とあるVRMMOにおける平凡じゃない日常

いけお

文字の大きさ
11 / 20

第10話 グリーンフォレストとウッドリバー、ツインレイクの先にある目的地

しおりを挟む
「なあ、明日のメンテで先日の水晶狐が実装されるんだったっけ?」

「そうでしたわね、あなたが帰宅する前にアップデートだけ済ませておきますね」

「ありがとう、助かるよ」

「いえいえ、どういたしまして。ゲームの中でも夫婦で暮らせるって夢みたいじゃないですか?」

「そうだな、結婚式もいい加減考えないといけないな。ゲーム内だとタダみたいなもんだしそっちで披露宴とかやっちゃうか?」

「ちょっと!?それだと、現実の方ではあげないって言ってる様に聞こえるけど」

「現実の方ではお互いに呼ぶ相手が少ないだろ?だったら2人だけで式を挙げて、余った予算で最新のVRヘッドセットを2台購入しようと思うんだ」

「何故1台20万近くするのを2台も買う必要が有るのですか!?」

「今、2人で一緒にログインしているだろ?何か有った場合に2人がログアウト出来なかった場合危ないからね、2人でずっと暮らしていく為の保険だよ」

「そう考えてみると、必要かもしれませんね。どちらかがログアウト出来なくなっても片方がログアウト出来ていれば助ける事が出来ますから」

「俺に何かあったら頼むよシズル」

「私の方も助けてくださいねイセア」

ツインレイクの町の外れの方で目立たないとはいえ、いちゃいちゃしている神災ペアを見ながら彼氏彼女の居ないプレイヤー達が持つ感情は1つだけだった。

『リア充爆発しろ!!』

うっかり口に出したり掲示板に書くと後が怖いからやらないが、イセアとシズルのラブラブプレイに歯軋りしている人は結構多かった。

翌日、レイドボスの実装やサーバーの増設作業などの関係で定期メンテの時間は丸一日取られる事になった。運営からの発表によると、先日の臨時メンテの原因の対策としてあのメテオ2発分の負荷に耐えられる規模にまで増強するらしい。そして一緒に公表された事実に皆が驚かされた。

何でもプレイヤーが全員ログアウトしてから実際にどの位の範囲まで衝撃波が届くのか確認してみる事になったそうだ。隕石落下の予測データを得る機会など早々無い為である、そして無事(?)に隕石は水晶狐に着弾しツインレイク周辺は瞬時に大穴があき土砂を巻き上げながら衝撃波は進み、舞い上がった土砂は最高で高度1000mを超えるものまで有ったが、当初は中央のセントラル連邦が全壊する予想だったが全壊まで行く事は無かった。けれども、別の場所で予想外の影響を与えていた事が発覚する。

隕石の落下からゲーム内の時間にして数百年分放置すると、まず最初に東のイースタン諸島連合で隕石が作った大穴に海水が流れ込み海面の高さが急激に下がった結果島々が繋がり列島になってしまった。そして次が南の暗黒の雲に覆われたサウスアイランド魔王領で隕石の影響で世界中の気流の流れが変わって暗黒の雲が消え去り晴れ渡る空に変貌を遂げる。

公式HP上には大変貴重な気象予測データが取れて感謝していると、各国の気象庁の感謝状のコピーまで貼られる始末で多くの国がこのゲームで起きる事象を注視している事を改めて再認識させられた。

ようやく長いメンテナンスも終わり静流と2人でログインすると、まず緊急メンテナンスのお詫びとして【スキル獲得くじ】が1つ送られていた。そして、隕石落下時の貴重な予測データを取る事が出来たお礼として俺とシズルに1つずつ【便利アイテム獲得くじ】が配布された。早速、両方のくじを引こうとしている2人を別の場所から監視している存在が居た・・・。

運営本部内に在る、特殊プレイヤー監視室。ある1件で緊急メンテナンスを引き起こした2人を監視する為だけに設けられた部署。その部署に室長兼監視役として元お仕置き担当のGMジャッジこと裁居田 清純が赴任していた。

「早速くじを引こうとしているな・・・博打系スキルとか絶対に引かない様に細工をしておかないと」

ジャッジは手元のPCを操作して、イセアとシズルに博打系や高レア度のスキルとアバターが出ない様に設定を加えようとした。だが、ジャッジはもとより運営の誰もがこの日の不運を呪う事になる。運営本部内に獅子身中の虫が存在していたからである。

「あれ~裁居田さん、何をされているんですか~?」

「げ!?ドジッタネ、こっちに来るなあっち行け!?」

「ひっど~い!私の名前は戸地津 多音(こじつ たおん)だと何度言えば覚えてくれるんですか!?」

戸地津 多音・・・こじつたおん、どじつたおん、どじつたね、どじったね、ドジッタネと名前通り相当なドジっ子である。そのドジぶりは折り紙付きで、過去にはうっかり国内の犯罪者リストを削除しそうになったり官房長官を国際手配しそうになったりと予想すら出来ないドジを巻き起こす。その為にお茶汲みくらいしか仕事を与えられないのであるが、これでもれっきとした法学部卒の才女であるがあまり信じてもらえていない。

「あれ、この2人はあの例の事件を引き起こした『想定外召喚師』と『サーバークラッシャー』ですよね?なんで、裁居田さんが監視しているのですか!?」

「今は少し静かにしてくれ!2人が配布されたくじを引こうとしているから、博打系や高レア度のものが出ない様に調整しているところだ」

「え~!?そんなことしちゃうんですか?2人が可哀想ですよ」

「あのな~!?例の1件でサーバーを増やすのに何億円掛かったと思っているんだ!せめてこれくらいの事をして、被害を抑えないと後が怖いんだよ」

「じゃあ、邪魔しない様にこのまま出ますね」

「ああ、すまないがそうしてくれ」

そして向きを変えて部屋を退出しようとしたその時!戸地津はコケた。

「きゃああああ!」

ゴンッ! 勢い良く戸地津はジャッジの操作していたPCに頭突きをかました。

「いたたたたたた・・・」

「おまえ、何をしてくれるんだよ!?まだ操作中だったのに・・・・ええ~!?」

ジャッジが画面を確認すると、出ない様に調整していた筈の博打系や高レア度のものがそれだけしか出ない様に変わっていた。そして、監視モニターの先で2人がくじを連続で引く様子が映し出されこの日、本部内に居た職員達は戸地津を除いた全員が夜逃げしたい心境に追いやられた。

今回はまずイセアからくじを引き始める、最初に【スキル獲得くじ】次に【便利アイテム獲得くじ】の順だ。そしてまず金色の玉が転がり、次は虹色の玉が天から降りてきた。

【ギャンブルアロー(博打系弓攻撃スキル)1~9999本の矢を撃ち攻撃を加える。10本以上撃ち出す事は起こり得ない】

【持ち運び式マイハウス(超便利アイテム)文字通り持ち運び出来る家である、2階建て冷暖房完備バストイレ付き。冷蔵庫に電子レンジに至るまで食器や家具が全て用意されています。外からの視線が気になる際は全ての窓にシャッターがあり目隠し可能、極めつけは家の中に居る限り一切の攻撃を受け付けない】

イセアが引き終えたので、今度はシズルの番である。こちらも最初に【スキル獲得くじ】次に【便利アイテム獲得くじ】の順で引いてみた。まずシズルのキャラクターでは初めての虹色の玉が天から降りてきて、次に金色の玉が転がった。

【神の気紛れ(博打系回復スキル)回復量と回復する範囲が完全ランダムなスキル。使用した本人だけHP1回復するのが最低で、最高は地平線までの範囲に居る全ての人間を死亡状態で無い限り瞬時に完全回復。神の奇跡の如きこの最高の回復は起こり得ない】

【アイテムボックス(優良便利アイテム)異次元空間に幾らでも入れて保管できる優れもの。中に入れた物は自由に取り出せて食べ物も腐らない為長期保存も可能、一家に1つ在ればもうインベントリの空きに困らない!】

特殊プレイヤー監視室から聞こえてきた、裁居田と戸地津の騒ぎを聞きつけて見に来た運営スタッフ達はイセアとシズルの引いたくじの結果を見て言葉を失った。しかも原因がスタッフ内に居たドジッタネの所為だと、とてもじゃないが上司に報告出来る訳が無い!

「ま、まあアレだ。メテオとか選択されなかっただけマシか」

「そ、そうですね。アイテムボックスに大量の食料を入れてマイハウスに逃げ込めば籠城戦が出来る様になってしまったのは問題ですが流石にイセアさんの弓が大量に放たれる事もないですよ、きっと」

運営スタッフの希望を裏切る非常な電子音がイセアとシズルに鳴ったのはその直後であった。

ピロ~ン♪

(おめでとうございます! イセア様とシズル様にはその類まれなる運の結果、オマケで追加ステータス称号の【神運】が付与されました。強運を上回る神の如き運をもって更なる自由の幻想をお楽しみください)

「・・・なあ、誰か退職届の書き方教えてくれないか?」

「ずるいぞ、俺にも教えろよ!」

ジャッジこと裁居田は、以後特殊プレイヤー監視室勤務の日になると胃腸薬を手放せなくなるのであった。

そんな運営本部内の惨状を知る由もないイセアとシズルはツインレイクの次に向かう目的地について、話し合う事にした。

「俺が当てたマイハウスとシズルの当てたアイテムボックスが有れば野宿の心配も無いから、少し遠くまで足を延ばすか?」

「先程、道具屋で買った地図ですとここから道が二手に分かれるようですね」

「グリーンフォレストとウッドリバーか。シズルはどっちに進みたい?」

「グリーンフォレストはうっそうと茂る森のイメージがあって、ウッドリバーは林と川のイメージがしますね。水の心配をあまりせずに済みそうなウッドリバーにしませんか?」

「そうするか、じゃあ後数日ここで狩りをしながら食料や水を買い込んだらウッドリバーに向け町を出る事にしよう」

「分かりました」

この2人の会話をこっそり聞いていたプレイヤーが、他のプレイヤーにもこの情報を教えて90%近いプレイヤーがグリーンフォレストに避難を始めた事なんてイセアとシズルが気付く訳も無かった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)姑が勝手に連れてきた第二夫人が身籠ったようですが、夫は恐らく……

泉花ゆき
恋愛
蘭珠(ランジュ)が名門である凌家の嫡男、涼珩(リャンハン)に嫁いで一年ほど経ったころ。 一向に後継ぎが出来ないことに業を煮やした夫の母親は、どこからか第二夫人として一人の女性を屋敷へ連れてくる。 やがてその女が「子が出来た」と告げると、姑も夫も大喜び。 蘭珠の実家が商いで傾いたことを口実に、彼女には離縁が言い渡される。 ……けれど、蘭珠は知っていた。 夫の涼珩が、「男女が同じ寝台で眠るだけで子ができる」と本気で信じているほど無知だということを。 どんなトラブルが待っているか分からないし、離縁は望むところ。 嫁ぐ時に用意した大量の持参金は、もちろん引き上げさせていただきます。 ※ゆるゆる設定です ※以前上げていた作の設定、展開を改稿しています

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

この離婚は契約違反です【一話完結】

鏑木 うりこ
恋愛
突然離婚を言い渡されたディーネは静かに消えるのでした。

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...