雑文エッセイ

越川千太郎

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18、浮動票

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浮動票という用語の出どこは、ひとつは選挙事務所ではないか。選挙参謀が票を読むときに使った玄人の言葉くさい。 固定票、組織票以外の不特定多数の票である。党員票、後援会票、労組票、信者票などに対する無党派票、落ちこぼれ票を浮動票という。
ふわふわして行方の知れぬ浮草票、無定見無節操な浮気票といった語感がある。事実、政治の常識も分別もなく買収供応に乗せられやすい無自覚票とか、ボス組織のひと声で動く義理人情票とか、そういう愚かな浮動票を織り込んで選挙運動は進められてきた。 いやな薄ぎたない用語だ。
しかしこのごろ、浮動票の中身が少しずつ変わってきた。いままでの玄人の選挙参謀には読めない票、金や義理人情では操作できない票がふえ、これもまた浮動票と呼ばれるようになった。
大都市に流れこんだ団地票がある。価値観が一変した若ものの票がある。
またたとえば公害、物価、医療、保育所問題などで各地におこった住民運動、被害者同盟の票がある。この人たちの票は既成のどの政党、組織ともまっすぐには結びつかない。 最近の世論調査でも「好きな政党なし」という脱政党グループが各地で急激にふえて来ていることがわかった。
おなじ無党派票だし落ちこぼれ票だという意味では、以前からの浮動票の定義があてはまる。
ただし愚かな浮動票ではない。賢い浮動票である。無自覚なふわふわ票でなく、よく考えた批判票である。数がふえるにつれて、浮動票なしには保守革新ともに勝てなくなった。
とくに知事選挙のように選挙区が大きい時に浮動票が主役を演じやすい。
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