雑文エッセイ

11、イナゴ

イナゴは稲の害虫だが、害よりも昔から農民の栄養源として、無くてはならない田舎の味だった。赤くゆでたのを砂糖、しょうゆで煮つめて食べる。 ぱりぱりして香ばしい。それが全く姿を消して「イナゴをつかまえたら標本にしたい」と農林省の役人がいった程だった。
「戻ってきた」とか「帰ってきた」という。では、彼らはどこへいっていたのか。 農薬で絶滅したわけではなて、細々と生き残っていた子孫が、農薬が減ったので少しずつ増えだしたのだろう。
今年はトンボが多かったとか、蚊がふえた、という話は各地にある。蚊がふえたのでカを食うトンボがよみがえり、そしてトンボを食べに野鳥が戻ったのだと、つなげて考えることができる。
蚊はごめんだがトンボと野鳥は歓迎、というわけにはいかない。うれしいような、くやしいような、だ。
生物界の変化は、一般に五年から十年の観察を要する、といわれる。 イナゴやトンボのこのごろの消息を果たして自然の復元力と見ていいものか、どうか。疑問はのこる。全体として日本の野や川や海の汚染は今もどんどん進行中で、危機だ、絶望的だと一方ではいう。
しかし、ごく一部分にせよ、これが明るい兆候であることに違いはない。農薬なら農薬を減らすと、ちゃんと小動物はこたえた。その敏感さに感心する。自然をまもる気持ちのはげみにもなる。