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隠れた猛者(前編)
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リア達がバカンスを満喫している頃、セントウッド侯爵家でも1つの動きがあった。
ある日の晩、執務をこなしていた侯爵の部屋を侍従長が訪れる。
コンコンコンコン。
「旦那様、少々よろしいですか?」
「うむ、入りたまえ。 丁度、手を休めていたところだ」
侍従長は侯爵が普段この時間帯に休憩をしている事を把握しており、時間を見計らって訪れていた。
「それで、急に私を訪ねてくるとは何か起きたのかね?」
侍従長をソファーに座らせると、侯爵は早速本題から入る。
「はい。 どうやら国境付近で悪さを企んでいるのが居るので、妻とお出迎えしてこようと思います。 つきましては数日の間、仕事をお休みさせて頂きたく……」
メイドリーダーと2人でお出迎え……侯爵の額を冷や汗が流れた。
「許可を与える代わりに、1つだけ頼みがある。 くれぐれもほどほどにな……」
「はい、かしこまりました」
恭しく頭を下げると、侍従長は部屋を退出する。
侯爵は侍従長の出ていった扉を見つめながら、お出迎えされる客人に同情した。
「恐らくはカイ君やリア達が原因なのだろうが、客人も本当に運が悪い……」
こうして侯爵家の隠れた猛者が2人、翌朝世に放たれたのである。
「なあ、リア。 ずっと前から聞こうと思っていたんだが、侯爵家の侍従長。 ありゃ、一体何者だ?」
「侍従長? 侍従長は侍従長じゃない、それがどうかしたの?」
「カイ様、侍従長に何か気になるところでも?」
朝食後のキャロットジュースならぬマンドラゴラジュースを飲みながら、少し気になることをカイは聞いてみた。
しかしリアとアニスは、彼が何を気にしているのかさっぱり分からない様子である。
仕方なくカイは彼女達がすぐに気付けるように、以前あった出来事を話した。
「お前らな……すっかり忘れているようだが、前に3人で別荘で過ごして屋敷に戻った後の出来事を覚えているか?」
「3人で過ごしたですって!? い、一体、中で何をしていたって言うの! カイ君!?」
2人が思い出すよりも先に、ウミナが喰いついてくる。
あまりにもうるさいのでカイは、ウミナの額をデコピンした。
脳しんとうを起こしたウミナは、その場に力なくしゃがむ。
「お前はそこで少し大人しくしていろ、大事な話の最中だ」
(最近のカイは、実力行使しすぎじゃない?)
見ていた女性陣は各々そう感じていたが、口に出せる者は居ない。
とはいえカイのデコピン程度でどうにかなる連中では無いことは、カイ自身が1番よく理解している。
「屋敷に戻った後といっても、何も変わらず普通に生活していたじゃない。 それのどこに、変なところがあるというの?」
ここまで話しても気付かないリアに、カイは頭を抱えそうになった。
これ以上ヒントを与える時間も勿体無いので、彼は答えを言うことにする。
「朝から口ゲンカを始めたお前達を俺がお仕置きでゲンコツしたら、侍従長から鉄拳制裁を喰らっただろ。 覚えていないか?」
「あれはカイが悪いのよ、主の頭を殴るなんて非常識過ぎるわ! 侍従長が怒るのも当然じゃない」
「いい加減気付けよ、侍従長はなんで俺を殴れたんだ? 元勇者の俺が一切反応出来ない速さでの攻撃、あれこそ非常識だろうが!」
言われて初めてリア達は気が付いた、周りから怪しまれないように殴られていたのかと思っていたが、どうやらそうでは無かったらしい。
「あの侍従長、マジでヤヴァいぞ。 これからは、注意しろよアニス。 もしかすると、メイドリーダーだって化け物の可能性があるぞ」
「や、やめてくださいカイ様。 そ、それが本当だったら、今頃私は別の世界に転生していますよ……」
そう言いながらガタガタと震えるアニス、どうやら何かトラウマを植えつけられているようだ。
さらなる猛者の存在を知ったウミとウミナは、ひそひそと内緒話を始めた。
「ねえ? もしかしてこの世界って、とんでもない人間のオンパレード?」
「否定しきれないですがお義兄ちゃんよりも強い存在って、私には想像出来ない」
その猛者が隠している実力を見せようとしている事に、遠く離れた場所に居るリア達が気付く筈も無く、事件当日を迎える……。
「これはこれは、どうもお待ちしておりました皆様。 私、セントウッド侯爵家で侍従長をしておる者です。 今日は皆様をお出迎えする為に、参上いたしました」
「私はこの侍従長の妻で、メイドリーダーをしております。 粗相が無いように取計らいますが、多少のことはご了承頂ければ幸いです」
国境を目指して進んでいたところ、目の前に突如現れた2人に運んできた檻を壊されるのではないかと不審者達は警戒した。
「本当のことを言いますと、私はお出迎えの作法が少々苦手でして。 引き返して頂けると、非常に有り難いのですがどうでしょう?」
「ふざけるな! 我らの崇高な目的を邪魔するというのであれば、容赦しないぞ!」
一斉に剣を抜いて構える不審者達、だがその装備は全員バラバラ。
傭兵や盗賊に近い服装の者や、杖を持った魔法使いも混ざっている。
その中でリーダーらしき、騎士の鎧を身にまとった男が指示を出し始めた。
「目の前に居る2人組、どうやら相当に出来るようだ。 少し早いが檻を壊し、中に居る【無慈悲なる混沌】を解放しろ!」
(無慈悲なる混沌?)
侍従長の眉がピクリと動く。
すると不審者の列の奥の方から、悲鳴が上がり始める!
「た、たすけてくれぇ! お、俺はまだ死にたく……」
立ち塞がる者を気絶させながら進む侍従長の目の前に、青白く透き通る髪を持った少女が立っていた。
異様だったのはその口が大きく開き、中に人の頭が見えていた事である。
少女が頭を飲み込むと口が普通の大きさに戻る、どうやら普通の常識は通用しない相手のようだ。
「どうだこの者こそ、清浄なる世界と秩序を齎(もたら)してくれる存在。 この世界を乱す異物は全て排除されなければならない!」
そう叫ぶ騎士の男を少女は無表情のまま、手を倍以上の長さに伸ばして捕まえる。
「待て、待つのだ! 貴様が狙うべき相手は、私ではない!」
「ようするにお前も、世界を乱す異物だって事だろ? ちゃんと働いてくれたみたいで、良かったじゃないか」
呆然としている間に、騎士の男は少女の口の中へ消えていった……。
侍従長は妻のメイドリーダーに顔を向けると、これからやるべき事を話す。
「どうやらアレは、放置しておくべきものでは無さそうだ。 とりあえず悪さをした分のお仕置きをしてくるから、お前は周囲にシールドを張っておいてくれ」
「分かりましたわ、あなた」
メイドリーダーがシールドを張るのを確認した侍従長は、少女に向かって1歩ずつ前に歩き始めた。
彼の身体に光のオーラをまといはじめると、顔の表面にヒビが入り変装していた素顔があらわとなる。
それはどこか、カイによく似ていた。
「やれやれ。 バカンスに行っていたあの頃に、まさかこんな事が起きていたとはな。 とはいえ当時の俺じゃこいつの相手は厳しかっただろうから、弱らせるだけ弱らせておくとしよう。 昔の俺、あとの事は頼んだぞ」
カイがヤヴァいと言っていた、侍従長の正体。
それは、カイ自身の未来の姿だった!
その妻であるメイドリーダーの正体が誰なのかは、現時点では分からない……。
ある日の晩、執務をこなしていた侯爵の部屋を侍従長が訪れる。
コンコンコンコン。
「旦那様、少々よろしいですか?」
「うむ、入りたまえ。 丁度、手を休めていたところだ」
侍従長は侯爵が普段この時間帯に休憩をしている事を把握しており、時間を見計らって訪れていた。
「それで、急に私を訪ねてくるとは何か起きたのかね?」
侍従長をソファーに座らせると、侯爵は早速本題から入る。
「はい。 どうやら国境付近で悪さを企んでいるのが居るので、妻とお出迎えしてこようと思います。 つきましては数日の間、仕事をお休みさせて頂きたく……」
メイドリーダーと2人でお出迎え……侯爵の額を冷や汗が流れた。
「許可を与える代わりに、1つだけ頼みがある。 くれぐれもほどほどにな……」
「はい、かしこまりました」
恭しく頭を下げると、侍従長は部屋を退出する。
侯爵は侍従長の出ていった扉を見つめながら、お出迎えされる客人に同情した。
「恐らくはカイ君やリア達が原因なのだろうが、客人も本当に運が悪い……」
こうして侯爵家の隠れた猛者が2人、翌朝世に放たれたのである。
「なあ、リア。 ずっと前から聞こうと思っていたんだが、侯爵家の侍従長。 ありゃ、一体何者だ?」
「侍従長? 侍従長は侍従長じゃない、それがどうかしたの?」
「カイ様、侍従長に何か気になるところでも?」
朝食後のキャロットジュースならぬマンドラゴラジュースを飲みながら、少し気になることをカイは聞いてみた。
しかしリアとアニスは、彼が何を気にしているのかさっぱり分からない様子である。
仕方なくカイは彼女達がすぐに気付けるように、以前あった出来事を話した。
「お前らな……すっかり忘れているようだが、前に3人で別荘で過ごして屋敷に戻った後の出来事を覚えているか?」
「3人で過ごしたですって!? い、一体、中で何をしていたって言うの! カイ君!?」
2人が思い出すよりも先に、ウミナが喰いついてくる。
あまりにもうるさいのでカイは、ウミナの額をデコピンした。
脳しんとうを起こしたウミナは、その場に力なくしゃがむ。
「お前はそこで少し大人しくしていろ、大事な話の最中だ」
(最近のカイは、実力行使しすぎじゃない?)
見ていた女性陣は各々そう感じていたが、口に出せる者は居ない。
とはいえカイのデコピン程度でどうにかなる連中では無いことは、カイ自身が1番よく理解している。
「屋敷に戻った後といっても、何も変わらず普通に生活していたじゃない。 それのどこに、変なところがあるというの?」
ここまで話しても気付かないリアに、カイは頭を抱えそうになった。
これ以上ヒントを与える時間も勿体無いので、彼は答えを言うことにする。
「朝から口ゲンカを始めたお前達を俺がお仕置きでゲンコツしたら、侍従長から鉄拳制裁を喰らっただろ。 覚えていないか?」
「あれはカイが悪いのよ、主の頭を殴るなんて非常識過ぎるわ! 侍従長が怒るのも当然じゃない」
「いい加減気付けよ、侍従長はなんで俺を殴れたんだ? 元勇者の俺が一切反応出来ない速さでの攻撃、あれこそ非常識だろうが!」
言われて初めてリア達は気が付いた、周りから怪しまれないように殴られていたのかと思っていたが、どうやらそうでは無かったらしい。
「あの侍従長、マジでヤヴァいぞ。 これからは、注意しろよアニス。 もしかすると、メイドリーダーだって化け物の可能性があるぞ」
「や、やめてくださいカイ様。 そ、それが本当だったら、今頃私は別の世界に転生していますよ……」
そう言いながらガタガタと震えるアニス、どうやら何かトラウマを植えつけられているようだ。
さらなる猛者の存在を知ったウミとウミナは、ひそひそと内緒話を始めた。
「ねえ? もしかしてこの世界って、とんでもない人間のオンパレード?」
「否定しきれないですがお義兄ちゃんよりも強い存在って、私には想像出来ない」
その猛者が隠している実力を見せようとしている事に、遠く離れた場所に居るリア達が気付く筈も無く、事件当日を迎える……。
「これはこれは、どうもお待ちしておりました皆様。 私、セントウッド侯爵家で侍従長をしておる者です。 今日は皆様をお出迎えする為に、参上いたしました」
「私はこの侍従長の妻で、メイドリーダーをしております。 粗相が無いように取計らいますが、多少のことはご了承頂ければ幸いです」
国境を目指して進んでいたところ、目の前に突如現れた2人に運んできた檻を壊されるのではないかと不審者達は警戒した。
「本当のことを言いますと、私はお出迎えの作法が少々苦手でして。 引き返して頂けると、非常に有り難いのですがどうでしょう?」
「ふざけるな! 我らの崇高な目的を邪魔するというのであれば、容赦しないぞ!」
一斉に剣を抜いて構える不審者達、だがその装備は全員バラバラ。
傭兵や盗賊に近い服装の者や、杖を持った魔法使いも混ざっている。
その中でリーダーらしき、騎士の鎧を身にまとった男が指示を出し始めた。
「目の前に居る2人組、どうやら相当に出来るようだ。 少し早いが檻を壊し、中に居る【無慈悲なる混沌】を解放しろ!」
(無慈悲なる混沌?)
侍従長の眉がピクリと動く。
すると不審者の列の奥の方から、悲鳴が上がり始める!
「た、たすけてくれぇ! お、俺はまだ死にたく……」
立ち塞がる者を気絶させながら進む侍従長の目の前に、青白く透き通る髪を持った少女が立っていた。
異様だったのはその口が大きく開き、中に人の頭が見えていた事である。
少女が頭を飲み込むと口が普通の大きさに戻る、どうやら普通の常識は通用しない相手のようだ。
「どうだこの者こそ、清浄なる世界と秩序を齎(もたら)してくれる存在。 この世界を乱す異物は全て排除されなければならない!」
そう叫ぶ騎士の男を少女は無表情のまま、手を倍以上の長さに伸ばして捕まえる。
「待て、待つのだ! 貴様が狙うべき相手は、私ではない!」
「ようするにお前も、世界を乱す異物だって事だろ? ちゃんと働いてくれたみたいで、良かったじゃないか」
呆然としている間に、騎士の男は少女の口の中へ消えていった……。
侍従長は妻のメイドリーダーに顔を向けると、これからやるべき事を話す。
「どうやらアレは、放置しておくべきものでは無さそうだ。 とりあえず悪さをした分のお仕置きをしてくるから、お前は周囲にシールドを張っておいてくれ」
「分かりましたわ、あなた」
メイドリーダーがシールドを張るのを確認した侍従長は、少女に向かって1歩ずつ前に歩き始めた。
彼の身体に光のオーラをまといはじめると、顔の表面にヒビが入り変装していた素顔があらわとなる。
それはどこか、カイによく似ていた。
「やれやれ。 バカンスに行っていたあの頃に、まさかこんな事が起きていたとはな。 とはいえ当時の俺じゃこいつの相手は厳しかっただろうから、弱らせるだけ弱らせておくとしよう。 昔の俺、あとの事は頼んだぞ」
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