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第38話 シャイカ入国と宣戦布告

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「主、明日にはシャイカとの国境に着く筈だ」

タツトが御者台から馬車の中に居るウィルに言ってきた。シャイカはディスタンの東にありアルストから見て南東側に位置している。国土の多くを砂漠が占めている為にオアシスや川の水を求め昔から争いが絶えなかった国でもある、その為他国への水を奪う遠征も厭わない。奪い・守らなければ死んでしまう、そんな国なので国民は好戦的な者が多かった。

ウィル達一行はこの国境付近に来るまで、町や村にほとんど立ち寄らなかった。タツトのダンジョン内で水や食料だけではなくジュースや酒等も自給自足出来るからだ。立ち寄る時は気分転換を兼ねるケースなのだが、そんな時に限ってウィルはよく怪しい店を見つけてしまう。

「こんな物を見つけたんだけど、何に使うのかな?」

そう言いながら、リーンとレーメルに見せたのはウズラの卵位の大きさで魔力を流すと振動するオモチャでウィルはそれを衝動的に1ダースも買っており直後にリーンにハリセンで頭を叩かれている。結局、それは3人にちょっとしたマンネリ解消の効果を齎したのは言うまでも無い。

ここ3日、どの町や村にも立ち寄っていなかったウィル達はこの先で何が起きているのか知らなかった為この直後に惨劇の爪痕を目にする事となる。

「これは酷い・・・一方的に蹂躙された後じゃないか!?」

ウィルが思わず叫んでしまったのは、シャイカとの国境に程近いとある村だった。村の家のほとんどは既に焼け落ちて炭と化しており至る所で住人の死体が転がっていた。4人はすぐに村中に散るとわずかに生き残っていた住人を1ヶ所に集めて完治の光改良型で怪我を癒した。

「この村に一体何が起きたのですか!盗賊達にでも襲われたのですか!?」

矢継ぎ早に聞こうとするウィルに村人の1人が短く答えた。

「シャイカだ、シャイカの遠征部隊に襲われ水と食料をほとんど奪われてしまった・・・」

生き残った住人達はかろうじて使える井戸の水で喉の渇きを癒してきたが、食料が無い為餓死する時を待つしか無い状況らしい。

「ここはまだ危険なので、すぐに離れて下さい。使える荷車が有れば探してきて頂けますか?」

ウィルはMAPで接近する者が居ないか注意深く見ながら、村人が荷車を見つけて持ってくるのを待った。

「荷車は2台見つかりましたが、一体どうするおつもりですか?」

「あなた達が他の集落へ逃げる間の水と食料を渡す為ですよ」

「え?」

住人への答えを言う前にウィルは携帯保管庫から荷車に積めるだけの水と食料を出した。干し肉など保存の効く食料を選んだので充分足りる筈だ。

「これだけの水と食料を戴いて本当によろしいのですか!?」

「水と食料だけじゃありません、これも皆さんに渡します。無一文ではやはり餓死してしまいますから新しい生活を始める資金の足しにして下さい」

ウィルは住人達に金貨を10枚ずつ渡していく、お金はダンジョン内で無限に手に入れる事が出来るから出し惜しみするつもりは無かった。

「あなた様は我々にとって慈悲深い神に見えます、本当に有難うございました」

「俺は神様から貰ったスキルでほんのちょっと目に映る範囲の人を助ける事が偶然出来ただけだよ、だから同じ様な事が2度と起きない様にこちらから動いてみようと思う」

「どうなさるおつもりで?」

「これからシャイカに出向いて国王陛下からの親書を渡す予定だったのだけど、予定変更する。良いよね、リーン?」

「まあ仕方無いですね、これだけの物を見てしまった以上黙って見ている訳にもいきませんから」

「レーメルとタツトの意見はどうだろうか?」

「軍事大国だからって傲慢な態度をしていると痛い目に遭うって事を分からせてあげるべきでしょう」

「他国で起きた事とはいえ、これを黙って見ている様では人として失格だ」

「それじゃあ、皆も意見が一緒の様だから早速向かって行動を開始するか」

常人と違う会話をしている4人に住人達は戸惑いを隠せない、そしてウィルは更に唖然とする言葉を残し村をあとにした。

「それじゃあ、俺達はこれからシャイカに宣戦布告して主都まで攻めてみますので今後は安心して暮らしていけると思います。どうかお元気で」

それから4人はすぐに馬車に乗り込むとシャイカの国境へ向かう。翌日、国境を越えると200人程の兵士達が朝から祝杯を挙げていた。村を襲撃したのは恐らく彼らだろう。

「止まれ!我らが国シャイカへ入ろうするならば、国の名と身分を明かせ、さもなくば命の保証はしない」

「私はアルストの皇太女リーン、即位した新国王陛下より預かった親書を届けに参りました」

「アルスト?あ~あの小さな国か、見た所大した物も持っていなさそうだし俺達の気が変わらない内にさっさと行くんだな」

「つかぬ事をお聞きしますが、この先のディスタンの村を襲ったのはあなた方ですか?」

リーンの質問に兵士達は大声で笑い出した。

「お~俺達で間違い無いよ。小国の分際で、俺達のやり方に口出しするのなら滅ぼしても構わないのだぞ」

「ご冗談を、滅ぶのはあなた方の方です」

リーンはそう言いながら、預かっていた親書を兵士達の前で破り捨てた。

「てめえ、何のつもりだ!?」

「他人の命や物を奪い、平然としているあなた方は罰せられるべきです。それを良しとする国と友好を結ぶ必要も有りません。我が国アルストは只今をもってシャイカに宣戦布告致します」

リーンが言い終わると同時にウィルは分身を2万4千体呼び出した。そして10秒後、更に同じだけの数を追加する。

「さあ、戦争の開始だ。10秒以内に俺を倒さないと数は無制限に増えていくぞ、死にたい奴から掛かってこい」

兵士達は分身どころかリーンとタツトに勝てる訳も無く、1人を除き呆気なく倒された。わざと残された生き残りにウィルは告げる。

「たった4人だと思って舐めるなよ、国の全兵力で挑んで来い。お前達の思い上がりもここまでだ」

「ひ、ひぃ!?」

生き残った兵士は慌てて馬に飛び乗るとそのまま逃げ出して行った。分身達を消しながらウィルは皆に言う。

「一応、反省するまで徹底的に叩くけど反省したら他の国を攻めなくても済む様に水源を幾つか作ろうと思うからそのつもりで」

冷徹に人を裁きながら、どこか甘い部分を残しているウィルは非常識では有るけれどもそれがリーン達にはウィルらしい姿だと思っている。それからわずか1週間後、抗議の為に早馬でアルストを使者が訪れた時には既にシャイカの兵力は4分の1を失っていた。

「リーデガルド国王、直ちに皇太女に帰還を命じ皇太女の地位の剥奪と宣戦布告に対する相応の罰を与えなければ近日中にこの国は滅ぶと思った方が良い」

リーデガルドは使者に対し、少しだけ困った顔を見せたがすぐに毅然とした態度で返答する。

「使者には大変申し訳無いのだが、皇太女に同行している自由騎士には他国の戦争行為への介入等全ての自由を与えている。もし、その行いで落ち度も無く損害を被る様で有れば改めて損害額を出してくれれば国で全て補償しよう。しかし、シャイカへの宣戦布告がそちらが他の国に侵攻した結果で有ったならばそれは自業自得だろう」

「その言葉、確かに伝えますぞ。その首を民の前に晒す日も近いと思うがいい!」

「その前に、シャイカが滅亡する1歩手前まで追い込まれる可能性の方が高いやもしれぬぞ。何しろ自由騎士殿は1人で5500体のオーガを殲滅出来る御仁だからな」

「オーガ5500体を1人で殲滅!?」

シャイカの使者が狼狽している中、リーデガルドの元に続いてディスタンより不可侵条約締結の申し入れが届いた。

(この調子だと1年も掛からず世界中に非常識な4人の名が知れ渡るな)

リーデガルドは玉座に座りながら、ため息を吐くしかなかった。
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