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アツモリ、セーラー服の女の子の入会試験に立ち会う

第69話 聖女様の再来?

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 ただ・・・満里奈は2、3回、ヨーヨーを上下させるだけで止めてしまう、しかも、その度にをするのだ。

「・・・これ、やっていくうちに熱くなっていくよ。しかも少しずつ重くなっていくような気がするし、これはウチの直感だけど、信じられないくらいの距離まで飛ばせるような気がする・・・」
「おー、よく気付いたな。そのヨーヨーは動かせば動かすほど、つまり時間が経つほど威力が増す。でも、使い手も火傷するから手袋グラブどころか服も耐熱効果の高い物を使わないと自殺行為だぜ。オレも文献でしか見た事がないけど、このヨーヨーの温度で地面が溶けたという記録もあるし、一撃で真銀ミスリルの盾を貫通した事もあるらしいぞ。『魔法の鎖マジックチェーン』だから絶対に切れなくて距離も無限だが、あまり伸ばし過ぎるとヨーヨーの温度が下がる欠点がある。ヨーヨーに蓄積された魔力が徐々に鎖に変わっていくのが原因だけど、もっとも、使用者がそこまでの熱さと重さに耐えられてヨーヨーを使えるかは別問題だ」
「んで、そんな熱に耐えられるような物をこの店で売ってるの?」
「そうえいば、エミーナちゃんが『キングヒドラの手袋グラブ』を持ってたはずだけど、それなら真銀ミスリルの盾が溶けるくらいの熱でも平気な筈だぞ」
「『キングヒドラの手袋グラブ』って何?」
「見た方が早いぞー。もっとも、もう売った可能性もあるけど」

 タフトはそう言ってエミーナを呼んできたのだが・・・そのエミーナはルシーダと共に「はーー」とため息をつきながらも『魔法の巾着袋マジックポーチ』から『キングヒドラの手袋グラブ』を取り出したのだが・・・満里奈は興味津々に見てるけど、それを見たタフトは「あれっ?」という表情をしながら
「・・・エミーナちゃん、呪いはまだ解いてないのかよ!?」
「勘弁してくださいよお。あちこち引っ張りまわされるから解呪どころじゃあないですよ。しかもバレンティノ教の聖職者が最大の力を発揮するのは新月の日の日中、それも正午前後ですよ」
「それって、明後日だよなあ」
「はーー・・・明後日に何も仕事が入ってなければ昼頃にボクとルシーダの二人で挑戦しますよー。けど、3日は寝込むのを覚悟でやりますから、それこそ『海の神ネプトゥーヌス』の部屋を一週間程度借りておいてエポちゃんあたりに助けてもらわないと、空腹どころか本当に餓死するかもしれませんよ」
「まあ、たしかにそういう話はオレも実話として知ってる。遺跡で解呪して危うく死にかけたバカがオレの仲間にいたからなあ」
「でしょ?」
 エミーナとルシーダ、それとタフトは呑気に話をしていたのだが、その間に満里奈はというと「よいしょ」と言って『キングヒドラの手袋グラブ』を両手にはめて感触を確かめていた・・・・

「「「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」」

 いきなりタフトたち3人が満里奈を指差しながら絶叫したから、満里奈だけでなく敦盛やココアまで満里奈を見てるし、あまりにも大きな声だったから、店の奥からルーミーまで飛び出してくる始末だ。
「「「 『キングヒドラの手袋グラブ』を装備してるう!! 」」」」
「それがどうしたのー?」
 満里奈はノホホンとしてるけど、タフトたち3人は満里奈がなぜノホホンとしてのかが分からない!
「ほ、ほんとにマリナちゃん、全然平気なのかあ?」
「そうだよー。何があったの?」
「どうしたもこうしたもないぞー。その『キングヒドラの手袋グラブ』、呪われてるんだぜ」
「嘘でしょー!!」
 満里奈はそう絶叫すると同時に慌てて両手に嵌めた『キングヒドラの手袋グラブ』を外そうとして・・・アッサリ外れた。

「「「「「「「 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ 」」」」」」

 今度は敦盛と満里奈、ココアを含めて全員が絶叫した!しかもルーミーまで絶叫している始末だ!
「「「「「 呪われた物を自分の意思で外せた・・・ 」」」」」
「「 呪いのアイテムを外しても消えて無くならない・・・ 」」
 当たり前だが敦盛と満里奈の知識はドナクエⅢのものだが、タフトたちはこの世界の常識の事を言っている。
 だが、その直後、ルシーダが『ハッ!』となった。
「・・・この『キングヒドラの手袋グラブ』、呪いが消えている」
 ルシーダは半信半疑で『キングヒドラの手袋グラブ』を両手に持ったが、悍ましいまでの呪いを放ってたのが嘘のように消えている。タフトもエミーナも「冗談だろ?」と言わんばかりの表情で『キングヒドラの手袋グラブ』を手で触ってるが、たしかに普通の『キングヒドラの手袋グラブ』になってる。
「・・・おいおいー、マリナちゃんは呪いを無効化できるのかあ?」
「ボクも信じたくないけど、事実として認めるしかないですよ」
「私だって信じたくないですよ。こんな事が普通に出来るとしたら、あの『アンテプリマの聖女』イースだけのはずです」
「という事は何ですかあ?アツモリさんの妹さんは聖女イース様の再来ですかあ?」
「わたしだって信じたくないけど、信じるしかないでしょー」
 タフトたち5人は興奮気味に話してるけど、当たり前だけど敦盛と満里奈は『アンテプリマの聖女』イースなどという言葉は初耳だから首を傾げる事しか出来なかった。

「・・・そ、そんな聖女様の再来ともあろう人がうちの店に来てるんだから、この『海の神ネプトゥーヌス外套コート』と『海魔クラーケンのバンダナ』をタダで譲ってやる!」
「ちょ、ちょっとお父さん!それをタダで譲ってあげたら大赤字だよ!!」
「聖女様が着てくれるなら安い物だあ!」
「それだけは勘弁してよお」
 タフトは満里奈に超高額商品ともいうべき貴重な品物を「タダで譲る」とまで言って興奮してるけど、ルーミーどころかキャストまで出てきて「お願いだからタダで譲るのだけは勘弁して」と頭を下げる始末だ。最終的にタフトとキャスト、敦盛、エミーナの4人が話をして、『海の神ネプトゥーヌス外套コート』を10万グッチ、『海魔クラーケンのバンダナ』を2万グッチの合計12万グッチ、つまりバレンティノ金貨12枚で買い取る事になったのだが、これでも元々の売値の3分の1程度というから恐れ入る。
 因みに・・・バレンティノ金貨1枚は普通の庶民が1か月間、飲まず食わずで頑張って稼ぐ金額に相当するというのだから、その価値が分かるだろう。

 ただ・・・満里奈が『海の神ネプトゥーヌス外套コート』を着て『海魔クラーケンのバンダナ』を頭に巻き、『キングヒドラの手袋グラブ』を両手にはめた姿は・・・敦盛から言わせれば「まさにスケバンそのものだ!」とツッコミたかった程だが、グッと堪えた・・・
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