スライムばかり食べてた俺は、今日から少し優雅な冒険者生活を始めます。

いけお

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第37話 【ダイナス恐怖の10日間】~3日目午後の部その2~

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「・・・・・ん」

サリーネが目を覚ますとハジメの腕の中だった。気を失うまでの出来事を思い出してすぐにでも逃げ出したい気持ちになったが、隣で寝息を立てているハジメを見ている内にもう少しだけこの温もりを感じていたいと思う様になり頭を寄せると再び眠りについた。

「恐らくこんな事だろうとは思ってましたけど、ハジメ・・・眠らせているターゲットの皆さんをどうするつもりですか?」

「はい、ごめんなさい」

「でも本当に幸せそうな寝顔をされているわサリーネ、これから色々と苦労するかもしれないけど彼女ならきっと乗り越えられるわ」

セシリア、ラン、ミリンダにセレスの4人は疲れて眠っているサリーネを温かい目で見守るのだった。

サリーネの乱入という予定外の出来事は有ったものの、貴族の妻や令嬢を味方に引き入れる作戦は好調なスタートを切れたと言える。直接貴族の当主を篭絡させているアーシュラというイレギュラーな存在は抜きとしても、遅くても明日の午後には王都内に居る過半数の貴族は善良か悪徳かの判断が下されるだろう。



「皆が揃っている間に、1度コルティナイトとシスティナイトの関係についてご説明しておこうと思います」

崩れた城壁の警備を近衛騎士に引き継いだ始とぶらぶら(?)と都の中を動き回っていたアーシュラさんが戻ってきたので、夕食の準備を始める前にセレスの話を聞く事にした。

「コルティナイト家は本来システィナイト家2代目当主の弟が独立して派生した分家であり侯爵に過ぎませんでした、しかしある時勇者の血を取り込もうと企んだ王が愛妾に生ませた娘をとある下級貴族の養女に出し当時のコルティナイト当主の妻として娶らせたのです」

セレスは手元のコップに水を注いで飲むと、続きを話し始めた。

「王の義理の息子にされたコルティナイトは侯爵から公爵の地位にまで引き上げられ、本家のシスティナイトよりも強い権力を与えられましたがこの時を境に何故かコルティナイト家とシスティナイト家では後継者となる男子1人しか生まれなくなりました。家の繁栄を願い、妾を何十人と用意した当主も居ましたがやはり1人しか子を作る事が出来ませんでした。勇者の血を利用されるのを恐れて防衛本能的に出生率を低下させたのだと今では考えられています」

そんな事が可能なのだろうか?一瞬そう思えたが勇者に与えられた力が子孫にも遺伝していたと考えると王の企みに気付けなかった自責の念から両家の当主がその呪いにも似た力を自らに掛けたのかもしれないとハジメは推察した。

「これと同じ事が王家にも起きました、そうして男子1人ずつしか生まれない各家は他の家から妻を娶る形で血を何とか繋いできたのです。しかし今代に入り問題が発生します、男子しか生まれない筈のコルティナイトとシスティナイトで女児が誕生してしまったのです」

それがセレスとサリーネって訳か。

「これまでずっと勇者の血を取り込む事が出来なかった王家の執念は相当な物でした、既に皇太子ジェラルドを生ませているジェラールには無理でしたがジェラルドの后と妾として強引に娶れば王家が勇者の血を手に入れられると思ったのでしょう。近隣諸国の代表が列席する公の場で求婚して断れない状況を作り出そうと考えていたみたいです」

しかし、その野望はセレスとすり替わったランによって壊されジェラルドは恥を掻く羽目になった。システィナイト家さえ残っていればコルティナイト家が途絶えても問題無いと安直に考えたジェラルドはセレスを不敬罪で処刑しようとして始に介入される結果を招いた。

「王家が執拗に狙う、勇者の血。それは直系の者にしか使えない力が原因なのです」

「直系にしか使えない力?」

ハジメがどんな力か聞く前にセレスがその力を使ってくれた、セレスを中心とした2mの範囲に細かい光の粒子が舞う結界が現れたのだ。

「これは【聖なる壁】と呼ばれる結界で、物理攻撃はもちろん魔法による攻撃も防ぎます。実は斬首されようとしていた時も、この力を使って刃を防ごうと考えておりました」

「じゃあ、同じ力をセレスの父君も使えるんだ?」

「いいえ、男子の場合は【無双の槍】と呼ばれる光の槍が具現化します。全ての結界を打ち破り勝利をもたらすとされています」

へえ、女性だとどんな攻撃も防ぐ結界で男子だとどんな結界も打ち破る槍を手に入れるのか。ってあれ、でもそれだとおかしくないか?

「じゃあさ、もしセレスの父君が【無双の槍】でセレスの【聖なる壁】を攻撃したらどうなるんだ?」

文字通り矛盾が生じているこの問題に対して、セレスはクスクスと笑いながら謎かけにも似た解答を言う。

「その答えは、【母は強し】ですよ」



その頃、王都ダイナスから離れた場所に在るコルティナイト公爵領にはようやく城壁が壊されたという初日の報が伝わっていた。

「何だと、ダイナスの城壁が何者かの手によって壊されただと!?」

セレスの父親で現当主のセドニスはその連絡を聞いて小躍りしたくなる気持ちを必死で抑えた。

(城壁を壊したのは恐らく、セレスティーナを奪い逃亡したという今代の勇者。娘もきっと傍に居る筈、あの王が中に居る騎士団や冒険者ギルドの連中を仮に動かしたとしても数日も有れば王都を守る兵達は殲滅されているだろう)

セドニスはダイナスの防衛戦力は今の時点で既に存在していないと確信した。

(今頃、王都はがら空きで他者からの攻撃を受け止めきれる筈が無い。娘を助けに来たフリをして王都を占領し、ジェラール諸共王族を根絶やしにしてやれば王家を受け継げるのは我が家のみ。フフフ、私が初代コルティナイト王を名乗る日が来た様だ。娘が生まれた時は絶望しそうになったが、こんな幸運に恵まれたのであればセレスティーナは我が家に繁栄を齎す女神だったのかもしれないな)

ククク、いやらしい笑い声を上げながらセドニスは侍従を呼び出した。

「報告によると、セレスティーナを保護した勇者がダイナスに帰還を果たしたらしい。だが、王家はセレスティーナだけでなく勇者の命も狙っているとみられる。最早一刻の猶予も無い、我が家はこれより娘の救出と勇者救援の為ダイナスに向け出陣する!」

この日の夕暮れ、コルティナイト公爵家の屋敷前に私兵の騎馬隊1万が招集された。そして領内に駐屯していた歩兵3万も翌日移動しながら合流して総勢4万の軍勢がダイナスに向け行軍を開始した・・・。



そんな王都の内と外の騒ぎを知る由も無く、ダイナスの墓地にやっと到着した者が居た。

『ふ~っ!やっと辿り着いた、ここなら人通りも少ないから私の姿を見ても驚く奴なんて居ないわね』

ガブッ

『さてと、アルラウネはどこに隠れているのかな?あの男の事を教えてあげたらきっと興味を持ってくれる筈なんだけど』

ガブガブッ ドサッ

『でもあの娘、もう既に私がここにやってくるのに気付いていたりして?まあ、無闇に力を使う子じゃないから心配いらないか』

ガブガブガブッ! ドサドサッ

『ああ、もう!ガブガブと私を噛まないでよ、私は食べ物ではありません・・・って何これ!?』

地下を通ってダイナスまでやってきたドリアードの分体は、自分に噛み付いてきたマミーが蒸発する様に消えていくのを見た。

(これってもしかして、私の身体に含まれているワサビ汁とかいうのが反応してマミーのHPを削ってしまったのかしら?)

分体の近くでは仲間が倒されたのを見て他のマミーが襲うのを躊躇している、ドリアードは両手の人差し指に切り込みを入れるとマミーに照準を合わせる。

『ほらほら、もうすぐ私のワサビ汁が飛び出すよ。当たると死んじゃうよ~♪』

ノロノロと一斉に逃げ出し始めるマミー、ドリアードはワサビ汁を撒きながら追いかけ始めた。

『きゃはは、これって凄く楽しい!私は今日からマミーハンターなのだ~♪』

日が落ちる頃には墓地の至る所にワサビ汁が撒かれていた、墓地に戻る事が出来なくなったマミーやブラッディマミー達は新たな住処を求めてダイナスの夜の街を徘徊し始め大混乱を引き起こす事となった・・・。
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