火の音に戦々恐々としていた。
「ね、ねえ、夜にもあの花火を使うの?」
「音や光は何とかするって言ってたけど、今からでも変更は可能なの?」
夜の部のパレードを心配する声が次々とあがる。
その理由は花火が打ち上がる度に、音の振動で全身を大きく揺さぶられるからだ。
「それに花火だけじゃないわよ、演奏している楽団が使用しているのもドラムなどの打楽器が中心。 振動で窓ガラスも共鳴しているわ」
よく見れば演奏する曲に合わせるように、周囲の窓ガラスも音を立てている。
どうやら都で使われている窓ガラスと共鳴しやすいように、使用する楽器も吟味をされているようだ。
しかしここまできて、もう引き下がることはできない。
牝犬達の不安をよそに、昼の部のパレードが始まった。
「こうなったら、もう運を天に任せてやるしかない。 まずはこの昼の部のパレードを成功させてからだ」
ディザイアは楽団の演奏をバックに、手を振りながら歩き始める。
その横で共に歩くのは、新王妃となったクレア。
新たな国王夫妻を祝福する花火が一斉に打ち上げられる、身体を揺らすその振動に内心でおびえながらディザイアは切に願った。
(どうか今日1日、夜のパレードまで無事に終わりますように……)
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる