とあるVRMMOにおける平凡じゃない日常

いけお

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第12話 心の傷と望む罰

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「うわあああああ!?」

「聖亜、しっかりして!?誰も居ませんわ」

「あああ・・・ううう」

玄関を開けて家を出ようとした直後に刺されてから1ヶ月半程が過ぎ俺は既に退院して自宅に戻っているが、玄関を出ようとするとあの刺された瞬間を思い出してしまいその恐怖から家から一歩も出られなくなってしまった・・・静流と同じ心に傷を負った被害者の気持ちを理解出来た。

あの時、静流の叫び声を聞きつけた近隣の住人が犯人を取り押さえすぐに救急搬送されたお陰で俺は一命を取りとめ静流も巻き添えで刺される事も回避された。だが犯人の一方的な逆恨みから刺された俺はPTSDを抱える事となり、あれ程静流との夢の為に頑張って働こうと思っていた心もズタズタにされ半月位で身体は回復して病院を退院する事は出来たが仕事に行く事が出来なくなってしまった。

(これ以上、会社に迷惑を掛け続ける事は出来ない)

同僚や上司から被害者支援の制度を利用して長期療養する事を提案されたりもしたが、今日会社の方から退職願を受理したとの連絡が入った。静流は俺と一緒なら少しの間外に出る事が可能だが肝心の俺が家から一歩も出られなくなってしまった事で買い物に出る事が非常に難しくなった。

そして更に追い討ちを掛けられたのが、心無い一部近隣住人の声だった。何とか2人で外に出て買い物に行った際に起きた出来事だが俺はいつナイフが来るか分からない恐怖に襲われ静流の背後に密着するようにして歩いていたら、それを見た事情をよく知らない住人が数人で集まりながら臆病者を見る様にこちらをクスクス笑いながら詮索してきた。これにより更に静流に対する負い目や自分自身の弱さを痛感して心の傷を深くする事となる。

こんな俺達夫婦を救ってくれたのは、これまでも多くの国を巻き込んで晒された静流の個人情報を削除するのに奮闘してくれた総理とジャッジこと裁居田さんだった。総理は俺達夫婦を私邸に秘密裏に招きいれて共に生活をする事で社会から孤立するのを防いでくれて、裁居田さんは総理への報告の名目で連日の様に私邸を訪れ俺達2人にわざわざ会いに来て心の傷を何とか癒そうと努力してくれた。2人のお陰で少しずつ心に負った傷を回復していく俺達夫婦だけれども外に出て買い物などする事は未だ出来ずにいた。そんな中、ある日の夕食の席で総理が俺に質問してきた。

「聖亜くん、きみを刺した犯人の事情聴取等が一通り済んで間もなく裁判が始まるだろう。傷害や殺人未遂等諸々鑑みても実刑は免れないな、きみにあの時の恐怖を思い出させてしまうのが申し訳無い事だが敢えて聞かせて欲しい。きみは犯人に対しどの様な罰を望むかね?」

「俺が望む罰ですか?」

「ああ、そうだ。きみは仮想世界でPKによる仮の死を体験し今回現実世界でも死ぬかもしれない恐怖を味わった。仮想現実での罰を以前了承していたが、今回の事で考え方が変わったかもしれないからね。出来る限りきみの気持ちを尊重したいので率直に教えてくれないか?」

俺は静流の方を振り向くと彼女は微かな笑顔で応えてくれた。俺は静流からほんの少しだけの勇気を貰い総理に自分の考えを伝える事にした。

「総理、自分の考えはあの時と変わりません。俺は犯人に仮想世界で自分が味わった恐怖や痛みを体験してもらう罰を望みます」

「理由を聞かせて貰ってもいいかね?」

「はい、PKされた際の意見交換会では深く考えもせずに【目には目を】のお仕置きに賛成していました。そこで静流の様に実際に家族を失った被害者の言葉を聞いて己の浅はかさを恥じました」

「・・・・・」

「そして今回自分が実際に刺され現実での被害者の立場になって仮想世界で苦痛や恐怖を体験する罰を望む気持ちがより明確になったと思います」

「今のままだと犯人は懲役刑で刑務所で一定期間労働すれば社会に復帰してしまいます。相手に与えた苦痛や恐怖を全く知る事も無く・・・そして今回の様に(なんで自分がこんな目に遭わなければならないんだ!?)と自分勝手な逆恨みをしたうえで近くに居る人を再び傷つけるでしょう」

「だから懲役する必要は有りませんから、自分がした事を実際に被害者の立場で体験して欲しいんです。玄関を開けた直後に突然刺される怖さを・・・腹に刺さったナイフの痛み、そして朦朧とする意識の中で自分勝手な言い分を聞かされる理不尽さを。その全てを味わってもしも反省する様だったら謝罪する場位は作っても構いません。けれども、それだけの恐怖や痛みを味わっても反省する事が無いのでしたら将来的に躊躇い無く人を殺せる可能性があるので社会から完全に隔離して欲しいと願います」

「以前の意見交換会よりも厳しい意見になったようだね」

「あれだけの恐怖を味わって何も感じない様でしたら、人を殺してしまう事にも何も感じないでしょう。道端のアリを簡単に踏んでしまう様に命も奪ってしまうと思います。そうなる前に社会から遠ざけるべきだと考えます」

「きみはそれで加害者が罪を償ったと思える訳なんだね?」

「罪を償ったと判断するのは加害者が反省してその後の人生で示す行動でしか分かりません、自分が望む罰は加害者に罪を償っていこうと思うキッカケを与えるだけですから・・・。」

「もう1度聞くが、きみは懲役刑では無く仮想現実で同じ体験をして貰う罰を与えるだけで本当に良いのだね?」

「ええ、それで構いません。そして出来る事ならばこの罰で同じ様な被害者が増えない事を願います」

「わかった、折角の夕食なのに重い雰囲気にしてしまって悪かったね。気を取り直して食べる事にしよう」

総理はそう言って、与える罰について聞いてくる事はそれ以上しなかった。けれども、俺の望んだ罰は知らぬ間に総理や裁居田さん等を通じて準備が進められた。裁判はマスコミ等に非公開で行われながら進み、判決が下る前日の晩俺を刺した犯人は普段通り拘置所内で出された夕食を平らげていた。

「明日が確か判決の日だったな、しばらく刑務所に行けばどうせ戻れるし戻ったらきっとこの恨みを晴らしてやるから覚えていろ」

反省の色が無い犯人はそんな事を言っていると強い眠気に襲われるとそのまま寝てしまった。夕食の中に導眠剤が混ざっていた事など知る由も無い。この日の晩、国の主導の下で仮想現実内で被害者と同じ体験をする刑罰が初めて執行された・・・。
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