異世界だから何でもあり、しかしこの世界は幾ら何でも多すぎる。

いけお

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ヨル重を食べながら……

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 ウミとウミナが加わって、賑やかな食事が再開される。
 ヨルムンガンドの蒲焼きだけ食べるのに飽き始めていた3人は、近くの食堂を数軒巡り米を大量に買いあさった。
 そして炊きあがったばかりのご飯に蒲焼きを乗せ、たれを掛ければヨルムンガンド重、略してヨル重の出来上がりだ。

「こ、これは箸が止まらぬ!? カイ、ヨル重おかわりじゃ!」

「……リア、これでもう何杯目だ? そういえばお前も元日本人なら、入浴する時は男女別だって事くらい知っていたんじゃないのか?」

 カイが聞いているのは、再開した初日の日の出来事のことである。
 あの日彼はこちらの世界での風呂の常識に、ひどく困惑していた。

「……カイよ。 わらわが最初に異世界に魔王として呼ばれてから、何年が経過していると思う?」

 リアは箸を止め、一瞬無表情な顔になるとカイに質問を返す。

「転生してから16年生きていたって話だし、時間軸が多少ずれていたとしても20年位じゃないのか?」

「150年じゃ」

「150年!?」

 リアの答えにカイは仰天した。
 その返答が正しければリアは前の世界で、130年近くを生きてきた事になる。

「不老の身体で100年以上を異界で過ごせば、日本で暮らした時の記憶など覚えているはず無いじゃない。 でも、海の名前だけは忘れなかったわよ」

 元の世界の習慣とかは忘れても幼馴染の名前だけは忘れないとか、何だかいけない世界を連想してしまう。
 だがここでカイに更なる追い討ちを掛けてきた人物が居た、転生して魔王になっただけだと思われていたウミナだった。



「そういえば先程カイと名前を呼ばれてましたけど、もしかして界くんなの? 渡る世界の」

 ウミナからの質問にカイだけでなくウミも驚く、カイはよく自己紹介の時に『渡る世界と書きます』と言うのだ。

「なんで俺の名前を? 知り合いで同じ様に召喚されたのは居ない筈」

「私は召喚された訳じゃないから。 転生よ転生、押寄 那美(おしよせ なみ)の名前を覚えてない?」

「押寄 那美? おしよせなみ、おしよせなみ……おしよせるなみ、津波。 まさかお前はツナミか!?」

 カイの答えは、どうやら正解だったらしい。
 ウミナは嬉しかったのか、満面の笑みを見せる。

「当たり、私の事を覚えていてくれて嬉しいわ」

「いや、でも、お前はあの時……」

「そう、私はあの時事故で命を落とした。 そしてこちらの世界で、第二王女のウミナとして転生を果たしたの」

 気付けば2人の周りでリア達3人が聞き耳を立てていた。
 新たなライバルの出現を、直感で感じ取ったのかもしれない。

「ちょうどいいや、お前らにも紹介するよ。 こいつは生まれ変わる前、小さい頃の俺とよく遊んでいた幼馴染の押寄 那美(おしよせ なみ)だ。 まさかこんな所で会えるとは思わなかったぞ、元気にしてたか? って、そんな訳無いな」

 ウミナの顔が一瞬曇ったので、カイは話題を変える。

「それにしても、本当に尻尾が生えているんだな。 ちょっと触ってみても良いか?」

「ええ、ちょっと触るぐらいなら良いけど」

 ウミナがOKを出したので、カイはウミナの尻尾を握ってみた。

 ぎゅっ!

「ひゃんっ!」

 電流が流れるような衝撃が全身を伝い、ウミナはその場で腰砕け状態となる。
 うっすらと頬も赤く染まり、なんだか艶っぽい。

「お願い……もっと優しくして……」

「悪い、力を入れすぎちまった。 大丈夫か!?」

「ええ、平気よ。 でもここは凄くデリケートだから、次からは気をつけてね」

 カイは今度は慎重に、ウミナの尻尾に触れる。

 さわさわさわ……。

「これくらいならどうだ?」

「そのくらいなら大丈夫、もう少し強くしても良いわよ」

 そうして暫くウミナの尻尾を触っていながらふと周りを見てみると、リア達3人の顔が茹でたタコのように真っ赤になっていた。

「おい、どうしたんだお前達? 顔が赤いぞ」

「どうしたもこうしたも、あんたらが原因じゃない!?」

『?』

 リアからの返事を聞いても、さっぱり分からない。
 カイとウミナは何故3人が赤面していたのか、最後まで理解出来なかった。



「……っという訳で従兄弟のベルナルドが私を亡き者にして王位を簒奪しようと、刺客を送ってきたの。 それで崖から馬車が転落した時に偶然召喚陣が現れて、私は勇者として異世界へと召喚された」

 食事を終えたところでウミナから、勇者として召喚された際の経緯を聞くカイ。
 そのまま転落死しなかったのは運が良かったが、召喚された先が悪かった。

「そして元の世界に戻る為に魔王を討伐しようとしたら、その相手がリアだった訳か。 そりゃ運が悪かったな、実際俺も苦労させられたからな」

「でも界くんは、魔王を討伐出来たじゃない。 私なんかより遙かに立派よ」

「そこのお2人さん、いつまでそうイチャイチャしているつもりじゃ?」

 ムスッとした顔で、リアが2人の会話に割り込んだ。
 アニスやウミの表情も同じで、軽く嫉妬している。

「イチャイチャって俺とツナミは、そんな関係じゃ無いから」

 カイが答えている横で、ウミナはため息を吐く。
 それを見たリア達は彼女もライバルである事を確信すると同時に、カイが相当の朴念仁である事も理解した。

「とりあえずこの騒ぎを鎮める為に、ベルモンドって奴を捕まえに行くか」

 王家に反旗を翻したのだ、近隣諸国にも援軍を求めるかもしれない。
 自分の領地へ引き返したとはいえ、そのまま放置しておくのは危険である。

 早速カイ達5人は、ベルモンドを追撃する準備を始めた。
 国王に代わりの人間を送り、ベルモンド捕縛の許可をもらう。
 そして出発の準備が整いかけた時、ウミナは大事な事を思い出した。

「ねえ、カイくん。 大事な事を思い出したのだけど」

「何かあったのか?」

「そういえば、さっきベルモンドの奴の近くでデモンが人に化けていたの。 もしかすると、妖魔が何らかの形で関わっているかも」

 こうして元勇者・元魔王・元女神の3人に現役の勇者と魔王まで加わり、ベルモンドは勝ち目など皆無の戦いに身を投じることになったのである。
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