異世界だから何でもあり、しかしこの世界は幾ら何でも多すぎる。

いけお

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リアとの初デート(後編)

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「悪いリア、ちょっとトイレ行ってくる」

「早く帰ってきなさいよ、レディーを長く待たせないでね」

「はいはい、分かったよ」

 カイが男性用の手洗いに入る様子をアニス達、出歯亀(でばがめ)組は遠くから監視していた。

「カイ様はどうやら手洗いに行かれたみたいです、戻ったら我々も移動しましょう」

 ボキッ

(ボキッ?) 

 背後で何かが折れる、鈍い音がする。
 次いで誰かが倒れる音がしたのでアニスが振り向くと、倒れているウミナと更には顔面を鷲づかみにされたウミが、ジタバタともがきながら持ち上げられていた!

「お、お義兄ちゃん!? 可愛い義妹に対して、この仕打ちは無いかな~?」

「そうかそうか。 お義兄ちゃんはな出歯亀をするような悪い義妹には、少しばかり強めのお仕置きをするって小さい頃から決めていたんだな、これが……」

「へ、へぇ、そうなん

 言い終わる前に地面に倒れるウミ、一瞬の間に何が行われたのかアニスは見ることすら出来ない。
 そしてついにアニスにも、終わりを告げる使者が歩み寄る。

「さてアニス、何か言い残しておくことはあるか?」

「え、ええと、カイ様? 私ももしかして、もしかしなくても、お仕置きですか?」

 ニッコリと笑みを浮かべながら、頷くカイ。
 それを見た瞬間、アニスはダッシュで逃げ出した!

「逃げ切れるとでも思っているのか? お前も少しは反省しろ!」

「うぎゃぁああああああああ!!」

 その頃どこか遠くから聞き覚えのある声を聞いたリアは、いつまでも出てこないカイを待ちながら首を傾げていたのである。



 邪魔者を片付けたカイは、いつまでも戻らず心配そうにしていたリアに事情を説明すると、軽く昼食を済ませることにした。

「まったく! 急にカイがデートに誘ってくるから何かおかしいと思ったけど、あの3人のしわざだったのね?」

「とりあえず3人はお仕置きしておいたから、きっと夕方まで起きない筈だ」

「えっ? もしかして3人を、そのまま放置してきたの!?」

 リアの指摘に目を泳がせるカイ、どうやら図星のようだ。
 義妹だろうと容赦のないカイに、リアは心の中で手を合わせる……。
 パンとスープで小腹を満たした2人は、のんびりと街中の公園を散歩する事にした。

 心地よい風が吹く中を歩いていると、カイがリアに話かける。

「リア、前から聞こうと思っていたんだが、実はお前わざと俺に討たれなかったか?」

「何でそう思うの?」

「トドメを刺されて徐々に身体が崩れ去る中、お前は満足そうな顔で『これで終われる』と言っていたからな。 お前を討ったのは本当は間違いだったのかもしれないと、考えているんだ俺は……」

 即座に否定しないことで、カイの推測がほぼ正しいことをリアは認めた。

「たしかにあの時は、生きることを放棄していたと思う。 でもね、あなたの驚愕した顔を見て、私もそれが間違いであったと気付いたの」

 今度はリアが答え始める。

「私が死のうと考え始めたのは、あなたの前の勇者。 そうウミナさんを返り討ちにした頃かも。 彼女は私に会うなり『あなたを倒して、絶対に元の世界に帰るんだ~!』って言うと、突然剣を振りかざしてくるのだもの。 思わず返り討ちにしちゃったわ」

 リアは一旦呼吸を整えると、再び話し始めた。

「でもね悔しそうな顔を浮かべながら、『お父様お母様ごめんなさい』と謝りながら爆散した彼女を見て、私も急に故郷の日本が恋しくなったのよ。 海に会いたい、海とまた話がしたいって。 それで次の勇者が訪れたら、気付かれないように演技をして倒される事を決めたのよ。 でもね、1つだけ誤算があった……」

「誤算?」

 何が誤算なのか気になったカイは、続きを急かす。

「簡単な話よ、あなたが本当に私よりも強かったって事。 わざと死ぬつもりだったのに現れたあなたは、そんな事を忘れさせる猛攻撃を仕掛けてきたのよ。 命が惜しくなった私は、本気で戦うしか無かった。 それでも結局、あなたに討たれて死んだけどね……」

 どこか晴れ晴れとした顔で話すリア、それを聞くカイはずっと無言のままだ。

「あなたとこちらの世界で再会した時、本当はずっと謝りたかった。 私がわざとあなたに討たれたと、心の枷(かせ)になっていないかずっと気がかりだった。 だけど変なプライドが働いて、これまで謝る事が出来なかった。 だから今度こそ言いたかった事を伝えるわ、あなたの心を傷つける真似をしてごめんなさい」

 言い終えたリアがカイの目を見た瞬間、公園の中に乾いた音が響いた……。



「………えっ!?」

 それが頬を叩かれた音だと気付いたのは、リアが頬の痛みを感じ始めてからである。
 カイは無言でリアを抱き寄せると、これまでに思っていた事の全てをぶちまけた。

「お前な……言うのが遅すぎるんだよ! こっちの世界でお前が転生していた事を知った時、俺はな本当に安堵したんだぞ。 そしてお前が幸せになれる様に、傍で見守るつもりだったんだ。 プライドが高いのは構わないが、人の気も少しは考えてくれ……」

 思いがけないカイの言葉を聞いて、リアの瞳から涙がこぼれ始める。
 そしてそのプライドの所為で今まで言えなかった言葉も、自然に口から出てきた。

「カイ。 私は侯爵家の娘として転生したけど、魔王の力も残しているわ。 でもね1人の女の子として、あなたにどうしても伝えたい事があるの。 私はあなたの事が好き。 これからもずっと私の傍に居て欲しい、いつか私をあなたの妻にしてくれませんか?」

 リアの告白にカイは即答する。

「侍従奴隷として傍で仕えるのは良いが、お前を妻にするって件については回答を控えても良いか?」

 予想とは違うカイの返事に、リアはその場で転んでしまった。

「ちょっと! こういう場合は『俺なんかで良いのか?』じゃないの!? しかも侍従奴隷として傍に仕えるのは良いって、今の雇用関係をこのまま維持したいって事なの!?」

 リアの右手に黒い焔が集まり始める、街の中で高位の闇魔法をぶっ放すつもりだ!
 カイは何とかして宥(なだ)めようと、返答の理由を説明した。

「この前ウミの奴にも言ったが俺は本気で誰かを好きになった事が無い、だから少しだけ時間が欲しいと。 お前の気持ちも嬉しいが、はっきりと応えられない内は変に期待するような返事はしたくない。 これで許してくれないか?」

 右手に集まっていた黒焔が霧散する、彼らしい答えというか何というか……。
 リアは朴念仁よりはちょっとマシな、彼の言うことを信じることにした。

「良いわ、今日のところはそれで許してあげる。 じゃがな、最後に勝つのはこのわらわじゃ。 ウミには悪いが、絶対に勝ちは譲らぬぞ!」

 その後2人は公園のベンチに腰掛けると、世間話や今日の夕食の献立など他愛も無い話を日が暮れるまで続けたのである。



 日もすっかり沈み星が瞬き始めた頃、2人のデートの時間は終了の時間を迎えた。
 リアは先に歩き始めたカイの前に出ると、改めて決意を大きな声で叫んだ。

「これはウミやアニスには絶対に渡さないっていう、あなたへの宣戦布告よ。 あなたの身も心も私の虜にしてあげる、覚悟しておきなさい!!」

 そう叫ぶとカイに抱きつきながら、その唇を強引に奪うリア。
 カイは振りほどこうとしたが、彼女は全身の力を込めてそれを拒絶する。
 1分近い長い口付けを終えると、リアは小悪魔みたいな笑顔で彼の頬に再び軽くキスをした。

「今日は本当にありがとう。 今までで1番楽しかったわ、あなたが良ければまた誘ってちょうだい」

 2人は少しだけ目を合わせると、どちらからともなく自然に腕を組む。
 そして未だに地面で寝ていた3人を回収しながら、帰宅の途についたのである。
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