異世界だから何でもあり、しかしこの世界は幾ら何でも多すぎる。

いけお

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さあ皆さん、混沌(カオス)な時間の始まりですよ

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「ちょっとお義兄ちゃん。 その人達とどういう関係なのか説明してくれる?」

「えっ、お前はもしかして海か!?」

「そうよ海よ、それよりも先に私の質問に答えて!」

 突然目の前に現れた義妹に、カイは驚いた。
 一方もう1人のウミナはというと、その場でしゃがみ込んでぶつぶつ言っている。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。 あなたを倒すとか絶対に言いませんから、もう殺さないで~!」

 あまりの怯えように、カイ達は一様に戸惑うしかない。
 やれやれといった顔でリアが近づくと、ウミナは額を甲板に擦りつけるようにして土下座まで始めてしまった。

「お願いします、何でもします、だから私の命を奪うのだけは勘弁してください。 魔王リアベル様!」

『魔王リアベル?』

 前世のリアのことを知るのは、本当にごく一部しか居ない。
 カイは義妹の質問に答えるより先に、こちらの方を優先することにした。

「なあ、お前リアの前世を知っているって事は、あっちの世界に居た事有るのか?」

 カイからの問いかけに、ウミナは半ばキレ気味になって答える。

「ええ、居ましたよ! あちらの世界に勇者として召喚されて返り討ちに遭い、転生して元の世界に戻ってきたら魔王だったってオマケ付きでね!」

(返り討ち? 魔王?)

 カイは状況をよく理解出来なかったが、リアはなんとなくピンときた。

「お~もしやおぬしは、カイが来る前にわらわに突っかかってきた小娘か? 無事に転生出来たようで何よりじゃ」

「どこが無事よ、こんな姿になったお陰でお城に戻る事だって出来やしない。 それに勇者から魔王に転生って、どんな茶番狂劇よ」

 緊張の糸が切れたのか、いつまでもしゃべり続けようとするウミナ。
 しかしリアは隣に居るウミの顔を、まじまじと見ていた。

「そなた……もしかして海か? 広井 海」

「どうして私の旧姓を!?」

 今度はウミが驚く番だった、この場でウミの旧姓を知るのは義兄のカイだけの筈。
 その答えを、リアは自ら口にした。

「私よ、莉亜よ、有井 莉亜(ありい りあ)。 あなたのお母さんが再婚して町を出て行った後で、私は別の世界で魔王として召喚されちゃったの」

「うそ!? こんなことが本当に有るの?」

「あ~ちょっと待て待て待て待て! 今の状況を少し整理させてくれ」

 感動の再会を果たそうとしていたリアとウミに、カイが横から口を挟んだ。



「まずはリア、お前からだ。 お前は前世では魔王だったが、実は俺と同じ日本人で海の幼馴染だったと?」

「そうじゃ。 あっちの世界で黒髪の者は、わらわ位しか居らなかったろうに……」

 この時点でカイは頭が痛くなってきた、もしかするととんでもない事を仕出かしたのかもしれない。

「次は海、お前の番だ。 なんで、お前がここに居る?」

「それについてはちょっと面倒な話になるんだけど、実はお義兄ちゃんが召喚されるのは本来こっちの世界だったみたいなの」

「はい?」

 義妹の口から、信じられない言葉が出てきた。
 自分が本来こちらの世界で召喚される筈だった、とはどういう事だ?

「私をこの世界に召喚した神様が言うには、莉亜ちゃんが魔王として居た世界に召喚されるのは、本来私だったみたいなの」

 いきなり爆弾発言が飛び出した。

「だけど何かの手違いでお義兄ちゃんが召喚されてしまった。 そして今度はそれが原因か分からないけど、こっちの世界に私が召喚されてしまったと……」

(いかん、頭の中身がミルク粥になりそうだ)

「もう少しだけ時間をくれ、今一度頭の中で整理したい」

 そう言うとカイは頭の中で、ウミの言った事とこれまでの出来事から簡単に整理をしてみた。



 ☆カイ(渡世 界)

 こことは違う世界で勇者として召喚され魔王を討った。
 しかしその魔王は同じ日本人で、しかも義妹の幼馴染だったというオマケ付き。
 色々あってこちらの世界に転移して、現在転生した魔王の侍従奴隷として働く。
 本来は、こちらの世界で勇者として召喚される筈だった。

 結論 義妹の友人殺し



 ☆リア(リーアベルト・セントウッド=有井 莉亜)

 こことは違う世界で魔王として召喚され、勇者として召喚されたこの国の第二王女であるウミナを返り討ちにして倒してしまう。
 その後新たに勇者として召喚されたカイによって討たれ、こちらの世界で侯爵令嬢として生まれ変わる。
 そして偶然奴隷市場で自分を討った彼との再会をキッカケに、侍従奴隷として購入し主として彼を尻に敷くつもりらしい。
 義妹の海とは、幼馴染みという関係。

 結論 色々と要素盛りすぎ



 ☆アニス(アニスティーゼ)

 女神として、こことは全く違う世界を治めていた。
 自身の怠慢から、治めていた世界が滅びてしまうという大失態を犯す。
 その罰として、こちらの世界で人間として暮らす事となる。
 現在、リア付きの侍従奴隷として働いている。
 ミルク粥から、スライムを創る才能を持つ。

 結論 ある意味で1番の危険人物、ポンコツ女神



 ☆ウミ(渡世 海=旧姓 広井)

 こちらの世界で勇者として召喚されたが、普段力は封印されている。
 リアは両親が再婚するまで住んでいた町に居た、大切な幼馴染み。

 結論 義妹、義兄妹の仲は良好だと思う



 ☆ウミナ(魔王デモウミナ=ウミナ・ホーリーウッド)

 カイが召喚される前に、こことは違う世界で勇者として召喚される。
 そして当時魔王のリアに戦いを挑んだが、返り討ちに遭い死亡。
 その後、こちらの世界で転生を果たしたが魔王として甦る結果に……。
 ホーリーウッド王国の元第二王女で、ベルモンドに命を狙われたらしい。

 結論 運が悪そう、後先考えなく行動しそう、あと色々と要素盛りすぎ



 ☆スラミン(スライム?)

 ミルク粥を作ろうとしたアニスの手によって生み出された、得体の知れない存在。
 食べたモンスターなどに擬態する能力を持つ。
 ヨルムンガンドを捕食したので、現在の戦闘力は未知数。

 結論 量産されたら間違いなく世界が滅ぶ、アニスは絶対に料理をするな



 こんなところか。
 しかし元勇者と元魔王、現役の勇者と魔王が一緒で良いのか?
 一応ポンコツ女神アニスとスラミンは、イロモノキャラの別枠の方に入れておく。

 カイは考えるのを止め、食事を再開する事にした。

「これからの事は追々考えるとして、まずは腹ごしらえを済ませよう。 海、お前も一緒に食うか? ウナギに似てたから蒲焼きにしてみたが、結構美味いぞコレ」

「ウナギに似ていたって、一体何を食べているのお義兄ちゃん?」

「ヨルムンガンド」

 遠視で様子を窺っていた執事(デモン)は、ヨルムンガンドの名を聞いてその場で腰を抜かしてしまう。
 ヨルムンガンドとは高位のデモンが束になって掛からないと、傷1つ付けられない程の強敵なのである。

(これはマズイ。 あのヨルムンガンドを倒すだけじゃなく、料理して食ってしまうような奴が近くに居る状態でスカウトするのは無理だ。 一旦退いて、改めて対応を検討してもらおう)

 執事はベルモンドを見捨て帰還しようと試みるが、失敗に終わった。
 そしてこの出来事がキッカケとなって後日、さらにもう1人お騒がせな人物がこの世界に召喚されてしまう。

 その人物の名は、女神システィナ。
 自らが治めていた世界を追われた愚かな女神であり、また追放される際に幾つかの嫌な呪いをかけられたサブキャラ要員である。
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