とあるVRMMOにおける平凡じゃない日常

いけお

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第11話 気ままなVRMMOでの生活と不意に訪れた来訪者

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「食料と水も買い込んだし、それじゃ行くかシズル」

「ええ、イセア。ここからウッドリバーまではここから数日の距離に在るようですから、気ままに進んでいきましょう。そんなに焦る必要も無いですから」

「そうだね、時間もたっぷり有るし先日当てた持ち運び式マイハウスの住み心地も分かる良い機会だ」

あのメンテの日から数日経って、俺とシズルはようやくツインレイクを後にした。距離的には数日とそこまで離れてはいないが折角当てたマイハウスの住み心地も知りたいしVRMMOの世界の中でもシズルと2人きりになれる場所を手に入れた喜びでちょっとした新婚旅行の気分も有った。

現実世界においては、俺と静流は新しい家に引越しする計画を立てている。それというのも総理から内密に2人に相談が有ったからだ。

「2人にこんなお願いをするのは大変心苦しいのだが聞いてもらいたい。政府では近い将来、現実世界で犯罪の被害に遭って外出する事が困難になってしまった被害者の心のケアの一環としてVRMMOを用いた治療を試してみる事を検討している。そこで静流さん、あなたに被害者の心を癒すカウンセラーとして協力して頂きたいと思い今日こうして訪問させてもらいました」

「・・・・・」

「あなたのこれまでの経験談は必ず多くの人の心に届くと思います、同じ様な被害に遭遇して今もなお外に出る事に恐怖を覚えてしまっている方々の救いになって頂けませんか?」

「総理・・・わたくしに対して高い評価をしてくださって大変恐縮ではありますが、今回のお話はしばらくの間お断りさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「もし良ければ理由を聞かせてもらってもいいだろうか?」

「ええ構いません、理由は幾つかございますがはっきりと申し上げられるのはわたくしも個人情報を晒され家に不法侵入された被害者として未だに1人で外を歩く事が出来ない状態に有るからです」

「聖亜と2人でならかろうじて外に出て買い物をしたりする事も出来ますが、長時間の外出をしますと呼吸が乱れめまいを感じる事さえ有ります。わたくし自身が未だ治療の途中だというのにどうして他の方の心を救えるだけの余裕を持てましょうか?」

「たしかに静流さんの言う通りだ、わたしの考えが浅かった。わたしは自分の中であなたの事を心の強い女性にしたかっただけなのかもしれないな」

「いえ、総理のお考えも正しいと思います。総理と実際に会ってお話出来る者の中で被害に遭った経験が有る者が居ればそんな願望を抱いても不思議ではありませんから」

「わたしもまだまだ未熟だな、自分の娘くらい年の離れている女性にフォローして貰うとは・・・」

「先程も申し上げましたが、総理のお考えも正しいのです。誰かが被害者の心をケアしてまた外に出られる様にする為には同じ体験をされた人が適任なのも事実ですし」

「そうだ・・・そしてそれはNPOや自治体等では無く国が自ら動いていくべきものだ」

「ですから時間を頂けませんか?わたくしが他の方の心を癒せるだけの余裕が持てるまで。わたくしには聖亜が傍に居てくれますから時間が経てばきっと立ち直れます。わたくし自身の心の傷を癒し立ち直る事が出来た際は喜んで協力させて頂きますので、立ち直るまでの間申し訳ありませんがわたくしの我侭をお許しください」

「大丈夫だ、来年再来年から始める物でもない。実際あなたの話を聞いて性急に進めるべきでは無い事も理解出来た。聖亜くんには急に押しかけて嫌な思いを抱かせてしまったかもしれないな、本当にすまなかった」

「いや、いいですよ。総理のお話を聞くと静流ほどの適任者は居ないですからね。ただ静流の言う通り彼女の心が癒されるまでは俺も彼女を見守り続けるつもりでいます」

そんなやり取りの後、総理が帰り2人で夕食を済ませるとリビングで俺は静流に相談を持ちかけた。

「なあ、今すぐは無理だが近い将来郊外で新しい家を建てないか?」

「どうしたの急に?」

「いや安直かもしれないけどさ、きみがカウンセラーとして働く際に今住んでいるマンションだと手狭になると思ったからね」

「わたくしがカウンセラーで働く様になると、どうしてこの家が手狭になるのですか?」

「きみがケアする相手もどの程度まで癒せるかは分からないけど、近くで見守れる環境の方が良いだろう?ならば一緒に生活して心の小さな変化にも気付ける様にしておくべきだ。その場合、ここだと2人で生活するには問題無いけど3人以上だと手狭になってしまうと思うんだ」

「ええ、そうね」

「だから、これから自分も頑張るから都心から少し離れた場所で大き目の家を建てよう。大勢だと1人1人を注意深く見る事が出来ないから2~3人ずつ受け入れられる位の広さがいいだろう。今の安月給じゃ夢で終わってしまうかもしれないけど、これくらいのささやかな夢を見ながらならもっと仕事に打ち込める。きみにしか出来ない事だから実現出来る様に頑張ってみるよ」

「ありがとう聖亜、わたくしもわたくしにしか出来ない事を出来る様に少しずつでも勉強していきますわね」

こうして俺は翌日から早速1~2時間ではあるが小さな仕事を見つけては少し多く残業する様になり、静流も通信教育で心のケアをしていく為に必要な資格を取る準備を始めた。同僚や上司からは急に残業を増やしだした自分を心配する声も上がったが、この2人の将来の夢を説明すると社内での支援制度を活用して残業を増やすのでは無く多くの現場で役立つスキルを会得して給料を上げていくやり方を勧めてくれた。そして昼間は仕事で汗を流し夜は静流と夕食の後VRMMOで短い時間では有るが楽しむ生活が続いていくとその時は軽く考えていた・・・。

ある日の朝、俺はいつも通り静流と朝食を済ませると仕事に行く為に家を出ようとしていた。

「じゃあ、行ってくるよ。今日はセミナーに参加してくるから帰るのは20時を過ぎると思う」

「ええ、いってらっしゃい。わたくしもあなたに負けない様に勉強していますから」

「ははは、きみに先に進まれない様に頑張らないとな」


そして家の扉を開けた瞬間、俺も静流と同じ被害者の立場に立つ事になった。

ドスッ

「!?」

腹部に何かが当たる衝撃を感じて見てみると、何か柄の様な物が見えたが最初それがナイフだと気付く事が出来なかった。いや、ナイフだと認めたくなかっただけなのかもしれない。少しずつ服に赤い染みが広がり朦朧とする意識の中で刺してきた相手の顔を見ると、先日静流の個人情報を晒して国から同じ目に遭わされた奴だった。

「何であれぐらいの事で僕の個人情報が晒されなくちゃならないんだ!?君たちは僕の痛みを少しは思い知るといいんだ!」

「きゃああああ! 聖亜、聖亜しっかりして!?」

「しずる・・・逃げ・・ろ」

俺は倒れながらそれだけ呟くと意識を失い静流の無事を確認する事が出来なかった・・。
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