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パレード昼の部その1
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ディザイアとクレア夫婦から少し遅れて、ゆっくりと歩き始めたのはディザイアの息子コージと安藤 沙織(あんどう さおり)、佐々木 小梅(ささき こうめ)
の夫婦。
紅葉院 玲奈(こうよういん れいな)は、コージとの間に出来た子供レイを抱き遠巻きからパレードを見つめている。
あまりの騒音でレイが泣き出してしまったので、パレードの参加を辞退した玲奈が子守りを引き受けたのだ。
「死んでいる私よりも、生きているあなた達がコージと一緒に歩くべきだわ。 私はレイと一緒に見させてもらう」
母親に抱かれて安心したのか、レイはすぐに眠ってしまう。
その頬を指でつつきながら、玲奈はいずれ受け入れなければならない別れに思いを馳せた。
(本当なら私は既に土の中で、レイを抱いている今の状況こそ異常。 いつかは不死の身体を捨て、また眠りにつかないといけない……。 レイが物心つく前に消えた方が良さそうね)
遺していく子の将来に不安も感じるが、そこはコージの横にいる2人の妻がきっと何とかしてくれる。
特に沙織はディザイアの参謀役として、これまでも驚く知謀で彼を支えてきた。
彼女の尻に敷かれているかぎり、コージのディザイアの後継者としての地位は盤石に違いない。
小梅はミザリーやジャンヌが加入したのを機に、積極的に戦闘に参加するのは控え家事や育児に専念している。
剣道をしていたので勇ましいイメージが強かったが、結構家庭的で彼女の将来の夢がお嫁さんだったのには流石に皆が驚かされた。
その小梅も先日、コージの子を宿したことが判明している。
今日のパレードではお腹が目立たない服を選んでいるが、彼女も少しずつ母親の顔を見せるだろう。
自分の本来あるべき場所に愛する夫が訪れるのが少しでも先でありますようにと、玲奈は夫の姿を目に焼き付けながら天に祈るのだった。
「さあ、いよいよ私達の出番よ。 御主人様に恥をかかせないよう、優雅にふるまうとしましょう」
「はい姉さん、でも動くとお腹が目立ってしまいます。 大切な子供に何かあったら大変、私の分も姉さんに頑張ってもらいますね」
新国王ディザイアとその後継者であるコージ達に続く形で、パレードの本来の主役である牝犬……もとい側室達も煌びやかな衣装を着て昼の部に参加している。
先頭は魔王ミザリーことミザリアーナ・フォトンと、その妹のミゼリターナ。
犬猿の仲であるはずのダークエルフとエルフの2人が並んで歩く姿は、この世界の住人の目には少し異様なものとして映った。
ミザリーが元エルフだということを知っているのは、ごく少数なので当然である。
しかし周囲にどう見られようと、2人が姉妹であることに変わりはない。
ミゼッタは姉の手を握りながら、共に歩ける喜びを口にする。
「こうしてまた2人で歩くことが出来る、ディザイア様……いいえ御主人様には感謝しないといけませんね」
「……そうね、御主人様のおかげで私も今しあわせよ」
感じているしあわせを少しでもお裾分けしようと、ミザリーとミゼッタはこれまでで1番の笑顔を振りまくのだった
「わ、わ、私ごときがこのように前の方を歩いてもよろしいのでしょうか!?」
「ジャンヌ、ほらしっかりなさい! あなたはコージさんの弟コーゾーさんを産んだ第2の国母なのですよ、あなたが笑われてしまっては御主人様に恥をかかせてしまいますよ?」
緊張のあまり動きがギクシャクしているジャンヌを、隣を歩くマリアが諭す。
アンタシア王家の唯一の生き残りマリア・アンタシアは、新国王ディザイアの側室として楽しい毎日を送っている。
ミザリーの妹ミゼッタとも会ったその日に意気投合し、ディザイアの寝室に夜這いする計画を3人で練るなどお騒がせな一面も見せ始めた。
そしてジャンヌとは姉でも妹でもない、不思議な関係を築きつつある。
戦場に身を置いていた所為か立ち居振る舞いに自信のないジャンヌに、貴族社会の諸作法をていねいに教えて代わりに兵を率いる将の心得を求めた。
お互いが師匠であり弟子、それは人間と魔族が尊敬しあい共に歩める未来へと続く架け橋のようにもみえる。
その王女とデュラハンの後ろを歩くのも、また異色の組み合わせだった。
「フニャア、諜報活動や暗殺が主な任務の私が顔を晒して本当に良いのかニャ?」
「大丈夫ですって。 メリナさんが1番の影の功労者だってことは、みんな知ってることですから」
顔を両手で隠しながら歩こうとするメリナの手を、フィオがつかんで取り払う。
ワーキャットと人族の娘が親しそうに歩くのも、この世界の歴史からすれば容易に想像することは出来ない。
オークやコボルトそしてワーキャットなどの亜人種は、人族から奴隷同然の扱いを受けてきた歴史がある。
扱いに堪えきれず反抗すれば魔物として扱われ、オークとコボルトは魔物として人と敵対する道を選んだ。
その一方でワーキャットは愛玩奴隷として珍重され、心と身体を売ることでその血を絶やさずにこれたのである。
その暗い歴史も、大きな変化を迎えつつあった。
人間が醜い豚の化け物と罵るオークが、新たな国の王となる。
その許では、どんな種族も等しく平等だ。
ダークエルフにエルフ、デュラハンやワーキャットといった者達が彼の寵愛を受け互いに反発することなく暮らしている。
種族の違いなど些細なものでしかない、そう示されているように人々は感じた。
新たな未来の可能性を想像させるパレードは、まだ始まったばかりである……。
の夫婦。
紅葉院 玲奈(こうよういん れいな)は、コージとの間に出来た子供レイを抱き遠巻きからパレードを見つめている。
あまりの騒音でレイが泣き出してしまったので、パレードの参加を辞退した玲奈が子守りを引き受けたのだ。
「死んでいる私よりも、生きているあなた達がコージと一緒に歩くべきだわ。 私はレイと一緒に見させてもらう」
母親に抱かれて安心したのか、レイはすぐに眠ってしまう。
その頬を指でつつきながら、玲奈はいずれ受け入れなければならない別れに思いを馳せた。
(本当なら私は既に土の中で、レイを抱いている今の状況こそ異常。 いつかは不死の身体を捨て、また眠りにつかないといけない……。 レイが物心つく前に消えた方が良さそうね)
遺していく子の将来に不安も感じるが、そこはコージの横にいる2人の妻がきっと何とかしてくれる。
特に沙織はディザイアの参謀役として、これまでも驚く知謀で彼を支えてきた。
彼女の尻に敷かれているかぎり、コージのディザイアの後継者としての地位は盤石に違いない。
小梅はミザリーやジャンヌが加入したのを機に、積極的に戦闘に参加するのは控え家事や育児に専念している。
剣道をしていたので勇ましいイメージが強かったが、結構家庭的で彼女の将来の夢がお嫁さんだったのには流石に皆が驚かされた。
その小梅も先日、コージの子を宿したことが判明している。
今日のパレードではお腹が目立たない服を選んでいるが、彼女も少しずつ母親の顔を見せるだろう。
自分の本来あるべき場所に愛する夫が訪れるのが少しでも先でありますようにと、玲奈は夫の姿を目に焼き付けながら天に祈るのだった。
「さあ、いよいよ私達の出番よ。 御主人様に恥をかかせないよう、優雅にふるまうとしましょう」
「はい姉さん、でも動くとお腹が目立ってしまいます。 大切な子供に何かあったら大変、私の分も姉さんに頑張ってもらいますね」
新国王ディザイアとその後継者であるコージ達に続く形で、パレードの本来の主役である牝犬……もとい側室達も煌びやかな衣装を着て昼の部に参加している。
先頭は魔王ミザリーことミザリアーナ・フォトンと、その妹のミゼリターナ。
犬猿の仲であるはずのダークエルフとエルフの2人が並んで歩く姿は、この世界の住人の目には少し異様なものとして映った。
ミザリーが元エルフだということを知っているのは、ごく少数なので当然である。
しかし周囲にどう見られようと、2人が姉妹であることに変わりはない。
ミゼッタは姉の手を握りながら、共に歩ける喜びを口にする。
「こうしてまた2人で歩くことが出来る、ディザイア様……いいえ御主人様には感謝しないといけませんね」
「……そうね、御主人様のおかげで私も今しあわせよ」
感じているしあわせを少しでもお裾分けしようと、ミザリーとミゼッタはこれまでで1番の笑顔を振りまくのだった
「わ、わ、私ごときがこのように前の方を歩いてもよろしいのでしょうか!?」
「ジャンヌ、ほらしっかりなさい! あなたはコージさんの弟コーゾーさんを産んだ第2の国母なのですよ、あなたが笑われてしまっては御主人様に恥をかかせてしまいますよ?」
緊張のあまり動きがギクシャクしているジャンヌを、隣を歩くマリアが諭す。
アンタシア王家の唯一の生き残りマリア・アンタシアは、新国王ディザイアの側室として楽しい毎日を送っている。
ミザリーの妹ミゼッタとも会ったその日に意気投合し、ディザイアの寝室に夜這いする計画を3人で練るなどお騒がせな一面も見せ始めた。
そしてジャンヌとは姉でも妹でもない、不思議な関係を築きつつある。
戦場に身を置いていた所為か立ち居振る舞いに自信のないジャンヌに、貴族社会の諸作法をていねいに教えて代わりに兵を率いる将の心得を求めた。
お互いが師匠であり弟子、それは人間と魔族が尊敬しあい共に歩める未来へと続く架け橋のようにもみえる。
その王女とデュラハンの後ろを歩くのも、また異色の組み合わせだった。
「フニャア、諜報活動や暗殺が主な任務の私が顔を晒して本当に良いのかニャ?」
「大丈夫ですって。 メリナさんが1番の影の功労者だってことは、みんな知ってることですから」
顔を両手で隠しながら歩こうとするメリナの手を、フィオがつかんで取り払う。
ワーキャットと人族の娘が親しそうに歩くのも、この世界の歴史からすれば容易に想像することは出来ない。
オークやコボルトそしてワーキャットなどの亜人種は、人族から奴隷同然の扱いを受けてきた歴史がある。
扱いに堪えきれず反抗すれば魔物として扱われ、オークとコボルトは魔物として人と敵対する道を選んだ。
その一方でワーキャットは愛玩奴隷として珍重され、心と身体を売ることでその血を絶やさずにこれたのである。
その暗い歴史も、大きな変化を迎えつつあった。
人間が醜い豚の化け物と罵るオークが、新たな国の王となる。
その許では、どんな種族も等しく平等だ。
ダークエルフにエルフ、デュラハンやワーキャットといった者達が彼の寵愛を受け互いに反発することなく暮らしている。
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