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アツモリ、強敵と相まみえる
第95話 ナナマタ?ヤマタ?
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敦盛たちがメビウスと対戦した地下室は、別荘の裏手側にあたる部分にあった。地下牢は別荘の広大の敷地の端、塀の際にあったが、メビウスが『落雷』で地面をはぎ取った事で分かったのだ。
エミーナは魔法の罠の術式を解明しようと頑張ったが、メビウスの作った術式を解けなかったのだ。魔法の罠を壊すのは簡単だが、それをやると敦盛たちがどこに飛ばされたのかが分からなくなる以上、お手上げ状態だった。
敦盛たちは駆けつけたルシーダによって治療を受けたが、シルフィはただ単に疲労なので問題なかった。水色と白の服が赤く染め上がったかのような敦盛と、血塗れの上にレパード子爵の『南十字星』を受けて壁に激突した際に肋骨と右足の骨を折っていたセレナ王女、そのセレナ王女以上に血塗れになって倒れていたココアに、ルシーダは『完治』の呪文で治療したけど、ルシーダは魔晶石と『神の酒』の力を借りた程だ。おまけにメビウスがココアにかけた魔法の紐を切るのにエミーナも魔晶石を使わされて、「初級の呪文を打ち消すのに魔晶石が必要とは、マジ勘弁して欲しいぞ」とボヤいた程だ
ルシーダのお蔭で敦盛とセレナ王女は普通に歩けるようになったけど、ココアはルシーダが来た時には意識が無くて失血死寸前だったから、傷は回復したけど意識が戻らなかった。さすがに意識を戻す回復呪文は無いとの事で、ルシーダも「後は神に祈る事くらいしか出来ません」と力なく言って額の汗を右手で拭った。
レパード子爵が指にはめていた、子爵家の紋章入りの指輪はセレナ王女自身が回収した。形の上では子爵の死亡が確認された事になるが、子爵の地位をこのままレパード子爵の息子に譲り渡してもいいのか、セレナ王女も判断できかねている。
結局、ココアの意識が戻らないからエミーナが石人形を作り上げ、ココアを運ばせる事になった。
既に日は西に相当傾いているが、敦盛たち8人と1体の石人形はイーリスの村へ向けて出発した。
「・・・シルフィ、風の精霊シルフの様子はどうだ?」
エミーナが建物の外へ出た直後に言った言葉がこれだ。余程気になっていたと見るが、シルフィはニコッと微笑むと
「ぜーんぜん問題ありませーん。シルフィちゃんが補償しまーす」
「そうか・・・」
シルフィは能天気娘全開でエミーナに答えたけど、エミーナの表情は曇ったままだ。
「・・・メビウス導師は禁忌の魔術に手を出した事が発覚したから、ヒューゴボス帝国の魔術師協会を破門されたんだ」
エミーナは歩きながらポツリと言った。そんなエミーナの左にいた敦盛はエミーナの言葉に黙って耳を傾けた。
「・・・死霊魔術師は世界のどの国でも抹殺されるか破門印をつけられて追放されるかの、2つに1つだ。メビウス導師に同情の余地はない」
「だろうな。死者を弄ぶなど、人間として最低の行いだ」
敦盛は吐き捨てるようにして言ったが、それは満里奈も同じ考えで首を縦に振っている。
「・・・帝国軍は魔王軍との決戦に敗れたとはいえ、世界各国の騎士団で構成された連合騎士団が魔王軍の侵攻を食い止めていたし、連合騎士団の団長には各国の王が陳情する形で自由騎士になっていたレヴォーグ卿が就任した事で、連合騎士団はまとまっていた。でも、帝都クロトがたった1日で廃墟になった理由、それはメビウス導師が破門された事で魔術師協会を逆恨みして、帝都の街の中で大量の石人形や鉄人形を放って魔術師協会だけでなく、あちこちの施設を破壊しまくったからなんだ。その時に教会も壊されたから魔王軍に帝都への侵入を許し、結果的に帝都が大混乱に陥って僅か1日で廃墟になったんだ」
「それじゃあ、ヒューゴボ国を滅亡させた間接的な犯人は、あのオバサンという事になるのかあ!?」
「そうとも言える。帝都が墜ちた事で帝都の人々は他の都市へ一斉に逃げ出し、他の都市の防衛隊は帝都が墜ちたという話が伝わると門を固く閉ざした。それに反発する一般の市民が「あいつらを助けろ」と騒ぎ出し、それがやがて暴徒となって街の施設を破壊しまくるとか、逆に防衛隊が市民たちに「お前たちこそ魔王の手下が化けている」などと言って街の施設を自分たちで破壊しまくるなど、誰も制御できない地獄のような状態になって、帝都が墜ちてからわずか10日で帝国は滅亡したも同然の状態になった」
「そうだったんだ・・・」
「今はレヴォーグ卿を中心として帝国南部に防衛線を張っているし、セレナ王女の従兄にあたるデイズ暫定皇帝が名目上の皇帝になってるけど、ほとんど実権は無いに等しい。というより、魔王軍の侵攻を食い止めるのに精いっぱいの状況だから、即位を宣言しただけの名目上の皇帝なのさ」
「ふーん」
「そんな事があったから、各国の都市は魔法生物が街の中で暴れた時の対策として、魔法生物にだけ反応する魔法の罠や、魔法生物に対抗する術式を組み込んだ壁などを設置するようになったが、ファウナですら全部終わってないのに、地方の町や村にまで手を回す余裕は殆どない。それをやるだけで30年くらいかかると言われてるけどね」
「ふーん」
結果的に一人の人間の暴走が国を滅ぼした形になったのだ。形の違いがあるけど、今回の件も1歩間違えればアリアドネが大混乱に陥ってクロトの二の舞になった可能性もあったのだ。それを阻止出来たのは敦盛たちの功績だが、敦盛は素直に喜べる気分ではなかった。
それを一番感じてるのはセレナ王女だ。
そんなセレナ王女はエミーナの右にいるが、重たい口を開いた。
「・・・レパード子爵は周囲の反対を押し切って魔法騎士構想を進めた事で、夫人と息子たちに愛想をつかされた格好になり、夫人も息子たちもファウナの別邸に移ってしまったのです。レパード子爵は、別荘と自分の領地を往復しながら魔法騎士構想を進めていたのですが、以前から心臓の病に侵されていて、それが相当進行していたのは本人も自覚していたのです。グロリア大公に反発していた子爵がグロリア大公に頭を下げるなどという屈辱的な事をしてもまでして魔法騎士構想を進めたのですが、結果論だけを言えば、潔癖すぎるほどの性格が焦りにつながって、人道を踏み外した行為を正当化してもまで魔法騎士構想を進めてしまったとしか思えません。どちらにせよ、全ての背景にあるのはグロリア大公への不満です。殿下もそれが分かっていたから、力ずくでレパード子爵から魔法騎士構想を奪う事が出来なかったのです」
「だろうね。ボクもセレナ王女の気持ちが痛いほど分かる。大公は諸悪の根源だが排除すら出来ない王国の制度には全くもって腹立たしい。セレナ王女が自分から出向く訳にもいかないから、あんたたちを自分の代理人として同行させたことをレパード子爵はどう思っていたのかねえ」
「それが分かれば苦労しませんよ。今回の件は事実のみ淡々と伝えるつもりです」
「そうしてくれ」
エミーナはそう言ってセレナ王女との話を打ち切ったけど、剣士バネットがセレナ王女本人だというのを知ってるのは敦盛とシルフィ、それとココアだけだが、シルフィはこういう事に関しては全然気にしてないし、放っておいても口外するとは思えない。ココアがどう思ってるかは分からないが、少なくとも今は意識が戻ってない。
いや、恐らくココアもセレナ王女も、互いの秘密を言い出せない筈だ。
何故なら・・・暗殺者はバレンティノ教団の教えでは悪そのものでありルシーダも絶対に認めない。冒険者ギルドも殺人そのものを認めてないし、レクサス支部長も「抹殺する」と公言している以上、ココアが暗殺者だと発覚したら世界中の冒険者ギルドがココアの敵に回る。
暗殺者に仕事を依頼した形になるセレナ王女も、責任が確実に及ぶから「ココアは暗殺者だ」とは口が裂けても言えないのだ。ココアも「バネットはセレナ王女だ」と言えば、逆に自分が暗殺者だとセレナ王女から告発される恐れがあるから、互いに言えないのだ。
恐らく、いや、ほぼ100%の確率でモコはバネットがセレナ王女であった事を知ってたはずだ。表向きは敦盛たちへの助っ人だけど、真の任務はセレナ王女の護衛役だ。そうでなければ逆に不自然だ。自分が不自然な反応さえしなければ、少なくともエミーナに気付かれる恐れはない。敦盛はそう自分に言い聞かせた。
「・・・ボクも子爵の執務室にあった日記を読んで、相当病気が悪化している事が書いてあったから分かっているつもりだ。子爵が飲んでた薬は結構強い物で、下手をすると1日や2日は寝込むのも普通にある劇薬だ。しかも2か月ほど前から日記がつけられてない。これはボクの勝手な推測だけど、殆ど寝たきりになって地下で過ごしてたんじゃあないかなあ。あの地下空間の階段下にもう1つの小さな部屋があったけど、あそこで誰かが生活していた形跡があるから、そこで殆ど寝たきりになっていた可能性が高い。寝たきりになったから、メビウス導師はやりたい放題だったんだろうね。ただ、子爵はメビウス導師とは破門される前から懇意だったようだけど、日記を読むと、子爵はメビウス導師が破門された事は知ってたけど、なぜ破門されたのかは全然知らなかったのが書いてある。それに、子爵は訓練が思うようにいかず焦りがあったようだ。そんな子爵の心の隙間に入り込むようにしてメビウス導師が事故死した者を不死生物にする事を提案し、最初は子爵も反対したけど『魔法騎士構想が破綻したら人間は滅ぶ』などとメビウス導師に囁かれて、強い薬の影響もあって正常な判断力を保てない状況だったから、結果的に死霊魔術を肯定するようになったとしか思えない。子爵の日記を読めば、途中から子爵の考えが一転しているが分かる。最初の1体目の時は半信半疑だったけど、それが上手くいったから、後は殆どメビウス導師がやってる事を称賛の目で見てるのがアリアリと分かる。不死生物というのは作った者の命令に従うから本来はメビウス導師の忠実な僕なんだが、それをレパード子爵が『支配の指輪』でメビウス導師を介して操ってたのさ。結果的にメビウス導師がレパード子爵を焚き付けた形になったけど、メビウス導師は帝国に次いでドルチェガッバーナ王国をも滅ぼす寸前だった事を全然意に介してなかったのだろうか。ボクにはメビウス導師の考えが全く分からないよ」
エミーナは淡々と語ってるが、それは敦盛も同じ考えだ。所詮は自分が不老不死を得る為に子爵に取り入って、亡骸の魔法騎士を作って子爵の信頼を得た裏側で自分の研究を進めていたのだから、自分さえ良ければ他はどうでもいいという考えがあったとしか思えない程だ。
でも・・・・そんなエミーナにも1つ、理解できない事があった。
「・・・ところでアツモリ」
「ん?」
「シルフィもバネットも言ってたけど、『落雷』の呪文を受けても平然としていたってホントかよ!?」
エミーナは半信半疑といった表情で敦盛に聞いた、その傍らではセレナ王女も『ウンウン』とばかりに首を縦に振ってるが、敦盛はアッサリ「そうだよ」と言った。
「冗談だろ!?イズモの国の人間は落雷を受けても死なないのかよ!」
エミーナは敦盛の顔に唾がかかるんじゃあないかという位に顔を近づけて敦盛に詰め寄ったが、それを満里奈が無理矢理引きはがした。
「違う違う、ウチだけじゃあなくてお兄ちゃんだって普通なら死ぬよ」
「それじゃあ、何で今回は死ななかったんだあ?」
「それはね、『草薙剣』の鞘が『八岐大蛇』の尻尾で出来ているからなんだよ」
「ヤマタノオロチ?何だそりゃあ?」
エミーナは聞いた事がない単語に、頭の上に『?』が3つも4つもあるような表情をしてるし、それはセレナ王女も同じだが、満里奈は笑っている。
「・・・あくまで古い言い伝え、ようするに伝説だけど、『草薙剣』が『八岐大蛇』の尻尾から出てきた時には鞘が無かったのね。だから鞘の代用品という訳じゃあないけど八岐大蛇』の尻尾から鞘を作ったのよ」
「それと雷がどう繋がるんだ?」
「八岐大蛇は頭が8つもある巨大な蛇の化け物で、その背中には木が生えていたとも言われているのね。木が生えているという事は、八岐大蛇そのものが地面と同じだったとも言えるから、その八岐大蛇の尻尾から作られた草薙剣の鞘は、地面と同じ性質を持っている」
「つ、つまり、『落雷』の呪文はアツモリを直撃したのではなく、鞘に落ちて、鞘が雷を全部吸収したから、アツモリは平気だったと言いたいのかあ?」
「そうだよー。ウチもどのくらい吸収できるか知らないけど、雷を受ければ受けるほど、剣が強くなると言っても過言じゃあないわよー」
「マジかよ!?メビウス導師はアツモリがもっと強くなる手助けをしたと一緒だぞ!」
「だよねー。これ以上お兄ちゃんが強くなったら、それこそシエナさんが泣いて詫びちゃうかもね」
「それはそうかもしれないけど・・・マリナ!ボクはさっきの話、絶対に納得できない!」
そう言ってエミーナは、今度は満里奈の顔に唾がかかるんじゃあないかという位に顔を近づけて詰め寄ったから、逆に満里奈がビビっているほどだ。
「ち、ちょっとエミーナちゃん、どうしてんですかあ?」
「どうしたもこうしたも無いぞ!首が8つもある巨大な蛇の化け物なのに、名前がどうして『ヤマタノオロチ』なんだあ!ぜーったいに『ナナマタノオロチ』が正しい!訂正しろ!」
「はあ!?そんな事をウチに言わないで下さいよお。首が8つあるという、伝説の化け物の名前を訂正しろと言われてもさあ・・・」
「マリナは伝説が間違っているというのを考えた事がないのかよ!?」
「だいたい、頭が8つだから『ナナマタ』だというのも短絡的すぎます!丸太のような胴体に円形に8つの頭があったら『ヤマタ』になります!」
「背中に木が生えていたような伝説のヘビが円形の胴体というのも不自然だ!絶対に『ナナマタノオロチ』が正しい!」
「『八岐大蛇』はヤマタノオロチでいいんです!」
「だめだ!」
「いいんです!」
結局、この2人の口論はイーリスにつくまで続き、アツモリたちはそれを爆笑しながら見ていた。
エミーナは魔法の罠の術式を解明しようと頑張ったが、メビウスの作った術式を解けなかったのだ。魔法の罠を壊すのは簡単だが、それをやると敦盛たちがどこに飛ばされたのかが分からなくなる以上、お手上げ状態だった。
敦盛たちは駆けつけたルシーダによって治療を受けたが、シルフィはただ単に疲労なので問題なかった。水色と白の服が赤く染め上がったかのような敦盛と、血塗れの上にレパード子爵の『南十字星』を受けて壁に激突した際に肋骨と右足の骨を折っていたセレナ王女、そのセレナ王女以上に血塗れになって倒れていたココアに、ルシーダは『完治』の呪文で治療したけど、ルシーダは魔晶石と『神の酒』の力を借りた程だ。おまけにメビウスがココアにかけた魔法の紐を切るのにエミーナも魔晶石を使わされて、「初級の呪文を打ち消すのに魔晶石が必要とは、マジ勘弁して欲しいぞ」とボヤいた程だ
ルシーダのお蔭で敦盛とセレナ王女は普通に歩けるようになったけど、ココアはルシーダが来た時には意識が無くて失血死寸前だったから、傷は回復したけど意識が戻らなかった。さすがに意識を戻す回復呪文は無いとの事で、ルシーダも「後は神に祈る事くらいしか出来ません」と力なく言って額の汗を右手で拭った。
レパード子爵が指にはめていた、子爵家の紋章入りの指輪はセレナ王女自身が回収した。形の上では子爵の死亡が確認された事になるが、子爵の地位をこのままレパード子爵の息子に譲り渡してもいいのか、セレナ王女も判断できかねている。
結局、ココアの意識が戻らないからエミーナが石人形を作り上げ、ココアを運ばせる事になった。
既に日は西に相当傾いているが、敦盛たち8人と1体の石人形はイーリスの村へ向けて出発した。
「・・・シルフィ、風の精霊シルフの様子はどうだ?」
エミーナが建物の外へ出た直後に言った言葉がこれだ。余程気になっていたと見るが、シルフィはニコッと微笑むと
「ぜーんぜん問題ありませーん。シルフィちゃんが補償しまーす」
「そうか・・・」
シルフィは能天気娘全開でエミーナに答えたけど、エミーナの表情は曇ったままだ。
「・・・メビウス導師は禁忌の魔術に手を出した事が発覚したから、ヒューゴボス帝国の魔術師協会を破門されたんだ」
エミーナは歩きながらポツリと言った。そんなエミーナの左にいた敦盛はエミーナの言葉に黙って耳を傾けた。
「・・・死霊魔術師は世界のどの国でも抹殺されるか破門印をつけられて追放されるかの、2つに1つだ。メビウス導師に同情の余地はない」
「だろうな。死者を弄ぶなど、人間として最低の行いだ」
敦盛は吐き捨てるようにして言ったが、それは満里奈も同じ考えで首を縦に振っている。
「・・・帝国軍は魔王軍との決戦に敗れたとはいえ、世界各国の騎士団で構成された連合騎士団が魔王軍の侵攻を食い止めていたし、連合騎士団の団長には各国の王が陳情する形で自由騎士になっていたレヴォーグ卿が就任した事で、連合騎士団はまとまっていた。でも、帝都クロトがたった1日で廃墟になった理由、それはメビウス導師が破門された事で魔術師協会を逆恨みして、帝都の街の中で大量の石人形や鉄人形を放って魔術師協会だけでなく、あちこちの施設を破壊しまくったからなんだ。その時に教会も壊されたから魔王軍に帝都への侵入を許し、結果的に帝都が大混乱に陥って僅か1日で廃墟になったんだ」
「それじゃあ、ヒューゴボ国を滅亡させた間接的な犯人は、あのオバサンという事になるのかあ!?」
「そうとも言える。帝都が墜ちた事で帝都の人々は他の都市へ一斉に逃げ出し、他の都市の防衛隊は帝都が墜ちたという話が伝わると門を固く閉ざした。それに反発する一般の市民が「あいつらを助けろ」と騒ぎ出し、それがやがて暴徒となって街の施設を破壊しまくるとか、逆に防衛隊が市民たちに「お前たちこそ魔王の手下が化けている」などと言って街の施設を自分たちで破壊しまくるなど、誰も制御できない地獄のような状態になって、帝都が墜ちてからわずか10日で帝国は滅亡したも同然の状態になった」
「そうだったんだ・・・」
「今はレヴォーグ卿を中心として帝国南部に防衛線を張っているし、セレナ王女の従兄にあたるデイズ暫定皇帝が名目上の皇帝になってるけど、ほとんど実権は無いに等しい。というより、魔王軍の侵攻を食い止めるのに精いっぱいの状況だから、即位を宣言しただけの名目上の皇帝なのさ」
「ふーん」
「そんな事があったから、各国の都市は魔法生物が街の中で暴れた時の対策として、魔法生物にだけ反応する魔法の罠や、魔法生物に対抗する術式を組み込んだ壁などを設置するようになったが、ファウナですら全部終わってないのに、地方の町や村にまで手を回す余裕は殆どない。それをやるだけで30年くらいかかると言われてるけどね」
「ふーん」
結果的に一人の人間の暴走が国を滅ぼした形になったのだ。形の違いがあるけど、今回の件も1歩間違えればアリアドネが大混乱に陥ってクロトの二の舞になった可能性もあったのだ。それを阻止出来たのは敦盛たちの功績だが、敦盛は素直に喜べる気分ではなかった。
それを一番感じてるのはセレナ王女だ。
そんなセレナ王女はエミーナの右にいるが、重たい口を開いた。
「・・・レパード子爵は周囲の反対を押し切って魔法騎士構想を進めた事で、夫人と息子たちに愛想をつかされた格好になり、夫人も息子たちもファウナの別邸に移ってしまったのです。レパード子爵は、別荘と自分の領地を往復しながら魔法騎士構想を進めていたのですが、以前から心臓の病に侵されていて、それが相当進行していたのは本人も自覚していたのです。グロリア大公に反発していた子爵がグロリア大公に頭を下げるなどという屈辱的な事をしてもまでして魔法騎士構想を進めたのですが、結果論だけを言えば、潔癖すぎるほどの性格が焦りにつながって、人道を踏み外した行為を正当化してもまで魔法騎士構想を進めてしまったとしか思えません。どちらにせよ、全ての背景にあるのはグロリア大公への不満です。殿下もそれが分かっていたから、力ずくでレパード子爵から魔法騎士構想を奪う事が出来なかったのです」
「だろうね。ボクもセレナ王女の気持ちが痛いほど分かる。大公は諸悪の根源だが排除すら出来ない王国の制度には全くもって腹立たしい。セレナ王女が自分から出向く訳にもいかないから、あんたたちを自分の代理人として同行させたことをレパード子爵はどう思っていたのかねえ」
「それが分かれば苦労しませんよ。今回の件は事実のみ淡々と伝えるつもりです」
「そうしてくれ」
エミーナはそう言ってセレナ王女との話を打ち切ったけど、剣士バネットがセレナ王女本人だというのを知ってるのは敦盛とシルフィ、それとココアだけだが、シルフィはこういう事に関しては全然気にしてないし、放っておいても口外するとは思えない。ココアがどう思ってるかは分からないが、少なくとも今は意識が戻ってない。
いや、恐らくココアもセレナ王女も、互いの秘密を言い出せない筈だ。
何故なら・・・暗殺者はバレンティノ教団の教えでは悪そのものでありルシーダも絶対に認めない。冒険者ギルドも殺人そのものを認めてないし、レクサス支部長も「抹殺する」と公言している以上、ココアが暗殺者だと発覚したら世界中の冒険者ギルドがココアの敵に回る。
暗殺者に仕事を依頼した形になるセレナ王女も、責任が確実に及ぶから「ココアは暗殺者だ」とは口が裂けても言えないのだ。ココアも「バネットはセレナ王女だ」と言えば、逆に自分が暗殺者だとセレナ王女から告発される恐れがあるから、互いに言えないのだ。
恐らく、いや、ほぼ100%の確率でモコはバネットがセレナ王女であった事を知ってたはずだ。表向きは敦盛たちへの助っ人だけど、真の任務はセレナ王女の護衛役だ。そうでなければ逆に不自然だ。自分が不自然な反応さえしなければ、少なくともエミーナに気付かれる恐れはない。敦盛はそう自分に言い聞かせた。
「・・・ボクも子爵の執務室にあった日記を読んで、相当病気が悪化している事が書いてあったから分かっているつもりだ。子爵が飲んでた薬は結構強い物で、下手をすると1日や2日は寝込むのも普通にある劇薬だ。しかも2か月ほど前から日記がつけられてない。これはボクの勝手な推測だけど、殆ど寝たきりになって地下で過ごしてたんじゃあないかなあ。あの地下空間の階段下にもう1つの小さな部屋があったけど、あそこで誰かが生活していた形跡があるから、そこで殆ど寝たきりになっていた可能性が高い。寝たきりになったから、メビウス導師はやりたい放題だったんだろうね。ただ、子爵はメビウス導師とは破門される前から懇意だったようだけど、日記を読むと、子爵はメビウス導師が破門された事は知ってたけど、なぜ破門されたのかは全然知らなかったのが書いてある。それに、子爵は訓練が思うようにいかず焦りがあったようだ。そんな子爵の心の隙間に入り込むようにしてメビウス導師が事故死した者を不死生物にする事を提案し、最初は子爵も反対したけど『魔法騎士構想が破綻したら人間は滅ぶ』などとメビウス導師に囁かれて、強い薬の影響もあって正常な判断力を保てない状況だったから、結果的に死霊魔術を肯定するようになったとしか思えない。子爵の日記を読めば、途中から子爵の考えが一転しているが分かる。最初の1体目の時は半信半疑だったけど、それが上手くいったから、後は殆どメビウス導師がやってる事を称賛の目で見てるのがアリアリと分かる。不死生物というのは作った者の命令に従うから本来はメビウス導師の忠実な僕なんだが、それをレパード子爵が『支配の指輪』でメビウス導師を介して操ってたのさ。結果的にメビウス導師がレパード子爵を焚き付けた形になったけど、メビウス導師は帝国に次いでドルチェガッバーナ王国をも滅ぼす寸前だった事を全然意に介してなかったのだろうか。ボクにはメビウス導師の考えが全く分からないよ」
エミーナは淡々と語ってるが、それは敦盛も同じ考えだ。所詮は自分が不老不死を得る為に子爵に取り入って、亡骸の魔法騎士を作って子爵の信頼を得た裏側で自分の研究を進めていたのだから、自分さえ良ければ他はどうでもいいという考えがあったとしか思えない程だ。
でも・・・・そんなエミーナにも1つ、理解できない事があった。
「・・・ところでアツモリ」
「ん?」
「シルフィもバネットも言ってたけど、『落雷』の呪文を受けても平然としていたってホントかよ!?」
エミーナは半信半疑といった表情で敦盛に聞いた、その傍らではセレナ王女も『ウンウン』とばかりに首を縦に振ってるが、敦盛はアッサリ「そうだよ」と言った。
「冗談だろ!?イズモの国の人間は落雷を受けても死なないのかよ!」
エミーナは敦盛の顔に唾がかかるんじゃあないかという位に顔を近づけて敦盛に詰め寄ったが、それを満里奈が無理矢理引きはがした。
「違う違う、ウチだけじゃあなくてお兄ちゃんだって普通なら死ぬよ」
「それじゃあ、何で今回は死ななかったんだあ?」
「それはね、『草薙剣』の鞘が『八岐大蛇』の尻尾で出来ているからなんだよ」
「ヤマタノオロチ?何だそりゃあ?」
エミーナは聞いた事がない単語に、頭の上に『?』が3つも4つもあるような表情をしてるし、それはセレナ王女も同じだが、満里奈は笑っている。
「・・・あくまで古い言い伝え、ようするに伝説だけど、『草薙剣』が『八岐大蛇』の尻尾から出てきた時には鞘が無かったのね。だから鞘の代用品という訳じゃあないけど八岐大蛇』の尻尾から鞘を作ったのよ」
「それと雷がどう繋がるんだ?」
「八岐大蛇は頭が8つもある巨大な蛇の化け物で、その背中には木が生えていたとも言われているのね。木が生えているという事は、八岐大蛇そのものが地面と同じだったとも言えるから、その八岐大蛇の尻尾から作られた草薙剣の鞘は、地面と同じ性質を持っている」
「つ、つまり、『落雷』の呪文はアツモリを直撃したのではなく、鞘に落ちて、鞘が雷を全部吸収したから、アツモリは平気だったと言いたいのかあ?」
「そうだよー。ウチもどのくらい吸収できるか知らないけど、雷を受ければ受けるほど、剣が強くなると言っても過言じゃあないわよー」
「マジかよ!?メビウス導師はアツモリがもっと強くなる手助けをしたと一緒だぞ!」
「だよねー。これ以上お兄ちゃんが強くなったら、それこそシエナさんが泣いて詫びちゃうかもね」
「それはそうかもしれないけど・・・マリナ!ボクはさっきの話、絶対に納得できない!」
そう言ってエミーナは、今度は満里奈の顔に唾がかかるんじゃあないかという位に顔を近づけて詰め寄ったから、逆に満里奈がビビっているほどだ。
「ち、ちょっとエミーナちゃん、どうしてんですかあ?」
「どうしたもこうしたも無いぞ!首が8つもある巨大な蛇の化け物なのに、名前がどうして『ヤマタノオロチ』なんだあ!ぜーったいに『ナナマタノオロチ』が正しい!訂正しろ!」
「はあ!?そんな事をウチに言わないで下さいよお。首が8つあるという、伝説の化け物の名前を訂正しろと言われてもさあ・・・」
「マリナは伝説が間違っているというのを考えた事がないのかよ!?」
「だいたい、頭が8つだから『ナナマタ』だというのも短絡的すぎます!丸太のような胴体に円形に8つの頭があったら『ヤマタ』になります!」
「背中に木が生えていたような伝説のヘビが円形の胴体というのも不自然だ!絶対に『ナナマタノオロチ』が正しい!」
「『八岐大蛇』はヤマタノオロチでいいんです!」
「だめだ!」
「いいんです!」
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エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流@3/19書籍発売!
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「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
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世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
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