異世界だから何でもあり、しかしこの世界は幾ら何でも多すぎる。

いけお

文字の大きさ
34 / 45

買い出しでの出来事(後編)

しおりを挟む
「なんだぁ、この色男。 女の前で、良い所でも見せようしているのか?」

「無論だ。 何しろこの女性は、地上に降りた女神なのだからな」

 ベルモンドの言葉を聞いたごろつき達は、そのキザったらしいセリフに怒り出す。
 だがそのセリフを一部修正すると、地上に降りたではなく地面に叩き付けられただが。

「そんなにこの女が大切なら、しっかり守ってみせるんだな!」

 1人の叫び声を合図に、ごろつき達は一斉に襲い掛かった。
 ベルモンドは腰に手を伸ばすが、この時になって剣を持ってきていない事に気付く。

(しまった、剣を!?)

 急いで徒手の構えに変えようとしたが、時既に遅く彼は四方を囲まれ袋叩きにされた。
 全身ボロボロになり、口の中も鉄の味しかしない。
 それでも尚、ベルモンドはごろつきの前に立ち塞がる。

「これ以上、先へは行かせぬ……。 お前らに渡す位なら、この女は俺の物にする!」

(!?)

 ベルモンドから発せられた言葉は、システィナの胸を打った。
 前の世界でも、ここまで自身を求める言葉を発した者は居ない。
 しかも彼女を守る為に、その身まで挺している。

 守られる側に立った事で、ようやく彼女は前の世界で犯した過ちの大きさに気付いた。

(そうか……前の世界で私が使い捨てにしてきた者達にも、こんな風に命がけで守りたい相手が居たに違いない。 それなのに私はこんな簡単な事にも気付かず、まるでゴミでも扱うように殺していた)

 そんなシスティナの脳裏に、こちらの世界に飛ばされる前に酷い目に遭わせた姉妹の姿が浮かぶ。

 立花 美桜と菊江。

 勇者として姉だけを召喚したつもりが、妹の菊江まで巻き込まれて来てしまう。
 しかしこの時システィナは、姉の目の前で菊江を殺してしまった。
 さらにはその魂を手元に置いておき、受けた痛みを他者に与える事が出来る化け物へと作り変え、刺客として放ったりまでしたのである。

 その後この姉妹の後に人違いで召喚したハジメという男によって、力の大半を奪われたあげく、この世界へと放逐されたのだ。
 他にもここでは書ききれないほどの悪行を積み重ねてきた、そのシスティナをハジメは討とうとはしなかった。
 悪意を持って神の力を人に向けた際に、酷い目に遭う呪いを掛けただけだ。

 ここまで予想して放逐したとは思えないが、そのお陰で彼女は今まで感じたことの無い感情をベルモンドに対して抱く事が出来たのである。

(たかが1人の女にうつつを抜かす、愚かな男だと思ってきた。 それなのに今は、この男を見る度に胸が熱くなる。 ここまで人を愛おしいと感じたことは無い、私はこの男を愛し始めてしまったとでもいうの!?)

 吊り橋効果も効いていたかもしれないが、システィナは突然愛に目覚めた。
 結局は多勢に無勢で、ベルモンドは地面に倒れ気を失っている。

 邪魔者が消え去ったと気を許したごろつき達の前に、この場に居る誰よりも恐ろしい者が主の勇気を称えた。

「まったく。 すぐ傍に私が居たのだから、排除をお命じになられれば良かったのに。 まあそれでも1人の男として、良い所を見せれたのですから今回は及第点としますか」

「なんだお前は、こいつの保護者か? 保護者なら、隅にでも引っ込んでいろ!」

「まあまあお静かに。 これ以上騒ぎを大きくするとまずいのですが、あなた達には少しお仕置きが必要みたいですね」

 そう言いながら、執事から元の姿に戻るデモン。
 ごろつき達は、目の前に現れた妖魔に腰を抜かした。

「なあに2・3日もすれば目が覚めます。 でも私達に関する記憶は、消しておきますよ」

 翌朝簀巻きにされたごろつき達が発見されたが、彼らの口から犯人の名が出てくる事は無かったのである。



 帰りの馬車の中で、ベルモンドは泣いていた。
 勇んで前に出ながら、システィナを護る事が出来なかった悔しさによるものだ。
 御者台に座るデモンは、彼に声を掛けようとはしない。
 それがこの男に今必要な物では無いと、理解しているからである。

 彼に今必要なのは、護ろうとした女性からの言葉。
 その女性であるシスティナが何も喋ろうとしない事で、悔しさがより一層強くなる。
 それでもベルモンドは覚悟を決めると、彼女を護れなかった事を謝罪した。

「システィナ様、この度はとんだ失態を演じてしまいました。 あなたを護ると出たにも関わらず、危険な目に遭わせてしまい申し訳ありませんでした」

「それで? 他にも何か、私に言うべきことは無いの?」

「他にですか? ええと、次は同じ失態を演じぬよう修行に励みます」

「それでは無い! その他に、もっと大事な事が有るでしょう!?」

 よく見ると、システィナの様子がどこかおかしい。
 周囲をきょろきょろと見回したり、時々ベルモンドを見つめ目が合うと頬を染めながらそっぽを向いたりしている。

 結局答えが出てこないベルモンドに我慢出来なくなったシスティナが、先に自分で答えを言ってしまった。

「貴様の頭の中身は空洞!? ごろつき共の前で、私を俺の物にすると叫んだでしょう! なら私の傍に一生居ると誓うのが、あらゆる世界での常識じゃないの!?」

「い、いや、あれはその場の勢いで……」

「その場の勢いで、貴様は女神を我が物としてしまうのか? この身を欲するのならば、それに相応しいだけの男になって。 そうすれば、私の身も心もあなたに全て捧げるわ」

 中の様子を盗み聞きしていたデモンは、女神の豹変に驚く。

(い、一体、何が、どうなっているんだ!?)

 システィナはベルモンドの顔を両手で押さえると、その額にそっと口付けした。

「!?」

「女神システィナからの祝福よ。 その身の不甲斐無さが悔しいのであれば、それをバネに力を付けなさい。 でもごろつきの前に立ち塞がった時のあなたは、私には勇者と同じに見えたわ。 これはその褒美よ、有り難く受け取りなさい」

 システィナは瞳を閉じると、ベルモンドと唇を重ねる。
 そして宿泊場所に着くまで、彼の傍を離れようとはしなかった。



「おいデモン、確かここに我らが泊まっていた建物が在った筈だよな?」

「記憶に間違いが無ければ、その通りであります」

「焼け野原にしか見えないが?」

 無事に戻ってきた3人は、その場に立ち尽くしている。
 泊まっていた建物が在る筈の場所と、その周囲が火の海と化していたからだ。
 呆然としていると燃え盛る炎の中から、複数の人影が現れた。

「いやぁ、今回ばかりは本当に危なかったな」

「そうね、まさかカイでも太刀打ち出来ない相手が居たなんて……」

「お義兄ちゃん、ケガの具合はどう? まだ痛い?」

 カイは身体のあちこちから出血しており、誰の目から見ても重傷なのは明らかだ。
 その彼にくっついて離れようとしない、1人の少女の存在に3人は気付く。
 透き通るような青い髪の少女、初めて見る顔だった。

「その少女は、一体何者なのだ?」

 ベルモンドの問いかけに、カイはゆっくりと答える。
 同じようにボロボロとなっているベルモンドの姿には、敢えて触れずに。

「ああ、こいつはスラミンだ。 さっき俺の命を救ってくれた際に、人の姿に擬態出来るようになった」

 どうやら3人が町に行っている間に、何かトラブルに巻き込まれていたようである。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

辺境で静かに暮らしていた俺、実は竜王の末裔だったらしく気づけば国ができていた

平木明日香
ファンタジー
はるか五億四千万年前、この星は六柱の竜王によって治められていた。火・水・風・土・闇・光――それぞれの力が均衡を保ち、世界は一つの大きな生命のように静かに巡っていた。だが星の異変をきっかけに竜の力は揺らぎ、その欠片は“魂”となって新たな生命に宿る。やがて誕生した人類は文明を築き、竜の力を利用し、ついには六大陸そのものを巨大な封印装置へと変えて竜王を眠りにつかせた。 それから幾千年。 現代では六つの大国がそれぞれ封印を管理し、かろうじて世界の均衡を保っている。しかし各地で異常な魔獣が出現し、封印の揺らぎが噂されはじめていた。 そんな世界を気ままに旅する青年がいる。名はブラック・ドラグニル。三年前からハンターとして魔獣を討伐し、その肉を味わいながら各地を渡り歩く放浪者だ。規格外の実力を持ちながら名誉や地位には興味がなく、ただ「世界のうまいものを食べ尽くす」ことを楽しみに生きている。 ある日、光の王国ルミナリア近郊で王女ユリアナが大型魔獣に襲われる事件が起きる。死を覚悟した騎士団の前に現れたブラックは、その怪物をわずか数十秒で討ち倒す。彼にとっては雑魚同然だったが、その圧倒的な強さは王国中に知れ渡る。王女は自由に生きる彼の姿に心を奪われるが、ブラックは次の目的地へ向かう計画を練るばかり。 だが彼自身はまだ知らない。 自らが竜族の末裔であり、世界を再び“統合”へ導く鍵となる存在であることを。 竜の封印が揺らぐとき、自由を愛する青年は世界の命運を左右する選択を迫られる。 これは、竜の記憶と人の魂が交錯する壮大なファンタジー叙事譚である。

追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜

ハリネズミの肉球
ファンタジー
「おい、城の噴水が止まったぞ!?」 「街の井戸も空っぽです!」 無能な王太子による身勝手な婚約破棄。 そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを! ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。 追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!? 優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。 一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。 「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——! 今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける! ※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

構造理解で始めるゼロからの文明開拓

TEKTO
ファンタジー
ブラック企業勤めのサラリーマン・シュウが転生したのは、人間も街も存在しない「完全未開の大陸」だった。 ​適当な神から与えられたのは、戦闘力ゼロ、魔法適性ゼロのゴミスキル《構造理解》。 だが、物の仕組みを「作れるレベル」で把握できるその力は、現代知識を持つ俺にとっては、最強の「文明構築ツール」だった――! ​――これは、ゴミと呼ばれたスキルとガラクタと呼ばれた石で、世界を切り拓く男の物語。

処理中です...