雑文エッセイ

越川千太郎

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10、一日千秋

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万人にとって一日は同じ一日だし、一ヶ月は同じ一ヵ月で時間の長さに変わりはないはずである。ところが、たとえば十一月、十二月という月は、ほかの五月とか六月よりも、時がたつのが速いように感じる。 これは、なぜだろうか。
すぐに思いつくのは、これから十二月にかけては、ふだんより忙しい、ということがある。よく、仕事や遊びに熱中していると時のたつのを忘れる。 それが十二月で、逆に暇で退屈している日の時間は長い。これが六月に当たる。物理的時間に対して心理的時間という。
もっとも、むかし「もういくつねると お正月」と数えた子どものころは、同じ十二月がずいぶん長かったのを覚えている。 正月でも恋人でも、一般に待っている時間は長いものなのだ。それが大人になって「年内にこの仕事だけは」などと思うようになると、反対に時間が待ってくれない。
心理学に「年月の長さは、年少者には長く、年長者には短く知覚される」という法則がある。
ひとつはやはり、子どもや若者ほど将来を期待する気持ちが強く、年長者ほどとしをとりたくないと願うからだろう。 「だから、とりわけ女の場合、歳月は速くたつ」と心理学者はいじわるをいう。
じっさい、青年のころ、十年といえば無限にも近い年月のように思えたものだった。しかし、今ふりかえって考えてみると、十年なんてあっという間だ。 年々加 速度がつくようでもある。この調子だと、これからの十年は超特急かと想像して、愕然としたりする。
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