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アツモリ、セーラー服の女の子の入会試験に立ち会う
第71話 降参?冗談も休み休み言え
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満里奈が申請書を出し直した時、ステラは目を丸くして、慌ててクラウン事務局長のところへぶっ飛んで行ったほどだ。事務局長は頭を抱え込んでしまったが、レクサス支部長自らが「マリナ君の特異な装備から『新職業』と認めよう」と言い出したから申請用紙は受理された。
ただし、満里奈が合格できたらという条件付きで、もし不合格だったら明日、ありふれた職業で再試験を受ける事を義務付けての事だ。
「オレに決まってるだろ!」
「はあ!?貴様は魔術師だろ!規則違反だ!」
「お前らでは役不足だ!オレに任せろ!」
「わたしだってやりたいわよ!」
シエナと敦盛の試合が中止になった事で、青銅クラスの連中が騒ぎ出した。本当なら仕事に行っていたはずだから、今日は無収入なのだ。満里奈の飛び級試験の相手をすればギルドから手当が出る。殆ど喧嘩になってしまい、仕方ないから急遽抽選が行われたくらいだ。
その結果、選ばれたのが・・・実力は銀とまで言われる戦士イノーバだ。
満里奈とイノーバが裏庭の試験場に現れた時、歓声が上がった。ただし、歓声とはほど遠いヤジに近いものばかりだ。審判はレクサス支部長の指名でカペラ審判部長で、レクサス支部長が自ら試合の立会人をやっている。
「ヒュー、おねえちゃーん」
「頑張れよー」
「イノーバ、手加減してやらないと可哀そうだぞー」
敦盛は「はーー」とため息をつくしかなかった。見た目は剣と盾を装備した戦士を相手に、か細い女の子が挑むのだ。たしかに手袋を装着しているから武闘家や格闘家に見えなくもないが、街の女の子が立っているとしか見えないのだ。イノーバは金属製の胸当てを装着しているだけだから、軽装の部類だ。
満里奈は『カチン!』という表情をしている。早くもヤジにキレているとしか思えないが、左手を外套のポケットに入れたまま、じっと相手を睨んでいる。
でも、敦盛は知ってる・・・満里奈は剣道より素手の方が恐ろしいという事に。
イノーバは薄ら笑いをしながら剣を抜き、左手の盾を構えた。同時に満里奈も『海の神の外套』の左ポケットからヨーヨーを取り出したが、まだ握ったままだ。
それを見た冒険者たちのヤジが一層激しくなった。誰もがオモチャを持っていると思ったからだ。
「始め!」
カペラ部長のその声を合図にイノーバは前に走り出したが、満里奈は右に回り込みながらヨーヨーを左手で『ジーー、ジーー』と振り始めた。たちまちヨーヨーから炎が上がったから、イノーバも子供のオモチャではないという事に気付き、表情が変わった。冒険者たちも初めて満里奈のヨーヨーがオモチャではない事に気付き、ヤジが消えた!
その満里奈が初めてヨーヨーをイノーバに投げ付けた。
イノーバはそのヨーヨーを盾でいとも容易く弾き返したが、そのヨーヨーを満里奈は自分の左手で受け止める事なく後ろへ受け流し、そのまま引き戻したからヨーヨーの炎はますます大きくなった。
「ナルホド、そのヨーヨー、動かせば動かすほど威力が増すという訳か」
イノーバは早くもヨーヨーの効果を見抜いた。満里奈は何も言わずに走り回りながらヨーヨーを動かし続けている。
「つまり、そのヨーヨーを止めてしまえば、ただのオモチャに戻る!」
イノーバは満里奈に突進したから、満里奈はヨーヨーを投げつけた。
だが、今度のイノーバは盾で受け止めず右手の剣でヨーヨーを受け流し、そのヨーヨーの『魔法の鎖』を剣にわざと絡めた!
満里奈の顔色が変わった!そう、剣にチェーンを絡める事でヨーヨーを剣に巻き付け、無理矢理ヨーヨーを止めたのだ!ヨーヨーから炎が消えた!!
イノーバは左手で『魔法の鎖』を掴むと思いっ切り手繰り寄せた!『魔法の鎖』の特性上、満里奈の左手と同化しているから強引に引っ張り寄せたのだ!
力比べでは満里奈は圧倒的に不利だ!たちまちイノーバに引き寄せられた!
そのままイノーバは左足の蹴りを食らわせ・・・ようとした瞬間、満里奈が『ニヤッ』としたから、イノーバは『はめられた!』と直感したが、既に手遅れだった!!
「はああああああああああああ!」
満里奈の右膝がイノーバの腹部に直撃した!しかも手繰り寄せられた勢いをそのまま利用しているから相当効果抜群だ!そのまま右の拳をイノーバの左頬にブチ込んだ!イノーバもぐらついたが、そこは銀クラス相当の戦士だ。一撃でトドメを差すには至らず、逆に満里奈を左足で蹴飛ばして強引に距離を取ったが、ちょっと苦しそうだ。
「・・・いやー、ちょっと油断してたのは認めるぞ。その攻撃、格闘家並みの一撃だったぜ」
「褒めて頂き光栄ですけど、『ちょっと』どころの油断では済まないと思いますよ」
イノーバはちょっと真面目な表情をしたけど、まだ余裕の表情だ。でも、満里奈はクールな表情で全然ダメージを受けてるようには見えない。
「・・・今のうちに忠告しておきますけど、早く治療する事をお勧めします」
「はあ!?お嬢ちゃんよお、オレがこの程度でダウンするとでも言いたいのかよ!」
イノーバは馬鹿にされたかと思って激高したけど、満里奈は澄ましている。
「・・・イノーバさんとか仰いましたよね」
「フン!それがどうした!!」
「あなた、少しずつ息が苦しくなっていませんか?」
「!!!!!」
満里奈はニヤリとしながらイノーバを見てるが、イノーバは『ハッ!』という表情に変わった。たしかに満里奈の言う通り、徐々に体が重くなっていく事を実感せざるを得なかったのだ。
「・・・魔法の剣や槍の使用が許可されているのと同様に、武器の追加効果も攻撃として認められています!手袋も剣と同じ扱いだから、追加効果を与えてもルール違反になりません!」
「ま、まさか、その手袋は・・・殆ど手に入らないレアアイテム級の・・・」
「『キングヒドラの手袋』は、キングヒドラが生きていた時の性質を引き継いでます!炎に対する耐性はトップクラスですけど、それ以上に・・・」
「皮膚に直接当たれば『猛毒』の追加効果を与える事がある・・・」
「そう言う事でーす」
そこまで言って満里奈は初めて『ニコッ』と微笑んだけど、イノーバにとっては悪魔の微笑みにしか見えない!
剣をヨーヨーに絡めている以上、ここから先は格闘戦になるのは目に見ている!格闘が本職ではない戦士には圧倒的に不利だ。しかも、相手は『猛毒』の追加効果を与える手袋を使っているのだから。
「まいった」
残念無念という表情でイノーバは降参した。
でも、猛毒の治療を受ける必要があるが、イノーバのパーティでは『毒』の治療を出来る神官はいるけど、『猛毒』の治療が出来る人はいない。解毒剤か聖職者による『完治』しか手が無いのだ。
仕方なくリベロが目で合図してプリメーラに治療をやらせたのだが、殆ど迷惑顔だ。
「・・・オレ、すみませんがパスさせて下さい!」
次の対戦相手だった剣士がいきなり選手交代を要求した。しかも、ついさっきまで満里奈との対戦を希望していた人も「オレは嫌だぞ」「わたしもー」とか言って誰も代役を名乗り出ない。これでは飛び級試験そのものを中止するしかない事態になりそうだった。
「はーーー・・・仕方ないわねー」
そう言って手を上げたのは・・・なんと『疾風』の精霊使いアクアだ。
でも、魔法使いが格闘戦(?)をするのはルール違反だ。カペラ部長も前代未聞の事態に、大慌てでレクサス支部長と協議を始めたくらいだが、『マリナ君の職業が新職業だから』という理由でレクサス支部長が認めた。ただし、アクアに渡す手当は青銅のままという条件だ。
満里奈は2回戦目をやるから試合場の中に残ってるけど、アクアはニコニコ顔のまま入ってきた。
満里奈はルシーダの話から首のギルドバッジが『白金』だというのに気付いている。それに、規則によりアクアの職業が精霊使いだというのも公表されているから、何か策を持っているから魔法使いが格闘戦に出てきたというのは直感できたが、何の策かは想像できない。油断禁物だ。
「始め!」
カペラ部長の右手が上がり、2回戦目が始まった!
アクアはニコニコしたまま動こうとしないから、満里奈もその場に立ったまま左手のヨーヨーを動かし続けている。
満里奈のヨーヨーの炎はどんどん大きくなっているのに、アクアはまだニコニコしたまま動こうとしない。
その時、ニコニコ顔のままアクアの口が開いた!
「大地の精霊ノームに命じます!我が敵の足を捕えよ!!」
しまった!と満里奈は思ったが既に手遅れだ!
アクアが何も動かず立っていたのは満里奈を足止めする為だったというのに気付いたときには、満里奈の足は大地の精霊に捉えられていた!これで機動力を完全に封じられた!
「ちいっ!」
満里奈は仕方なく左手のヨーヨーを投げつけたが、アクアは素早く左の腰から細剣を抜くと、ヨーヨーを軽く受け流した。髪の毛が少し焼けて嫌な臭いが上がったが、そんな事を気にする素振りも見せず、細剣に魔法の鎖をわざと絡めた!つまり、さっきのイノーバと同じ方法でヨーヨーを封じたのだ。これで満里奈は武器と機動力の2つを封じられた。
「まだまだ終わらないわよー!」
そう言うとアクアは走り出した。
しかも左手でチェーンを握ったまま満里奈の周りをグルグル回っている!
「しまった!」
満里奈は魔法の鎖を外そうとしたが、アクアは素早く動き、満里奈をどんどん縛り付けていく!魔法の鎖は絶対に切れないから、その性質を逆に利用して満里奈の腕を縛り付けたのだ!
アクアは地面に細剣をブスッと突き刺した!
これで満里奈は武器と格闘技、それと機動力の3つを全て封じられた訳だ!!
「ごめんなさいねー。わたしもこういうのは好きじゃあないんだけどー」
そう言いながらアクアはニコニコ顔で満里奈に近付いていく。満里奈は『ペッ』と唾を吐いたからアクアの顔に当たったけど、アクアはニコニコ顔のまま右手の袖で唾を拭き取ると、そのまま満里奈の頬に右の拳で殴りつけた。
そこからは一方的な展開だ。
左右の拳で殴りつけ、平手打ちや肘打ち、さらには膝蹴りなど、ありとあらゆる打撃技を繰り出すから、満里奈は鼻血を出して口からも血反吐を吐いたが、それでもアクアは攻撃の手を緩めない。格闘戦のルールでは、相手がノックダウンするか降参しない限り勝負が終わらない。だからアクアが満里奈をサンドバッグにしていても勝負が続くのだ。
周囲の観客から歓声が消え、逆に静寂が支配したくらいだが、それでもアクアの攻撃は続いた。というより、アクアの本職は精霊使いだ。徐々に息が上がってきているのに満里奈がダウンしないのだ。
エミーナもルシーダも青ざめて無言のまま試合を見ているだけだ。さすがのシルフィも普段のニコニコ顔が消えて青ざめている。ただ、ココアだけは無表情で試合を見ている。
そんな中、敦盛だけは余裕の表情で試合を見ていた。
ここからが『ブラッディ・マリー』と呼ばれた満里奈の恐ろしさだと・・・
満里奈はというと、ほとんど憎悪の塊のような目で睨んでいるから、アクアの方が逆に恐怖しながら満里奈に攻撃を続けている。が・・・アクアは肝心な事を忘れているのだ!
「ちょ、ちょっとー、いい加減にダウンするか降参してよー」
「フン!・・・降参など・・・絶対にしない・・・冗談も休み休み言え」
「お姉さんもさあ、夢見が悪いから、そろそろ終わりにしたいんだけどー」
アクアは必至になって満里奈をボコボコにしてるけど、その満里奈の頬は腫れあがって別人のようになっているが、目だけは輝きを失っていない!
その満里奈が一瞬、『ニヤリ』とした。
その瞬間、アクアは自分のミスに初めて気付いた!
「はあああああああああああーーーーーっ!」
満里奈の左足が動いてアクアに直撃したからアクアは後方へ吹き飛ばされた!そのまま満里奈は後ろへ走ると自分の足で細剣の柄を思いっきり蹴とばし、地面から引き抜いた!!
アクアは精霊魔法の効果時間の事を忘れていたのだ!本来ならもう1回、魔法をかけ直す必要があったのに、攻撃に夢中になっていて時間の事を失念していた。
「ヨーヨーよ!我が手に戻れ!」
満里奈は走りながら叫んだ!ヨーヨーが自由を取り戻せば満里奈の意思で操れる。だからヨーヨーは自分の意思で満里奈の周りを回って戒めを解いていく!逆にアクアに残った武器は護身用のナイフしかないから、ヨーヨーを受け止めるどころか武器を失ったに等しい!精霊魔法で満里奈に立ち向かうしかないのだ!
「大地の精霊ノームに命じます!我が敵の足を捕えよ!!」
アクアは立て続けに精霊魔法を唱えて満里奈の足を封じようとするが、満里奈の素早さは大地の精霊を上回っているから、満里奈の足を捕える事ができない!十数回、アクアは立て続けに大地の精霊を呼び出したが全て空振りだ!!
とうとう満里奈の左手にヨーヨーが戻ったから、『ジーーー、ジーーー』と満里奈はヨーヨーを動かし始めた。
アクアは本当は水の精霊を呼び出してヨーヨーの炎を消したいのだが、ここに水はない!かと言って、上位精霊である風の王ジンや大地の魔獣ベヒモスは、静止して精神集中しないと呼び出せないからヨーヨーの恰好の餌食になる上に時間が掛かる!アクアは満里奈との距離を取るために自身も走りながら風の精霊を呼び出して満里奈に攻撃を命じた。でも、その風の攻撃を受けても満里奈は足を止めようとしない!むしろ憎悪の目をアクアに向けたまま走り続けている。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
満を持して満里奈がアクアに突進した!!
「大地の精霊ノームに命じます!我が盾となり攻撃を受け止めよ!」
「遅い!」
満里奈の左手からヨーヨーが繰り出され、それがアクアの胸に命中した!
ただし、満里奈が合格できたらという条件付きで、もし不合格だったら明日、ありふれた職業で再試験を受ける事を義務付けての事だ。
「オレに決まってるだろ!」
「はあ!?貴様は魔術師だろ!規則違反だ!」
「お前らでは役不足だ!オレに任せろ!」
「わたしだってやりたいわよ!」
シエナと敦盛の試合が中止になった事で、青銅クラスの連中が騒ぎ出した。本当なら仕事に行っていたはずだから、今日は無収入なのだ。満里奈の飛び級試験の相手をすればギルドから手当が出る。殆ど喧嘩になってしまい、仕方ないから急遽抽選が行われたくらいだ。
その結果、選ばれたのが・・・実力は銀とまで言われる戦士イノーバだ。
満里奈とイノーバが裏庭の試験場に現れた時、歓声が上がった。ただし、歓声とはほど遠いヤジに近いものばかりだ。審判はレクサス支部長の指名でカペラ審判部長で、レクサス支部長が自ら試合の立会人をやっている。
「ヒュー、おねえちゃーん」
「頑張れよー」
「イノーバ、手加減してやらないと可哀そうだぞー」
敦盛は「はーー」とため息をつくしかなかった。見た目は剣と盾を装備した戦士を相手に、か細い女の子が挑むのだ。たしかに手袋を装着しているから武闘家や格闘家に見えなくもないが、街の女の子が立っているとしか見えないのだ。イノーバは金属製の胸当てを装着しているだけだから、軽装の部類だ。
満里奈は『カチン!』という表情をしている。早くもヤジにキレているとしか思えないが、左手を外套のポケットに入れたまま、じっと相手を睨んでいる。
でも、敦盛は知ってる・・・満里奈は剣道より素手の方が恐ろしいという事に。
イノーバは薄ら笑いをしながら剣を抜き、左手の盾を構えた。同時に満里奈も『海の神の外套』の左ポケットからヨーヨーを取り出したが、まだ握ったままだ。
それを見た冒険者たちのヤジが一層激しくなった。誰もがオモチャを持っていると思ったからだ。
「始め!」
カペラ部長のその声を合図にイノーバは前に走り出したが、満里奈は右に回り込みながらヨーヨーを左手で『ジーー、ジーー』と振り始めた。たちまちヨーヨーから炎が上がったから、イノーバも子供のオモチャではないという事に気付き、表情が変わった。冒険者たちも初めて満里奈のヨーヨーがオモチャではない事に気付き、ヤジが消えた!
その満里奈が初めてヨーヨーをイノーバに投げ付けた。
イノーバはそのヨーヨーを盾でいとも容易く弾き返したが、そのヨーヨーを満里奈は自分の左手で受け止める事なく後ろへ受け流し、そのまま引き戻したからヨーヨーの炎はますます大きくなった。
「ナルホド、そのヨーヨー、動かせば動かすほど威力が増すという訳か」
イノーバは早くもヨーヨーの効果を見抜いた。満里奈は何も言わずに走り回りながらヨーヨーを動かし続けている。
「つまり、そのヨーヨーを止めてしまえば、ただのオモチャに戻る!」
イノーバは満里奈に突進したから、満里奈はヨーヨーを投げつけた。
だが、今度のイノーバは盾で受け止めず右手の剣でヨーヨーを受け流し、そのヨーヨーの『魔法の鎖』を剣にわざと絡めた!
満里奈の顔色が変わった!そう、剣にチェーンを絡める事でヨーヨーを剣に巻き付け、無理矢理ヨーヨーを止めたのだ!ヨーヨーから炎が消えた!!
イノーバは左手で『魔法の鎖』を掴むと思いっ切り手繰り寄せた!『魔法の鎖』の特性上、満里奈の左手と同化しているから強引に引っ張り寄せたのだ!
力比べでは満里奈は圧倒的に不利だ!たちまちイノーバに引き寄せられた!
そのままイノーバは左足の蹴りを食らわせ・・・ようとした瞬間、満里奈が『ニヤッ』としたから、イノーバは『はめられた!』と直感したが、既に手遅れだった!!
「はああああああああああああ!」
満里奈の右膝がイノーバの腹部に直撃した!しかも手繰り寄せられた勢いをそのまま利用しているから相当効果抜群だ!そのまま右の拳をイノーバの左頬にブチ込んだ!イノーバもぐらついたが、そこは銀クラス相当の戦士だ。一撃でトドメを差すには至らず、逆に満里奈を左足で蹴飛ばして強引に距離を取ったが、ちょっと苦しそうだ。
「・・・いやー、ちょっと油断してたのは認めるぞ。その攻撃、格闘家並みの一撃だったぜ」
「褒めて頂き光栄ですけど、『ちょっと』どころの油断では済まないと思いますよ」
イノーバはちょっと真面目な表情をしたけど、まだ余裕の表情だ。でも、満里奈はクールな表情で全然ダメージを受けてるようには見えない。
「・・・今のうちに忠告しておきますけど、早く治療する事をお勧めします」
「はあ!?お嬢ちゃんよお、オレがこの程度でダウンするとでも言いたいのかよ!」
イノーバは馬鹿にされたかと思って激高したけど、満里奈は澄ましている。
「・・・イノーバさんとか仰いましたよね」
「フン!それがどうした!!」
「あなた、少しずつ息が苦しくなっていませんか?」
「!!!!!」
満里奈はニヤリとしながらイノーバを見てるが、イノーバは『ハッ!』という表情に変わった。たしかに満里奈の言う通り、徐々に体が重くなっていく事を実感せざるを得なかったのだ。
「・・・魔法の剣や槍の使用が許可されているのと同様に、武器の追加効果も攻撃として認められています!手袋も剣と同じ扱いだから、追加効果を与えてもルール違反になりません!」
「ま、まさか、その手袋は・・・殆ど手に入らないレアアイテム級の・・・」
「『キングヒドラの手袋』は、キングヒドラが生きていた時の性質を引き継いでます!炎に対する耐性はトップクラスですけど、それ以上に・・・」
「皮膚に直接当たれば『猛毒』の追加効果を与える事がある・・・」
「そう言う事でーす」
そこまで言って満里奈は初めて『ニコッ』と微笑んだけど、イノーバにとっては悪魔の微笑みにしか見えない!
剣をヨーヨーに絡めている以上、ここから先は格闘戦になるのは目に見ている!格闘が本職ではない戦士には圧倒的に不利だ。しかも、相手は『猛毒』の追加効果を与える手袋を使っているのだから。
「まいった」
残念無念という表情でイノーバは降参した。
でも、猛毒の治療を受ける必要があるが、イノーバのパーティでは『毒』の治療を出来る神官はいるけど、『猛毒』の治療が出来る人はいない。解毒剤か聖職者による『完治』しか手が無いのだ。
仕方なくリベロが目で合図してプリメーラに治療をやらせたのだが、殆ど迷惑顔だ。
「・・・オレ、すみませんがパスさせて下さい!」
次の対戦相手だった剣士がいきなり選手交代を要求した。しかも、ついさっきまで満里奈との対戦を希望していた人も「オレは嫌だぞ」「わたしもー」とか言って誰も代役を名乗り出ない。これでは飛び級試験そのものを中止するしかない事態になりそうだった。
「はーーー・・・仕方ないわねー」
そう言って手を上げたのは・・・なんと『疾風』の精霊使いアクアだ。
でも、魔法使いが格闘戦(?)をするのはルール違反だ。カペラ部長も前代未聞の事態に、大慌てでレクサス支部長と協議を始めたくらいだが、『マリナ君の職業が新職業だから』という理由でレクサス支部長が認めた。ただし、アクアに渡す手当は青銅のままという条件だ。
満里奈は2回戦目をやるから試合場の中に残ってるけど、アクアはニコニコ顔のまま入ってきた。
満里奈はルシーダの話から首のギルドバッジが『白金』だというのに気付いている。それに、規則によりアクアの職業が精霊使いだというのも公表されているから、何か策を持っているから魔法使いが格闘戦に出てきたというのは直感できたが、何の策かは想像できない。油断禁物だ。
「始め!」
カペラ部長の右手が上がり、2回戦目が始まった!
アクアはニコニコしたまま動こうとしないから、満里奈もその場に立ったまま左手のヨーヨーを動かし続けている。
満里奈のヨーヨーの炎はどんどん大きくなっているのに、アクアはまだニコニコしたまま動こうとしない。
その時、ニコニコ顔のままアクアの口が開いた!
「大地の精霊ノームに命じます!我が敵の足を捕えよ!!」
しまった!と満里奈は思ったが既に手遅れだ!
アクアが何も動かず立っていたのは満里奈を足止めする為だったというのに気付いたときには、満里奈の足は大地の精霊に捉えられていた!これで機動力を完全に封じられた!
「ちいっ!」
満里奈は仕方なく左手のヨーヨーを投げつけたが、アクアは素早く左の腰から細剣を抜くと、ヨーヨーを軽く受け流した。髪の毛が少し焼けて嫌な臭いが上がったが、そんな事を気にする素振りも見せず、細剣に魔法の鎖をわざと絡めた!つまり、さっきのイノーバと同じ方法でヨーヨーを封じたのだ。これで満里奈は武器と機動力の2つを封じられた。
「まだまだ終わらないわよー!」
そう言うとアクアは走り出した。
しかも左手でチェーンを握ったまま満里奈の周りをグルグル回っている!
「しまった!」
満里奈は魔法の鎖を外そうとしたが、アクアは素早く動き、満里奈をどんどん縛り付けていく!魔法の鎖は絶対に切れないから、その性質を逆に利用して満里奈の腕を縛り付けたのだ!
アクアは地面に細剣をブスッと突き刺した!
これで満里奈は武器と格闘技、それと機動力の3つを全て封じられた訳だ!!
「ごめんなさいねー。わたしもこういうのは好きじゃあないんだけどー」
そう言いながらアクアはニコニコ顔で満里奈に近付いていく。満里奈は『ペッ』と唾を吐いたからアクアの顔に当たったけど、アクアはニコニコ顔のまま右手の袖で唾を拭き取ると、そのまま満里奈の頬に右の拳で殴りつけた。
そこからは一方的な展開だ。
左右の拳で殴りつけ、平手打ちや肘打ち、さらには膝蹴りなど、ありとあらゆる打撃技を繰り出すから、満里奈は鼻血を出して口からも血反吐を吐いたが、それでもアクアは攻撃の手を緩めない。格闘戦のルールでは、相手がノックダウンするか降参しない限り勝負が終わらない。だからアクアが満里奈をサンドバッグにしていても勝負が続くのだ。
周囲の観客から歓声が消え、逆に静寂が支配したくらいだが、それでもアクアの攻撃は続いた。というより、アクアの本職は精霊使いだ。徐々に息が上がってきているのに満里奈がダウンしないのだ。
エミーナもルシーダも青ざめて無言のまま試合を見ているだけだ。さすがのシルフィも普段のニコニコ顔が消えて青ざめている。ただ、ココアだけは無表情で試合を見ている。
そんな中、敦盛だけは余裕の表情で試合を見ていた。
ここからが『ブラッディ・マリー』と呼ばれた満里奈の恐ろしさだと・・・
満里奈はというと、ほとんど憎悪の塊のような目で睨んでいるから、アクアの方が逆に恐怖しながら満里奈に攻撃を続けている。が・・・アクアは肝心な事を忘れているのだ!
「ちょ、ちょっとー、いい加減にダウンするか降参してよー」
「フン!・・・降参など・・・絶対にしない・・・冗談も休み休み言え」
「お姉さんもさあ、夢見が悪いから、そろそろ終わりにしたいんだけどー」
アクアは必至になって満里奈をボコボコにしてるけど、その満里奈の頬は腫れあがって別人のようになっているが、目だけは輝きを失っていない!
その満里奈が一瞬、『ニヤリ』とした。
その瞬間、アクアは自分のミスに初めて気付いた!
「はあああああああああああーーーーーっ!」
満里奈の左足が動いてアクアに直撃したからアクアは後方へ吹き飛ばされた!そのまま満里奈は後ろへ走ると自分の足で細剣の柄を思いっきり蹴とばし、地面から引き抜いた!!
アクアは精霊魔法の効果時間の事を忘れていたのだ!本来ならもう1回、魔法をかけ直す必要があったのに、攻撃に夢中になっていて時間の事を失念していた。
「ヨーヨーよ!我が手に戻れ!」
満里奈は走りながら叫んだ!ヨーヨーが自由を取り戻せば満里奈の意思で操れる。だからヨーヨーは自分の意思で満里奈の周りを回って戒めを解いていく!逆にアクアに残った武器は護身用のナイフしかないから、ヨーヨーを受け止めるどころか武器を失ったに等しい!精霊魔法で満里奈に立ち向かうしかないのだ!
「大地の精霊ノームに命じます!我が敵の足を捕えよ!!」
アクアは立て続けに精霊魔法を唱えて満里奈の足を封じようとするが、満里奈の素早さは大地の精霊を上回っているから、満里奈の足を捕える事ができない!十数回、アクアは立て続けに大地の精霊を呼び出したが全て空振りだ!!
とうとう満里奈の左手にヨーヨーが戻ったから、『ジーーー、ジーーー』と満里奈はヨーヨーを動かし始めた。
アクアは本当は水の精霊を呼び出してヨーヨーの炎を消したいのだが、ここに水はない!かと言って、上位精霊である風の王ジンや大地の魔獣ベヒモスは、静止して精神集中しないと呼び出せないからヨーヨーの恰好の餌食になる上に時間が掛かる!アクアは満里奈との距離を取るために自身も走りながら風の精霊を呼び出して満里奈に攻撃を命じた。でも、その風の攻撃を受けても満里奈は足を止めようとしない!むしろ憎悪の目をアクアに向けたまま走り続けている。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
満を持して満里奈がアクアに突進した!!
「大地の精霊ノームに命じます!我が盾となり攻撃を受け止めよ!」
「遅い!」
満里奈の左手からヨーヨーが繰り出され、それがアクアの胸に命中した!
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能力に呼応し現れた狼は少年だけを助けた。狼は少年を息子のように愛し、少年も狼を母のように慕った。
滅びた故郷を去り、一人と一匹は様々な国を渡り歩く。
悪魔の家畜として扱われる人間、退廃的な生活を送る天使、人との共存を望む悪魔、地の底に封印された堕天使──残酷な呪いを知り、凄惨な日常を知り、少年は自らの能力を平和のために使うと決意する。
悪魔との契約や邪神との接触により少年は人間から離れていく。対価のように精神がすり減り、壊れかけた少年に狼は寄り添い続けた。次第に一人と一匹の絆は親子のようなものから夫婦のようなものに変化する。
狂いかけた少年の精神は狼によって繋ぎ止められる。
やがて少年は数多の天使を取り込んで上位存在へと変転し、出生も狼との出会いもこれまでの旅路も……全てを仕組んだ邪神と対決する。
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生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
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