異世界だから何でもあり、しかしこの世界は幾ら何でも多すぎる。

いけお

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隠れた猛者(後編)

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 混沌の名を与えられた少女は、何かの違和感に気付いた。
 ほんの微かだが、今すぐこの場を離れるべきだという本能的な危機感。
 だがそこまで追い詰められた経験の無い少女は、その違和感を無視して目の前の邪魔者を排除を選択する。

 まずは両腕を伸ばして、捕まえようとした。
 しかし軽く手で弾かれてしまうので、今度は直接取り押さえて丸呑みする行動に出る。
 無表情のまま駆け寄る少女、その速さは常人とは比べ物にならない。
 残り数歩まで近づいたその時、少女は先程感じた違和感の正体が分かった。

 邪魔者の背後から現れた、1つの影。
 顔全体を覆うフード付きのコートを着ていて顔は見えないが、コートの内側から感じる気の量が桁外れだった。
 そのフードをおもむろに外した、影の顔を見た少女は驚愕する。

(自分!?)

 そう、新たに現れた者は自分と寸分違わぬ容姿をしていたのだ!
 とっさに身構える少女を見て、未来のカイは感心する。

「こいつを警戒するとは中々やるな、とはいえ他にも行く所が有るから時間も惜しい。 そろそろ決着を付けさせてもらうぞ」

 そう言いながら頷くと、同じ姿をした少女が少女(混沌)に向かって歩き始めた。
 先に攻撃するか逃亡するかすべきなのに、身体がピクリとも動かない。
 力量の差が有りすぎて、身体がヘビに睨まれたカエルのように動けないのだ。
 そして為す術も無く捕らえられると、目の前の少女の口が大きく開く。

「お~い、スミ。 頭の部分だけは残しておけよ、それ以外は喰っても構わないから」

「カイ、私はスラミンだよ。 間違えないで」

「お前が人の姿になっている時は、スミと呼ぶって決めただろ? 約束くらいはちゃんと守れ」

 納得していない顔をしながら、少女(混沌)を喰い始めるスミ。

「ずいぶんと久しぶりに食べるけど、こんな味だっけ?」

 少女(混沌)は最後の力を振り絞って、カイに問いかけた。

「何故……私を生かす? 頭さえ残っていれば、いずれまた復活するぞ」

「じゃあ、なんでこいつがお前の姿をしていると思う? 【無慈悲なる混沌】」

 スミと呼ばれている者が何故自分と同じ姿をしているのか、たしかに気になる。

「答えは簡単だ。 昔のスミことスラミンが頭だけでビーチに漂着したお前と戦い勝ち、お前を捕食して擬態出来るようになったからだ」

 少女(混沌)はそのスラミンに捕食される為に、生かされた事を悟った。
 少女の残った首を持ち上げるカイ、見ると首の根元が早くも再生を始めている。

「じゃあ俺はこれから昔の俺達に気付かれないように海に捨ててくるから、あとの始末を頼んで良いかリア?」

 メイドリーダーがシールドと変装を解くと、そこに現れたのは成長したリアだった。

「はいはい分かりました! でも早く帰ってきなさいよカイ、今頃あっちは大騒ぎのはずだから……」

 リアは別行動している仲間達がどんな騒ぎを起こしているかを想像して、あとで昔の父にどう言い訳するべきか頭を悩ませたのである。



 ホーリーウッド王国から遠く離れた小国の1つ、その首都の一角で大規模な爆破事件が発生した。
 奇跡的に大きな怪我をした者は出なかったが行方不明者が1人だけ居り、その人物こそが今回の事件の犯人だったとして処理される。

「お~ほほほほほ……! 私の名はシスティナ、美と知性を兼ね備えた女神。 悪い行いをする者共よ、神の裁きを受けなさい」

 そう叫ぶと何故かシスティナは、自分の顔の前にコショウを撒く。

「へ、へ、へ、へ~っくし!」

 彼女がクシャミをすると同時に、立て篭もっている者達の部屋から次々と爆発音が響き渡り、中からアフロヘアーになった男女が出てきて倒れた。

 異質な力を使う者の出現に最初はとまどっていたが、体勢を立て直すべく腕に多少自信を持つ者達が前に出てくる。
 するとここで、またシスティナの鼻がムズムズと動き始めた。

「へ~っくし!」

 今度は通路の天井付近に巨大な金ダライが現れて、彼女の前に立ち塞がる狂信者の頭に落ちていく。
 どれくらいの訓練をしたのかは不明だが、どうやら呪いを他者に押し付ける能力を会得したようである。

 高笑いをあげながら進むシスティナに、後からやってきた1人の男が声をかけた。

「お、おいシスティナ。 彼から騒ぎを大きくしないように言われていただろ、おまけにお前は一国の女王なのだから礼節を弁えよ」

「あら、あなた。 ようやく到着したの? 私たちは所詮陽動なのですから、コレくらいで丁度良いのです。 それと……あなたも王となられたのですから、我が夫に相応しい姿を示してくださいな」

「う、うむ、このベルモンドに任せておくのだシスティナよ。 お前が愛する男の雄姿をその目で見るが良い!」

 剣を抜いて構えるベルモンドを見て、システィナが歓声を上げる。

「きゃあ、あなた~素敵よカッコイイ!」

「ははは、当たり前だ。 こい、雑魚共! ここからは、俺様が相手だ」

 この惚気を見させられていた者達全員が口から砂を吐いているので、戦闘はこの時点でほぼ終了していた。
 ベルモンドの傍に控えていたデモンが、呆れた様子で呟く。

「はぁ……いつになったら、妖魔領でのんびりと暮らせるのだろう?」

 現在首謀者の所に向かっている面々が、早く片付けてくる事を願うデモンだった……。



 コンコン。

「入りたまえ」

「失礼しま~す。 ってノック2回じゃ、ここトイレと同じ扱いになっちゃいますね。 でも大して変わらないですね、中の人も凄く臭いますし……」

 入るなり、失礼極まりない事を言い出す無礼者。
 しかしその顔を見た、長老の表情が一変する。

「き、貴様は!?」

「あら、やはり見てすぐに気付きましたか? その節は私を魔王に転生してくれて、本当にありがとうございました。 邪神アヴィノクス様」

 部屋に入ってきたのはわざわざ魔王に転生させたのに、役目を果たそうとしない失敗作のウミナだった。
 最初から正体に気付かれている事にも驚かされたが、何よりもこの場所を知っていた事の方が問題である。

「どうして、この場所を!」

「それはですね。 あなたが昔のカイ君や私達を殺す為に放った、【無慈悲なる混沌】の記憶を遡(さかのぼ)ればすぐでしたよ。 ついでにその時に、あなたの正体も判明してます」

(あれは私の作った最高傑作! あやつらに倒せる筈が無い、一体どうやって返り討ちにしたというのだ!?)

 邪神の困惑している様子を見たウミナは、早々にネタ晴らしを行う。

「あ~実はですね。 昔の私達が遊んでいたビーチに混沌が漂着した際には、既に首だけの状態まで弱らされていまして、スミが死闘の末に捕食してその力と記憶と姿を会得したのですよ」

(混沌が漂着? 既に首だけ?)

 言っている事が理解出来ない邪神は、さらに混乱した。
 だがもっと状況をややこしくする者が、その場に現れる。

「ねえウミナさん、こいつを私が食べちゃって本当に良いの?」

 邪神の前に出てきたのは、少し前に送り込んだ筈の【無慈悲なる混沌】だった!

「貴様、何故ここに居る!? 早く世界の異物を排除せぬか!」

 邪神の怒号に対して、混沌の姿をした少女が返事をする。

「私は貴様って名前じゃないよ、スラミン母さんの子供のスミ子だもん」

「スミ子!?」

「母さんなら今『無慈悲なる混沌っていうのを、また食べてくるわね』って、カイパパと一緒に出かけてるよ」

 次々と明かされる、信じがたい事実。
 ようやく邪神にも目の前に居る者達が、どこから来たのか理解出来た。



「貴様らは……未来からやってきたのだな?」

「正解よ、アヴィノクス。 でも少しばかりやり過ぎだったかな? これはあなた自身が招いた結末、大人しく受け入れなさい」

 神聖な光に身を包みながら姿を見せたのは、やはり未来から来たアニス。
 女神に無事戻れたのか、メイドとして働いていた当時の残念な様子は見当たらない。

「お前はアニスティーゼ、何故ここに?」

「気付いていなかったみたいね。 あなたが排除しようとしていた異物の中に、私も居たのよ。 だからこうして、最期のお別れに来たって訳」

「ねえ、そろそろ良いでしょ? 早く済ませて帰りましょうよ、明日のメイドリーダーは私の番だから、早く変装してお義兄ちゃんと一緒に眠るの!」

 えらくご立腹な様子でウミが急かす、目の前に居る邪神は既に無視されていた。

「お義兄ちゃんも全員をお嫁さんにしちゃえば良いのに、『俺は全員を養えるだけの器量は無いから』とか言ってさ。 日替わりの恋人ごっこで妥協させるのは、卑怯だよね!」

 ウミの言葉にウミナやアニスも頷く、ちなみに邪神はスミ子に喰われている最中だ。

「……でも1番ショックなのは、お義兄ちゃんの子供を最初に作ったのがスラミンだった事だよね。 こんな大穴、誰も予想しないって」

 その当時の事を誰も話そうとしないが、どうやらカイはスラミンに夜這いを掛けられ、半ば強引な手段でスミ子が誕生したらしい……。

「ただいま、あんまり美味しくなかった。 それよりもどうかしたの、ウミ叔母ちゃん」

 ゴスッ!
 スミ子の顔の隣の壁に、ウミの拳が刺さる。

「……スミ子、何度も言っているけど私のことはお姉ちゃんと呼びなさい。 良いわね」

「うん、分かったウミ叔……お姉ちゃん!」

「それじゃあ、そろそろ帰るわよ。 カイ君とリアさんを、2人きりにさせない為にも」

『は~い』

 どれぐらい先の未来から来たのかは分からないが、上手くやっているみたいである。
 スライムとの間に子供が出来ている事だけは、完全な予想外ではあったが……。
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