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アツモリ、強敵と相まみえる

94話 致命的なミス

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 ココアだけでなく敦盛もシルフィもセレナ王女も、自分の目を疑った!
 さっき、ココアに喉元を掻き切られて絶命した筈のメビウスが立っているのだ。左手には黒水晶を持って。
 しかも・・・首元の傷跡が綺麗になくなっている!

「ば、ばかな・・・破門印はもんいんが消えている!」

 ココアはメビウスの顔を見て驚愕の表情をしている!しかもメビウスは笑みを浮かべているが、それは凍り付くような笑みを一層増しているとしか思えないほどだ。
「お前には感謝してるぞ、暗殺者アサシンの小娘よ」
 そうメビウスは言い放つと「アーハッハッハッハッハー」と再び高笑いした。
死霊魔術ネクロマンシーの究極の術、不老不死の術!ここに完成し、我はLICHリッチとして永遠の若さを手に入れた!」
 そう言ったかと思ったら、メビウスは右手の人差し指をココアに向けた。

【・・・光の矢よ、我が敵を貫け!】

 メビウスが古代語の詠唱を始めたが、信じられないくらいに早く詠唱が終わり、右手の指先から光の矢が放たれた!

「うがあああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 光の矢はココアの右腹部を貫通したから、ココアは激痛のあまり絶叫した!大量の血が噴き出したけど、両手足を拘束されているからココアは傷口を押さえる事もできない!
「フン!1級魔術師ともなれば杖など単なる飾り物に過ぎぬ!杖が無ければ魔術師は魔術を使えぬなどと思ってるのは、お前のような世間知らずのアホどもだけだと自覚しろ!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーー!」

 敦盛は怒りのあまり、メビウスに向かって突進した!
 だが、そんな敦盛は見てメビウスはニヤリとして口を動かした。

【雨の精と光の精よ、我が声に従い・・・】

 セレナ王女はメビウスが何を唱えようとしているのか全然分からなかったが、信じられないくらいに早い!敦盛がメビウスのところへ着くまでに呪文が完成すると直感した!!

【・・・いかずちよ、そのとどろきを持って我が敵を打て!】

“ ズッドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン! ”

 セレナ王女は一瞬、目の前が真っ白になったかと思ったら、凄まじいまでの揺れと共に大量の土埃が辺りを覆った!セレナ王女も知識として知っていたが、メビウスは電撃系の上位呪文『落雷ライトニングストライク』を放ったのだ!

 メビウスはその土埃に背を向けると、ココアの右手を自分の右足で踏んづけた!ココアの指の骨が何本か砕けたようで、ココアは再び絶叫を上げたが、そのココアが苦しむの見てメビウスは楽しんでいるとしか思えない。
「フン!あたしは不死の王LICHリッチだぞ。いや、不死の女王と訂正しておこう。波紋印は生者にのみ効力を発揮するから、死んだ事で波紋印は効果を失った!もう呪いの事を考える事なく古代語を使えるかと思ったら、お前には感謝の言葉しかないぞ」
 ココアは「ペッ!」とばかりに血が混じった唾をメビウスに吐いたが、それをメビウスは右腕の袖で拭うと「愚か者め!」と激高してココアを思いっきり蹴飛ばしたから、ココアは階段から転げ落ちた。ココアは顔や額が切れて血まみれになって、辛うじて呼吸をしているほどでしかない。
暗殺者アサシンの小娘、その根性、気に入った!お前には褒美として不死の女王に永遠に仕える事を許可してやる!このあたしに永遠の命を与えてくれたお前には感謝の言葉しかないけど、あたしの最愛の人を奪った苦しさを、この無念さを、お前には存分に味わってから死んでもらわないと、あたしの気が収まらないんだよねえ。ただ、お前は貴重な多重能力者マルチアビリティだ。残念なのは神官としての能力を失う事だが、その暗殺者アサシンとしての能力は貴重だ。貴様は未来永劫、暗殺者アサシンとして不死の女王のしもべとして仕える事になるのを感謝しながら死んでくれ」

 ココアは弱々しい息のままメビウスを睨んでいるが、『魔法の紐マジックロープ』は術者が解除を命ずるか『魔法解除ディスペルオーダー』を使わないと切れない!ココアは睨む事しか出来ないのだ。
「あたしが禁忌の分野である死霊魔術ネクロマンシーを研究したのは、他でもない、あたし自身の美しさを永遠に残すためだ!その為に普通の死霊魔術ネクロマンシーではない、新たな死霊の魔術の分野、言うなれば新・死霊魔術ネオ・ネクロマンシーの研究を進めた結果、1つの方法を見つけた!それが即ち、黒水晶に自らの魂を封じ込め、肉体だけをLICHリッチにする事で、永遠の美貌を手に入れる方法だ!その証拠にお前から受けたこの傷、たちどころに治っただろ?この黒水晶が瘴気を作り出し、それをこの体に送り続けている以上、あたしの体はどんな事をされても永遠にこの若さを保ち続け、永遠に美しいままでいられるのだ!LICHリッチの致命的な弱点、聖水も太陽も、この黒水晶がある限り、あたしには何の効果も無い!!」
「それは即ち、黒水晶を壊せばお前が本当に死ぬという事だ!」

 いきなり土埃の中から大声がしたのでメビウスは『ハッ!』という表情で後ろを向いた。その時、さわやかな風が舞い上がって土埃が収まり、周囲の視界が晴れた。

 そこには・・・落雷の直撃を受けたはずの敦盛が平然と立っていた!

「そ、そんな馬鹿な!電撃系の最強呪文『落雷ライトニングストライク』は自然界の雷を魔法力で増強して落とす呪文だ!それを受けて平然としているとは、貴様、何者だあ!!この呪文が効かないのは天使族と一部の魔法生物だけというのは常識だ!人間なら絶対に助からない筈だぞ!」
「フン!俺は見ての通り普通の人間だ。お前がバカだというのを証明にしたにすぎぬ!」
 敦盛はそう言って大蛇丸おろちまるをメビウスに向けて突き出したから、メビウスは自分を嘲笑された屈辱に怒りを爆発させた!

「こ、こうなったら、貴様を一瞬のうちに灰にしてやる!」
 メビウスは激高した表情で呪文の詠唱を始めた。

【・・・ここは赤き世界・・・・・・・・・・・・・・】

 メビウス自身は『灼熱地獄バーニングヘル』の詠唱をしているつもりなのだが、なぜか言葉が出なくなった。間違いなく言葉を発しているはずなのに、何も喋れないのだ。
 その時、メビウスは『ハッ!』となって上を見上げた!

 そこには・・・燦々さんさんと輝く太陽があった!「しまった!」と気付いた時にはもう遅かった。メビウスは敦盛以外にもう一人、シルフィがいる事を忘れていたのだ!
 太陽が見えるという事は外気が地下室に入り込んでいる事に他ならない。白金プラチナクラスの古代語魔術師を上回る不死の女王も、風の精霊シルフによって言葉を発する事を止められたら、魔法を使えない不死生物アンデッドの魔術師に成り下がってしまうのだ!呪文の選択を間違ったとしか言いようがない、致命的なミスをメビウスは犯したのだ!
 かと言って、目の前の敦盛を倒さない事にはシルフィを止める手段はない!この部屋にいる以上、メビウスは風の精霊から逃れる事が出来ないのだ!!

「はーーー・・・ようやくオバサンも自分のミスに気付いたようですねえ」

 敦盛はそう言うと最初はゆっくり、そのまま徐々に速度を上げて階段にまで行った時に、メビウスはガタガタと震えながら「や、やめてくれ!」と叫んだ。いや、メビウス自身は「やめてくれ」と言ったつもりだったが、その声は風の精霊シルフの力で消されていたから敦盛に届く事はなかった。
 メビウスは敦盛に背中を見せて逃げようとしたが、そのメビウスの左手を敦盛は躊躇なく切り落とした。
 メビウスは右手で黒水晶を掴もうとしたが、その黒水晶を掴んだ右手ごと敦盛は大蛇丸おろちまるで黒水晶を真っ二つにした!
 黒水晶が割れた時、メビウスは絶叫したが、その声は敦盛もココアも、それにシルフィもセレナ王女にも聞こえなかった。そのままメビウスの体が真っ黒い炭のようになったかと思ったら、それも巻き上がる風によってどこかへ運ばれて、そこには割れた黒水晶と、メビウスの服が残っただけだった・・・
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